4 / 5
深い夜※
しおりを挟む
いつものように唇を重ねて、そっと互いの肌に触れる。
俺よりも薄いその胸元に頬を寄せれば、あたたかな温もりと確かな鼓動を感じることができた。
「アル、」
そう見上げれば、細長い指が俺の髪を撫でていく。
そのひとときが、何よりも幸せだった。
決して、忘れたわけじゃない。
決して、重ねているわけではない。そう言い聞かせても、あの落ち着いた声と穏やかな笑みがどうしようもなく恋しい時があった。
――フラン。
彼は今、どのようにして生きているのだろうか。
幸せなのだろうか、飢えてはいないだろうか。
同じ平民になったからこそ、貴族の屋敷の使用人として働くということがどれほど大変であるのかを知った。
――もしフランに再び出会うことができたのなら、真っ先に謝りたい。そして、俺は……。
「何を、考えているんだ?」
その言葉に、俺はアルの痛んだ髪を撫でかえす。
「……なにも。幸せだなって……」
誤魔化すように口づけをせがんで、アルの愛に深く溺れていく
狭い寝台ではあったけれど、かえってその窮屈さがよかった。
肌をぴったりと寄せ合って、その吐息も一つになってしまいそうなほどに近かった。
「リオ。……愛しい俺のリオ」
アルは俺の存在を確かめるかのように、ひどく丁寧にこの身を抱いた。
もどかしい愛撫、焦らすような口づけ。その全てが初々しくて、我慢がきかなくて。
はしたないとは思いながらも、俺はアルの熱に手を添えてこう伝えていた。
「欲しいんだ、アルの全てが……」
アルは嬉しそうに笑って、この額に口づけをした。
「わかったよ」
いっそう強く抱きしめられて、求めていたものが与えられる。
「俺も、幸せだ……。リオ、っ……」
熱い吐息に混ざって、その幸せが素肌へと落ちる。
アルの滾る熱をこの身に感じながら、俺もまた多くの幸せを感じていた。
快楽の波に呑まれながら、それでもアルは決して俺の手を離しはしなかった。絡みつく指はそのままに、時折激しい口づけを交わして。
気づけば俺は、両の目から涙を流していた。
頬を伝う涙を舐め取って、アルは穏やかに微笑んでいた。
その笑みは、俺が一番好きなものだった。
幸せに満ち溢れた、優しい微笑み。
――心から愛する人ができたのだと、伝えたい。
そのようなことを思いながら、俺はアルの身に強くしがみついていた。
アルもまた熱い息を吐きながら、熱の全てを出し切った。
***
愛を確かめ合ったあと、決まって俺はアルの身を強く抱きしめて眠りについた。
初めは苦しいと言っていたけれど、今となっては、アルは諦めたかのように力なく腕を広げていた。
もう二度と、この温もりを手放したくはない。
そのように願いながら、俺は静かに胸元に唇を寄せた。
俺よりも薄いその胸元に頬を寄せれば、あたたかな温もりと確かな鼓動を感じることができた。
「アル、」
そう見上げれば、細長い指が俺の髪を撫でていく。
そのひとときが、何よりも幸せだった。
決して、忘れたわけじゃない。
決して、重ねているわけではない。そう言い聞かせても、あの落ち着いた声と穏やかな笑みがどうしようもなく恋しい時があった。
――フラン。
彼は今、どのようにして生きているのだろうか。
幸せなのだろうか、飢えてはいないだろうか。
同じ平民になったからこそ、貴族の屋敷の使用人として働くということがどれほど大変であるのかを知った。
――もしフランに再び出会うことができたのなら、真っ先に謝りたい。そして、俺は……。
「何を、考えているんだ?」
その言葉に、俺はアルの痛んだ髪を撫でかえす。
「……なにも。幸せだなって……」
誤魔化すように口づけをせがんで、アルの愛に深く溺れていく
狭い寝台ではあったけれど、かえってその窮屈さがよかった。
肌をぴったりと寄せ合って、その吐息も一つになってしまいそうなほどに近かった。
「リオ。……愛しい俺のリオ」
アルは俺の存在を確かめるかのように、ひどく丁寧にこの身を抱いた。
もどかしい愛撫、焦らすような口づけ。その全てが初々しくて、我慢がきかなくて。
はしたないとは思いながらも、俺はアルの熱に手を添えてこう伝えていた。
「欲しいんだ、アルの全てが……」
アルは嬉しそうに笑って、この額に口づけをした。
「わかったよ」
いっそう強く抱きしめられて、求めていたものが与えられる。
「俺も、幸せだ……。リオ、っ……」
熱い吐息に混ざって、その幸せが素肌へと落ちる。
アルの滾る熱をこの身に感じながら、俺もまた多くの幸せを感じていた。
快楽の波に呑まれながら、それでもアルは決して俺の手を離しはしなかった。絡みつく指はそのままに、時折激しい口づけを交わして。
気づけば俺は、両の目から涙を流していた。
頬を伝う涙を舐め取って、アルは穏やかに微笑んでいた。
その笑みは、俺が一番好きなものだった。
幸せに満ち溢れた、優しい微笑み。
――心から愛する人ができたのだと、伝えたい。
そのようなことを思いながら、俺はアルの身に強くしがみついていた。
アルもまた熱い息を吐きながら、熱の全てを出し切った。
***
愛を確かめ合ったあと、決まって俺はアルの身を強く抱きしめて眠りについた。
初めは苦しいと言っていたけれど、今となっては、アルは諦めたかのように力なく腕を広げていた。
もう二度と、この温もりを手放したくはない。
そのように願いながら、俺は静かに胸元に唇を寄せた。
36
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。
オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。
ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?!
主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
泥酔している間に愛人契約されていたんだが
暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。
黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。
かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。
だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。
元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。
交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる