【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

103.紫の残像(3)

「ダーシャン王国の国王、リーファ姫の父君ちちぎみはお年を召めされており、老王ろうおうの後継者争こうけいしゃあらそいが起きておりました」

シアユンさんは、紫の残像ざんぞうを引くツイファさんと激しく突つき合う黒い影を見詰みつめたまま、囁ささやき続けた。

「優すぐれた呪術師じゅじゅつしでもある第４王女のリーファ姫が、辺境へんきょうのジーウォ城に向かわれたのは、祖霊それいの【託宣たくせん】によるものだけではなく、後継者争いに巻まき込まれることを嫌きらってのことと、推察すいさつしておりました」

「リーファ姫が王様……、女王になる可能性かのうせいもあったってことですか？」

「いえ。王子たちそれぞれが、リーファ姫を味方みかたにつけようと、近付いて来ることに嫌気いやけが差さされているご様子ようすでした。……残念なことですが、そのうちのどなたかが『味方にならないのなら、いっそ』と考えられても、不思議はございません」

「それが、なんで今さら……？ こんな、落城らくじょう寸前すんぜんなのに」

「これは私個人の推察すいさつですが……」

「はい。聞きたいです」

「恐おそらく、短弓たんきゅう隊の闘いぶりに勝機しょうきを見出みいだしたのかと」

「うわぁ。嬉うれしくないですね、それ」

「ええ、本当に。ですが、人獣じんじゅうに滅ほろぼされるのならば、それで良しと考えていた刺客しかくたちが、急に動いた理由は、ほかに今のところ見当みあたりません」

その時、カァンという高い音が響ひびいて、黒い影が俺に向かって放った短剣たんけんが、ツイファさんの投げたクナイで弾はじき落とされた。

……ガ、ガチで俺の命も狙ねらいに来てますね。

「これも恐おそらくですが、王位おういの後継者争いに影響力えいきょうりょくを持もつであろうマレビト様も、同様どうように狙ねらったものと思われます。刺客しかくどもの現場判断げんばはんだんでしょうが」

「そ、そうですか……」

うわぁ、震ふるえが止とまらないよ？ 刃物はものを自分に向かって投げられたのなんか、初めてだし。

と、シアユンさんが、そっと向きを変え、俺の頭を胸に抱だき締しめてくれた。

「大丈夫です。間まもなく、決着けっちゃくが付きます」

「あ、はい……」

スレンダーなシアユンさんだけど、胸の中に包まれると女子の柔やわらかさがある。すごくいい匂においもして、鼻腔びくうをくすぐられる。

そんな場合じゃないのに、最初の朝に、あられもない姿のシアユンさんからベッドで迫せまられたことを思い出して、ドキッとしてしまう。

「残された大事な武器を投げたということは、最後の悪あがきです」

俺を抱き締めるシアユンさんは、刃物を振ふり回まわしている賊ぞくに背中を向ける形になっている。この、長い黒髪が美しくて、折おれそうに細い腰をした女性も、俺なんかより遥はるかに肝きもが据すわっている。

そのまま、シアユンさんの胸の中で視界しかいを塞ふさがれたまま時が過ぎ、やがて斬撃ざんげきの音が止とまった。

シアユンさんは、スッと俺から離れ、俺の視線の先には微かすかな明りで照てらされた、ツイファさんの背中の白い肌はだと、紫の長い髪が見えた。

息も乱みださず立っているその姿に、美しいと感じてしまった俺は、しばらく茫然ぼうぜんと見詰みつめていた――。