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王に取り入る道
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次に目覚めた時、私の心には深い悲しみもこの身の痛みも何もなかった。
この腹部にも違和感はなく、王も存命していた。
ガルは何事もなかったのようにいつものように微笑みを浮かべて、今日も屋敷を出ていった。
時間が、巻き戻ってしまったかのようだった。
そして私は、考える。
これは、やり直す機会を与えられたのではないのかと。
確かにあの方法は、いささかやりすぎてしまったように思う。
莫大な金を消費し、そして多くの血を流した。
ため息をつきながら、窓の外を眺めた。
どうすれば、この手を穢すことなくガルの目に映り続けることができるのだろうかと。
私の夫、ガル。
王国随一の護衛騎士にして、誰よりも忠義に厚く誰よりも強い男。
朝のほんの一瞬しか、彼は私のことを見ない。
夜になれば、王の寝室の前で剣を構え続け、私の腕の中に戻ることは稀であった。
そこで私は、気が付く。
ならば王に取り入れば、私は常にその隣に立つことができるのではないのかと。
たとえそのために、この身すべてを差し出す必要があったとしても。
――私は、ガルのことだけを愛している。
王は若く勇ましく、誰もがその将来を期待するほどの才を持ち。
そして誰よりも、戦場を愛する男でもあったのだ。
私は計算し、準備を重ねて、その時を待っていた。
貴族の女としての品格も、母譲りのこの豊満な胸も、その愛を得るためならどのような手段も厭わなかった。
滅多に出向くことのない夜会に密かに足を踏み入れて、ガルの姿を目に焼き付けつつも、王の動向を探っていた。
そして、あることに気付く。
王はとても身持ちが堅かった。他の女の視線や誘いなど、いとも容易くかわしてしまう。
常にはガルをはじめとした護衛騎士が張り付き、言葉をかける隙も無いに等しい。
そこで私は考えた。
こちらから動くことができぬのなら、向こうがやってくるのを待つしかないと。
私は夜な夜な、夜会に足を運んだ。
数多のドレスを仕立て上げ、顔は常に扇で隠していた。
ガルに気づかれるようなこともなく、時折扇を外して王に熱のこもった視線をおくる。
――王を虜にさえすれば、ガルは私から目を逸らすことはできない。
その執念は、やがて実を結ぶ。
ある日王は、護衛騎士を外してただ一人で私の前へと姿を現した。
「お名前は?」
「名乗るような者では、ございません」
「そうか。夫に黙って、毎夜このような場所に足を運ぶとは……。何か事情でも?」
「いいえ。ただ、寂しいのです」
そしてついに、私の手を引いてとある小部屋へと押し込んだ。
王は私の存在を、はじめから知っていた。
護衛騎士の妻であることを。しかしそれを知っていながらも、私の身をその手に抱いていた。
ガルよりもいささか薄いその背に腕を回しながら、私は偽りの愛を語っていた。
***
その後、王は私を愛人として側に置いた。
私は堂々と、王の隣に立つことを許されたのだ。
その瞬間、この背筋を震わせた感覚を私は忘れない。
これでようやく、ガルは私を見つめ続けることしかできないのだと。
私は常に、王の隣に控えていた。
その反対側に、剣を携えて立つガルの姿があった。
王が私の腰を引き寄せ深く口づけをしたその瞬間に、ガルの瞳はかすかに揺れる。
驚き、いや。
あれは、悲しみだろうか。王に遮られて、その様子はこの目にまで届かない。
「ガル、どうした?」
王は、笑いながら言った。
「……いえ、陛下。あなたさまが望むものは全て、国の宝であります」
ガルの声は、震えてなどいなかった。
ただ少しだけ、常よりも低く沈んでいた。
そしてなおも、王の言葉は続く。
「彼女は、私の癒しとなった。お前も、喜ばしいことであろう。さすがはお前の妻だ、誇るといい」
ガルは、歪な笑みを浮かべていた。
誇らしげに、しかしどこか苦しみを抑えこむかのように
「ええ、本当に。ありがたき幸せにございます」
その笑みが、私の胸の奥に深く突き刺さる。
私は欲望にも似たその痛みに、喉を詰まらせそうになっていた。
***
王に抱かれている時、ガルはいつも私の近くにいた。
寝室の奥、薄い幕の向こうで息を殺して控えていたのだ。
王の指が私の肌をなぞり、息を奪うほど強く抱きしめるたびに、私は薄布越しにガルの影を見る。
その目には、王と私しか映っていなかった。
その瞳の鋭さに、私は思わずこの身を震わせる。
「いいのか?」
「はい、とても……」
熱く、狂おしいほどの劣情がこの胸に満ちていく。
――ガルが、私のことを見ている。私だけを、見つめている。
その視線に気づいた王は、私の耳元でこう囁いた。
「見せつけてやりたいのだろう?ガルに」
私は、静かに頷いた。
王は笑い、私の顎を掴んでこう告げた。
「良いだろう。私も、欲している。この国最強の騎士から、愛する妻を奪う快楽を」
その夜、王はいつも以上に激しく私を求めていた。
ガルにこの姿を見せつけるかのように、時には寝台を降りて背後から私はこの身を貫かれていた。
「もっと、声を出せ!」
「あっ、……ああっ!……」
何もかもを、その恥さえも捨てて私は声をあげて王の名を呼んでいた。
幕の向こうで、ガルの吐息は、低く荒く震えていた。
相変わらずその顔は表情がなかったものの、けれど腰の下のあたり、その布地の下でガルの熱は大きく張り詰めていた。
――ガルが、私のこの姿を目にして。興奮しているというの?
その事実が、私を喜ばせていた。
***
翌朝、王から宛がわれた私の寝室にガルはやってくる。
王からの命令でもなく、誰に呼ばれたわけでもなく。
扉を閉めた瞬間、ガルは私の身を抱き寄せていた。
息が詰まるほど強く、愛おしむかのように。
「……お前は、俺のものだ。そうだろう?」
低く震える声、まるで呪いであるかのように重い言葉。
指先まで力が籠もったその腕。
私は分厚い胸板に顔をうずめながら、震える声でこう告げた。
「ガルだけを、愛しているわ……」
その瞬間、ガルは私の髪を掴んで押し倒すように唇を奪っていた。
「んっ……、んんぅ……」
涙が混ざり、息が溶け、この身は燃えるような熱に支配されていく。
王よりも粗く、必死な形相をしながら、王よりも深く激しく。
昨晩の行為を全て塗りつぶすかのように、ガルは私を抱いていた。
立ち上がり、背後から貫き、それでもなおその口は愛を語ることをやめなかった。
「愛している、お前だけを……!」
私はそのすべてを受け入れ、ただひとつの真実に酔いしれた。
私の存在は、二人の愛と憎しみの中心にあるのだと。
全てを終えた後、私はガルと腕を絡めたまま王の間へと向かう。
今日もまた、三人で生き続けるために。
***
いつでもどこでも、私は王の隣にいた。
ガルと王の間に立つ私は、やがて国の象徴として扱われるようになる。
どんなに他の騎士たちが色目を使っても、私が靡くようなことは決してなかった。
――ガルとこの王だけが、いまの私のすべてなのだから。
しかしある日、その均衡は突然崩れてしまう。
いつものように王が私に口づけを落とし、腕を回したその瞬間。
ガルの剣が、王の胸を貫いていたのだから。
鮮血が噴き出し、王の表情がわずかに歪む。
「もうこれ以上、俺から奪うな……」
血に染まったガルの手は震え、その瞳は狂ったように濁っていた。
私は、静かに微笑んだ。
嬉しさと同時に、言いようのない愚かさがこの胸を支配する。
このような結末を望んでいたはずであるというのに、なぜだか涙がこぼれてしまう。
やがて王は崩れ落ち、ガルは剣を手放した。
私はそっと、その耳元で囁いた。
「私たちは、共謀したのよ。二人で陛下を殺すと、最初から決めていたのだと伝えて」
ガルは目を見開き、そして笑った。
それは絶望にも似た、安堵の笑みでもあったのだ。
その後私たちは捕らえられ、牢へと送られた。
手枷をされ薄暗い石の部屋に閉じ込めらても、私は幸せだった。
そこには、誰もいなかったのだから。
ただ、ガルと私だけがそこにはいた。
私たちは互いの身を抱き寄せ、最後の時まで深く深く愛し合う。
互いの体温が混ざり合い、その指は腕へと食い込み、唇は血を滲ませるほど重なった。
涙と笑みとが混ざり、やがて言葉は嗚咽に変わり、荒く息を吐く音だけが石の壁に響いていた。
「君だけは……離れないでくれよ?」
「ええ。最後まで、私はガルと一緒よ」
「愛している」
「知ってるわ。私も、愛している」
そして、夜明けの鐘が鳴る。
処刑の合図でもあった。
でもそれは、決して悲しい最期ではない。
ガルは私の額に、優しく口づけをしてくれた。
「俺の妻でいてくれて、ありがとう」
「あなたの妻でいられて、私は幸せよ」
手を取り合ったまま、私たちは歩いていく。
そして、同じ場所へと。
――その 愛の果ては、永遠に。
この腹部にも違和感はなく、王も存命していた。
ガルは何事もなかったのようにいつものように微笑みを浮かべて、今日も屋敷を出ていった。
時間が、巻き戻ってしまったかのようだった。
そして私は、考える。
これは、やり直す機会を与えられたのではないのかと。
確かにあの方法は、いささかやりすぎてしまったように思う。
莫大な金を消費し、そして多くの血を流した。
ため息をつきながら、窓の外を眺めた。
どうすれば、この手を穢すことなくガルの目に映り続けることができるのだろうかと。
私の夫、ガル。
王国随一の護衛騎士にして、誰よりも忠義に厚く誰よりも強い男。
朝のほんの一瞬しか、彼は私のことを見ない。
夜になれば、王の寝室の前で剣を構え続け、私の腕の中に戻ることは稀であった。
そこで私は、気が付く。
ならば王に取り入れば、私は常にその隣に立つことができるのではないのかと。
たとえそのために、この身すべてを差し出す必要があったとしても。
――私は、ガルのことだけを愛している。
王は若く勇ましく、誰もがその将来を期待するほどの才を持ち。
そして誰よりも、戦場を愛する男でもあったのだ。
私は計算し、準備を重ねて、その時を待っていた。
貴族の女としての品格も、母譲りのこの豊満な胸も、その愛を得るためならどのような手段も厭わなかった。
滅多に出向くことのない夜会に密かに足を踏み入れて、ガルの姿を目に焼き付けつつも、王の動向を探っていた。
そして、あることに気付く。
王はとても身持ちが堅かった。他の女の視線や誘いなど、いとも容易くかわしてしまう。
常にはガルをはじめとした護衛騎士が張り付き、言葉をかける隙も無いに等しい。
そこで私は考えた。
こちらから動くことができぬのなら、向こうがやってくるのを待つしかないと。
私は夜な夜な、夜会に足を運んだ。
数多のドレスを仕立て上げ、顔は常に扇で隠していた。
ガルに気づかれるようなこともなく、時折扇を外して王に熱のこもった視線をおくる。
――王を虜にさえすれば、ガルは私から目を逸らすことはできない。
その執念は、やがて実を結ぶ。
ある日王は、護衛騎士を外してただ一人で私の前へと姿を現した。
「お名前は?」
「名乗るような者では、ございません」
「そうか。夫に黙って、毎夜このような場所に足を運ぶとは……。何か事情でも?」
「いいえ。ただ、寂しいのです」
そしてついに、私の手を引いてとある小部屋へと押し込んだ。
王は私の存在を、はじめから知っていた。
護衛騎士の妻であることを。しかしそれを知っていながらも、私の身をその手に抱いていた。
ガルよりもいささか薄いその背に腕を回しながら、私は偽りの愛を語っていた。
***
その後、王は私を愛人として側に置いた。
私は堂々と、王の隣に立つことを許されたのだ。
その瞬間、この背筋を震わせた感覚を私は忘れない。
これでようやく、ガルは私を見つめ続けることしかできないのだと。
私は常に、王の隣に控えていた。
その反対側に、剣を携えて立つガルの姿があった。
王が私の腰を引き寄せ深く口づけをしたその瞬間に、ガルの瞳はかすかに揺れる。
驚き、いや。
あれは、悲しみだろうか。王に遮られて、その様子はこの目にまで届かない。
「ガル、どうした?」
王は、笑いながら言った。
「……いえ、陛下。あなたさまが望むものは全て、国の宝であります」
ガルの声は、震えてなどいなかった。
ただ少しだけ、常よりも低く沈んでいた。
そしてなおも、王の言葉は続く。
「彼女は、私の癒しとなった。お前も、喜ばしいことであろう。さすがはお前の妻だ、誇るといい」
ガルは、歪な笑みを浮かべていた。
誇らしげに、しかしどこか苦しみを抑えこむかのように
「ええ、本当に。ありがたき幸せにございます」
その笑みが、私の胸の奥に深く突き刺さる。
私は欲望にも似たその痛みに、喉を詰まらせそうになっていた。
***
王に抱かれている時、ガルはいつも私の近くにいた。
寝室の奥、薄い幕の向こうで息を殺して控えていたのだ。
王の指が私の肌をなぞり、息を奪うほど強く抱きしめるたびに、私は薄布越しにガルの影を見る。
その目には、王と私しか映っていなかった。
その瞳の鋭さに、私は思わずこの身を震わせる。
「いいのか?」
「はい、とても……」
熱く、狂おしいほどの劣情がこの胸に満ちていく。
――ガルが、私のことを見ている。私だけを、見つめている。
その視線に気づいた王は、私の耳元でこう囁いた。
「見せつけてやりたいのだろう?ガルに」
私は、静かに頷いた。
王は笑い、私の顎を掴んでこう告げた。
「良いだろう。私も、欲している。この国最強の騎士から、愛する妻を奪う快楽を」
その夜、王はいつも以上に激しく私を求めていた。
ガルにこの姿を見せつけるかのように、時には寝台を降りて背後から私はこの身を貫かれていた。
「もっと、声を出せ!」
「あっ、……ああっ!……」
何もかもを、その恥さえも捨てて私は声をあげて王の名を呼んでいた。
幕の向こうで、ガルの吐息は、低く荒く震えていた。
相変わらずその顔は表情がなかったものの、けれど腰の下のあたり、その布地の下でガルの熱は大きく張り詰めていた。
――ガルが、私のこの姿を目にして。興奮しているというの?
その事実が、私を喜ばせていた。
***
翌朝、王から宛がわれた私の寝室にガルはやってくる。
王からの命令でもなく、誰に呼ばれたわけでもなく。
扉を閉めた瞬間、ガルは私の身を抱き寄せていた。
息が詰まるほど強く、愛おしむかのように。
「……お前は、俺のものだ。そうだろう?」
低く震える声、まるで呪いであるかのように重い言葉。
指先まで力が籠もったその腕。
私は分厚い胸板に顔をうずめながら、震える声でこう告げた。
「ガルだけを、愛しているわ……」
その瞬間、ガルは私の髪を掴んで押し倒すように唇を奪っていた。
「んっ……、んんぅ……」
涙が混ざり、息が溶け、この身は燃えるような熱に支配されていく。
王よりも粗く、必死な形相をしながら、王よりも深く激しく。
昨晩の行為を全て塗りつぶすかのように、ガルは私を抱いていた。
立ち上がり、背後から貫き、それでもなおその口は愛を語ることをやめなかった。
「愛している、お前だけを……!」
私はそのすべてを受け入れ、ただひとつの真実に酔いしれた。
私の存在は、二人の愛と憎しみの中心にあるのだと。
全てを終えた後、私はガルと腕を絡めたまま王の間へと向かう。
今日もまた、三人で生き続けるために。
***
いつでもどこでも、私は王の隣にいた。
ガルと王の間に立つ私は、やがて国の象徴として扱われるようになる。
どんなに他の騎士たちが色目を使っても、私が靡くようなことは決してなかった。
――ガルとこの王だけが、いまの私のすべてなのだから。
しかしある日、その均衡は突然崩れてしまう。
いつものように王が私に口づけを落とし、腕を回したその瞬間。
ガルの剣が、王の胸を貫いていたのだから。
鮮血が噴き出し、王の表情がわずかに歪む。
「もうこれ以上、俺から奪うな……」
血に染まったガルの手は震え、その瞳は狂ったように濁っていた。
私は、静かに微笑んだ。
嬉しさと同時に、言いようのない愚かさがこの胸を支配する。
このような結末を望んでいたはずであるというのに、なぜだか涙がこぼれてしまう。
やがて王は崩れ落ち、ガルは剣を手放した。
私はそっと、その耳元で囁いた。
「私たちは、共謀したのよ。二人で陛下を殺すと、最初から決めていたのだと伝えて」
ガルは目を見開き、そして笑った。
それは絶望にも似た、安堵の笑みでもあったのだ。
その後私たちは捕らえられ、牢へと送られた。
手枷をされ薄暗い石の部屋に閉じ込めらても、私は幸せだった。
そこには、誰もいなかったのだから。
ただ、ガルと私だけがそこにはいた。
私たちは互いの身を抱き寄せ、最後の時まで深く深く愛し合う。
互いの体温が混ざり合い、その指は腕へと食い込み、唇は血を滲ませるほど重なった。
涙と笑みとが混ざり、やがて言葉は嗚咽に変わり、荒く息を吐く音だけが石の壁に響いていた。
「君だけは……離れないでくれよ?」
「ええ。最後まで、私はガルと一緒よ」
「愛している」
「知ってるわ。私も、愛している」
そして、夜明けの鐘が鳴る。
処刑の合図でもあった。
でもそれは、決して悲しい最期ではない。
ガルは私の額に、優しく口づけをしてくれた。
「俺の妻でいてくれて、ありがとう」
「あなたの妻でいられて、私は幸せよ」
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