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225.呪符開発秘話
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「そうか……。キミが4人目のマレビトだったか。気配は感じてたんだ。いつまでも呪力を発現しなくて変だなとは思ってたけど……」
と、3代マレビトだという山口さんがお茶を出してくれた。
「ボクは流されやすい性格でね……」
山口さんはテーブルの上に目を落とした。
「後悔することばかりだよ」
女性恐怖症だという山口さんに遠慮して、アスマとメイファンには扉の外で待ってもらっている。
山口さんは見たところ20代後半ってところ。300年前に召喚されて、地球時間の10年ちょっとしか歳をとってないことが察せられた。
「たぶん、勇吾くんは呪力の発現を断ったんだよね?」
「あ、はい」
「ボクは断れなかったんだ。こんな性格だし、偉い人にグイグイこられて、イヤなことをイヤって言えずに子どもを作った。その結果は知ってるよね?」
マレビトが望まずに子どもを作っても、呪力は発現しない。ただそれは、この3代マレビトの事件で初めて分かったことだ。
「相手の女の子にも、出来た子どもにも申し訳なくて申し訳なくて」
「ええ……」
「その時、一生懸命に慰めてくれた別の女の子のお陰で呪力は発現できたんだけど、時間が経つほどに最初の子どものことで心が重くなるばかりで……」
忌み子と呼ばれた、ウンランさんの祖先だ。
「でも、またどんどん女の子をあてがわれて……。まだ発現してないと解らないと思うんだけど、子どもを作る度、つまり霊縁が結ばれる度に呪力が増すのは本当なんだ」
「そうなんですね……」
「呪力が増すっていうか、呪力の未解明の働きが解明できるって言う方が正確なんだけど……。まあ、とにかくそれで、頑張って女の子を好きになって4人と子どもを作ったところで、ボクの心に限界が来たんだ」
「限界……」
「誰とも会いたくなくなって、特に女の子は見るだけでダメで……。見るだけでも恐くて震えが止まらなくて……。あ、性的嗜好は女性なんだけどね」
俺以上に異世界エロイベントが性に合わない人が召喚されてた……。それも結構、深刻めで。
「でも、ボクのときダーシャンが襲われてた危難は疫病だったんだけど、解決しないと天帝が帰らせてくれそうになくて……」
「天帝と話が出来るんですね?」
「ううん。祖霊を通じて……、なんて言うか気配? 呪力の流れで分かるんだよ」
「なるほど……」
「それで、引き篭ってる中で必死に考えた結果、呪符を開発したんだ。ボクや呪術師が直接会わなくても疫病を治せるように」
なんという呪符開発秘話……。
「疫病が収まってきて、天帝に帰してもらえそうになったんだけど……。そこで、やっぱり最初の子どものことが気になってきて……」
「はい」
「その子にボクの呪符をあげて、行方をくらませて、しばらく見守ろうと思ってるウチに……」
山口さんは苦笑いした。
「300年経ってたんだ」
窓の外に視線を移した山口さんは、少し軽い口調になった。
「呪符が使われるとボクにも伝わるようにしてあって、使われる度に、あの子の子孫が頑張ってるんだなあって、ホッとして。……変だよね? 望まずに出来たはずの子どもが一番可愛いなんて。それでズルズル帰らずにいたんだけど……。まさか300年も生きられるとは思わないよね?」
「ええ……。あの……、異世界では、地球の28倍のスピードで時間が流れてるみたいなんです」
「そうなんだ。じゃあ300年って言っても、地球じゃ、だいたい10年か」
「はい」
「勇吾くんは、それ。どうやって分かったの?」
俺はこれまでのこと、里佳とリーファ姫と俺の話を山口さんにした。すると、山口さんは興奮気味に何度も頷き始めた。
「偉い! 偉いなあ! 好きな娘のために、誘惑を断り続けたんだ」
「いや、まあ……」
「ボクも偉そうなこと言ったけど、結局、誘惑されてムラムラしちゃったの抑えられなかっただけだから」
「あはは……」
笑うしかない。
「うん。協力するよ」
「ほんとですか?」
「たぶん、召喚の応用で彼女さんの魂を呼び戻せると思うんだ。ほんとは術者の命が必要になるんだけど、ボクが日本に帰ることで代わりに出来ると思う」
「山口さん、帰るんですね」
「うん。ありがとう。ようやく、ボクが帰ることに意味が出来た。勇吾くんの純愛をまっとうするのに役立てるなら嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ……、帰ったら帰ったで10年無職だったことになるんだろうから、大変だとは思うけど。いつまでも異世界でグジグジしてても仕方ないしね」
300年生きた総括が「グジグジ」の一言とは、意外に大人物なんじゃないかって気がした……。それは、さておき……。
俺は1人で小屋を出て、アスマたちに山口さんの女性恐怖症を説明して、姿を隠してもらった。
山口さんの隠しルートを使って崖を登り、山口さんの目に誰も触れさせないまま馬車の中に入ってもらった。
そして、俺たちは一路、ジーウォへの帰還の途に着いた。
いよいよ、里佳に会える――。
と、3代マレビトだという山口さんがお茶を出してくれた。
「ボクは流されやすい性格でね……」
山口さんはテーブルの上に目を落とした。
「後悔することばかりだよ」
女性恐怖症だという山口さんに遠慮して、アスマとメイファンには扉の外で待ってもらっている。
山口さんは見たところ20代後半ってところ。300年前に召喚されて、地球時間の10年ちょっとしか歳をとってないことが察せられた。
「たぶん、勇吾くんは呪力の発現を断ったんだよね?」
「あ、はい」
「ボクは断れなかったんだ。こんな性格だし、偉い人にグイグイこられて、イヤなことをイヤって言えずに子どもを作った。その結果は知ってるよね?」
マレビトが望まずに子どもを作っても、呪力は発現しない。ただそれは、この3代マレビトの事件で初めて分かったことだ。
「相手の女の子にも、出来た子どもにも申し訳なくて申し訳なくて」
「ええ……」
「その時、一生懸命に慰めてくれた別の女の子のお陰で呪力は発現できたんだけど、時間が経つほどに最初の子どものことで心が重くなるばかりで……」
忌み子と呼ばれた、ウンランさんの祖先だ。
「でも、またどんどん女の子をあてがわれて……。まだ発現してないと解らないと思うんだけど、子どもを作る度、つまり霊縁が結ばれる度に呪力が増すのは本当なんだ」
「そうなんですね……」
「呪力が増すっていうか、呪力の未解明の働きが解明できるって言う方が正確なんだけど……。まあ、とにかくそれで、頑張って女の子を好きになって4人と子どもを作ったところで、ボクの心に限界が来たんだ」
「限界……」
「誰とも会いたくなくなって、特に女の子は見るだけでダメで……。見るだけでも恐くて震えが止まらなくて……。あ、性的嗜好は女性なんだけどね」
俺以上に異世界エロイベントが性に合わない人が召喚されてた……。それも結構、深刻めで。
「でも、ボクのときダーシャンが襲われてた危難は疫病だったんだけど、解決しないと天帝が帰らせてくれそうになくて……」
「天帝と話が出来るんですね?」
「ううん。祖霊を通じて……、なんて言うか気配? 呪力の流れで分かるんだよ」
「なるほど……」
「それで、引き篭ってる中で必死に考えた結果、呪符を開発したんだ。ボクや呪術師が直接会わなくても疫病を治せるように」
なんという呪符開発秘話……。
「疫病が収まってきて、天帝に帰してもらえそうになったんだけど……。そこで、やっぱり最初の子どものことが気になってきて……」
「はい」
「その子にボクの呪符をあげて、行方をくらませて、しばらく見守ろうと思ってるウチに……」
山口さんは苦笑いした。
「300年経ってたんだ」
窓の外に視線を移した山口さんは、少し軽い口調になった。
「呪符が使われるとボクにも伝わるようにしてあって、使われる度に、あの子の子孫が頑張ってるんだなあって、ホッとして。……変だよね? 望まずに出来たはずの子どもが一番可愛いなんて。それでズルズル帰らずにいたんだけど……。まさか300年も生きられるとは思わないよね?」
「ええ……。あの……、異世界では、地球の28倍のスピードで時間が流れてるみたいなんです」
「そうなんだ。じゃあ300年って言っても、地球じゃ、だいたい10年か」
「はい」
「勇吾くんは、それ。どうやって分かったの?」
俺はこれまでのこと、里佳とリーファ姫と俺の話を山口さんにした。すると、山口さんは興奮気味に何度も頷き始めた。
「偉い! 偉いなあ! 好きな娘のために、誘惑を断り続けたんだ」
「いや、まあ……」
「ボクも偉そうなこと言ったけど、結局、誘惑されてムラムラしちゃったの抑えられなかっただけだから」
「あはは……」
笑うしかない。
「うん。協力するよ」
「ほんとですか?」
「たぶん、召喚の応用で彼女さんの魂を呼び戻せると思うんだ。ほんとは術者の命が必要になるんだけど、ボクが日本に帰ることで代わりに出来ると思う」
「山口さん、帰るんですね」
「うん。ありがとう。ようやく、ボクが帰ることに意味が出来た。勇吾くんの純愛をまっとうするのに役立てるなら嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ……、帰ったら帰ったで10年無職だったことになるんだろうから、大変だとは思うけど。いつまでも異世界でグジグジしてても仕方ないしね」
300年生きた総括が「グジグジ」の一言とは、意外に大人物なんじゃないかって気がした……。それは、さておき……。
俺は1人で小屋を出て、アスマたちに山口さんの女性恐怖症を説明して、姿を隠してもらった。
山口さんの隠しルートを使って崖を登り、山口さんの目に誰も触れさせないまま馬車の中に入ってもらった。
そして、俺たちは一路、ジーウォへの帰還の途に着いた。
いよいよ、里佳に会える――。
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