婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空

文字の大きさ
7 / 21

第7話 2人きりのティータイム

 目の前に置かれるのは、とても上質な紅茶です。バラノン家に居た頃も、それなりに上等な紅茶を飲んでいましたが……そのさらに上を行きます。さすが、王家と言った所でしょうか。

「ユリナ様」

「あ、あの、レオルド様」

「どうされましたか?」

「その、私のことはそんな風に『様』付けする必要はありませんよ?」

「ですが、偉大なる聖女さまですから……」

「かもしれませんが、まだなったばかりですし、元は伯爵令嬢でしたから、どうしても目上の方にそんな風に接してもらうのは……」

 私がおずおずとしながら申し上げると、

「……では、2人きりの時は、ユリナと呼んでも良いかな?」

「へっ?」

「ダメかな?」

 スッと、手の甲に触れられて、ドキリとしてしまいます。ああ、ダメよ、私。殿方に対して免疫が無いからって、そんな生娘みたいな反応を……

「そ、それでお願いします」

「ありがとう、ユリナ」

 その爽やかな風が吹き抜けるような微笑みに、私は軽くノックダウンされそうになりました。イケメンとは、げに恐ろしき生き物です。でも、同じイケメンでもブリックス様に対しては、こんな風にトキめいたことがありません。まあ、レオルド様の方が、ブリックス様の100倍はイケメンな訳ですけど。ていうか、私ってば、イケメン、イケメンって言い過ぎでわ……

「ユリナ」

「あ、はい」

「休日は何をしているんだい?」

「え、えっと……聖女になる前は、あまり休みらしい休みが無くて。ずっと、家の仕事をしていました」

「そうか……やはり、苦労して来たんだね」

 きゅっ、と今度は両手で私の手を包んでくれる。非常にありがたく有頂天になりそうなのだけど、私の心臓が持ちそうにないから、少し手加減をしていただきたい。

「そ、そうですね」

「でもそのおかげで、君はこんなにも聡明で、美しい」

「う、美しいって……地味な女ですわ」

「そんなことはないよ」

 頬に手を添えられて、くいと顔を向けられる。間近でレオルド様の顔を見た。心拍数が急上昇してしまいます。

「レ、レオルド様……」

「あまり化粧をせずにこの美しさなら、きちんと化粧を覚えればもっと素晴らしい美女になるだろうね」

「そ、そんなことは……」

「ああ、でも、それだと困るな」

「こ、困る? 誰がですか?」

「僕がだよ、ユリナ」

「レ、レオルド様が? なぜですか?」

 きゅっ、とまた手を握られる。

「まだ会ったばかりで、こんなことを言ったら軽薄な男と思われてしまうかもしれないけど……僕はもう、君に夢中のようだ」

 開いた口が塞がらなかった。

「そ、それは……」

「もちろん、今すぐに返事をしてくれとは言わない。ただ、これだけは分かって欲しい。僕は君が聖女だからではなく、君が君だからひとめぼれしたんだ……ユリナ」

 もう、限界だった。すぐ目の前で、甘く良い香りがずっと私の鼻腔をくすぐるから。

「レ、レオルド様。その、恥ずかしながら、私は今まで殿方と接した経験に乏しくて……」

「そうなのかい? けど、婚約者はいたんだろう?」

「はい。ですが、彼も私のことを女ではなく、使える駒くらいにしか思っていなかったでしょうし」

 その頃のことを思い出して、少し苦い笑みを浮かべてしまう。すると、レオルド様の手がそっと優しく私の頭に置かれた。

「君のそんな顔は見たくない」

「レ、レオルド様」

「約束する。僕なら、きっとずっと、君を笑顔にして見せる」

「で、ですが、あなたは王太子で……」

「さっきの言葉と矛盾するかもしれないけど、君が聖女になってくれたおかげで、君と結婚できるかもしれない。父上も母上も、君が相手なら大歓迎さ」

 もはや、私の矮小な度量では受け止めきれない。既にパニック状態に陥っていた。レオルド様もそれを察してくれたのか、

「名残惜しいが、今日の所はこれくらいにしておこう」

 レオルド様は私から手を話し、淡く微笑んで下さいます。

「ユリナ、お互いに忙しい身だけど、また時間を作って会ってくれないか?」

「あ、はい……とは言っても、恥ずかしながら、私の仕事は基本的に1日3回のお祈りだけですから……給料泥棒でごめんなさい」

「あはは、そんなことないよ……じゃあ、思ったよりもたくさん、会えそうだね」

 耳元で囁かれて、魂が抜けそうになった。くらっと倒れそうになった私を支えながら、レオルド様は立ち上がる。

「すまない、聖女さまを送ってあげてくれ」

「かしこまりました」

 命じられた使者の方が、私のそばに寄ります。

「聖女さま、参りましょう」

 私は無言のまま頷くと、チラとレオルド様を見た。

 彼もまた無言のまま、けど暖かな微笑みを浮かべて下さいます。

 そして、口パクの動きで『また会おう』と伝えて下さいます。

 もちろん、とても嬉しいのですが、やはり私のキャパオーバーなので、恥ずかし過ぎて顔を背けてしまいました。
感想 10

あなたにおすすめの小説

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」  第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。 「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」 「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」 「そうですわ、お姉様」  王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。 「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」  私だけが知っている妹の秘密。  それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。