【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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1章

5.偽聖者は問いかける

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 俺は思わず眉を顰める。どうやらフシェンが追いかけてきたらしい。俺としては一日くらいはそっとしておいてほしかったのだが……無理な話か。

「こちらに戻られたのは知っております。よろしければ、中へ入れていただいてもよろしいでしょうか?」 

 さて、どうするか。
 ここにいるのは知られているが、今は自室に迎え入れたいとも思えない。それならば、このまま居留守を使ってしまおう。次に会ったときは寝ていたなどと言い訳してしまえばいいだろう。
 俺は、唇を閉ざしたまま自室の扉を見つめる。

「……聖者様?聖者様、いらっしゃいますか?」

 それにも、俺は答えない。しばらく放置しておけば、諦めて勝手に去るだろう。しかし、フシェンは俺の予想を裏切り、ひたすら扉を叩き続ける。

「聖者様、声をお聞きかせください。何かありましたか?」

 その声には焦りも苛立ちもなく、一定の拍子の無機質な声色で繰り返し呼ばれ続ける。さすがに不気味で恐ろしさを感じるほどだ。
 叩く音も段々と激しさを増していく。いや、それ以上はさすがにまずい。繰り返しになるが、この教会堂は全体的に老朽化が進んでいるのだ。
 そして、フシェンは聖の間の重たい扉を軽々しく開けるほどの力があった。つまり、このままでは──

「少し、まっ!」

 慌てて止めようとしたが、一足遅かった。
 扉の蝶番が嫌な音を立て、外れると同時に扉が大きく傾いた。そして扉はそのまま倒れた。いとも簡単に自室の扉が壊れてしまい、呆然としている俺とフシェンの目が合う。

「ああ、申し訳ありません、聖者様」

 フシェンは穏やかな微笑みを浮かべたままだ。それは、どう見ても悪いと思っている顔には見えない。
 彼は室内には足を踏み入れず、その場で跪き、片膝を床に突き頭を下げた。

「お怪我はございませんでしたか?聖者様の身に何かあったのではと思い、乱暴に扉を開いてしまいました。お許しください」
「……申し訳ありませんが、イザリオティス卿」
「フシェンと、気軽にお呼びください。聖者様が私に敬語を使う必要はございません」

 俺は聖者ではないと言い返したいところだが、彼には何を言っても無駄のような気がする。
 とりあえずは、このままでは話すにも色々と不便だ。

「……わかった、フシェン」

 渋々ながらに俺がフシェンの名前を呼んだ時、彼の唇がわずかに開き、頬がほんのりと赤くなる。その表情はどこか夢心地で、静かな幸せに浸っているようだった。

「わ、悪いが、このまま話すには色々と不都合があると思う。部屋に入って扉を閉じてくれ」
「かしこまりました」

 フシェンはすぐに立ち上がると自室に足を踏み入れ、倒れた扉を持ち上げた。当然直すことはできないため、扉は入口に立てかけただけだ。せっかくの俺の部屋がひどい有様だ。

「……」
「……」

 フシェンは部屋に入ったが、再度頭を下げると動かない。どうやら俺の言葉を待っているようだ。
 俺としては、聖者になりたくない。しかしそれには自分が聖者ではないという証明が必要だ。現状、それを証明する手段はない。
 そうなると、聖者である限り聖騎士の護衛は絶対だ。運の悪いことに側にいる聖騎士はフシェンしかおらず、どうあがいても暫くは彼が俺付きの聖騎士になることは確定なのだ。
 ──なら、せめて。

「……少し話を聞いてほしい。俺はまだ自分が聖者だとどうしても信じられない」
「気持ちお察します」
「ああ、ありがとう。だからこそ、さきほど言った通り自分を落ち着かせるためにも暫く一人で考える時間がほしい。わかってくれるだろうか?」
「と、言いますと……?」
「俺が部屋に籠っている時は、そっとしていてほしい。俺が呼ぶまで何もしなくて構わない。今みたいに呼び掛けたり、中に入ろうとしないでほしいんだ」

 フシェンは、俺の言葉に数拍ほど黙り込んだ。そして、先ほどから浮かべている笑みを一切崩さずに、静かに頷いた。

「かしこまりました。聖者様の意向に従いましょう」

 深々と頭を下げた礼儀正しいその所作は、まさしく聖騎士に相応しいといって差し支えないだろう。
 しかし俺からすれば、はっきり言って、胡散臭い。
 俺を真っ直ぐに見据える翠色の瞳には、今は何の感情も見えない。
さきほどまでは陶酔しているかのような表情をみせていたのだが、今は口許だけは綺麗に弧を描いているだけだ。声には悪意もなければ、善意も含まれていないように感じる。
 その変化が、とても不気味に感じてしまう。前の人生も、今の人生もフシェンが考えていることはまったく理解できない。
 だから、だろうか。扉の破壊のこともあって、少しでもやり返してやりたいという気持ちが沸く。そして、その気持ちを抑えきれず、唇は無意識に動いた。

「先ほど聖の間で、自分の掌を刺して笑っていただろう。あれは、なぜだ?」 

 息をするように俺の口から零れた言葉は、ついさっきのことだった。
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