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【カミングアウト】
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玲と麻美は、昼休みに教室でお弁当を広げていた。
「さてさてー、本日も待ちわびた昼餉の刻となりましたなぁ、玲殿」
「麻美、なんで侍口調なん。やめて」
「何故で御座るか。いつものことで御座ろう」
「はぁ……。で、昨日何のアニメ観たの?」
「『闘剣シリーズ』に決まっておろう。愚問ですぞ」
「だと思った。麻美本当好きだよね、あれ」
「玲殿も、秋に新シリーズが始まるがゆえ、それまでに過去作を刮目しておくべきかと助言致しますぞよ」
「来週から期末でしょ。そんな余裕ないよ」
「鬼松……? 鬼松とは、学期の終わりごとに現れるという、我々にとって最強にして最恐の仇敵のことですかな? あやつは強敵が故、我には到底太刀打ちできぬ……」
「冗談言ってないで、ちゃんと勉強しときなよ」
「ほーい。あ、話変わるけどさ、前に話してたコアラのマッチョの懸賞、応募したんだよね? やっぱ当たらなかった?」
玲は質問を聞くや、視線をそらし、首の後ろを触りながら口ごもった。
「……あ、あ、うん。そだねー。当たるわけないよねー」
麻美は玲の歯切れの悪さに疑念を抱く。そして、ある事に気付いた。
「えっ、えっ、待って待って。今、目逸らしながら項を触ってた……よね。それ、玲が嘘を言う時にする癖だよね⁉」
「あー、またやっちゃってた……」
「あぁぁぁ、あんたまさか……コア、ングァ―」
玲は、禁句とも言えるその言葉を発しようとした麻美の口を、両手のひらで息をする隙間さえ与えないほどに、力いっぱい抑え込んだ。
「イ……イギガ……デギ……」
「あっ、ごめん!」
麻美は白目を剥き、意識を失い……まではしなかったが、本当に息苦しかったようで、玲の手が離れた瞬間、大きく肩を動かしながらハァハァと呼吸をし、めいっぱい息を吸い込んだ。
「な、何すんのさっ! マジで死ぬかと思ったじゃん‼」
「ご、ごめん。つい……」
「つい……の強さじゃなかったよ! 私、なんか悪いことした⁉」
「本当に、ごめんなさい」
「……玲がこんなことするなんて、何かあるんでしょ。理由教えてくれたら許してあげるから、ちゃんと話して」
玲は、頭の中で阿保先生の言葉を反芻する。
『濫りにコアラを飼っていることを口外しないことじゃ……』
不用意とはいえ、親友に暴力を振るった形になってしまったことに対し、とても申し訳ないという気持ちが溢れ出し、泣きそうになりながら再び謝罪した。
「本当にごめんなさい……」
「いいから、ワケを話して」
玲は心を落ち着かせようと、目を瞑り、深呼吸する。そして、眼前の親友を見つめ直した。麻美はとても真っ直ぐな目をしていた。きっと彼女なら……。
「今から言うことは、絶対に誰にも話さないって約束できる?」
「できる。約束する」
「大きい声も出さない?」
「わかった。小さい声出す」
「冗談言わないで、真面目に応えて」
「す、すんませんっ」
麻美は襟を正し、再び玲に真っ直ぐな目を向けた。
「玲の言うことなら絶対守る。誰にも言わないって約束します」
「……ありがとう。じゃあ正直に言うよ」
麻美は固唾を飲み、玲の言葉を待った。
「実は……当たったんだ」
麻美はその言葉を聞くや、元々大きな目をさらに見開いた。まさかのカミングアウトに仰天の声を上げたい気持ちが芽生えたが、約束通りそれを自重し、小声で質問を返す。
「じゃ、じゃあ……今、家にいるの?」
その問いに、玲は真顔で首肯する。
麻美は玲の反応を見て、全てを理解した。再び大きな声を出しそうになったが、今度は自分の手で口を押さえ、驚きの言葉を飲み込むと、何とか冷静さを保った。
「え、えらいことになりましたなぁ~」
「そうなんだよ。急だったし、分からないことだらけだし。こないだ近所の動物病院行って、先生からお話聞いてきたんだけど」
「え? 何か具合でも悪かったの?」
「ううん、そういうのじゃなくて、飼い方を相談しに行ったんだ。でも、先生もアレをペットで飼う人なんていないからなぁ、って頭を抱えてたよ」
「で、でしょうねぇ~。でも何とかなりそうなの?」
「今のところは。名前、銀ちゃんっていうんだけど、銀ちゃんとても賢くて……いや、賢過ぎるかな。とにかく、手はあまり掛からないから、何とかなりそうかな」
「銀ちゃんか。うちも見てみたいなぁ~」
「そのうち……ね。でも、まずは目先のテストを頑張らなくっちゃだよ」
「じゃあさ、テスト頑張ったら、久々に玲の家に招待してよ!」
「頑張ったらねー」
「うっしゃ~! 言質取りましたぁ~」
「もー、調子いいんだから麻美は」
「へへっ。……ありがとね。ちゃんと話してくれて」
「先生からも、この件はあまり口外しないようにって言われてるんだけど、麻美なら大丈夫かなって思えたから」
「当然だよ。この秘密は、墓まで持ってくぜっ!」
「墓って——。ふふっ、ありがとね」
「もし約束を反故にした暁には、拙者切腹致す所存で御座いまする」
「その時は、介錯奉りまする」
「え怖っ! そこは止める方向でツッコんできてよ」
「あははは」
「さてさてー、本日も待ちわびた昼餉の刻となりましたなぁ、玲殿」
「麻美、なんで侍口調なん。やめて」
「何故で御座るか。いつものことで御座ろう」
「はぁ……。で、昨日何のアニメ観たの?」
「『闘剣シリーズ』に決まっておろう。愚問ですぞ」
「だと思った。麻美本当好きだよね、あれ」
「玲殿も、秋に新シリーズが始まるがゆえ、それまでに過去作を刮目しておくべきかと助言致しますぞよ」
「来週から期末でしょ。そんな余裕ないよ」
「鬼松……? 鬼松とは、学期の終わりごとに現れるという、我々にとって最強にして最恐の仇敵のことですかな? あやつは強敵が故、我には到底太刀打ちできぬ……」
「冗談言ってないで、ちゃんと勉強しときなよ」
「ほーい。あ、話変わるけどさ、前に話してたコアラのマッチョの懸賞、応募したんだよね? やっぱ当たらなかった?」
玲は質問を聞くや、視線をそらし、首の後ろを触りながら口ごもった。
「……あ、あ、うん。そだねー。当たるわけないよねー」
麻美は玲の歯切れの悪さに疑念を抱く。そして、ある事に気付いた。
「えっ、えっ、待って待って。今、目逸らしながら項を触ってた……よね。それ、玲が嘘を言う時にする癖だよね⁉」
「あー、またやっちゃってた……」
「あぁぁぁ、あんたまさか……コア、ングァ―」
玲は、禁句とも言えるその言葉を発しようとした麻美の口を、両手のひらで息をする隙間さえ与えないほどに、力いっぱい抑え込んだ。
「イ……イギガ……デギ……」
「あっ、ごめん!」
麻美は白目を剥き、意識を失い……まではしなかったが、本当に息苦しかったようで、玲の手が離れた瞬間、大きく肩を動かしながらハァハァと呼吸をし、めいっぱい息を吸い込んだ。
「な、何すんのさっ! マジで死ぬかと思ったじゃん‼」
「ご、ごめん。つい……」
「つい……の強さじゃなかったよ! 私、なんか悪いことした⁉」
「本当に、ごめんなさい」
「……玲がこんなことするなんて、何かあるんでしょ。理由教えてくれたら許してあげるから、ちゃんと話して」
玲は、頭の中で阿保先生の言葉を反芻する。
『濫りにコアラを飼っていることを口外しないことじゃ……』
不用意とはいえ、親友に暴力を振るった形になってしまったことに対し、とても申し訳ないという気持ちが溢れ出し、泣きそうになりながら再び謝罪した。
「本当にごめんなさい……」
「いいから、ワケを話して」
玲は心を落ち着かせようと、目を瞑り、深呼吸する。そして、眼前の親友を見つめ直した。麻美はとても真っ直ぐな目をしていた。きっと彼女なら……。
「今から言うことは、絶対に誰にも話さないって約束できる?」
「できる。約束する」
「大きい声も出さない?」
「わかった。小さい声出す」
「冗談言わないで、真面目に応えて」
「す、すんませんっ」
麻美は襟を正し、再び玲に真っ直ぐな目を向けた。
「玲の言うことなら絶対守る。誰にも言わないって約束します」
「……ありがとう。じゃあ正直に言うよ」
麻美は固唾を飲み、玲の言葉を待った。
「実は……当たったんだ」
麻美はその言葉を聞くや、元々大きな目をさらに見開いた。まさかのカミングアウトに仰天の声を上げたい気持ちが芽生えたが、約束通りそれを自重し、小声で質問を返す。
「じゃ、じゃあ……今、家にいるの?」
その問いに、玲は真顔で首肯する。
麻美は玲の反応を見て、全てを理解した。再び大きな声を出しそうになったが、今度は自分の手で口を押さえ、驚きの言葉を飲み込むと、何とか冷静さを保った。
「え、えらいことになりましたなぁ~」
「そうなんだよ。急だったし、分からないことだらけだし。こないだ近所の動物病院行って、先生からお話聞いてきたんだけど」
「え? 何か具合でも悪かったの?」
「ううん、そういうのじゃなくて、飼い方を相談しに行ったんだ。でも、先生もアレをペットで飼う人なんていないからなぁ、って頭を抱えてたよ」
「で、でしょうねぇ~。でも何とかなりそうなの?」
「今のところは。名前、銀ちゃんっていうんだけど、銀ちゃんとても賢くて……いや、賢過ぎるかな。とにかく、手はあまり掛からないから、何とかなりそうかな」
「銀ちゃんか。うちも見てみたいなぁ~」
「そのうち……ね。でも、まずは目先のテストを頑張らなくっちゃだよ」
「じゃあさ、テスト頑張ったら、久々に玲の家に招待してよ!」
「頑張ったらねー」
「うっしゃ~! 言質取りましたぁ~」
「もー、調子いいんだから麻美は」
「へへっ。……ありがとね。ちゃんと話してくれて」
「先生からも、この件はあまり口外しないようにって言われてるんだけど、麻美なら大丈夫かなって思えたから」
「当然だよ。この秘密は、墓まで持ってくぜっ!」
「墓って——。ふふっ、ありがとね」
「もし約束を反故にした暁には、拙者切腹致す所存で御座いまする」
「その時は、介錯奉りまする」
「え怖っ! そこは止める方向でツッコんできてよ」
「あははは」
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