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新たな夫
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マユは翌日、同僚であるミユの家を訪ねていた。
ミユはすでに夫を交換した経験があり、育児休暇中でもあったのだ。
突然の訪問にも関わらず、ミユは笑顔でマユのことを出迎えた。
「いらっしゃい」
「ご無沙汰しています」
「今日は、急にすみません。ミユ、ありがとう」
ミユの夫は頭に猫のような耳を生やした獣人であり、夫は挨拶をしながらミユとの子供を腕に抱いて別室へと消えていく。
「ごめんね、急に」
「ううん。私も、マユといろいろ話がしたかったから!」
席に着き、マユは静かに口を開く。
「……交換って、怖くなかった?」
そのようなマユの姿に対して、ミユは穏やかな笑みを浮かべていく。
「最初は怖かったけど……、今は本当に幸せよ。私の前の夫、マユはよく知ってたでしょ?酒癖はひどくて、時には強く叩かれたりしてさ。でも、今のあの人は優しくて、お酒もほどほどだし、家事も仕事もきちんとしてくれる。何より、すごく私のことを考えてくれてるの!」
二人は、テーブルを挟んで話し込む。
そして、マユは決定的なアドバイスを貰っていた。
「いくつか条件を決めて絞り込むほうが、絶対に早く見つかるわ」
「条件……」
「そう。ここだけは絶対に譲れないっていう部分を決めておけば、あとは意外とどうとでもなるものよ?」
その背を押すように、紅茶を一口飲んでからミユはにっこりと微笑んだ。
その夜、マユは再び施設の扉を開けていた。
提示した条件をもとに、職員が次から次へと夫候補を探し出す。
魔法によって、目の前には数多の男の姿が薄く浮かび上がる。その異世界の男性たちの多様さに、マユは思わず息を呑んだ。
金髪碧眼の貴族風の者、褐色の肌に部族の装束を纏いし者、ミユの夫と同じように獣の耳が生えた者もいた。
――私を大切にしてくれる人。ギャンブルや浮気をせず、暴力的でない人。家事全般を得意とする人。
マユは祈るような思いで、その姿の一つ一つを眺めていた。
職員は、最終的に二人の人物の姿をマユの目の前へと置いてみせる。
「こちらに絞られました。どうぞ、お近くでご覧ください」
一人はいかにも異世界人であるといったような銀色の長い髪をした、白衣のようなものを羽織った男性であった。目元には銀の眼鏡が光り、やけに整った顔つきをしていた。
元妻が記載したという紹介文には、こう書かれていた。
『綺麗な顔に騙されちゃダメ。潔癖症で神経質、小言が多いから嫌になりました。最初は顔がいいから我慢していたけれど、野菜の切り方一つに文句を言われて、洗濯物の干し方にもけちをつけて、まるで小姑。無理』
もう一人は、短い黒髪で飾り気のない無地の白い布を身に纏った、体格の良い男性であった。緻密に編まれた茶色の腰紐が、異世界人であることを表していた。素朴な雰囲気ではあったが、彫りの深い顔立ちと落ち着いた佇まいが印象的でもあったのだ。
紹介文には、簡潔にこう書かれていた。
『物静か、言葉が少ない、退屈、つまらない』
「……この人にします」
マユは、小声で決断した。
夫となる人物が決定すれば、次は契約書の説明があった。
もう二度と夫を交換することができない旨に、施設にも今後一切立ち入ることができないこと。何があっても新しい夫と添い遂げること、と職員は淡々と読み上げた。
サインを終えると、次の瞬間、マユは自宅に戻っていた。
目の前には新しい夫、ダグが立っていた。
その顔つきは施設で目にしたものとは変わらぬものの、その身にまとう服は現代の日本人男性のものへと変変化していた。
――物静か、言葉が少ない、退屈、つまらない。
紹介文とダグとを照らし合わせるものの、確かにダグは寡黙そうな男でもあった。
マユを目に入れたダグは深く頭を下げ、静かに挨拶をする。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
マユは少し、緊張しながら返事をした。
これから、新たな夫との夫婦生活がはじまるのであった。
***
マユが目を覚ますと、窓から差し込む柔らかな朝の光が部屋の中を満たしていた。
隣で寝息を立てるダグの肩越しに、ささやかなぬくもりを感じる。
目覚めとともに、胸にじんわりと広がる言いようのない安心感。
これが、彼女にとっての幸せの象徴でもあったのだ。
思わずうとうとと二度寝をしてしまい、慌ててキッチンへと向かうとダグはすでに朝食の準備をはじめていた。
香ばしいトーストの匂いと、コーヒーの湯気がリビングに漂う。
目が合えば、ダグはわずかに口の端を上げていく。
「おはよう、マユ」
「おはよう……ダグ」
挨拶を交わすだけで、夫婦らしさが増していくような気がしていた。
ダグはトーストとスクランブルエッグを丁寧に皿に盛りつけると、マユに向けてそっと差し出す。
「味は、どうだ?」
「ありがとう。……うん、すごく美味しい!」
マユの口元に、自然と笑みが浮かんでしまう。
ダグはマユが食べ終わるのを確認してから、手早くトーストにかじりつく。
「……何か、リクエストがあれば言ってくれ。できる限り応えよう」
これまでにない豪華な朝食に、ささやかな気遣い。
そのダグの丁寧さに、マユは自らの心がほぐれていくのを感じていた。
「ありがとう。でも、無理はしないでね?」
「無理などではない。俺が、そうしたいだけだ」
朝食を終えると、二人は手分けをして家事を進める。
ダグは食器を洗い、マユは掃除機をかけていた。
「仕事は、何時からはじまるんだ?」
「9時から。今日は会議が二件あるの」
「……そうか。昼休みには、少し休めるといいな」
何気ない会話の中に、互いを思いやる気持ちが自然にあふれる。
以前の夫、タケシと過ごしていた頃のような緊張や苛立ちは、もはやここには存在しなかった。
ミユはすでに夫を交換した経験があり、育児休暇中でもあったのだ。
突然の訪問にも関わらず、ミユは笑顔でマユのことを出迎えた。
「いらっしゃい」
「ご無沙汰しています」
「今日は、急にすみません。ミユ、ありがとう」
ミユの夫は頭に猫のような耳を生やした獣人であり、夫は挨拶をしながらミユとの子供を腕に抱いて別室へと消えていく。
「ごめんね、急に」
「ううん。私も、マユといろいろ話がしたかったから!」
席に着き、マユは静かに口を開く。
「……交換って、怖くなかった?」
そのようなマユの姿に対して、ミユは穏やかな笑みを浮かべていく。
「最初は怖かったけど……、今は本当に幸せよ。私の前の夫、マユはよく知ってたでしょ?酒癖はひどくて、時には強く叩かれたりしてさ。でも、今のあの人は優しくて、お酒もほどほどだし、家事も仕事もきちんとしてくれる。何より、すごく私のことを考えてくれてるの!」
二人は、テーブルを挟んで話し込む。
そして、マユは決定的なアドバイスを貰っていた。
「いくつか条件を決めて絞り込むほうが、絶対に早く見つかるわ」
「条件……」
「そう。ここだけは絶対に譲れないっていう部分を決めておけば、あとは意外とどうとでもなるものよ?」
その背を押すように、紅茶を一口飲んでからミユはにっこりと微笑んだ。
その夜、マユは再び施設の扉を開けていた。
提示した条件をもとに、職員が次から次へと夫候補を探し出す。
魔法によって、目の前には数多の男の姿が薄く浮かび上がる。その異世界の男性たちの多様さに、マユは思わず息を呑んだ。
金髪碧眼の貴族風の者、褐色の肌に部族の装束を纏いし者、ミユの夫と同じように獣の耳が生えた者もいた。
――私を大切にしてくれる人。ギャンブルや浮気をせず、暴力的でない人。家事全般を得意とする人。
マユは祈るような思いで、その姿の一つ一つを眺めていた。
職員は、最終的に二人の人物の姿をマユの目の前へと置いてみせる。
「こちらに絞られました。どうぞ、お近くでご覧ください」
一人はいかにも異世界人であるといったような銀色の長い髪をした、白衣のようなものを羽織った男性であった。目元には銀の眼鏡が光り、やけに整った顔つきをしていた。
元妻が記載したという紹介文には、こう書かれていた。
『綺麗な顔に騙されちゃダメ。潔癖症で神経質、小言が多いから嫌になりました。最初は顔がいいから我慢していたけれど、野菜の切り方一つに文句を言われて、洗濯物の干し方にもけちをつけて、まるで小姑。無理』
もう一人は、短い黒髪で飾り気のない無地の白い布を身に纏った、体格の良い男性であった。緻密に編まれた茶色の腰紐が、異世界人であることを表していた。素朴な雰囲気ではあったが、彫りの深い顔立ちと落ち着いた佇まいが印象的でもあったのだ。
紹介文には、簡潔にこう書かれていた。
『物静か、言葉が少ない、退屈、つまらない』
「……この人にします」
マユは、小声で決断した。
夫となる人物が決定すれば、次は契約書の説明があった。
もう二度と夫を交換することができない旨に、施設にも今後一切立ち入ることができないこと。何があっても新しい夫と添い遂げること、と職員は淡々と読み上げた。
サインを終えると、次の瞬間、マユは自宅に戻っていた。
目の前には新しい夫、ダグが立っていた。
その顔つきは施設で目にしたものとは変わらぬものの、その身にまとう服は現代の日本人男性のものへと変変化していた。
――物静か、言葉が少ない、退屈、つまらない。
紹介文とダグとを照らし合わせるものの、確かにダグは寡黙そうな男でもあった。
マユを目に入れたダグは深く頭を下げ、静かに挨拶をする。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
マユは少し、緊張しながら返事をした。
これから、新たな夫との夫婦生活がはじまるのであった。
***
マユが目を覚ますと、窓から差し込む柔らかな朝の光が部屋の中を満たしていた。
隣で寝息を立てるダグの肩越しに、ささやかなぬくもりを感じる。
目覚めとともに、胸にじんわりと広がる言いようのない安心感。
これが、彼女にとっての幸せの象徴でもあったのだ。
思わずうとうとと二度寝をしてしまい、慌ててキッチンへと向かうとダグはすでに朝食の準備をはじめていた。
香ばしいトーストの匂いと、コーヒーの湯気がリビングに漂う。
目が合えば、ダグはわずかに口の端を上げていく。
「おはよう、マユ」
「おはよう……ダグ」
挨拶を交わすだけで、夫婦らしさが増していくような気がしていた。
ダグはトーストとスクランブルエッグを丁寧に皿に盛りつけると、マユに向けてそっと差し出す。
「味は、どうだ?」
「ありがとう。……うん、すごく美味しい!」
マユの口元に、自然と笑みが浮かんでしまう。
ダグはマユが食べ終わるのを確認してから、手早くトーストにかじりつく。
「……何か、リクエストがあれば言ってくれ。できる限り応えよう」
これまでにない豪華な朝食に、ささやかな気遣い。
そのダグの丁寧さに、マユは自らの心がほぐれていくのを感じていた。
「ありがとう。でも、無理はしないでね?」
「無理などではない。俺が、そうしたいだけだ」
朝食を終えると、二人は手分けをして家事を進める。
ダグは食器を洗い、マユは掃除機をかけていた。
「仕事は、何時からはじまるんだ?」
「9時から。今日は会議が二件あるの」
「……そうか。昼休みには、少し休めるといいな」
何気ない会話の中に、互いを思いやる気持ちが自然にあふれる。
以前の夫、タケシと過ごしていた頃のような緊張や苛立ちは、もはやここには存在しなかった。
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