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3章
11.聖騎士は好きなものがある
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「フシェン!」
俺は、躊躇うことなくフシェンに手を伸ばす。フシェンは俺の手首を掴むとそのまま強引に引く。すると、そのまま扉の隙間を抜けて外へと抜け出した。フシェンに抱き留められる形で、外に出ると同時に扉が勢いよく、目の前で閉じる。
俺は閉じた大扉を呆然と眺めていると、扉周りには神官たちが倒れていることに気付く。
「待たせてごめん。彼らが開けることを妨害するものだから、手間取ってしまった」
その言葉だけで、神官たちを叩きのめした犯人が誰なのかすぐにわかった。フシェンは申し訳なさそうに眉を垂らして、俺の背を優しく撫でる。
「い、いや、助けてくれて感謝しかないんだが……なんでミトラ司教も倒されてるんだ?」
扉を守っていた神官はわかるのだが、その近くでミトラ司教もうつ伏せで倒れているのが見える。もしかして、彼もフシェンの邪魔をしたのだろうか。
「ああ、彼はうるさくなるかなと思って一番初めに、ね?」
それを聞いて、俺はミトラ司教に同情するしかなかった。
「レダ……泣いたのか?」
フシェンは俺の目元を指先でなぞりながら、目を見張る。そして次の瞬間、表情から感情が抜け落ちた。冷え切った瞳が扉の方に向けられ、黒い影が落ちる。
俺は慌てて、フシェンに事情を説明しようとした時、扉の向こうから小さなノック音が聞こえてくる。
「──イザリティス卿」
扉越しではあるがわかる。それは間違いなく教皇の声だった。
「ここを開けてください。まだ聖者への祝福は終わっていません。これは、私に反する行為であると理解していますか?」
教皇の声には焦りは感じられず、淡々と問い詰めてくる。この扉は重く、大きい。一人で扉を開けるには相当な力が必要であり、出ようとすればかなりの時間がかかるだろう。先ほどはフシェンだからこそ開けられただけだ。
それをわかっているから、教皇はきっとフシェンに開けさせようとしている。
「いますぐこの扉を開けなければ、聖騎士の称号ははく奪し、神に逆らい聖者をさらった異端者となりますよ」
「なっ!」
前世で異端者として断罪された俺は、それがどういう意味を持つかよく理解している。神の代理人である教皇に異端者として認定されれば、即処刑だ。
助けを求めたのは俺であり、フシェンは何も悪くない。それなのに、聖騎士の称号を奪われ処刑などあってはならないことだ。先ほどまでは逃げることしか考えてなくて、フシェンに被害が及ぶ可能性が頭から抜けていた。
「違う! 彼は関係な」
「ああ。でしたら聖騎士を辞退させていただきます」
「お、おい!」
俺が庇う言葉をあげるより先に、さらりと聖騎士を投げ捨てたフシェンを軽く睨みつける。しかし、フシェンは小さく肩を竦めて、穏やかに微笑むだけだった。
「信じられません。貴方は誰よりも熱心にシャウーマ神を信奉していたのに、どうしてこのようなことを……」
「私の神は以前と同様、変わっておりませんよ。あの方を愛して、あの方のために死ねます」
「ならば、どうして」
教皇に問いかけられると、フシェンの目が俺の方に向く。そして、そっと俺の頬を優しく撫でた。
「──あの方以外にも好きなものを、ようやく見つけられたので」
その時、こちらを見つめるフシェンの表情は驚くほど柔らかで、朝の日差しのように温かかった。
「それに、お伝えしていませんでしたが私はあの方の声が聞こえます。あの方は私に聖者の力になれと仰られました。私が感じたところ、我が神に逆らっているのはそちらでは?」
フシェンの問いかけに、教皇は何も答えなかった。その答えを返すように返ってきたのは、勢いよく扉を叩く音だ。ガンガンと叩く音が回廊に響き渡っていく。
何も言葉を発さずに扉を叩き続けている教皇は不気味で、恐ろしさしか感じない。
「レダ、早く行こう。誰かが来る前にここから出てないと彼に捕まる」
「……本当にいいのか、フシェン。他の聖騎士も追ってくるぞ」
異端者になれば、神の敵として認定されるということだ。そして、そうなれば聖騎士たちも動き出すだろう。
彼らは強い。それは前世で取り込まれたことのある俺が一番よく知っている。しかし、フシェンは何でもないように笑った。
「私に勝てる聖騎士なんて、誰もいないさ」
それは聖騎士の中で最狂の呼び名をほしいままにしていた男の言葉だった。
俺は、躊躇うことなくフシェンに手を伸ばす。フシェンは俺の手首を掴むとそのまま強引に引く。すると、そのまま扉の隙間を抜けて外へと抜け出した。フシェンに抱き留められる形で、外に出ると同時に扉が勢いよく、目の前で閉じる。
俺は閉じた大扉を呆然と眺めていると、扉周りには神官たちが倒れていることに気付く。
「待たせてごめん。彼らが開けることを妨害するものだから、手間取ってしまった」
その言葉だけで、神官たちを叩きのめした犯人が誰なのかすぐにわかった。フシェンは申し訳なさそうに眉を垂らして、俺の背を優しく撫でる。
「い、いや、助けてくれて感謝しかないんだが……なんでミトラ司教も倒されてるんだ?」
扉を守っていた神官はわかるのだが、その近くでミトラ司教もうつ伏せで倒れているのが見える。もしかして、彼もフシェンの邪魔をしたのだろうか。
「ああ、彼はうるさくなるかなと思って一番初めに、ね?」
それを聞いて、俺はミトラ司教に同情するしかなかった。
「レダ……泣いたのか?」
フシェンは俺の目元を指先でなぞりながら、目を見張る。そして次の瞬間、表情から感情が抜け落ちた。冷え切った瞳が扉の方に向けられ、黒い影が落ちる。
俺は慌てて、フシェンに事情を説明しようとした時、扉の向こうから小さなノック音が聞こえてくる。
「──イザリティス卿」
扉越しではあるがわかる。それは間違いなく教皇の声だった。
「ここを開けてください。まだ聖者への祝福は終わっていません。これは、私に反する行為であると理解していますか?」
教皇の声には焦りは感じられず、淡々と問い詰めてくる。この扉は重く、大きい。一人で扉を開けるには相当な力が必要であり、出ようとすればかなりの時間がかかるだろう。先ほどはフシェンだからこそ開けられただけだ。
それをわかっているから、教皇はきっとフシェンに開けさせようとしている。
「いますぐこの扉を開けなければ、聖騎士の称号ははく奪し、神に逆らい聖者をさらった異端者となりますよ」
「なっ!」
前世で異端者として断罪された俺は、それがどういう意味を持つかよく理解している。神の代理人である教皇に異端者として認定されれば、即処刑だ。
助けを求めたのは俺であり、フシェンは何も悪くない。それなのに、聖騎士の称号を奪われ処刑などあってはならないことだ。先ほどまでは逃げることしか考えてなくて、フシェンに被害が及ぶ可能性が頭から抜けていた。
「違う! 彼は関係な」
「ああ。でしたら聖騎士を辞退させていただきます」
「お、おい!」
俺が庇う言葉をあげるより先に、さらりと聖騎士を投げ捨てたフシェンを軽く睨みつける。しかし、フシェンは小さく肩を竦めて、穏やかに微笑むだけだった。
「信じられません。貴方は誰よりも熱心にシャウーマ神を信奉していたのに、どうしてこのようなことを……」
「私の神は以前と同様、変わっておりませんよ。あの方を愛して、あの方のために死ねます」
「ならば、どうして」
教皇に問いかけられると、フシェンの目が俺の方に向く。そして、そっと俺の頬を優しく撫でた。
「──あの方以外にも好きなものを、ようやく見つけられたので」
その時、こちらを見つめるフシェンの表情は驚くほど柔らかで、朝の日差しのように温かかった。
「それに、お伝えしていませんでしたが私はあの方の声が聞こえます。あの方は私に聖者の力になれと仰られました。私が感じたところ、我が神に逆らっているのはそちらでは?」
フシェンの問いかけに、教皇は何も答えなかった。その答えを返すように返ってきたのは、勢いよく扉を叩く音だ。ガンガンと叩く音が回廊に響き渡っていく。
何も言葉を発さずに扉を叩き続けている教皇は不気味で、恐ろしさしか感じない。
「レダ、早く行こう。誰かが来る前にここから出てないと彼に捕まる」
「……本当にいいのか、フシェン。他の聖騎士も追ってくるぞ」
異端者になれば、神の敵として認定されるということだ。そして、そうなれば聖騎士たちも動き出すだろう。
彼らは強い。それは前世で取り込まれたことのある俺が一番よく知っている。しかし、フシェンは何でもないように笑った。
「私に勝てる聖騎士なんて、誰もいないさ」
それは聖騎士の中で最狂の呼び名をほしいままにしていた男の言葉だった。
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