キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

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(1)出会い

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 僕が一年で最も好きな季節
公園の緑が少しずつ茶色に変わって
カーディガンを羽織るOLさん、洒落たマフラーを首に巻き付けるおじいさん
秋から冬にかけての、このなんだか切ない感じ
やっぱいいよなぁ

乾いた風を頬に受けながら、僕はベージュのトレンチコートを羽織り、日曜の東京を歩いていた
ケーキが入った白いボックスを手に

「あゆむ~!」

ぶんぶん大きく手を振りながら向かってきたのは、さっちゃん
(フルネームは相田咲子)
大学時代に知り合って、めちゃくちゃ意気投合してからずっと親友

「小井川歩夢!
珍しくおっそいじゃん」

そう、おいかわあゆむ が僕の名前

大学で環境系のセミナーに参加していた僕達
なんだか色々影響されて、社会人になった今でも、数ヶ月に1度街のゴミ拾いをするために集合する
っていうのはまぁ口実で、互いの近況報告や悩み相談、そして遊んで帰るのがほんとの目的

「おっそいって言われても、全然遅れてないよね?
待ち合わせ11時半でしょ?」

僕が時計を見せると、さっちゃんは眉をひそめながらLINEをチェック

「…えーとえーと歩夢とのやり取りは…」

!!!

さっちゃんの顔ヤバ 笑

「あぁぁ私が間違えた!
11時半の半の字、これ見逃してたわ。
11時かと思ってた…。
罪なすりつけてごめん~。」

「ははっ。
なんだそのテンションの変わり方は。
僕はいいけど30分も待ってたなんて、疲れたでしょ。」

「疲れたなんてもんじゃないから 泣。
外に1人で30分は長いよー。
まぁでも自分が悪いから仕方ない。
仕切り直して、まずはいつものケーキ♩これがあれば元気100倍♩」

僕が持ってきたこのケーキ、実は手作り
中学生の時に亡くなってしまった母親のレシピで、小さい頃によく一緒に作っていたもの
にんじんをたっぷり混ぜ込んで焼きあげ、フロスティングにはクリームチーズを用いるキャロットケーキ
とにかく美味しいし、母親の思い出に浸りたいというのもあって、亡くなったあとでも時々1人で作ってる
それを以前、たまたまさっちゃんにお裾分けしたらものすごくハマってくれて
ゴミ拾いの日は、

さっちゃんのアパート近くで待ち合わせ→まずは冷蔵庫にケーキを入れに行く→荷物やコートを置かせてもらい→再び外へ

の流れが定番

「はいはい、このスペシャルなキャロットケーキが欲しいんだね~。」
ふざけながらケーキの箱を頭の上に持ち上げた瞬間

ドンっ

バサっ

グチャっ

何かにぶつかり、箱が開いてケーキが頭に落下
もちろん頭はクリームチーズでベットリ

「…何が起きた?」

視線を上に向けると、サラサラヘアーの背の高いお兄さんが立ち尽くしていた
「うわっごめんね、俺よそ見してたかも。髪の毛とんでもないことになっちゃってる!」

するとさっちゃんが口を挟んで
「違いますー!こちらこそすみません 汗。
大夢、ケーキかかげながらふざけて後ろに歩いてたから…」

一瞬頭の中真っ白になってたけど、思い出した
そういえば後ろに向かって少し歩いた…
道ゆく人の視線に気付き、ハッと我に返ると僕も急いで謝罪をする

「この子の言う通りで、僕が周りを見ていなかったので。
申し訳ないです。
そちらは服や顔、汚れてないですか?!」

「いやいや、こっちは全然大丈夫だよ。でもほんと、俺より君。
それシャワーでも浴びないと…。」

「あ、この女の子のアパートがすぐなのでそこで洗います。
さっちゃん、悪いけどシャワー貸して?」
 
すると男性が、
「あのさ、とりあえず簡単に頭拭いて、俺んち来ない?
俺美容室やってて。
ここから電車に数分乗るけど、ほんとすぐだよ。
来てくれたらシャンプーして、乾かして、綺麗に整えてあげる。
前向いてなかった俺にも非があるし、お詫びさせて?
どうかな?」

え、どうしよう
でも知らない人だし、なんだか悪いし…

「えー美容師さんなんですか?!
ていうか美容室やってるってことは経営されてる?
すごーい!
どうりでかっこいいはずだ~。」

悩む僕をよそに、さっちゃん大興奮

「歩夢、せっかく言ってくれてるんだからお言葉に甘えなよ。
地面に落ちたケーキは私掃除しておくから。
遊ぶのはまた日を改めて仕切り直そうよ。」
そう言いながら、サッとハンカチタオルを差し出す。

うーん…断るのも確かに失礼か
「じゃあ、お願いします。
ご迷惑でなければ」

「よし、決まりだね。
その前に2人とも、名前聞いてもいい?
名前聞かないと会話に困るから。」

「あ、そうですね。僕はおいかわあゆむ(小井川歩夢)で、彼女は友人であいださきこ(相田咲子)って言います。」

「あゆむ君と、さきこちゃんね。
だからさっき、さっちゃんて呼んでたんだ。
咲子ちゃん、掃除1人で任せて大丈夫?
ごめん、よろしくね」

「ぜんっぜん大丈夫です。
むしろ今日は街の掃除が目的で会ってるので」


な顔のお兄さん 笑
髪の毛の汚れをハンカチで拭いながら、そんなやり取りを眺めていた僕だった

さて、お兄さんのあとについて電車に乗るか
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