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乙女ゲームの転生者
乙女ゲームの転生者(2)―ウリエルside―
「それで、お話とは?」
「シナリオのことよ。どうせあんたも転生者でしょ」
「はい?」
はい、と肯定したように聞こえただろうか。ウリエルは慌てて言葉を続けた。
「いえ、あの、……てんせいしゃ、とは何でしょうか?
その前の、しなりお、というのも、思い当たる節はありませんが……」
「とぼけないで」
令嬢は冗談を言っている顔ではなく、ウリエルに詰め寄る。
「第二王子から婚約破棄されたんだから、あんたが第二王子ルートの悪役令息であることは確かなのよね。
でも、あんたはシナリオ通りに動いてない。
あんた、ゲームのシナリオを知ってて、断罪を回避しようとしてるんでしょ?」
……ダメだ。何を言っているのか全く理解できない。兄上、助けて。
「あの、すみません、私の理解が及ばない話のようです。
まず、『げーむのしなりお』というのが何なのかをお聞きしても?
その前の『第二王子るーと』についてもお願いします」
「しらばっくれてるの?」
「しらば……」
ウリエルは気持ちを落ち着かせるために深呼吸してから、令嬢に向き直った。
「――ブロフト男爵令嬢、どうか私の話を聞いてください。
自身の無知をさらすようで恥ずかしいのですが、先ほどから男爵令嬢が使っておられる言葉は、私には耳慣れないもので、戸惑っております。お互いの理解に大きな隔たりがあるようなので、まずは言葉の意味を教えていただけないでしょうか?
公爵家の人間として、うかつなことは言えませんから、内容を理解できないまま会話を続けるのは危険と判断しました。どうぞご承知おきください」
できるだけ率直な言葉を心がけながら、誠意を込めて言った。
すると、それまで眉をひそめていた男爵令嬢が、急にうろたえるような様子を見せて、おかしなことを聞いてきた。
――いや、令嬢は最初からずっと、おかしいのだけれど。
「あんた、『聖女転生~乙女と魅惑のアンサンブル~』って聞いたことある?」
「は……?」
「聖女転生。知らない?」
令嬢が返事を待っているので、何か言わなくてはと思って、頭をひねる。
(せいじょてんせい――。『聖女』と『転生』か……?)
これはおそらく、神殿の話だろう。
「聖女というのは、女神さまのことですよね。女神信仰は国教ですから、もちろん知っています。
しかし、女神が転生なさるといった言い伝えは聞いたことがありません。
王立図書館に行けば、神殿にまつわる古い書物も保管されていますから、もし閲覧をご希望でしたら、エセルバート殿下にご相談してみてはいかがでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて!」
令嬢が大きな声を出したので、開けたままの扉の向こうから、護衛がひょこっと姿を見せた。
ウリエルの護衛はガイルが務めてくれているが、彼も昼食をとる必要があるので、代わりに、学園が雇っている中年の男性が立っている。
ウリエルは、何でもない、と男に手を振って見せる。
護衛が扉の向こうに姿を消すのを待って、令嬢が、ぼそぼそと会話を続けた。
「……じゃあ、『BLUE ROSEの幻想』は? こっちは知ってるでしょ? 『聖転』の姉妹作で、『ブルーローズ』はBLゲームなの。攻略対象者たちは聖転と一緒で、ヒロインが男の子に、悪役令嬢が悪役令息に変わってる。悪役令息ウリエルが出るのも、こっちね」
「せいてん……びーえるげーむ……?」
ウリエルが目を白黒させて固まっていると、真剣な顔でウリエルの目をのぞき込んでいた令嬢が、
「うわ、マジで知らないか~……」
と絶望的な声を出した。
令嬢は頭を抱える仕草をするが、ウリエルの方こそ頭を抱えたい。
いったい何がどうしたというのだろう。
「――ごめん、わかった。あんたが嘘ついてるようには見えないから、信じる。あんたは転生者じゃないし、シナリオを変えるために動いていたわけじゃない。だよね?」
令嬢は勝手に何ごとか納得して、うんうんとうなずいている。
「あの、少なくとも私は、女神の転生などという国の大事とは無関係だと思います。多分……きっと……」
おそらく、そのはずだ。
どうしよう、ちょっといま、自分の中の常識が揺らいでいる。
万が一、女神の転生と自分が関係していたら、学園を中退して神殿に入らなければならないのだろうか。
一度神殿に入ったら、貴族の身分を失い、家族と手紙のやり取りをすることも制限される。
そんなの嫌だ。きっとルシフェルも悲しむだろう。
「うん、了解。ごめんね、いろいろ変なこと聞いて」
「いいえ。納得していただけたのなら、よいのです……」
いいのか?
やっぱりウリエルは、よくわからない。いや本当に、何がどうなった?
「シナリオのことよ。どうせあんたも転生者でしょ」
「はい?」
はい、と肯定したように聞こえただろうか。ウリエルは慌てて言葉を続けた。
「いえ、あの、……てんせいしゃ、とは何でしょうか?
その前の、しなりお、というのも、思い当たる節はありませんが……」
「とぼけないで」
令嬢は冗談を言っている顔ではなく、ウリエルに詰め寄る。
「第二王子から婚約破棄されたんだから、あんたが第二王子ルートの悪役令息であることは確かなのよね。
でも、あんたはシナリオ通りに動いてない。
あんた、ゲームのシナリオを知ってて、断罪を回避しようとしてるんでしょ?」
……ダメだ。何を言っているのか全く理解できない。兄上、助けて。
「あの、すみません、私の理解が及ばない話のようです。
まず、『げーむのしなりお』というのが何なのかをお聞きしても?
その前の『第二王子るーと』についてもお願いします」
「しらばっくれてるの?」
「しらば……」
ウリエルは気持ちを落ち着かせるために深呼吸してから、令嬢に向き直った。
「――ブロフト男爵令嬢、どうか私の話を聞いてください。
自身の無知をさらすようで恥ずかしいのですが、先ほどから男爵令嬢が使っておられる言葉は、私には耳慣れないもので、戸惑っております。お互いの理解に大きな隔たりがあるようなので、まずは言葉の意味を教えていただけないでしょうか?
公爵家の人間として、うかつなことは言えませんから、内容を理解できないまま会話を続けるのは危険と判断しました。どうぞご承知おきください」
できるだけ率直な言葉を心がけながら、誠意を込めて言った。
すると、それまで眉をひそめていた男爵令嬢が、急にうろたえるような様子を見せて、おかしなことを聞いてきた。
――いや、令嬢は最初からずっと、おかしいのだけれど。
「あんた、『聖女転生~乙女と魅惑のアンサンブル~』って聞いたことある?」
「は……?」
「聖女転生。知らない?」
令嬢が返事を待っているので、何か言わなくてはと思って、頭をひねる。
(せいじょてんせい――。『聖女』と『転生』か……?)
これはおそらく、神殿の話だろう。
「聖女というのは、女神さまのことですよね。女神信仰は国教ですから、もちろん知っています。
しかし、女神が転生なさるといった言い伝えは聞いたことがありません。
王立図書館に行けば、神殿にまつわる古い書物も保管されていますから、もし閲覧をご希望でしたら、エセルバート殿下にご相談してみてはいかがでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて!」
令嬢が大きな声を出したので、開けたままの扉の向こうから、護衛がひょこっと姿を見せた。
ウリエルの護衛はガイルが務めてくれているが、彼も昼食をとる必要があるので、代わりに、学園が雇っている中年の男性が立っている。
ウリエルは、何でもない、と男に手を振って見せる。
護衛が扉の向こうに姿を消すのを待って、令嬢が、ぼそぼそと会話を続けた。
「……じゃあ、『BLUE ROSEの幻想』は? こっちは知ってるでしょ? 『聖転』の姉妹作で、『ブルーローズ』はBLゲームなの。攻略対象者たちは聖転と一緒で、ヒロインが男の子に、悪役令嬢が悪役令息に変わってる。悪役令息ウリエルが出るのも、こっちね」
「せいてん……びーえるげーむ……?」
ウリエルが目を白黒させて固まっていると、真剣な顔でウリエルの目をのぞき込んでいた令嬢が、
「うわ、マジで知らないか~……」
と絶望的な声を出した。
令嬢は頭を抱える仕草をするが、ウリエルの方こそ頭を抱えたい。
いったい何がどうしたというのだろう。
「――ごめん、わかった。あんたが嘘ついてるようには見えないから、信じる。あんたは転生者じゃないし、シナリオを変えるために動いていたわけじゃない。だよね?」
令嬢は勝手に何ごとか納得して、うんうんとうなずいている。
「あの、少なくとも私は、女神の転生などという国の大事とは無関係だと思います。多分……きっと……」
おそらく、そのはずだ。
どうしよう、ちょっといま、自分の中の常識が揺らいでいる。
万が一、女神の転生と自分が関係していたら、学園を中退して神殿に入らなければならないのだろうか。
一度神殿に入ったら、貴族の身分を失い、家族と手紙のやり取りをすることも制限される。
そんなの嫌だ。きっとルシフェルも悲しむだろう。
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やっぱりウリエルは、よくわからない。いや本当に、何がどうなった?
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