次第にバカデカ声になっていく異界の妻(男)

陽花紫

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これにて万事解決※(完)

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 夕陽が沈むころ、新しく施した防音魔法の強度を確認した後に、その診察ははじまった。
 広い寝台の上に、三人は座る。イリスの目の前には目を閉じたユウトが、その身を支えるようにギルはユウトの肩を掴んでいた。
 緊張で震えるユウトの背を、ギルは優しく撫でる。
「ユウトはただ、眠っているだけでいいんだよ?」
「もし具合が悪くなるようなことがあれば、直ちに教えてくれ。すぐさま中断する。それでは、始めよう」
 イリスが長い呪文を唱えるにつれ、ユウトの身は次第に力を失っていく。
脱力するその身を支えながら、ギルは祈るような気持ちでその様子を見守っていた。

 ギルの言う通り、ユウトは暗闇の中で深い眠りについていた。
 それはふわふわと心地よく、さらなる眠気を誘う。どこか遠くで、イリスの声が響いているような気がした。
「まずは、肉体を調べさせてもらう。ギル、手伝ってくれ」
 ギルはイリスに指示された通り、手早くユウトが身に纏うガウンを取り去った。
イリスはユウトの額の上に手を翳し、魔力を流しながら異変の有無を探る。
 魔力が流れはじめると、ユウトの身はぽかぽかとあたたかな温もりに包まれる。まるで湯でにも浸かっているようなその感覚に、ユウトはいつもの夜を思い返していた。
 湯浴みを済ませた後にいつも、ユウトとギルはその愛を語っていたのだ。
 イリスの手は、額から胸元、腹部へと下がっていく。太ももから足へと降りた後に、おもむろにその手はユウトの股の付近へと戻る。
 そしてユウトの背後のギルへと、イリスのその鋭い視線は投げられた。
 いよいよこの時がきてしまったのだと、ギルは先ほどイリスに説明された事柄を思い返していた。
「ギル、何があっても声をあげるなよ?お前が声を出せば、彼は眠りから覚めてしまう」
「わかった」
 ギルは覚悟を決めて、その様を目に焼き付ける。
 これはユウトのための診察なのだと、心の中で何度も自らに言い聞かせていた。

 イリスはユウトの力ない陰部に指で何度か触れた後、次の瞬間には躊躇なく口に含んでいた。イリスの口内で、それはやがて膨らみ熱を持ちはじめる。何度か舌先で舐め上げた後に、熱を掴んだ手を上下に動かしながらユウトの精を導いた。
 その間、ユウトは夢の中であるというのに耐えがたい快楽を感じていた。しかしそれは、すぐに消えてしまう。
 勢いよく放たれた精を口に含みながら、イリスは至極真面目な面持ちでその液体を舌で転がし味わった。その風味や粘度には、特に異常は見られなかった。
 ギルはその様子を見つめながら、自らの下半身に熱が集うのを感じていた。友人が愛する人の秘所に顔を埋めて、何やらそれを味わっているかのように彼の目には見えていたからだ。しかしこれはユウトのための診察であると、その熱に気づかぬふりをした。
「次は口の中を診る、いいな?」
 その言葉に、ギルは頷く。
 イリスはユウトの両頬に手を添え、その唇を貪った。ユウトの精の香りがほんのりと鼻を掠め、ギルは思わず声を上げそうになってしまう。しかし、何度か深呼吸をしてやり過ごしていた。
 ユウトは夢の中で、今度は深い口づけをされているような感覚に襲われていた。ギルとは違う、細く長い舌が蛇のように口内を這いまわる。しかしそれは快楽を与えることもなく、呆気なく去ってしまう。
 少々物足りなく思いながらも、ユウトは静かに寝息をたてていた。
「前面に、異常はなかった。次は背面だ」
 ギルの手により、ユウトの身はうつ伏せとなる。
 後頭部から、先ほどと同じようにギルの手は移動する。そして同様に、足まで進んだ後にその手はユウトの臀部へとさしかかる。
「香油を頼む」
 受け取った香油を手に垂らし、イリスは淡々とユウトの後孔に指を入れはじめる。熱い内側を探るように、その指は増やされ次第に掻き回していく。
 その刺激に、ユウトはたまらず吐息をこぼしてしまう。
「イリス、大丈夫なのか?」
 思わずギルが、眉を寄せる。
「大丈夫だ。今のところ、異常はない」
 ギルの指とは明らかに異なる、細くしなやかな指がユウトの内を暴いていく。その指は決していつもの場所を擦ることはなく、作業であるかのように奥深くへと埋められていく。ユウトはそのもどかしさに、思わず声を上げてしまう。
 しかしその声は声にはならず、静かな吐息となって口の外へと出るだけであった。
 イリスは指を引き抜くと、再び香油を手に取り、とある場所へと何度も塗り付けはじめる。そこはイリス自らの陰部であり、ギルは思わず生唾を呑み込んでいだ。
「ギル、わかっているな?」
 イリスはユウトの腰元を掴み、静かに持ち上げた。
「も、もちろんだ。これは、診察行為であるからして、その……」
 ギルが言い終わるまでもなく、イリスはその身を静かにユウトの後孔へと沈めた。
 その場所はイリスをすんなりと受け入れ、強い熱を持って絡みつく。その感覚に、イリスは顔色一つ変えることなく徐々に腰を揺らして異常がないかを探る。
 やっとその身に埋められた熱に、ユウトは笑みを浮かべる。求めていたものが、やっと降りてきたのだ。しかしそれは愛の証などではなく、ただの無機質な棒であるかのように感じられた。ユウトはさらに求めようと腕をの伸ばそうとするものの、その腕は動くことがなかった。

 ギルは目の前の光景に耐えることができず、最初は目を閉じていた。
 しかし、これではユウトに申し訳が立たないとゆっくりと目を開ける。
 友人の手によって、無防備なユウトの身が犯されている。その姿に心は痛むものの、なぜだか熱を持った自らのものは硬く張り詰めていく。
 次第にギルはイリスに自らの身を重ね、ユウトとの甘く切ない夜を思い返していた。
「ユウト……」
「ギル、静かに」
 思わず声が出てしまうものの、イリスの目つきによってギルは我に返る。
「すまない」
 何度か腰を動かした後に、イリスはユウトの内部へと自らの精を放った。

 その後、イリスはユウトの臀部を掴み静かに左右へと広げる。
 露になったその場所からは、イリスが放った白濁の液体が艶めかしくこぼれ落ちていく。
「精による反応も、見受けられなかったか……」
 イリスは自らの身を清め、ギルにもユウトの身を清めるようにと指示をした。
 肉体面に異常がないとすれば、やはり精神面にその原因はあるのだろうか。イリスは深く息を吐きながら、意識を集中させていた。
 その間、ギルはユウトの内部に残るイリスの精を自らの指で掻き出しながら、心の中で謝罪を繰り返していた。自らの行いを打ち明けなかったせいで、ユウトにこのような惨い仕打ちをさせてしまったことに謝っても謝りきれなかった。
 そして、診察が終わったらすぐさまこの忌まわしき記憶を塗り替えなくてはと強く心に誓う。

「ギル、次は精神だ」
 ユウトの身にガウンを着せて、ギルはその身を仰向けにする。
 ギルは呪文を唱えながら、ユウトの心臓に向けて手を翳す。
 やがてギルの脳内に、ユウトの全ての記憶が蘇る。今日の出来事から婚姻当初へと遡るものの、そこに怪しいものを口に含んだ記憶や呪いを受けた痕跡などは見当たらなかった。
 そして記憶は、ギルの屋敷に転移した時のことへと移り変わる。さらにその前へと遡ろうとするものの、イリスの身を強大な闇の力が襲いかかる。
「……ぐあっ!」
 思わず手を払いのけ、イリスは体勢を崩してしまう。
「イリス、大丈夫か!」
 思いもよらぬ出来事に、ギルは声をあげた。
しかしイリスは再び姿勢を戻し、ただ静かに手を翳す。
「なんとかな……。さすがは、異界からの来訪者だ。これまでに触れたこともない強い力のようなものを感じた」
 その言葉に、ギルは眉を寄せる。
 しかしイリスは、そのような表情をみせるギルを鼻で笑った。
「大丈夫だ、俺にできないことはないはずだ。お前はそこで見ていろ」
 ユウトは心の奥底で、何かが罅割れるような強い衝撃を感じていた。
 この世界に転移する前の出来事が、色鮮やかに蘇る。車に轢かれそうになった時のこと、その前にとある行為をしていたこと。日々の孤独と生き辛さ、自らの性的衝動に気づいてしまった時のこと、そして家族に愛されていた時のことを。

 ユウトの記憶を全て見返した後、イリスはあることに気付く。
 これは、呪いなどの類ではなかったのだ。その確固たる証拠を目の当たりにして、イリスは頭に強い痛みをおぼえた。
この事実を彼の夫であるギルにどう伝えるべきかと、遠ざかるユウトの記憶の中で考えを巡らせる。

 ユウトは巡りめく記憶の中で、とあることを思い出していた。
「そういえば、ギルに隠していたこと……。あったかも」
 あまりの羞恥に意識の中で頭を抱えるものの、今となってはもう遅い。
 イリスもまた、恐らく同じ記憶を辿っているのであろう。ユウトは深く長いため息をついて、診察が終わったらギルに全力で謝ろうと決意した。

***

 異世界転移をする直前、ユウトの心は荒れに荒れていた。
 ゲイであることをひた隠しにし、愛する人も見つからぬまま悶々とした思いを抱えて日々を過ごしていたのだ。
 そのようななかで、彼の唯一の癒しのひとときは自らのその身を慰めることだけであった。
時には様々な玩具を使い、時には逞しくも美しい男性の映像や画像を見つめながら、時にはあらぬ妄想をしながら、その行為は年を重ねるにつれて次第にエスカレートしていく。
 いつしか喘ぎ声も大きくなり、湧き出る欲望はその果てを知らなかった。
「んおっ、やばっ……!鬼ディルドっ、さいっこう……!!」
 ユウトがかつて住んでいた場所は、防音設備が完備されたマンションでもあった。
 心行くままにあられもない声を出し、挙句の果てには欲望のままに淫らな言葉までもを発していたのだ。
「ん゛ぎい゛い゛い゛!!!い゛ぐっ゛!い゛ぐう゛ぅ゛ぅ゛!!!」
「あ゛ーっ゛!おれ゛のっ゛、けつま゛ん゛っ゛ごわれ゛ぢゃ゛う゛う゛!!!」
「た゛ね゛つ゛け゛して゛え゛ぇ゛ぇ゛!!」
 その快楽は素晴らしいものであり、いつしか彼の日常となっていた。

「……あ゛ーあ、疲れた。誰かこのケツマンに本物ちんこぶちこんでくれよ……」
 そう、あまりにも自然な日常へとなり果てていたのだ。


 その記憶を鮮明に思い返し、イリスはどうしたものかと今一度深くため息をついていた。
「ひとまず……、呪いなどの類ではないことはわかったぞ」
 どっと溢れ出る疲労に、寝台の上へと思わず大の字に横たわる。
「大丈夫か!?イリス、どうだったんだ?」
「……すまない、少し眠る。俺が目覚めると同時に、彼もまた目を覚ますだろう」
 真面目に心配をするギルをよそに、イリスはしばし仮眠をとることにして意識を手放した。

 イリスが目を覚ますまでの間、ギルはひたすら手を組んで祈っていた。

****

 眠りから覚めた後、ユウトはイリスとギルの顔を見て瞬時に頭を下げていた。
「このたびは、大変お騒がせいたしました!!」
 その突然の出来事に、ギルはただ困惑するばかりであった。
「ユウト、大丈夫かい?よく頑張ったね。いったい、君の身に何が起こっていたんだい?」
 常のような至極優しい声色に、ユウトはますます身を小さくして頭をシーツに擦り付ける。
 どうしたものかとギルがイリスの顔を見ると、イリスもまた複雑そうな表情を浮かべていた。

 そして、咳払いを一つ。
「ユウト、俺の口から説明してもいいだろうか?恐らく君からでは、言いにくいことであるだろうから」
 その言葉に、ユウトはいまいちど謝罪の言葉を口にしてギルの顔を見上げた。
「ギル、もしこれで俺のことを嫌いになったら……。いつでも捨ててくれて構わないから」
 ユウトのあまりの迫力に、ギルは思わずユウトの肩を掴んでいた。
「どうして、そんなことを言うんだい?何があっても、私はユウトのことを愛しているよ」
「でもきっと……、嫌になると思う」
「嫌いになんかならないさ。さあ、まずはイリスの話を聞こう」
 ギルはユウトの目に浮かぶ涙を指で拭い、その頬に唇を寄せた。
 ユウトはうつむき、イリスの言葉を待つことにする。
 ギルもまたイリスに向きなおり、その口から放たれる言葉を待っていた。

「……その、言葉を選ばなくてもいいだろうか?」
 その言葉に、ユウトは強く頷いた。
「どのような言葉であっても、私は全てを受け止めよう」
 ギルもまた拳を握り、イリスの言葉を待ち構える。

 そしてその耳に届く言葉は、ギルの予想を反するものでありそれ以上に聞き慣れない言葉であった。
「どうやら彼は、筋金入りのド淫乱らしい」
「ど……、なんだい?それは」

 その言葉の意味を理解するのに、ギルは時間を要していた。
 ユウトは顔を赤らめながらその言葉の意味を説明するものの、そこにはギルの世界では表現しがたいような単語が並んでいた。イリスはその一つ一つをギルにもわかりやすいように、丁寧にかつ詳細に解説をした。

***

 やっとの思いでその説明が正しく伝わった頃には、夜は更け空には朝陽が昇ろうとしていた。
「すなわち……、その、これまでのユウトのあの姿はなんと言うべきかその……。ユウトの本来の心休まる姿ということだったんだね?」
 何度か言葉を言いあぐねた後、ギルはユウトの顔を見た。
「ほんとうに、本当にごめんなさい」
 ユウトは何度目かの謝罪をし、再び頭を打ち付けた。
「やめてくれ、ユウト」
 しかしギルは攻めるような口振りもみせず、常と変わらぬ声色と笑みを浮かべてユウトの身を強く抱きしめた。
「むしろ、君がこれほどまでに私に向けて心を許してくれていただなんて……。私はとても嬉しく思うよ。ユウト、どんな君でもいい。愛しているよ」
 その言葉に、ユウトは大粒の涙を流しはじめる。
「ほんとうに?」
「ああ、本当だとも。なんなら、嘘ではないとイリスに診てもらってもいいくらいだ」
 その発言に、イリスは顔をしかめていた。
「ギル、ほんとうに……ほんとうに、ごめんね」
「いいんだよ。それに、君の身に異変がなくて本当によかった」
 二人はきつく抱きしめ合い、しばらく熱い口づけを交わしていた。

 そのような二人を余所に、イリスは部屋の片隅に置いてあった大量の魔法石を宙に浮かせる。
「これだけの石があれば、防音魔法も百年の保証になる。使ってもいいか?」
「ああ、あるだけ使ってくれ。イリス、本当にありがとう」
「本当に、ありがとうございます」
 イリスは二人を振り返ることなく、呪文を早口で唱えていた。
 今はただ、一刻も早くこの場を去りたいと思っていたのだ。

 全てが終わった後、イリスは残った魔法石を密かに懐に押し込めながらギルとユウトに向かって声をかけた。
「何にせよ、二人が幸せそうでよかった。これからもお幸せに」
 そう言い残して、イリスは風となり去っていった。
 ギルとユウトはその風を身に受けながら、いつまでも強く抱きしめ合っていた。

***

 それから、二人の夜は以前のような激しさは身を潜めていた。
 その身を重ねることはあっても、それは愛を確かめ合うかのようにささやかに丁寧に。そしてユウトもまた、その大きな声を出さぬよう口に布を詰めていた。
 ギルもまた、ユウトの髪を撫でながら優しく労わるようにその愛を伝えていた。
 ユウトもギルも、互いに気を遣っていたのだ。

 しかし数日後、今度はギルの我慢が限界を超えてユウトの身を強く押し倒してしまう。
「ギル、どうしたの?」
 驚き戸惑うユウトに対して、ギルは常にはない荒々しい笑みを浮かべてその身へとのしかかっていたのである。
「私も、君に影響されてしまったのかもしれないね」
「えっ?」
 そのような囁きに、ユウトの瞳の奥には期待と欲望が揺らめいてしまう。
「たまには私から、君のことを求めてもいいよね?」
 ユウトは笑みを浮かべながら、ギルに向けて深く頷いた。

 そして二人の声は、かつてのように次第に部屋中へと響き渡る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!」
「ユウトっ、出すよっ……!出すからね?」
「た゛ね゛つ゛け゛して゛え゛ぇ゛ぇ゛っ゛!孕ませて゛え゛え゛ぇ゛!!!」
 しかし使用人達に、その声が聞こえることは決してない。
 強力な防音魔法のおかげで、ギルとユウトは今宵も愛を語らうのであった。

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