王の護衛騎士の妻になったはいいものの血生臭いループから抜け出せずにいる私は

陽花紫

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夫を閉じ込める道

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 またしても、私の身と時間は同じ場所へと戻ってしまう。
 どうすればいいのかもわからずに、王に関わることを辞めることにする。

 そして、ある手段をとることに決めていた。
 ガルのその身を、王のもとから離してしまえばいいのだと。

 遠征中、突然ガルが姿を消した。
 騎士が総出で捜索にあたったものの、その姿はおろか亡骸さえも確認することはできなかった。

 その知らせを受けた時、私は王の間で泣き叫びながら膝から崩れ落ちる演技をしていた。

 しかし王は顔色一つ変えることもなく、ただ静かに頷くだけであった。
 長年王に仕え、王の前に立ち続けた忠義の騎士の死に対し、王はわずかな悲しみすら見せなかったのだ。

 それは、当然のことでもあった。
 すでにその隣には、新しい護衛騎士が控えていたのだから。
 王にとって騎士は単なる道具であり、名誉ある兵器であり、換えの利く存在でしかない。

 けれど私にとってガルは、世界そのものでもあったのだ。

「失礼いたします」

 ふらふらと立ち上がり、屋敷へと戻る。
 そして、とある場所へと向かうべく馬車に乗った。

***

 ガルは今、国外にある屋敷の奥深く。
 分厚い扉に隔てられた部屋で、静かに座って待っていた。

 任務中に、私が雇ったその手の者がガルを襲撃し、その身を攫ったのだ。
 連れ去る際に、抵抗するガルの視界は奪われ、その光は永遠に閉ざされてしまう。

 その事実に、私は胸を震わせた。
 悲しみでも怒りでもない、喜びでもない。
 ガルの目に、もう誰の姿も映ることはないのだと。 
 ただ、狂おしいまでの安堵が私の胸には広がった。

 これでもう、ガルは私だけのものに。

 ――誰の目にも晒されず、もう誰にも奪えやしない。

 屋敷に踏み入れた私を、気配だけで感じ取ったのか。
 ガルはわずかに顔を上げた。
 その瞳は、深い闇をたたえたまま焦点を持たず、虚ろな空へと伸びていた。

「……帰って、きたのか」

 掠れた声で、ガルが言う。
 私はそっと、両腕で彼の身を抱きしめた。
 まだ力強い筋肉の感触だけが、かつて護衛騎士であった名残りとなっていた。

「ええ、ガル。私は、あなたのそばにいるわ。ずっと……永遠に……」

 ガルは震える手で、私の頬を探る。
 視線の代わりに指先で私をなぞり、確かに私の存在を知ると短く息をつく。
 その仕草に、かつて鋭さと誇りに満ちていた騎士としての面影は微塵もない。
 ただひとりの、か弱い男とガルはなっていたのだ。

 その全てが、愛おしくもあった。

***

 今、ガルは私の腕の中にいる。
 食事をすることも、湯浴みをすることも、私の支えがなければ何も一人では行うことができないのだから。

「これからは、二人で生きるのよ。あなたはもう、騎士ではない。戦わなくてもいい、守らなくてもいい。私だけを見ていればいいの」
 ガルは苦しげに息を吐き、私の肩に額を押しあてた。
「……俺には、もう何も守れない。何も見えない……。お前の、その姿さえも」
「いいのよ、ガル。もう見なくていい。私だけを、求めていればいいのよ」
 私は彼の唇を塞ぎ、ありったけの熱を注ぎ込んだ。
 ガルは必死に私を抱きしめ、まるでこの熱に溺れていくかのように必死に私の身に縋る。
 その震えも、その吐息も、その熱も。
 すべてが、私のものになったのだ。

 私は耳元で、こう囁いた。
「あなたは、私なしでは生きられない」
 そして、目元をそっと撫でた。
「ガル、愛しているわ。ずっと、永遠に」
 ガルは、泣きながら答えた。
「……離れないでくれ。頼む、俺を捨てないでくれ」
 その言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
 私のこの表情を、もうガルが目にすることは二度とない。

「ええ。あなたを、どこにも行かせないわ」

 扉の外には見張りの者が立ち、窓は固く閉ざされ、世界は完全に遮断されている。
 この部屋こそ、永遠の愛の住処。
 私と、ガルだけの世界なのだから。
「さあ、ガル。私の名前を呼んで」
 彼は泣きながら、私を求めた。
 私はその逞しい身に跨りながら、果てるまで腰を振り続けた。
 ガルの手を腰元へと誘い、何度もその唇に口づけを落とした。
「愛している、愛している……」
 その声を聞きながら、私は心から満たされていく。

 ――これでやっと、あなたは私だけのもの。

 けれどある朝、ガルは舌を噛んで冷たくなっていた。

「どうして……ガル……」

 そばには一枚の紙きれがあり、震える字でこう書かれていた。

『お前に迷惑をかけたくない』

 どれほどの想いで、この文字を書いたのだろうか。
 私はガルの亡骸に寄り添いながら、静かにナイフを手に取った。

「愛しているわ、ガル。私も、すぐにいくわ」

 そして私の世界は、黒く閉ざされていく。
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