10 / 24
【やってみそ】
しおりを挟む
ある日の夕食後、桜は以前から気になっていた疑問を、銀仁朗に投げかけた。
「ねぇ銀ちゃん。今更なんだけど、どうして普通にお話できるの?」
「あぁ、それな。話すと長なるんやがなぁ」
「聞きたーい!」
隣にいた玲も、興味津々と言わんばかりに激しく頷いていた。
「せやなぁ、まぁええか。ほな、話したろ」
同時に「お願いします!」と応え、シンクロした姉妹を見て、銀仁朗は微笑んだ。
銀仁朗は、一度目を閉じ、頭の中で過去の回想を始めると、ゆっくりと口を開いた。
「わしは元からおしゃべりできたわけやないんや。まぁ当然やわな。自分で言うんも何やが、努力の賜物やねん。ただ、コアラが人としゃべれるようになるんなんて、並大抵の努力じゃできひんことやさかい、わしが特別なのは確かやな」
「だよねー、普通は無理ゲー!」
「わしの飼育係してくれてた大川孝平いう飼育員のおっちゃんがいてな、こいつがまたけったいなやつでなぁ。ある日突然、わしに人の言葉を教え出したんや。『お前ならできる!』言うて、毎日特訓しだしたんや。頭おかしいやろ。ほーんま、恐ろしい程バリッバリのスパルタ特訓やったで」
銀仁朗は、特訓に明け暮れた日々を思い出し、顔をやや引きつらせた。ただ、その表情からは、苦痛の色はなく、寧ろ晴れやかさが垣間見られた。
「大川さんは、何を根拠に銀ちゃんがしゃべれるようになるって思ったんだろう?」
玲の質問に、銀仁朗は両手のひらを上に向け、肩をすくめながら首を左右に振る。
「さぁな。でも大川のおっちゃんがおらんかったら、こうやって二人とおしゃべりできひんかったわけやし、まぁ感謝せなやな」
「いい飼育員さんでよかったねー」
「まぁ、あんなヘンテコなおっちゃん、そうそうおらんやろけどな。わしが遊ぶん好きなったんも、大川のおっちゃんからの特訓がてら、色々教わったからやしな」
「だからトランプやったことあったんだー」
「玉子動物園に行ったことあるか?」
「何回もあるよー」
「じゃあ、わしらがおったコアラ館を見たことある思うけど、あそこには娯楽言うもんが一個も無かったんや」
「あー、確かに。木が何本か立ってただけだった記憶があるねー」
「せやねん。パンダには遊具が与えられてたらしいけど、わしらにはゼロや。酷いよなぁ。わしらも人気者やったやろうに。でもな、コアラは食べる以外、一日のほとんどを寝て過ごすんや。せやから遊びにエネルギー使うやつなんかおらんねん。せやから、ぶっちゃけ何も無くて問題ないんよ。わしだけが、寝ることより、もっと楽しいことを色々したいってずっと思ってたんや。それを大川のおっちゃんは何となく気づいてくれたんかもわからんな」
「素敵な飼育員さんに出逢えてほんと良かったね」
「そやな。玲の言う通りやな」
玲は銀仁朗に質問する。
「トランプ以外には、何をして遊んでたの?」
「体動かす遊びもいっぱいやったで。野球とか、サッカーとか、あとゴルフとかな。わしはゴルフが一番好きや」
「へぇ~、スポーツとかもやってたんだー」
「お遊び程度やがな」
「桜も自然学校でグラウンドゴルフやったよー」
「オモロいよな、ゴルフ」
「難しかったけど、穴にボール入った時は嬉しかったなぁ~」
「そうそう! 一発で入った時の快感がたまらんねや」
銀仁朗が、ゴルフ好きと聞いて、玲はあることを思い出す。
「そういや、お父さんも昔ゴルフにハマってて、休みの日にずっとリビングで練習してたよね。あれまだ家にあるんじゃないかな?」
三人がゴルフ談話で盛り上がっていると、タイミング良く健志の「ただいまー」という声が玄関から聞こえてきた。
「お、噂をすれば何とやらだね! パパおかえりー。あのさ、パパが昔やってたゴルフのやつってまだあるー?」
「何だい急に? パターの練習で使ってたゴルフマットならあるけど」
「それ出してきてくれないかなぁ? 銀ちゃんゴルフするの好きなんだってー」
「マジか。でもパパのパターは、銀ちゃんには大きすぎるかもだよ」
「何でもいいから、とりあえず出してあげてー」
「う、うん、分かった。ちょっと待ってて」
「父上、今日もお疲れの所すまんな」
「いいんだよ。もっと色んなお願い事言ってきてくれていいからね!」
「おおきにやで」
健志は、リビングの隅にある収納の中から、大きな黒い袋を取り出した。
「あったよ。久々に出すなぁ、これ」
「パパはもうゴルフしないの?」
「よく一緒に行ってた同僚が東京に転勤になっちゃってね。それ以来やる機会が減っちゃったんだよ」
「大人の事情ってやつ?」
「まぁそんなとこだね。じゃあセットしていくよ」
「あれー? これってこんなに小っちゃかったっけ?」
「これが小さくなったんじゃなくて、桜が大きくなったんだよ。桜が幼稚園の時くらいによくやってたからね」
「でも、銀ちゃんにはちょうど良い大きさかも!」
「マットはちょうどかもだけど、こっちがね……」
健志はパターを手に取ると、それをまじまじと見つめた。
「その棒は、確かに銀ちゃん持てないねー」
「これはパターって言うんだよ。さて、どうしようか」
持って来たはいいものの、使途に悩んでいると、英莉子が健志に声を掛けてきた。
「健ちゃんご飯出来たわよ~って、あら、久々にゴルフやるの?」
「そうだけど、やるのはパパじゃないよー。銀ちゃんがゴルフ好きなんだってー。だからパパにお願いして出してもらったの。でも、このバターってやつが大きすぎて銀ちゃんには持てそうにないんだよー。ママ、どうしたらいいかなぁ?」
「バターじゃなくてパターね。そうねぇ……あ、良いこと思いついたわ! ちょっと待ってて、キッチンから良いモノを取ってくるから」
「え?英莉ちゃん、何でキッチン?」
「いいから、待ってて!」
「キッチンにゴルフする道具なんてあんのかいな?」
「普通はないけど……英莉ちゃんのひらめきを信じてみよう」
「はーい、お待たせ。ジャジャーン! これでどうかな?」
そう言って、英莉子はキッチンから取ってきた銀色のアレを右手で掲げ、さながら魔法少女の登場シーンのようなポーズを決める。
「あぁ、なるほど。おたまか! 英莉ちゃん、ナイスアイデア」
「それなら銀ちゃんにピッタリかもだねー」
「でしょでしょ~。これなら銀ちゃんにも持ちやすいサイズだし、パターの代わりになりそうかなって」
「母上、これ使ってよろしいんか?」
「いいわよ! この間、取っ手が猫ちゃんになってる可愛いのを見つけちゃって、思わず買っちゃったのよねぇ~。だからこっちは今使ってないから問題ないわ」
「ほなら、ありがたく使わせてもらいまっせ」
「よかったねー、銀ちゃん。じゃあ、お手並み拝見といきましょうかー」
「桜っこも一緒にやるか?」
「やるー。桜はパパー使ってみる」
「あんた、パパのパターが混ざってパパーって言っちゃってんじゃん」
「パパのパターだからパパーであってるんだよー」
「何じゃそりゃ」
姉妹の漫才のような会話をよそに、銀仁朗は、おたまでの素振りに夢中になっていた。やる気満々の様子だ。
「じゃあ、やってみよー! さぁさぁ、銀ちゃん。何回で入れられるかなー?」
「久々のゴルフやさかい、下手でも笑わんといてや」
「大丈夫。たぶん桜の方が下手だ!」
桜は不敵な笑みを浮かべながら、サムズアップした。
「あんたは何を自信満々に下手アピールしてるのよ」
「自然学校での実績があるからねー、あはは」
「ほな、わしが先やってみんでぇ……ほい!」
銀仁朗の打ったボールは、カップまでかなりの距離を残して止まった。
「ありゃりゃー。全然届かなかったねー」
「ま、まぁ、始めはこんなもんやろ。ちょっとずつコツ掴んでいくもんやしな。お次、桜っこもやってみなはれ」
「あいあいさー。一発で決めてやる!」
「ついさっき下手アピールしてた人がよく言うわ」
「お姉ちゃんうるさいぞー。ゴルフ中は静かにしないといけないんだよー」
「一番やかましい奴にだけは言われたくなかったわ!」
「んじゃ打ちまーす! あ、あれ~。場外に行っちゃったぁ~」
「ドンマイや。ほなわし、もっかいやんでー。チャー・シュー・メン!」
急に変わった掛け声を言い出す銀仁朗に、玲は笑みをこぼした。
「ふふっ、何それ? ってあぁ惜しい!」
「大川のおっちゃんが言うてたん思い出したんや。これ言うとタイミングが合うようになってえぇらしい」
「なるほど……。桜もそれでやってみるぞー。チャー・シュー・メン!」
「あんた、また場外だよ。ゴルフのセンス皆無だね」
「何さ! じゃあお姉ちゃんもやってみなよー」
「えー、やだよ。やったことないし」
挑戦を拒否する姉に、桜は珍しく優しい顔をしながらアドバイスをする。
「そうやって何でも否定してたら勿体ないよー。もしかしたら、お姉ちゃんにゴルフの才能があるかもしれないじゃん。やってみないと分かんないんだからさ。ほい、パパー」
「だから、パターな。……分かったよ、やってみる。でも、笑わないでよ!」
「笑わないよぉ~」
「絶対笑うやつじゃん」
「いいから、ほら早くやってみそ」
「……じゃあ、いくよ。それっ」
「お、お、おぉー!」
玲の放ったゴルフボールは、一直線に直径10.8センチのカップの中へと吸い込まれた。
「えっ、入っちゃった……」
「玲、めっちゃ上手いやんけ! ほんまに初めてか?」
「え、あ、うん……入ったね」
「マジかぁ⁉ まさかお姉ちゃんにゴルフの才能が合ったなんて……。も、もう一回やってみてよ!」
「うん。じゃあもう一回いくよ。せーの……、あっ」
二打目の行方を見た全員が確信した。ファーストショットは、紛れもなくビギナーズラックであったことを。
「だから嫌だったのよ」
気を落とし、頬を赤らめる玲に、銀仁朗もアドバイスをする。
「まぁまぁ玲。さっき桜っこの言ってた通り、何事にも挑戦するんが大切なんやで。わしが会話できるようになったんも、無理やと初めから決めつけずに頑張ってみた結果や。挑戦すらせんかったら、その瞬間できひんことが決まってまう。少しでも可能性を信じてやり続けたら、可能性はゼロではなくなる。それが一番大事なんや」
「銀ちゃんが言うと、言葉の重みがあるなぁ」
「そかぁ? よぉ分からんけど。何事も、やってやれないことはない。やらずにできるわけがない、やで。自分自身で無理と決めつけるんは一番勿体ないことやで」
「分かった、ありがと。……でも、ゴルフはもうしないかな」
「お気に召さんかったか?」
「ううん。私、テスト勉強があるの忘れてたから……」
「あー、それはOBやな」
「OBってどういう意味?」
「お部屋に戻って、勉強せなや」
「はぁい……」
「ねぇ銀ちゃん。今更なんだけど、どうして普通にお話できるの?」
「あぁ、それな。話すと長なるんやがなぁ」
「聞きたーい!」
隣にいた玲も、興味津々と言わんばかりに激しく頷いていた。
「せやなぁ、まぁええか。ほな、話したろ」
同時に「お願いします!」と応え、シンクロした姉妹を見て、銀仁朗は微笑んだ。
銀仁朗は、一度目を閉じ、頭の中で過去の回想を始めると、ゆっくりと口を開いた。
「わしは元からおしゃべりできたわけやないんや。まぁ当然やわな。自分で言うんも何やが、努力の賜物やねん。ただ、コアラが人としゃべれるようになるんなんて、並大抵の努力じゃできひんことやさかい、わしが特別なのは確かやな」
「だよねー、普通は無理ゲー!」
「わしの飼育係してくれてた大川孝平いう飼育員のおっちゃんがいてな、こいつがまたけったいなやつでなぁ。ある日突然、わしに人の言葉を教え出したんや。『お前ならできる!』言うて、毎日特訓しだしたんや。頭おかしいやろ。ほーんま、恐ろしい程バリッバリのスパルタ特訓やったで」
銀仁朗は、特訓に明け暮れた日々を思い出し、顔をやや引きつらせた。ただ、その表情からは、苦痛の色はなく、寧ろ晴れやかさが垣間見られた。
「大川さんは、何を根拠に銀ちゃんがしゃべれるようになるって思ったんだろう?」
玲の質問に、銀仁朗は両手のひらを上に向け、肩をすくめながら首を左右に振る。
「さぁな。でも大川のおっちゃんがおらんかったら、こうやって二人とおしゃべりできひんかったわけやし、まぁ感謝せなやな」
「いい飼育員さんでよかったねー」
「まぁ、あんなヘンテコなおっちゃん、そうそうおらんやろけどな。わしが遊ぶん好きなったんも、大川のおっちゃんからの特訓がてら、色々教わったからやしな」
「だからトランプやったことあったんだー」
「玉子動物園に行ったことあるか?」
「何回もあるよー」
「じゃあ、わしらがおったコアラ館を見たことある思うけど、あそこには娯楽言うもんが一個も無かったんや」
「あー、確かに。木が何本か立ってただけだった記憶があるねー」
「せやねん。パンダには遊具が与えられてたらしいけど、わしらにはゼロや。酷いよなぁ。わしらも人気者やったやろうに。でもな、コアラは食べる以外、一日のほとんどを寝て過ごすんや。せやから遊びにエネルギー使うやつなんかおらんねん。せやから、ぶっちゃけ何も無くて問題ないんよ。わしだけが、寝ることより、もっと楽しいことを色々したいってずっと思ってたんや。それを大川のおっちゃんは何となく気づいてくれたんかもわからんな」
「素敵な飼育員さんに出逢えてほんと良かったね」
「そやな。玲の言う通りやな」
玲は銀仁朗に質問する。
「トランプ以外には、何をして遊んでたの?」
「体動かす遊びもいっぱいやったで。野球とか、サッカーとか、あとゴルフとかな。わしはゴルフが一番好きや」
「へぇ~、スポーツとかもやってたんだー」
「お遊び程度やがな」
「桜も自然学校でグラウンドゴルフやったよー」
「オモロいよな、ゴルフ」
「難しかったけど、穴にボール入った時は嬉しかったなぁ~」
「そうそう! 一発で入った時の快感がたまらんねや」
銀仁朗が、ゴルフ好きと聞いて、玲はあることを思い出す。
「そういや、お父さんも昔ゴルフにハマってて、休みの日にずっとリビングで練習してたよね。あれまだ家にあるんじゃないかな?」
三人がゴルフ談話で盛り上がっていると、タイミング良く健志の「ただいまー」という声が玄関から聞こえてきた。
「お、噂をすれば何とやらだね! パパおかえりー。あのさ、パパが昔やってたゴルフのやつってまだあるー?」
「何だい急に? パターの練習で使ってたゴルフマットならあるけど」
「それ出してきてくれないかなぁ? 銀ちゃんゴルフするの好きなんだってー」
「マジか。でもパパのパターは、銀ちゃんには大きすぎるかもだよ」
「何でもいいから、とりあえず出してあげてー」
「う、うん、分かった。ちょっと待ってて」
「父上、今日もお疲れの所すまんな」
「いいんだよ。もっと色んなお願い事言ってきてくれていいからね!」
「おおきにやで」
健志は、リビングの隅にある収納の中から、大きな黒い袋を取り出した。
「あったよ。久々に出すなぁ、これ」
「パパはもうゴルフしないの?」
「よく一緒に行ってた同僚が東京に転勤になっちゃってね。それ以来やる機会が減っちゃったんだよ」
「大人の事情ってやつ?」
「まぁそんなとこだね。じゃあセットしていくよ」
「あれー? これってこんなに小っちゃかったっけ?」
「これが小さくなったんじゃなくて、桜が大きくなったんだよ。桜が幼稚園の時くらいによくやってたからね」
「でも、銀ちゃんにはちょうど良い大きさかも!」
「マットはちょうどかもだけど、こっちがね……」
健志はパターを手に取ると、それをまじまじと見つめた。
「その棒は、確かに銀ちゃん持てないねー」
「これはパターって言うんだよ。さて、どうしようか」
持って来たはいいものの、使途に悩んでいると、英莉子が健志に声を掛けてきた。
「健ちゃんご飯出来たわよ~って、あら、久々にゴルフやるの?」
「そうだけど、やるのはパパじゃないよー。銀ちゃんがゴルフ好きなんだってー。だからパパにお願いして出してもらったの。でも、このバターってやつが大きすぎて銀ちゃんには持てそうにないんだよー。ママ、どうしたらいいかなぁ?」
「バターじゃなくてパターね。そうねぇ……あ、良いこと思いついたわ! ちょっと待ってて、キッチンから良いモノを取ってくるから」
「え?英莉ちゃん、何でキッチン?」
「いいから、待ってて!」
「キッチンにゴルフする道具なんてあんのかいな?」
「普通はないけど……英莉ちゃんのひらめきを信じてみよう」
「はーい、お待たせ。ジャジャーン! これでどうかな?」
そう言って、英莉子はキッチンから取ってきた銀色のアレを右手で掲げ、さながら魔法少女の登場シーンのようなポーズを決める。
「あぁ、なるほど。おたまか! 英莉ちゃん、ナイスアイデア」
「それなら銀ちゃんにピッタリかもだねー」
「でしょでしょ~。これなら銀ちゃんにも持ちやすいサイズだし、パターの代わりになりそうかなって」
「母上、これ使ってよろしいんか?」
「いいわよ! この間、取っ手が猫ちゃんになってる可愛いのを見つけちゃって、思わず買っちゃったのよねぇ~。だからこっちは今使ってないから問題ないわ」
「ほなら、ありがたく使わせてもらいまっせ」
「よかったねー、銀ちゃん。じゃあ、お手並み拝見といきましょうかー」
「桜っこも一緒にやるか?」
「やるー。桜はパパー使ってみる」
「あんた、パパのパターが混ざってパパーって言っちゃってんじゃん」
「パパのパターだからパパーであってるんだよー」
「何じゃそりゃ」
姉妹の漫才のような会話をよそに、銀仁朗は、おたまでの素振りに夢中になっていた。やる気満々の様子だ。
「じゃあ、やってみよー! さぁさぁ、銀ちゃん。何回で入れられるかなー?」
「久々のゴルフやさかい、下手でも笑わんといてや」
「大丈夫。たぶん桜の方が下手だ!」
桜は不敵な笑みを浮かべながら、サムズアップした。
「あんたは何を自信満々に下手アピールしてるのよ」
「自然学校での実績があるからねー、あはは」
「ほな、わしが先やってみんでぇ……ほい!」
銀仁朗の打ったボールは、カップまでかなりの距離を残して止まった。
「ありゃりゃー。全然届かなかったねー」
「ま、まぁ、始めはこんなもんやろ。ちょっとずつコツ掴んでいくもんやしな。お次、桜っこもやってみなはれ」
「あいあいさー。一発で決めてやる!」
「ついさっき下手アピールしてた人がよく言うわ」
「お姉ちゃんうるさいぞー。ゴルフ中は静かにしないといけないんだよー」
「一番やかましい奴にだけは言われたくなかったわ!」
「んじゃ打ちまーす! あ、あれ~。場外に行っちゃったぁ~」
「ドンマイや。ほなわし、もっかいやんでー。チャー・シュー・メン!」
急に変わった掛け声を言い出す銀仁朗に、玲は笑みをこぼした。
「ふふっ、何それ? ってあぁ惜しい!」
「大川のおっちゃんが言うてたん思い出したんや。これ言うとタイミングが合うようになってえぇらしい」
「なるほど……。桜もそれでやってみるぞー。チャー・シュー・メン!」
「あんた、また場外だよ。ゴルフのセンス皆無だね」
「何さ! じゃあお姉ちゃんもやってみなよー」
「えー、やだよ。やったことないし」
挑戦を拒否する姉に、桜は珍しく優しい顔をしながらアドバイスをする。
「そうやって何でも否定してたら勿体ないよー。もしかしたら、お姉ちゃんにゴルフの才能があるかもしれないじゃん。やってみないと分かんないんだからさ。ほい、パパー」
「だから、パターな。……分かったよ、やってみる。でも、笑わないでよ!」
「笑わないよぉ~」
「絶対笑うやつじゃん」
「いいから、ほら早くやってみそ」
「……じゃあ、いくよ。それっ」
「お、お、おぉー!」
玲の放ったゴルフボールは、一直線に直径10.8センチのカップの中へと吸い込まれた。
「えっ、入っちゃった……」
「玲、めっちゃ上手いやんけ! ほんまに初めてか?」
「え、あ、うん……入ったね」
「マジかぁ⁉ まさかお姉ちゃんにゴルフの才能が合ったなんて……。も、もう一回やってみてよ!」
「うん。じゃあもう一回いくよ。せーの……、あっ」
二打目の行方を見た全員が確信した。ファーストショットは、紛れもなくビギナーズラックであったことを。
「だから嫌だったのよ」
気を落とし、頬を赤らめる玲に、銀仁朗もアドバイスをする。
「まぁまぁ玲。さっき桜っこの言ってた通り、何事にも挑戦するんが大切なんやで。わしが会話できるようになったんも、無理やと初めから決めつけずに頑張ってみた結果や。挑戦すらせんかったら、その瞬間できひんことが決まってまう。少しでも可能性を信じてやり続けたら、可能性はゼロではなくなる。それが一番大事なんや」
「銀ちゃんが言うと、言葉の重みがあるなぁ」
「そかぁ? よぉ分からんけど。何事も、やってやれないことはない。やらずにできるわけがない、やで。自分自身で無理と決めつけるんは一番勿体ないことやで」
「分かった、ありがと。……でも、ゴルフはもうしないかな」
「お気に召さんかったか?」
「ううん。私、テスト勉強があるの忘れてたから……」
「あー、それはOBやな」
「OBってどういう意味?」
「お部屋に戻って、勉強せなや」
「はぁい……」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる