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158.ユニゾンの地下牢(3)
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「我は武人であるから、つっけんどんな物言いになるのは許してほしい」
と、聖堂騎士だというラハマが口を開いた。
「太保殿はジーウォ公の信じた者を信じると、矜持を示された。そう言われては、我も陛下の信じた者を信じぬ訳にはいかぬ」
マリームがハッとした表情でラハマを見た。
「陛下が臣従の意を示されたジーウォ公に、我も従おう」
と、俺の後ろでユーフォンさんがツイファさんにヒソヒソと小声で話し掛けているのが聞こえる。
「ラハマちゃんってカッコいいよね」
「ジーウォにはいないタイプよね」
「マリームちゃんも気が立った猫みたいで可愛い」
「ほんとだ」
こんな場面でもマイペースなのがユーフォンさんのいいところだとは思う。
アスマがシアユンさんに向き直って、口を開いた。
「太保殿はジーウォ公の意向よりも、民の心を挙げられた。だが、それはジーウォ公を蔑ろにしてのことではなく、誰よりもジーウォ公自身が、民の心を大事にされる方であることを分かっての事であると察せされた」
「恐れ入ります」
アスマは俺に向き直って姿勢を正した。
「ついては、ジーウォ公にお願いの儀がある」
「なんでしょう?」
「側室の末席で良い。私を娶ってはくれまいか?」
……め、娶る? お嫁さんに貰うって話ですか?
「追放された身とはいえ、私もリヴァント王家の一員。私がこの身を捧げることは、いずれ両国の橋渡しとなると信じてのこと。なにより、ジーウォの民に私の赤心を証すことにもなろう。どうか、私の願いをお聞き届けいただけまいか、ジーウォ公」
「いや……、えっと……」
アスマは仄かに頬を赤く染めた。
「私はこの身を捧げ、良き妻としてジーウォ公に尽くしたい」
「いけませぬ、陛下!」
と、ラハマが大きな声を上げた。
「陛下が妾になど……。それならば、我で充分! 我がジーウォ公の妾となりましょう! ジーウォ公も、それでよろしいな?」
「ダメです……」
と、今度はマリームが歯軋りせんばかりの表情で俺を睨み付けた。
「ラハマ様は陛下のお側に欠かせぬお方です。慰み者になるのは、私で充分です……」
な、慰み者って……。
「あははっ!」
と、ユーフォンさんが大きな口を開けて笑った。
「なにが可笑しいか!」
と、ラハマがユーフォンさんを睨み付けた。
「だって、マレビト様はね……」
あっ、それ……。
「幼馴染にフラれたばっかりで、そういうこと今、考えられないの」
一瞬の沈黙が流れた。
「「「ああ……」」」
って、褐色女子3人、キレイに揃ったユニゾンで納得してるんじゃありません。
そして、生温かい目でこっちを見ない!
シアユンさんが、コホンと咳払いをひとつした。
「側室の話はともかく、皆さんに友好の意志があることは、お互い確認できたものと考えます」
アスマが頷いた。
「当方の受け入れ方については『追い追い』と致しまして、今日のところは充分な話し合いになったかと存じます」
「そうか……、そうだな」
と、アスマは笑顔を見せた。
「私はまた、性急にコトを進めようとしていたかもしれぬ。許されよ」
「いえ、とんでもございません。お気持ちは嬉しく存じます。ただ、ジーウォの皆が皆、この場を共にした我らと同じ心持ちになるのは少し先の話になろうかと存じます」
「無理もないことだ。しかと心得た」
「しばらくは、囚人として扱わせていただくことをお許しくださいませ」
「うむ。それも心得た。お気遣い、感謝する。皆もそれで良いな?」
というアスマの言葉に、ラハマとマリームが首を縦に振った。
シアユンさんがツイファさんとユーフォンさんを指した。
「こちらの2人を置いて行きます。……ジーウォの置かれた状況は決して良くはありません」
アスマは厳しい表情で頷いた。
「むしろ、存亡の危機が続いている、というのが正直なところ。隠すことは何もありません。ツイファ、ユーフォン」
「はい」
「皆さまに状況を詳しくご説明して差し上げてください」
「かしこまりました」
と、ツイファさんとユーフォンさんが、頭を下げた。
俺はシアユンさんと2人、先に地下牢を出た。
そろそろ外征隊が出陣の準備を始めている頃のはず。俺たちは望楼に向かった。
宮城内を移動しながら、シアユンさんに尋ねた。
「どうでした?」
「……良い、方々ですね」
と、シアユンさんは困ったような笑顔になった。
その後、俺たちは望楼で戦況を見守りつつ、アスマたちの今後の扱いについて一晩中、話し合った――。
と、聖堂騎士だというラハマが口を開いた。
「太保殿はジーウォ公の信じた者を信じると、矜持を示された。そう言われては、我も陛下の信じた者を信じぬ訳にはいかぬ」
マリームがハッとした表情でラハマを見た。
「陛下が臣従の意を示されたジーウォ公に、我も従おう」
と、俺の後ろでユーフォンさんがツイファさんにヒソヒソと小声で話し掛けているのが聞こえる。
「ラハマちゃんってカッコいいよね」
「ジーウォにはいないタイプよね」
「マリームちゃんも気が立った猫みたいで可愛い」
「ほんとだ」
こんな場面でもマイペースなのがユーフォンさんのいいところだとは思う。
アスマがシアユンさんに向き直って、口を開いた。
「太保殿はジーウォ公の意向よりも、民の心を挙げられた。だが、それはジーウォ公を蔑ろにしてのことではなく、誰よりもジーウォ公自身が、民の心を大事にされる方であることを分かっての事であると察せされた」
「恐れ入ります」
アスマは俺に向き直って姿勢を正した。
「ついては、ジーウォ公にお願いの儀がある」
「なんでしょう?」
「側室の末席で良い。私を娶ってはくれまいか?」
……め、娶る? お嫁さんに貰うって話ですか?
「追放された身とはいえ、私もリヴァント王家の一員。私がこの身を捧げることは、いずれ両国の橋渡しとなると信じてのこと。なにより、ジーウォの民に私の赤心を証すことにもなろう。どうか、私の願いをお聞き届けいただけまいか、ジーウォ公」
「いや……、えっと……」
アスマは仄かに頬を赤く染めた。
「私はこの身を捧げ、良き妻としてジーウォ公に尽くしたい」
「いけませぬ、陛下!」
と、ラハマが大きな声を上げた。
「陛下が妾になど……。それならば、我で充分! 我がジーウォ公の妾となりましょう! ジーウォ公も、それでよろしいな?」
「ダメです……」
と、今度はマリームが歯軋りせんばかりの表情で俺を睨み付けた。
「ラハマ様は陛下のお側に欠かせぬお方です。慰み者になるのは、私で充分です……」
な、慰み者って……。
「あははっ!」
と、ユーフォンさんが大きな口を開けて笑った。
「なにが可笑しいか!」
と、ラハマがユーフォンさんを睨み付けた。
「だって、マレビト様はね……」
あっ、それ……。
「幼馴染にフラれたばっかりで、そういうこと今、考えられないの」
一瞬の沈黙が流れた。
「「「ああ……」」」
って、褐色女子3人、キレイに揃ったユニゾンで納得してるんじゃありません。
そして、生温かい目でこっちを見ない!
シアユンさんが、コホンと咳払いをひとつした。
「側室の話はともかく、皆さんに友好の意志があることは、お互い確認できたものと考えます」
アスマが頷いた。
「当方の受け入れ方については『追い追い』と致しまして、今日のところは充分な話し合いになったかと存じます」
「そうか……、そうだな」
と、アスマは笑顔を見せた。
「私はまた、性急にコトを進めようとしていたかもしれぬ。許されよ」
「いえ、とんでもございません。お気持ちは嬉しく存じます。ただ、ジーウォの皆が皆、この場を共にした我らと同じ心持ちになるのは少し先の話になろうかと存じます」
「無理もないことだ。しかと心得た」
「しばらくは、囚人として扱わせていただくことをお許しくださいませ」
「うむ。それも心得た。お気遣い、感謝する。皆もそれで良いな?」
というアスマの言葉に、ラハマとマリームが首を縦に振った。
シアユンさんがツイファさんとユーフォンさんを指した。
「こちらの2人を置いて行きます。……ジーウォの置かれた状況は決して良くはありません」
アスマは厳しい表情で頷いた。
「むしろ、存亡の危機が続いている、というのが正直なところ。隠すことは何もありません。ツイファ、ユーフォン」
「はい」
「皆さまに状況を詳しくご説明して差し上げてください」
「かしこまりました」
と、ツイファさんとユーフォンさんが、頭を下げた。
俺はシアユンさんと2人、先に地下牢を出た。
そろそろ外征隊が出陣の準備を始めている頃のはず。俺たちは望楼に向かった。
宮城内を移動しながら、シアユンさんに尋ねた。
「どうでした?」
「……良い、方々ですね」
と、シアユンさんは困ったような笑顔になった。
その後、俺たちは望楼で戦況を見守りつつ、アスマたちの今後の扱いについて一晩中、話し合った――。
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