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王を殺す道
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私は、とうとう決意した。
この手で、憎き王を殺すのだと。
そのために、私は捨て身の作戦に出ていた。
金を払い、熟練の暗殺者を雇う。
資金を用意するために、私はこの身を削っていた。
宝石を売り、継承した土地を手放し、私が持ちえるすべてを差し出した。
――ガルを、手に入れたい。
この胸に渦を巻く暗く深い渇望が、私を狂わせていた。
やがて一通の密書が届く。
『 仕事は終えた。王は息絶えた』
その瞬間。
私は静かに、唇の端をつり上げて笑っていた。
これでやっと、ガルは私だけのものになる。
だが、ガルは取り乱していた。
「王を、守りきれなかった!俺は、騎士失格だ……」
自らの両手を強く握りしめ、膝をつくほどにその声は弱々しいものでもあった。
あの強靭な男が、今は私の目の前で小さくなって震えていた。
私はそっと、ガルの身を抱きしめた。
同じように深い悲しみに暮れる振りをして、その絶望を甘く味わっていた。
「大丈夫よ……ガル。あなたは、最善を尽くしたのよ」
「俺は……、俺はっ……!」
「もう、喋らないで。私はあなたの、そばにいる……」
ガルは私の身を求めた。
荒れるように、激しく。
時には痛みさえ伴うほどに、強く私の身を抱いていた。
まるでそれしか知らないかのように、何度も腰を振ってはその種を注ぎ込む。
「ガル、我慢しないで。あなたの全てを、私にぶつけて」
自らを保つ方法がそれしかないかのように、ガルは私の乳房を握りあげて肩元を噛んでいた。
その痛みさえも、ガルの絶望に比べれば大したことはない。
私は聖母のようにガルの頭部を優しく包み込み、慈愛を含んだ口づけをその額に落とした。
ガルは唸り声をあげながら、なおも獣のように私の身を暴いていた。
――主人を亡くした、憐れなガル。その生き甲斐も、その誇りさえも失ってしまったガル。
「大丈夫よ、私はずっと……。あなたのそばに……」
私は、目に涙を浮かべながらガルの愛に応えていた。
この上ない喜びと罪悪感と快楽とが混ざり合い、この心は燃え上がるような情熱に吞まれていく。
***
やがて私は、腹部に小さな命を宿す。
ガルは私に向き直り、こう宣言した。
「これからは、この子を守る。俺の全てをかけて」
その言葉を耳にした瞬間、私は勝ったのだと確信した。
ガルがやっと、私の方だけを向いてくれていた。
王ではなく、国でもなく、忠誠でもなく。ただ私と、この腹に宿る子供だけを。
しかし幸せは、いつも長くは続かない。
新たな王が選ばれると同時に、ガルは呼び戻され、再びその剣を王に捧げたのだから。
私がどれほど願っても、どれほど求めても、ガルは王のことを優先した。
殺しても殺しても、王という存在はまるで呪であるのように立ちはだかる。
私は再び、決意した。
王を殺すだけでは足りない。
ガルを縛るものを、すべて消さなければならないのだと。
王の血筋を辿り、候補を調べ、その根を断つ。
長い年月をかけて、私は一族を皆殺しにした。
すでにこの腹部は大きくなり、私は今か今かとその日を待ちわびていた。
そして静かに、口元を緩める。
これでいい。
この世界にはもう、私のガルを奪う者はもういないのだから。
主を失ったガルは、抜け殻のようになっていた。
剣を握る手は震え、言葉は少なく、その眼差しは虚ろなものでもあった。
私はガルの隣に座り、ゆっくりとその大きな手を包む。
「もう、大丈夫。私がいるわ」
「……ああ。そうだな」
その声は、笑ってしまいそうになるほど弱々しくあった。
わずかに眉を寄せた表情は、この私だけを心の支えとしているようでもあったのだ。
私はついに、ガルの全てを手に入れることができたのだ。
***
やがて、息子が生まれた。
ガルは、その目に涙を流すほど喜んでいた。
「これが、俺の守るべきものなのだな」
かつて王に捧げていた熱情を、今度は息子に注ぎはじめる。
片時も離れようとせず、毎晩眠らずにそばで見守り、小さな体をその腕に抱きしめて。
息子が笑みを浮かべれば、ガルは心から笑い返し。息子が泣けば、全てを投げうってでも駆け寄った。
ある日私は、気づいてしまった。
――私の愛は、また奪われてしまう。
息子は、私からガルを奪った。
その小さな指が、ガルの心を掴んで離さなかった。
私は妻でありながら母でありながら、蚊帳の外へと押し出されてしまう。
夫と息子の世界に、私は入ることができなくなっていたのだ。
―― だったら、消してしまえばいい。
愛を奪うものを排除してきたように。
私の世界から、もう全てを取り除いてしまえばいいのだと。
私は、再び計画を立てる。
事故として処理をされるように。誰にも、疑われないように。
ある日、細工を施した階段から、息子は頭から落ちていった。
すぐさま広がる血の臭い、あたたかな熱が失われていくその感触。
その小さな身が静かになった瞬間、私は微笑んでいた。
そして次の瞬間、ひどく泣き崩れた。
狂ったように泣き叫び、喉が裂けるほどに嗚咽し、息子の名を呼び人目も憚らず崩れ落ちた。
ガルは私を強く抱きしめてくれた。
そして同じように、泣き叫んでいた。
「君だけは、離れないでくれよ……」
その声は、ひどく震えていた。
「……ええ、離れないわ。ガル。あなたこそ、私を離さないで」
「離すはずがない。俺にはもう、君しかいない」
初めて、ガルは私だけをその目に映してくれていた。
やっと、手に入れることができた。
欲しくてたまらなかったものを。憎むほどに、恋焦がれたものを。
世界でただひとつの、私だけのガル。
全てを壊して、全てを失って、たったひとつだけ残った宝物。
私はその厚い唇に触れて、こう囁いた。
「愛しているわ、ガル。死ぬまで、いいえ……死んでも」
「俺もだ。ずっと……、君だけだ」
その夜、私たちは悲しみに暮れながら抱き合う。
悲しみ、罪、渇望、快楽。その全てを、混ぜ合わせるかのように。
そして再び、ガルは新たな命を求めていた。
けれど私は、避妊薬を口にする。
痛みと熱に溺れながら、何度もその名を呼び合った。
息が止まるほど深く、何度も、何度も。
――世界は、これから私とガルだけのもの。
この手で、憎き王を殺すのだと。
そのために、私は捨て身の作戦に出ていた。
金を払い、熟練の暗殺者を雇う。
資金を用意するために、私はこの身を削っていた。
宝石を売り、継承した土地を手放し、私が持ちえるすべてを差し出した。
――ガルを、手に入れたい。
この胸に渦を巻く暗く深い渇望が、私を狂わせていた。
やがて一通の密書が届く。
『 仕事は終えた。王は息絶えた』
その瞬間。
私は静かに、唇の端をつり上げて笑っていた。
これでやっと、ガルは私だけのものになる。
だが、ガルは取り乱していた。
「王を、守りきれなかった!俺は、騎士失格だ……」
自らの両手を強く握りしめ、膝をつくほどにその声は弱々しいものでもあった。
あの強靭な男が、今は私の目の前で小さくなって震えていた。
私はそっと、ガルの身を抱きしめた。
同じように深い悲しみに暮れる振りをして、その絶望を甘く味わっていた。
「大丈夫よ……ガル。あなたは、最善を尽くしたのよ」
「俺は……、俺はっ……!」
「もう、喋らないで。私はあなたの、そばにいる……」
ガルは私の身を求めた。
荒れるように、激しく。
時には痛みさえ伴うほどに、強く私の身を抱いていた。
まるでそれしか知らないかのように、何度も腰を振ってはその種を注ぎ込む。
「ガル、我慢しないで。あなたの全てを、私にぶつけて」
自らを保つ方法がそれしかないかのように、ガルは私の乳房を握りあげて肩元を噛んでいた。
その痛みさえも、ガルの絶望に比べれば大したことはない。
私は聖母のようにガルの頭部を優しく包み込み、慈愛を含んだ口づけをその額に落とした。
ガルは唸り声をあげながら、なおも獣のように私の身を暴いていた。
――主人を亡くした、憐れなガル。その生き甲斐も、その誇りさえも失ってしまったガル。
「大丈夫よ、私はずっと……。あなたのそばに……」
私は、目に涙を浮かべながらガルの愛に応えていた。
この上ない喜びと罪悪感と快楽とが混ざり合い、この心は燃え上がるような情熱に吞まれていく。
***
やがて私は、腹部に小さな命を宿す。
ガルは私に向き直り、こう宣言した。
「これからは、この子を守る。俺の全てをかけて」
その言葉を耳にした瞬間、私は勝ったのだと確信した。
ガルがやっと、私の方だけを向いてくれていた。
王ではなく、国でもなく、忠誠でもなく。ただ私と、この腹に宿る子供だけを。
しかし幸せは、いつも長くは続かない。
新たな王が選ばれると同時に、ガルは呼び戻され、再びその剣を王に捧げたのだから。
私がどれほど願っても、どれほど求めても、ガルは王のことを優先した。
殺しても殺しても、王という存在はまるで呪であるのように立ちはだかる。
私は再び、決意した。
王を殺すだけでは足りない。
ガルを縛るものを、すべて消さなければならないのだと。
王の血筋を辿り、候補を調べ、その根を断つ。
長い年月をかけて、私は一族を皆殺しにした。
すでにこの腹部は大きくなり、私は今か今かとその日を待ちわびていた。
そして静かに、口元を緩める。
これでいい。
この世界にはもう、私のガルを奪う者はもういないのだから。
主を失ったガルは、抜け殻のようになっていた。
剣を握る手は震え、言葉は少なく、その眼差しは虚ろなものでもあった。
私はガルの隣に座り、ゆっくりとその大きな手を包む。
「もう、大丈夫。私がいるわ」
「……ああ。そうだな」
その声は、笑ってしまいそうになるほど弱々しくあった。
わずかに眉を寄せた表情は、この私だけを心の支えとしているようでもあったのだ。
私はついに、ガルの全てを手に入れることができたのだ。
***
やがて、息子が生まれた。
ガルは、その目に涙を流すほど喜んでいた。
「これが、俺の守るべきものなのだな」
かつて王に捧げていた熱情を、今度は息子に注ぎはじめる。
片時も離れようとせず、毎晩眠らずにそばで見守り、小さな体をその腕に抱きしめて。
息子が笑みを浮かべれば、ガルは心から笑い返し。息子が泣けば、全てを投げうってでも駆け寄った。
ある日私は、気づいてしまった。
――私の愛は、また奪われてしまう。
息子は、私からガルを奪った。
その小さな指が、ガルの心を掴んで離さなかった。
私は妻でありながら母でありながら、蚊帳の外へと押し出されてしまう。
夫と息子の世界に、私は入ることができなくなっていたのだ。
―― だったら、消してしまえばいい。
愛を奪うものを排除してきたように。
私の世界から、もう全てを取り除いてしまえばいいのだと。
私は、再び計画を立てる。
事故として処理をされるように。誰にも、疑われないように。
ある日、細工を施した階段から、息子は頭から落ちていった。
すぐさま広がる血の臭い、あたたかな熱が失われていくその感触。
その小さな身が静かになった瞬間、私は微笑んでいた。
そして次の瞬間、ひどく泣き崩れた。
狂ったように泣き叫び、喉が裂けるほどに嗚咽し、息子の名を呼び人目も憚らず崩れ落ちた。
ガルは私を強く抱きしめてくれた。
そして同じように、泣き叫んでいた。
「君だけは、離れないでくれよ……」
その声は、ひどく震えていた。
「……ええ、離れないわ。ガル。あなたこそ、私を離さないで」
「離すはずがない。俺にはもう、君しかいない」
初めて、ガルは私だけをその目に映してくれていた。
やっと、手に入れることができた。
欲しくてたまらなかったものを。憎むほどに、恋焦がれたものを。
世界でただひとつの、私だけのガル。
全てを壊して、全てを失って、たったひとつだけ残った宝物。
私はその厚い唇に触れて、こう囁いた。
「愛しているわ、ガル。死ぬまで、いいえ……死んでも」
「俺もだ。ずっと……、君だけだ」
その夜、私たちは悲しみに暮れながら抱き合う。
悲しみ、罪、渇望、快楽。その全てを、混ぜ合わせるかのように。
そして再び、ガルは新たな命を求めていた。
けれど私は、避妊薬を口にする。
痛みと熱に溺れながら、何度もその名を呼び合った。
息が止まるほど深く、何度も、何度も。
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◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
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