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228.純潔乙女会議+8
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深夜にも関わらず、密かに純潔の乙女たちが俺の部屋に集められた。
眠たそうにザワザワする女子たち。
前より増えてるのは7人。薬師のホンファ。リヴァントから来たアスマ、ラハマ、マリーム、ナフィーサ。それにスイランさんの妹のルオシィ。職人のジンリー。
部屋の隅に座る俺の気持ちもザワザワしてる……。
やがて、シアユンさんに付き添われたリーファが部屋に入って来た。
知らされていなかった皆んなは驚愕し、たちまち、アスマたちを除く全員が平伏した。驚いてキョロキョロしてたアスマたちも遅れて頭を下げた。
リーファは静かに皆んなと同じ高さに腰を降ろした。
「皆様、顔をお上げください」
と、リーファの言葉に戸惑いが広がる。
「人獣たちとの激闘、ご苦労様でございました。リーファは帰って参りました」
深く頭を下げるリーファに、さらに動揺が広がる。
「私は皆様が築かれたジーウォ公国のことを教えて頂きたく、こうして夜遅くにも関わらずお集まりいただきました」
シアユンさんが、声を震わせながら言葉を継いだ。
「リーファ姫はご自身への王族の礼を廃することをお望みです」
部屋の中を小さな響めきが走った。
「偏に、マレビト様の築かれたジーウォ公国を尊重されてのことです」
シアユンさんは言葉を切った。そして、出来るだけいつものように、皆んなに話し掛けた。
「私にも戸惑いがあります」
皆んなの視線がシアユンさんに集まった。
「しかし、リーファ姫の願いを叶えて差し上げたい気持ちもあります。また、マレビト様も同じご意向です」
まだ、リーファが里佳であり、俺の『想い人』であることを知っているのは侍女の3人だけだ。
「ただ、王都に生まれ、貴族の娘として育ち、王族の側にお仕えし、礼を護り、礼に縛られて生きてきた私たちリーファ姫の侍女だけでは、到底、お応えすることの出来ない願いでもあります」
リーファがシアユンさんの方を向いた。その動きに部屋の空気全体が動くのを感じた。圧倒的な存在感だった。
シアユンさんはリーファに軽く頭を下げ、話を続けた。
「共にマレビト様をお側で支えてきた、純潔の乙女の皆さんのお力を、是非ともお貸しいただきたいのです」
シアユンさんは深々と頭を下げ、ツイファさんとユーフォンさんも続いた。
「どうしたら……、いい?」
と、声を発したのはミンユーだった。
あの引っ込み思案だったミンユーが、シアユンさんに協力しようと真剣な眼差しで見詰めている。
シアユンさんが頭を上げて応えた。
「皆であの闘いを振り返り、思い出話をしたいのです。それをリーファ姫にも聞いていただきます」
「思い出話?」
と、ユエが言った。
「はい。出来るだけ、いつもの調子で。いつものように楽しく。身分や立場で分け隔てることなく協力し合った私たちの姿を、リーファ姫にご覧いただきたいのです」
こんな時に率先して協力してくれそうなシーシが青くなって固まっている。身分の高い者ほど、表情が強張っているのが分かる。
「リーファ姫よ」
と、アスマが立ち上がった。
「リヴァント聖堂王国よりジーウォ公の臣下の列に加えていただいたアスマと申す」
「貴女が……」
「なんと高い志であろうか! 自らの至高の地位よりも民の心を尊重される。民の推戴したジーウォ公を尊重される。国は違えど元王族の一人として深く感服いたしました。初めてジーウォ公にお目通り叶った時以来の感動を覚えております」
「お褒めに預かり、痛み入ります」
「皆よ。私たちにも改めて教えてくれないか? 私たちが皆に加わる前の物語を。我らは純潔という一点において対等ぞ。存分に語り合おうではないか」
リーファが小さく手を挙げた。
「わ、私も純潔ですのよ……」
メイファンがピコンッ! という顔をした。
「シーシ様!」
「な、なんなのだ!?」
「前に私に言ってくれましたよね? 対等対等、男を知らない仲間だって!」
「い、言ったのだ」
「リーファ姫を仲間外れにするのは、どうかと思うなあ……」
シーシがギョッとした顔でリーファを見ると、リーファは優しく微笑み返した。
「わ、分かったのだ! み、皆んなで話すのだ! 最初から! ま、まずは足を崩すのだ! いつもの感じを見てもらうのだ!」
と、胡坐をかいたシーシに、皆んなは覚悟を決めたように、そして、半ば自棄になったように、俺が召喚されてからの闘いの日々を語り合い始めた。
最初はオズオズと、やがてキャッキャと女子たちは盛り上がっていった。
リーファも一緒になって笑い、驚き、感心し、褒め称え、泣いて涙し、真剣な眼差しで耳を傾け続ける。
初めての投石。
チンピラさんたちの投石。
布地を提供して衣服の縫製。
篝火の改良。
玉篝火の開発。
望楼から長弓の試射。
剣士府での演説。
仮設住宅の建設。
長弓隊の斉射。
シュエンの保護。
剣士遺族へのケア。
炊き出しの開始。
鍬の製造。
薬草栽培。
槍の開発。
槍を持つクゥアイ。
短弓隊の実戦投入。
連弩の開発。
住民集会。
兵士団の復活。
重臣10名の抜擢。
ジーウォ公国の建国。
薬房の開設。
外征隊の活躍。
地下牢から救出されるアスマたち。
ヤーモンとエジャの結婚式。
アスマたちの参戦。
宮城1階の解体。
回廊決戦。
アスマとラハマのジンリー救出劇。
城壁の奪還。
そして、大浴場――。
「ほほう?」という笑顔のリーファが俺を見た頃、場はすっかり砕け、空は朝陽に白み始めていた。
「久しぶりに朝の大浴場に皆んなで入るのだ!」
と、シーシが徹夜明けのテンションで叫んだ。
「リーファ姫に、ボクらがシキタリを守ってマレビト様に身体を捧げてきたところを見てもらうのだ!」
「ええ、それは是非」
と、リーファはニッコリ微笑んだ。
ま、まあ……、隠し切れるものでもないですし……。
眠たそうにザワザワする女子たち。
前より増えてるのは7人。薬師のホンファ。リヴァントから来たアスマ、ラハマ、マリーム、ナフィーサ。それにスイランさんの妹のルオシィ。職人のジンリー。
部屋の隅に座る俺の気持ちもザワザワしてる……。
やがて、シアユンさんに付き添われたリーファが部屋に入って来た。
知らされていなかった皆んなは驚愕し、たちまち、アスマたちを除く全員が平伏した。驚いてキョロキョロしてたアスマたちも遅れて頭を下げた。
リーファは静かに皆んなと同じ高さに腰を降ろした。
「皆様、顔をお上げください」
と、リーファの言葉に戸惑いが広がる。
「人獣たちとの激闘、ご苦労様でございました。リーファは帰って参りました」
深く頭を下げるリーファに、さらに動揺が広がる。
「私は皆様が築かれたジーウォ公国のことを教えて頂きたく、こうして夜遅くにも関わらずお集まりいただきました」
シアユンさんが、声を震わせながら言葉を継いだ。
「リーファ姫はご自身への王族の礼を廃することをお望みです」
部屋の中を小さな響めきが走った。
「偏に、マレビト様の築かれたジーウォ公国を尊重されてのことです」
シアユンさんは言葉を切った。そして、出来るだけいつものように、皆んなに話し掛けた。
「私にも戸惑いがあります」
皆んなの視線がシアユンさんに集まった。
「しかし、リーファ姫の願いを叶えて差し上げたい気持ちもあります。また、マレビト様も同じご意向です」
まだ、リーファが里佳であり、俺の『想い人』であることを知っているのは侍女の3人だけだ。
「ただ、王都に生まれ、貴族の娘として育ち、王族の側にお仕えし、礼を護り、礼に縛られて生きてきた私たちリーファ姫の侍女だけでは、到底、お応えすることの出来ない願いでもあります」
リーファがシアユンさんの方を向いた。その動きに部屋の空気全体が動くのを感じた。圧倒的な存在感だった。
シアユンさんはリーファに軽く頭を下げ、話を続けた。
「共にマレビト様をお側で支えてきた、純潔の乙女の皆さんのお力を、是非ともお貸しいただきたいのです」
シアユンさんは深々と頭を下げ、ツイファさんとユーフォンさんも続いた。
「どうしたら……、いい?」
と、声を発したのはミンユーだった。
あの引っ込み思案だったミンユーが、シアユンさんに協力しようと真剣な眼差しで見詰めている。
シアユンさんが頭を上げて応えた。
「皆であの闘いを振り返り、思い出話をしたいのです。それをリーファ姫にも聞いていただきます」
「思い出話?」
と、ユエが言った。
「はい。出来るだけ、いつもの調子で。いつものように楽しく。身分や立場で分け隔てることなく協力し合った私たちの姿を、リーファ姫にご覧いただきたいのです」
こんな時に率先して協力してくれそうなシーシが青くなって固まっている。身分の高い者ほど、表情が強張っているのが分かる。
「リーファ姫よ」
と、アスマが立ち上がった。
「リヴァント聖堂王国よりジーウォ公の臣下の列に加えていただいたアスマと申す」
「貴女が……」
「なんと高い志であろうか! 自らの至高の地位よりも民の心を尊重される。民の推戴したジーウォ公を尊重される。国は違えど元王族の一人として深く感服いたしました。初めてジーウォ公にお目通り叶った時以来の感動を覚えております」
「お褒めに預かり、痛み入ります」
「皆よ。私たちにも改めて教えてくれないか? 私たちが皆に加わる前の物語を。我らは純潔という一点において対等ぞ。存分に語り合おうではないか」
リーファが小さく手を挙げた。
「わ、私も純潔ですのよ……」
メイファンがピコンッ! という顔をした。
「シーシ様!」
「な、なんなのだ!?」
「前に私に言ってくれましたよね? 対等対等、男を知らない仲間だって!」
「い、言ったのだ」
「リーファ姫を仲間外れにするのは、どうかと思うなあ……」
シーシがギョッとした顔でリーファを見ると、リーファは優しく微笑み返した。
「わ、分かったのだ! み、皆んなで話すのだ! 最初から! ま、まずは足を崩すのだ! いつもの感じを見てもらうのだ!」
と、胡坐をかいたシーシに、皆んなは覚悟を決めたように、そして、半ば自棄になったように、俺が召喚されてからの闘いの日々を語り合い始めた。
最初はオズオズと、やがてキャッキャと女子たちは盛り上がっていった。
リーファも一緒になって笑い、驚き、感心し、褒め称え、泣いて涙し、真剣な眼差しで耳を傾け続ける。
初めての投石。
チンピラさんたちの投石。
布地を提供して衣服の縫製。
篝火の改良。
玉篝火の開発。
望楼から長弓の試射。
剣士府での演説。
仮設住宅の建設。
長弓隊の斉射。
シュエンの保護。
剣士遺族へのケア。
炊き出しの開始。
鍬の製造。
薬草栽培。
槍の開発。
槍を持つクゥアイ。
短弓隊の実戦投入。
連弩の開発。
住民集会。
兵士団の復活。
重臣10名の抜擢。
ジーウォ公国の建国。
薬房の開設。
外征隊の活躍。
地下牢から救出されるアスマたち。
ヤーモンとエジャの結婚式。
アスマたちの参戦。
宮城1階の解体。
回廊決戦。
アスマとラハマのジンリー救出劇。
城壁の奪還。
そして、大浴場――。
「ほほう?」という笑顔のリーファが俺を見た頃、場はすっかり砕け、空は朝陽に白み始めていた。
「久しぶりに朝の大浴場に皆んなで入るのだ!」
と、シーシが徹夜明けのテンションで叫んだ。
「リーファ姫に、ボクらがシキタリを守ってマレビト様に身体を捧げてきたところを見てもらうのだ!」
「ええ、それは是非」
と、リーファはニッコリ微笑んだ。
ま、まあ……、隠し切れるものでもないですし……。
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