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【人生すごろく】
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土曜日の朝、いつもより遅めの朝食を終えた玲は、英莉子に人生すごろくの在処《ありか》を尋ねた。
「お母さん、お父さんがうちに人生すごろくがあるって言ってたんだけど、どこにあるか分かる?」
「人生すごろくなら、いつかのお正月に遊んで以来、どこかのクローゼットの肥やしになってるはずだけど……どこだったかしら?」
「それなら、桜の部屋にあったと思うよー。上の方にあるから、パパ取ってきてー」
「パパ遣いが荒いなぁ~、桜は。分かりましたよ」
「ありがと、パパ」
「いいよーん」
「……やっぱチョロいな」
「あんた、お父さんのこと、チョロいとか言わないの。まぁ事実だけど」
「もぅ、二人ともそんな風に言わないの!」
そんな会話が交わされていたとなど露知らず、健志は笑顔で桜の部屋から戻ってきた。
「見つけてきたよ! なんか二人がまだ小さい時に買ったからか、改めて手に取ってみると、昔より随分小さく感じるなぁ」
英莉子は健志の言葉に共感した。
「ほんとねぇ。これ買いに行った時『桜が持つー』って聞かなくて、小さな体で一所懸命に抱えて歩いてたわね。それで当時は大きく見えてたのかも」
「ふーん、全然覚えてない」
「あんた、いっつも何でも持ちたがってたじゃん。スーパーでたけのこ買った時も『桜が持つー!』って言い出して、お母さんが『重たいからママが持つよ』って言ったら、大声で泣き出したじゃん。仕方なく持たせてみたけど、やっぱり重すぎて引きずって歩くもんだから、帰る頃には少し小さくなってんだよ」
「あったわねぇ、そんなこと。よく覚えてたわね」
「ふーん、桜は全然覚えてない」
健志は、母娘《おやこ》の会話に顔をほころばせながら、少しほこりの被っていた人生すごろくを開封する。
「おぉ、中はまだ新品みたいだな」
「そりゃそうよ、私の記憶が確かなら、これ一回しかやってないもの」
「じゃあ、今日が記念すべき二回目ってことだ」
初めて見るおもちゃに興奮した銀仁朗は、ワクワクを隠し切れない様子で質問をまくしたてた。
「人生すごろく言うたかいな。これは何するゲームなんや? ルールは? 何したら勝ちや? 早よ教えてんか!」
その勢いに少し引き気味になりつつ、玲は答えていく。
「ちょい落ち着こうか銀ちゃん。人生すごろくはね、いわゆるボードゲームだよ。ルーレットを回して、出た目だけ進むの。で、止まったマスのイベントで、良いことが起きたらお金が貰えて、悪いことが起きたらお金が減ったり、一回休みになったりするの。最後に一番お金持ちになった人が勝ちだよ」
「似たようなんやったら、昔やったことあるなぁ。サイコロ振って進んでくやつ」
「すごろくだね。それのルーレットバージョンだよ」
「なんや楽しそうやのぉ。ほな早よしよ。父上、準備よろしゅう」
「はいはーい。ただ今」
健志はテキパキと準備を進め、あっという間に準備を整えた。
「父上ありがとさん。ほな、わしから始めさせてもらうでー」
桜が銀仁朗のサポートを進んで引き受ける。
「さぁて、銀ちゃん。何が出るかなーっと……5だね。1、2、3、4、5っと。『アルバイトを始める、1000$もらう』だって」
玲は、マスに書かれた発生イベントを見て、あごに手を当て、考え込む。
「銀ちゃんができそうなアルバイトってなんだろ?」
「そうねぇ、ベビーシッターなんていいんじゃないかな?」
「さすが英莉ちゃん、目の付け処がいいね! 銀ちゃんなら、どんな赤ちゃんでもすぐにあやせられそうだもんなぁ」
「桜も銀ちゃんにトントンして欲しかったなー」
和気あいあいと盛り上がる一家の様子を見て、銀仁朗が上機嫌になる。
「なるほど。こうやって一つ一つのイベントで話盛り上げていくっちゅうわけやな。ええやーん」
「じゃあ次、桜が回しますよーっと。お、桜も5だ」
桜が自分と同じマスに止まったので、銀仁朗が素朴な疑問を投げかけた。
「玲、他の人と一緒の所に止まっても大丈夫なんか?」
「最初の方はあまり問題ないよ。中盤以降に同じマスに止まると、お金を奪ったり、奪われたりすることもあるけど」
「なんや物騒なイベントが起こることもあるってわけか」
「そんな感じ」
「ねぇ、桜は何のアルバイトが似合うかな?」
玲があざ笑うように言う。
「あんたはガソリンスタンドの店員さんじゃない?」
「なんでさ?」
「声がデカいからに決まってるじゃん」
「何だよその理由! うーん。桜はテーマパークとかでアルバイトしたいなぁー」
桜の願望に、英莉子が賛同する。
「桜は明るい性格だし、ああいう所のお仕事似合いそうね」
「でしょでしょー! さ、次はお姉ちゃんの番ね」
「じゃあ回すよ……おぉ、10だ! えっと、ここは『タンスの角に小指をぶつけて骨折する、2000$はらう』だって。しょっぱなからめっちゃ最悪なスタート……」
銀仁朗は、がっくりとうなだれる玲を励ました。
「これは、悪い方のイベントやな。玲、ドンマイやでー。ほな、次は母上やな」
「はーい。あ、7だ。このマスは『宝くじの3等が当たる、5000$もらう』だって。うーん、3等か~。せっかく当たるのなら、1等がよかったなぁ。でも、タンスに小指が当たる、よりかはマシね」
英莉子の挑発めいた発言に、玲がふくれっ面になる。
「ブーブーブー」
「あはは、可愛い小ブタさんがいるね。じゃあ次はパパの番だな。えぇ~、1じゃん……」
「パパ、安定の引きの悪さだねー」
「桜ぁ~。あ、でも『迷い猫を拾う。富豪の猫だったので、お礼に10000$もらう』だってさ! ラッキー! これは富豪の道確定じゃないか⁉」
玲が冷静な突っ込みを入れる。
「お父さん昨日大貧民だったし、その道はないんじゃない」
「玲ぃ~。フッフッフ、娘達よ……。今日のパパは昨日とはひと味も、ふた味も違うぜ!」
ドヤ顔で決め台詞を言う健志だったが、見事に全員にスルーされるのだった。
「なんや楽しなってきたなぁ! よっしゃ、次はわいの二巡目やな。そりゃ……次は4か。このマスは『手作りクッキーがご近所で評判に。皆から1000$ずつもらう』やて。へぇ、こないなパターンもあるんか。おもろいやん。ほな、皆さんお支払いいただきまっせ~」
「ちぇー。桜も稼ぐぞーっと、次は2か。あ、さっきのママと一緒のとこだ。プラス5000$ゲットだぜー!」
「私は……3かぁ。あっ『万馬券を当てる。7000$もらう』だから、今日初プラス!」
「ママの次は8ね。『スポーツ選手の異性と出逢いのチャンス! ルーレットを回して奇数が出たらお付き合い開始、偶数が出たら破談』だって」
今までと趣向の違うイベントに、銀仁朗は首を傾げた。
「なんやこのイベントは? 玲、これはどういう意味なんや?」
「これはね、人生すごろくの特徴で、後々に結婚イベントとか、出産イベントとかがあるんだけど、相手がいないと成立しないの。だから、こういう出逢いイベントは、そのための布石ってやつだね」
「ふーん。よぉ分からんが、相手がおるかおらんかで、将来のイベントが変わってくるいうことかいな?」
「その通り! 銀ちゃん、本当に賢いよね」
「母上、ではルーレットを回してくださいな」
「いくよー、それ! あっ、7だわ! 奇数だからお付き合い開始ね」
そう言いながら、英莉子は自分の車に人型のピンを刺した。
「銀ちゃん、お相手ができたら、ピンをここに刺すの。子どもができたりした時も、こうやって増やしていくのよ」
「出逢いのイベントや、出産イベントが起こったら、人に見立てた棒が増えていくっちゅうことか。分かりやすいがな」
茶目っ気たっぷりな顔で、英莉子が健志にいたずらっぽく謝罪した。
「健ちゃんごめんねぇ~、彼氏ができちゃった!」
「ぬぬぅー! 僕もどんどん進んで追いついてやるから待っとけよー! それっ! おおー、今度は9。大きい数字だ……って、うそや~ん。ここさっきの玲と同じ、タンスの角に小指ぶつけるマスじゃんか~。トホホ」
「父上、ドンマイ」
そんなこんなで、ゲームは中盤まで進み、大局を迎えていた。
「あ、やった! ママ、お付き合いしている相手とゴールインだって」
「え、英莉ちゃんが……僕を置いて他の男と結婚するなんて……」
「ゲームの中の話でしょ。てゆうか健ちゃんだって今、売れないアイドルと付き合ってるってことになってるじゃない」
「いや、今は売れてないけど、すぐにでもブレイクするはずだし!」
「そもそも~、アイドルが恋人作っちゃダメでしょ!」
「恋愛禁止の事務所じゃないんだよ~、きっと」
「さいですか~。きっとお二人は、茨の道を歩んで行くんでしょうねぇ~。その間、私はプロスポーツ選手と結婚して安泰ですけどねぇ~」
「なーにが安泰ですか。スポーツ選手つったって、みんながみんな年俸高いわけじゃないしぃ~。足やら腰やらに爆弾抱えてるかもしんないしぃ~。選手としてのピーク過ぎてるかもだし! めちゃくちゃ厳しい世界ってことでは、芸能界と大して変わんないでしょ」
「おほほほほ。本当に騒がしい男ですこと。少し前のイベント、ちゃんと見てなかったのかしらぁ? ここに『異性がスポーツ選手の場合、プロ契約により1000000$もらう』って、ちゃんと書いてあるわよ。おほほほほ」
桜が数分前のことを思い出し、説明した。
「あ、それパパがさっきトイレ行ってた時のイベントだから、見てなかったんだよ」
「うぐっ! 現役バリバリ億超えプレーヤーだとぉ……完敗だ畜生! こんなゲーム、もう止めだ、止めー!」
健志は捨て台詞を吐くと、リビングから逃げ去ってしまった。
「あーんもう、あの人ったら。本当にこういうところ、お子ちゃまなんだからぁ。ま、そこも含めて好きなんだけどね。 健ちゃーん、億超えスポーツ選手なんかより、あなたの方が大好きですからねー、機嫌直して下さーい」
英莉子はそう言い残すと、健志の後を追いかけていった。
「……うちら、一体何を見させられているの」
「まぁー、仲がいいことは……悪いことじゃないんじゃないかなぁ」
「全く、人というのは本当に理解が追いつかん生き物やな」
玲は銀仁朗の言葉に真顔で深く頷き「アグリーです」と言い、桜も「大人ってよく分かんないよねぇ」と応じるのだった。
「人生言うもんは、ルーレットのように、そう上手くは回らんいうこっちゃな」
銀仁朗の巧妙な言い回しに、玲が関心する。
「上手いこと言うねぇ、銀ちゃん!」
「せやけど、わし人生すごろくあんま好きやないかもやわ」
「あら、お気に召さなかったか。残念」
「いや、楽しいんは楽しいんやで。でも、ゲームとは言え、仲間や家族を蹴落としながらお金の奪い合いとかで勝ち負け競うっちゅうのが少し後味悪いなぁと思ってしまうねん」
「それは言えてるかもね。人生すごろくに似たゲームの、金太郎電鉄とか、いただきストーリーとかは、友情破壊ゲームって言われてるらしいし」
「友達と楽しく遊ぶためのゲームで、友情破壊してもうたら本末転倒やないか」
「その通りだね。夫婦生活破壊されたら私たちも困るから、ちょっとお父さんとお母さんの様子見てくるよ」
「あかんかったら呼んでくれ。わしも手伝うから」
桜が二人の方を指差しながら言った。
「その心配はないと思うよー。ほら、あそこでイチャついてるし」
桜の言う通り、廊下で手を握り合う両親を確認した玲は、肩をすくめた。
「あーね。心配して損したわ」
「まぁ……夫婦円満が一番やさかい」
玲がゲームの片付けをしながらぼそりと呟いた。
「とはいえ、次の家族崩壊の危機を防ぐためにも、人生すごろくは、またクローゼットの肥やし行き確定だな」
「これぞまさに、振り出しに戻るやな!」
「お母さん、お父さんがうちに人生すごろくがあるって言ってたんだけど、どこにあるか分かる?」
「人生すごろくなら、いつかのお正月に遊んで以来、どこかのクローゼットの肥やしになってるはずだけど……どこだったかしら?」
「それなら、桜の部屋にあったと思うよー。上の方にあるから、パパ取ってきてー」
「パパ遣いが荒いなぁ~、桜は。分かりましたよ」
「ありがと、パパ」
「いいよーん」
「……やっぱチョロいな」
「あんた、お父さんのこと、チョロいとか言わないの。まぁ事実だけど」
「もぅ、二人ともそんな風に言わないの!」
そんな会話が交わされていたとなど露知らず、健志は笑顔で桜の部屋から戻ってきた。
「見つけてきたよ! なんか二人がまだ小さい時に買ったからか、改めて手に取ってみると、昔より随分小さく感じるなぁ」
英莉子は健志の言葉に共感した。
「ほんとねぇ。これ買いに行った時『桜が持つー』って聞かなくて、小さな体で一所懸命に抱えて歩いてたわね。それで当時は大きく見えてたのかも」
「ふーん、全然覚えてない」
「あんた、いっつも何でも持ちたがってたじゃん。スーパーでたけのこ買った時も『桜が持つー!』って言い出して、お母さんが『重たいからママが持つよ』って言ったら、大声で泣き出したじゃん。仕方なく持たせてみたけど、やっぱり重すぎて引きずって歩くもんだから、帰る頃には少し小さくなってんだよ」
「あったわねぇ、そんなこと。よく覚えてたわね」
「ふーん、桜は全然覚えてない」
健志は、母娘《おやこ》の会話に顔をほころばせながら、少しほこりの被っていた人生すごろくを開封する。
「おぉ、中はまだ新品みたいだな」
「そりゃそうよ、私の記憶が確かなら、これ一回しかやってないもの」
「じゃあ、今日が記念すべき二回目ってことだ」
初めて見るおもちゃに興奮した銀仁朗は、ワクワクを隠し切れない様子で質問をまくしたてた。
「人生すごろく言うたかいな。これは何するゲームなんや? ルールは? 何したら勝ちや? 早よ教えてんか!」
その勢いに少し引き気味になりつつ、玲は答えていく。
「ちょい落ち着こうか銀ちゃん。人生すごろくはね、いわゆるボードゲームだよ。ルーレットを回して、出た目だけ進むの。で、止まったマスのイベントで、良いことが起きたらお金が貰えて、悪いことが起きたらお金が減ったり、一回休みになったりするの。最後に一番お金持ちになった人が勝ちだよ」
「似たようなんやったら、昔やったことあるなぁ。サイコロ振って進んでくやつ」
「すごろくだね。それのルーレットバージョンだよ」
「なんや楽しそうやのぉ。ほな早よしよ。父上、準備よろしゅう」
「はいはーい。ただ今」
健志はテキパキと準備を進め、あっという間に準備を整えた。
「父上ありがとさん。ほな、わしから始めさせてもらうでー」
桜が銀仁朗のサポートを進んで引き受ける。
「さぁて、銀ちゃん。何が出るかなーっと……5だね。1、2、3、4、5っと。『アルバイトを始める、1000$もらう』だって」
玲は、マスに書かれた発生イベントを見て、あごに手を当て、考え込む。
「銀ちゃんができそうなアルバイトってなんだろ?」
「そうねぇ、ベビーシッターなんていいんじゃないかな?」
「さすが英莉ちゃん、目の付け処がいいね! 銀ちゃんなら、どんな赤ちゃんでもすぐにあやせられそうだもんなぁ」
「桜も銀ちゃんにトントンして欲しかったなー」
和気あいあいと盛り上がる一家の様子を見て、銀仁朗が上機嫌になる。
「なるほど。こうやって一つ一つのイベントで話盛り上げていくっちゅうわけやな。ええやーん」
「じゃあ次、桜が回しますよーっと。お、桜も5だ」
桜が自分と同じマスに止まったので、銀仁朗が素朴な疑問を投げかけた。
「玲、他の人と一緒の所に止まっても大丈夫なんか?」
「最初の方はあまり問題ないよ。中盤以降に同じマスに止まると、お金を奪ったり、奪われたりすることもあるけど」
「なんや物騒なイベントが起こることもあるってわけか」
「そんな感じ」
「ねぇ、桜は何のアルバイトが似合うかな?」
玲があざ笑うように言う。
「あんたはガソリンスタンドの店員さんじゃない?」
「なんでさ?」
「声がデカいからに決まってるじゃん」
「何だよその理由! うーん。桜はテーマパークとかでアルバイトしたいなぁー」
桜の願望に、英莉子が賛同する。
「桜は明るい性格だし、ああいう所のお仕事似合いそうね」
「でしょでしょー! さ、次はお姉ちゃんの番ね」
「じゃあ回すよ……おぉ、10だ! えっと、ここは『タンスの角に小指をぶつけて骨折する、2000$はらう』だって。しょっぱなからめっちゃ最悪なスタート……」
銀仁朗は、がっくりとうなだれる玲を励ました。
「これは、悪い方のイベントやな。玲、ドンマイやでー。ほな、次は母上やな」
「はーい。あ、7だ。このマスは『宝くじの3等が当たる、5000$もらう』だって。うーん、3等か~。せっかく当たるのなら、1等がよかったなぁ。でも、タンスに小指が当たる、よりかはマシね」
英莉子の挑発めいた発言に、玲がふくれっ面になる。
「ブーブーブー」
「あはは、可愛い小ブタさんがいるね。じゃあ次はパパの番だな。えぇ~、1じゃん……」
「パパ、安定の引きの悪さだねー」
「桜ぁ~。あ、でも『迷い猫を拾う。富豪の猫だったので、お礼に10000$もらう』だってさ! ラッキー! これは富豪の道確定じゃないか⁉」
玲が冷静な突っ込みを入れる。
「お父さん昨日大貧民だったし、その道はないんじゃない」
「玲ぃ~。フッフッフ、娘達よ……。今日のパパは昨日とはひと味も、ふた味も違うぜ!」
ドヤ顔で決め台詞を言う健志だったが、見事に全員にスルーされるのだった。
「なんや楽しなってきたなぁ! よっしゃ、次はわいの二巡目やな。そりゃ……次は4か。このマスは『手作りクッキーがご近所で評判に。皆から1000$ずつもらう』やて。へぇ、こないなパターンもあるんか。おもろいやん。ほな、皆さんお支払いいただきまっせ~」
「ちぇー。桜も稼ぐぞーっと、次は2か。あ、さっきのママと一緒のとこだ。プラス5000$ゲットだぜー!」
「私は……3かぁ。あっ『万馬券を当てる。7000$もらう』だから、今日初プラス!」
「ママの次は8ね。『スポーツ選手の異性と出逢いのチャンス! ルーレットを回して奇数が出たらお付き合い開始、偶数が出たら破談』だって」
今までと趣向の違うイベントに、銀仁朗は首を傾げた。
「なんやこのイベントは? 玲、これはどういう意味なんや?」
「これはね、人生すごろくの特徴で、後々に結婚イベントとか、出産イベントとかがあるんだけど、相手がいないと成立しないの。だから、こういう出逢いイベントは、そのための布石ってやつだね」
「ふーん。よぉ分からんが、相手がおるかおらんかで、将来のイベントが変わってくるいうことかいな?」
「その通り! 銀ちゃん、本当に賢いよね」
「母上、ではルーレットを回してくださいな」
「いくよー、それ! あっ、7だわ! 奇数だからお付き合い開始ね」
そう言いながら、英莉子は自分の車に人型のピンを刺した。
「銀ちゃん、お相手ができたら、ピンをここに刺すの。子どもができたりした時も、こうやって増やしていくのよ」
「出逢いのイベントや、出産イベントが起こったら、人に見立てた棒が増えていくっちゅうことか。分かりやすいがな」
茶目っ気たっぷりな顔で、英莉子が健志にいたずらっぽく謝罪した。
「健ちゃんごめんねぇ~、彼氏ができちゃった!」
「ぬぬぅー! 僕もどんどん進んで追いついてやるから待っとけよー! それっ! おおー、今度は9。大きい数字だ……って、うそや~ん。ここさっきの玲と同じ、タンスの角に小指ぶつけるマスじゃんか~。トホホ」
「父上、ドンマイ」
そんなこんなで、ゲームは中盤まで進み、大局を迎えていた。
「あ、やった! ママ、お付き合いしている相手とゴールインだって」
「え、英莉ちゃんが……僕を置いて他の男と結婚するなんて……」
「ゲームの中の話でしょ。てゆうか健ちゃんだって今、売れないアイドルと付き合ってるってことになってるじゃない」
「いや、今は売れてないけど、すぐにでもブレイクするはずだし!」
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桜が数分前のことを思い出し、説明した。
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「うぐっ! 現役バリバリ億超えプレーヤーだとぉ……完敗だ畜生! こんなゲーム、もう止めだ、止めー!」
健志は捨て台詞を吐くと、リビングから逃げ去ってしまった。
「あーんもう、あの人ったら。本当にこういうところ、お子ちゃまなんだからぁ。ま、そこも含めて好きなんだけどね。 健ちゃーん、億超えスポーツ選手なんかより、あなたの方が大好きですからねー、機嫌直して下さーい」
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「……うちら、一体何を見させられているの」
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「上手いこと言うねぇ、銀ちゃん!」
「せやけど、わし人生すごろくあんま好きやないかもやわ」
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「いや、楽しいんは楽しいんやで。でも、ゲームとは言え、仲間や家族を蹴落としながらお金の奪い合いとかで勝ち負け競うっちゅうのが少し後味悪いなぁと思ってしまうねん」
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桜が二人の方を指差しながら言った。
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桜の言う通り、廊下で手を握り合う両親を確認した玲は、肩をすくめた。
「あーね。心配して損したわ」
「まぁ……夫婦円満が一番やさかい」
玲がゲームの片付けをしながらぼそりと呟いた。
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