4 / 5
夫を閉じ込める道
しおりを挟む
またしても、私の身と時間は同じ場所へと戻ってしまう。
どうすればいいのかもわからずに、王に関わることを辞めることにする。
そして、ある手段をとることに決めていた。
ガルのその身を、王のもとから離してしまえばいいのだと。
遠征中、突然ガルが姿を消した。
騎士が総出で捜索にあたったものの、その姿はおろか亡骸さえも確認することはできなかった。
その知らせを受けた時、私は王の間で泣き叫びながら膝から崩れ落ちる演技をしていた。
しかし王は顔色一つ変えることもなく、ただ静かに頷くだけであった。
長年王に仕え、王の前に立ち続けた忠義の騎士の死に対し、王はわずかな悲しみすら見せなかったのだ。
それは、当然のことでもあった。
すでにその隣には、新しい護衛騎士が控えていたのだから。
王にとって騎士は単なる道具であり、名誉ある兵器であり、換えの利く存在でしかない。
けれど私にとってガルは、世界そのものでもあったのだ。
「失礼いたします」
ふらふらと立ち上がり、屋敷へと戻る。
そして、とある場所へと向かうべく馬車に乗った。
***
ガルは今、国外にある屋敷の奥深く。
分厚い扉に隔てられた部屋で、静かに座って待っていた。
任務中に、私が雇ったその手の者がガルを襲撃し、その身を攫ったのだ。
連れ去る際に、抵抗するガルの視界は奪われ、その光は永遠に閉ざされてしまう。
その事実に、私は胸を震わせた。
悲しみでも怒りでもない、喜びでもない。
ガルの目に、もう誰の姿も映ることはないのだと。
ただ、狂おしいまでの安堵が私の胸には広がった。
これでもう、ガルは私だけのものに。
――誰の目にも晒されず、もう誰にも奪えやしない。
屋敷に踏み入れた私を、気配だけで感じ取ったのか。
ガルはわずかに顔を上げた。
その瞳は、深い闇をたたえたまま焦点を持たず、虚ろな空へと伸びていた。
「……帰って、きたのか」
掠れた声で、ガルが言う。
私はそっと、両腕で彼の身を抱きしめた。
まだ力強い筋肉の感触だけが、かつて護衛騎士であった名残りとなっていた。
「ええ、ガル。私は、あなたのそばにいるわ。ずっと……永遠に……」
ガルは震える手で、私の頬を探る。
視線の代わりに指先で私をなぞり、確かに私の存在を知ると短く息をつく。
その仕草に、かつて鋭さと誇りに満ちていた騎士としての面影は微塵もない。
ただひとりの、か弱い男とガルはなっていたのだ。
その全てが、愛おしくもあった。
***
今、ガルは私の腕の中にいる。
食事をすることも、湯浴みをすることも、私の支えがなければ何も一人では行うことができないのだから。
「これからは、二人で生きるのよ。あなたはもう、騎士ではない。戦わなくてもいい、守らなくてもいい。私だけを見ていればいいの」
ガルは苦しげに息を吐き、私の肩に額を押しあてた。
「……俺には、もう何も守れない。何も見えない……。お前の、その姿さえも」
「いいのよ、ガル。もう見なくていい。私だけを、求めていればいいのよ」
私は彼の唇を塞ぎ、ありったけの熱を注ぎ込んだ。
ガルは必死に私を抱きしめ、まるでこの熱に溺れていくかのように必死に私の身に縋る。
その震えも、その吐息も、その熱も。
すべてが、私のものになったのだ。
私は耳元で、こう囁いた。
「あなたは、私なしでは生きられない」
そして、目元をそっと撫でた。
「ガル、愛しているわ。ずっと、永遠に」
ガルは、泣きながら答えた。
「……離れないでくれ。頼む、俺を捨てないでくれ」
その言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
私のこの表情を、もうガルが目にすることは二度とない。
「ええ。あなたを、どこにも行かせないわ」
扉の外には見張りの者が立ち、窓は固く閉ざされ、世界は完全に遮断されている。
この部屋こそ、永遠の愛の住処。
私と、ガルだけの世界なのだから。
「さあ、ガル。私の名前を呼んで」
彼は泣きながら、私を求めた。
私はその逞しい身に跨りながら、果てるまで腰を振り続けた。
ガルの手を腰元へと誘い、何度もその唇に口づけを落とした。
「愛している、愛している……」
その声を聞きながら、私は心から満たされていく。
――これでやっと、あなたは私だけのもの。
けれどある朝、ガルは舌を噛んで冷たくなっていた。
「どうして……ガル……」
そばには一枚の紙きれがあり、震える字でこう書かれていた。
『お前に迷惑をかけたくない』
どれほどの想いで、この文字を書いたのだろうか。
私はガルの亡骸に寄り添いながら、静かにナイフを手に取った。
「愛しているわ、ガル。私も、すぐにいくわ」
そして私の世界は、黒く閉ざされていく。
どうすればいいのかもわからずに、王に関わることを辞めることにする。
そして、ある手段をとることに決めていた。
ガルのその身を、王のもとから離してしまえばいいのだと。
遠征中、突然ガルが姿を消した。
騎士が総出で捜索にあたったものの、その姿はおろか亡骸さえも確認することはできなかった。
その知らせを受けた時、私は王の間で泣き叫びながら膝から崩れ落ちる演技をしていた。
しかし王は顔色一つ変えることもなく、ただ静かに頷くだけであった。
長年王に仕え、王の前に立ち続けた忠義の騎士の死に対し、王はわずかな悲しみすら見せなかったのだ。
それは、当然のことでもあった。
すでにその隣には、新しい護衛騎士が控えていたのだから。
王にとって騎士は単なる道具であり、名誉ある兵器であり、換えの利く存在でしかない。
けれど私にとってガルは、世界そのものでもあったのだ。
「失礼いたします」
ふらふらと立ち上がり、屋敷へと戻る。
そして、とある場所へと向かうべく馬車に乗った。
***
ガルは今、国外にある屋敷の奥深く。
分厚い扉に隔てられた部屋で、静かに座って待っていた。
任務中に、私が雇ったその手の者がガルを襲撃し、その身を攫ったのだ。
連れ去る際に、抵抗するガルの視界は奪われ、その光は永遠に閉ざされてしまう。
その事実に、私は胸を震わせた。
悲しみでも怒りでもない、喜びでもない。
ガルの目に、もう誰の姿も映ることはないのだと。
ただ、狂おしいまでの安堵が私の胸には広がった。
これでもう、ガルは私だけのものに。
――誰の目にも晒されず、もう誰にも奪えやしない。
屋敷に踏み入れた私を、気配だけで感じ取ったのか。
ガルはわずかに顔を上げた。
その瞳は、深い闇をたたえたまま焦点を持たず、虚ろな空へと伸びていた。
「……帰って、きたのか」
掠れた声で、ガルが言う。
私はそっと、両腕で彼の身を抱きしめた。
まだ力強い筋肉の感触だけが、かつて護衛騎士であった名残りとなっていた。
「ええ、ガル。私は、あなたのそばにいるわ。ずっと……永遠に……」
ガルは震える手で、私の頬を探る。
視線の代わりに指先で私をなぞり、確かに私の存在を知ると短く息をつく。
その仕草に、かつて鋭さと誇りに満ちていた騎士としての面影は微塵もない。
ただひとりの、か弱い男とガルはなっていたのだ。
その全てが、愛おしくもあった。
***
今、ガルは私の腕の中にいる。
食事をすることも、湯浴みをすることも、私の支えがなければ何も一人では行うことができないのだから。
「これからは、二人で生きるのよ。あなたはもう、騎士ではない。戦わなくてもいい、守らなくてもいい。私だけを見ていればいいの」
ガルは苦しげに息を吐き、私の肩に額を押しあてた。
「……俺には、もう何も守れない。何も見えない……。お前の、その姿さえも」
「いいのよ、ガル。もう見なくていい。私だけを、求めていればいいのよ」
私は彼の唇を塞ぎ、ありったけの熱を注ぎ込んだ。
ガルは必死に私を抱きしめ、まるでこの熱に溺れていくかのように必死に私の身に縋る。
その震えも、その吐息も、その熱も。
すべてが、私のものになったのだ。
私は耳元で、こう囁いた。
「あなたは、私なしでは生きられない」
そして、目元をそっと撫でた。
「ガル、愛しているわ。ずっと、永遠に」
ガルは、泣きながら答えた。
「……離れないでくれ。頼む、俺を捨てないでくれ」
その言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
私のこの表情を、もうガルが目にすることは二度とない。
「ええ。あなたを、どこにも行かせないわ」
扉の外には見張りの者が立ち、窓は固く閉ざされ、世界は完全に遮断されている。
この部屋こそ、永遠の愛の住処。
私と、ガルだけの世界なのだから。
「さあ、ガル。私の名前を呼んで」
彼は泣きながら、私を求めた。
私はその逞しい身に跨りながら、果てるまで腰を振り続けた。
ガルの手を腰元へと誘い、何度もその唇に口づけを落とした。
「愛している、愛している……」
その声を聞きながら、私は心から満たされていく。
――これでやっと、あなたは私だけのもの。
けれどある朝、ガルは舌を噛んで冷たくなっていた。
「どうして……ガル……」
そばには一枚の紙きれがあり、震える字でこう書かれていた。
『お前に迷惑をかけたくない』
どれほどの想いで、この文字を書いたのだろうか。
私はガルの亡骸に寄り添いながら、静かにナイフを手に取った。
「愛しているわ、ガル。私も、すぐにいくわ」
そして私の世界は、黒く閉ざされていく。
10
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる