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名刺代わりの挨拶

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 立派な馬車に揺られながらデカイ装飾門をくぐると、夕闇の中ポツポツと明かりのついた、レンガの建物が多数散見される。

 所々からいい匂いがしているのは、きっと夕飯時だからだろう。

 そのせいか、俺もなんだか腹減ってきた。

「杉尾、ちょっと当初の予定と変わる行動になるけどいい?」
「勿論。なんてったって俺のワガママでユキ助けたから予定変わっちまったしな」

 当初の予定は初日に上手い店で飯食って、翌日からアイテム生成販売等々って流れだったんだよね。

 俺は馬車に揺られながら、そんな事を考える。

「ということで、衛兵さん、【トイズドデリッシュ】までお願いします!」
「ああ、あの三ツ星の魚料理専門店ね! 了解!」

(お、いちお予定通り最初に食事はとるってことか? まあ、俺もそっちのがいいけどね)

 ということで、俺達は馬車から降り、衛兵さんにお礼を言い、トイズドデリッシュの中に入っていく。

 ちなみにドアの上の看板は、木彫りのデカイサーモンの形にトイズドデリッシュという文字が彫られたオシャレ仕様だった。

 うん、これは看板からして期待出来そうだ。

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男エンジョイ5】777スキルの運がアップ』

 俺の気持ちを代弁するように、見事にスキルが上がる。

(てか、いつの間にか運の効果が上がってるな。もしかして此処に来れたのも……?)

 とか、色々考察していく俺。

「お、レノアさんいらっしゃいませ!」

 白コック帽に調理服を着た、割とガタイの良いヒゲのオヤジさんがレノアを見るなり挨拶してくる。

 まあ、いきつけらしいしな。

 中を見ると、半分くらい席が埋まっている。

(高級料理屋だし、丁度店が開いたばっかだしね)

 上を見ると硝子のシャンデリアが明々と輝いており、店の中は木造りの壁に丸台テーブル、その壁には額縁に入った洒落た絵画が数点まばらに飾られている。

「こんばんわオヤジさん。2階の個室空いてる?」
「……ああ、なるほど。空いてますのでご案内しますよ。ささ、私についてきてください」

 俺の抱いているユキを見ても、いやな顔一つしない。

(店長もいい人だし、いいお店だな) 

 という事で、俺らは2階の個室に案内される。

 何でも2階は顔見知りしか案内しないらしく、今日は運よく誰もいなかった。

 お陰でユキの鳴き声を気にしなくて良くなったのは幸いだが。

「では、オヤジさんいつものフルコースを!」
「かしこまりました!」 

 しばらくして、俺達の目の前の丸テーブルの上には色んな魚料理が運ばれてくる。

 ちょっとしたサーモンなどの切れ端が乗った、シーフードサラダ。

 ぷりぷりとした小エビの食感が楽しめる、ホワイトシチュー。

 それらによく合う、サクサクのクロワッサン。

 ほんのり上品な甘みを感じる、白身魚のキッシュ等々……。

「うん! こりゃ上手い!」
「でしょ!」
「ウォン!」

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男エンジョイ6】777スキルの運がアップ』

 俺達は魚に合う美味しい白ワインを飲みながら、楽しい時間を過ごしていく。

 そして、デザートのリンゴシャーベットを美味しく平らげたところ……。

 皿を回収しに来た親父さんに話しかけるレノア。

「あの、親父さん、商売での相談なんだけど、いい?」 
「え? どんなです?」

「魚を沢山持って来たんだ! 新鮮じゃなくて申し訳ないけど、氷漬けにはしてるから痛まないとは思う」
「ほほう! 例のところに置いてたりします?」

「そ! エグゼニに見張らせている」
「ほお、それじゃかなりの量ですね!」

「うん! オヤジさんなら知り合い多いし、さばけるかなと。ああ、勿論例のサーモンも持って来たから!」
「おお! そいつは有難い。じゃ、明日加工していただけると!」

「勿論!」
「じゃ、その時にギルド長直伝の魚料理のレシピとかも教えていただけたら……」

 なるほど、予定通り此処に来たのは魚とレシピを売るためでもあったわけか……。

 流石レノア商魂たくましい……。

(ん? 魚料理のレシピ? そうか……!)

 俺はリュックに入っているあるものを確認し、1人ほくそ笑む。

 その後最寄りの宿屋に泊まり、翌日の早朝……。

 俺達は街外のドラゴン専用の停留所にまた来ていた。

「はい! じゃ、こっちの魚はワラン亭に全部売りましたと!」
「しゃ!」

 俺達はトイズドデリッシュのオヤジさんを通して、色んなお店の人達に魚を売りまくっていた。 

「今日は色んな魚ありがとな!」
「こちらこそありがとうございました!」

 俺はこの時、久しく使っていないスキル【チャラ男スマイル2】を使い、商売相手を笑顔にしていた。

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スマイルレベル3】にアップ! 会話相手を明るくし、警戒心を解く』

 お陰で俺達は、色んなお店と繋がりを持つ事が出来た。

(しかし成程、流石はレノア、金額じゃなくてまずは顔売りからとは……)

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男知識レベル6 金儲けの知恵アップ』

(ほんと、勉強になる)

「流石は7魔将を討伐した冒険者! 材料の仕入れ量も一流だな!」
「あ、ありがとうございます!」

 俺達は上機嫌のお店の連中に頭を下げる。

 お陰でこちらは、沢山のコネクションを持つ事が出来た。

 そして俺はこのレジェンドSSのペンダントを与えてくれたギルド長に深く感謝した。

 まさかこんな所でも、名を売る材料になるなんて……。

 大した名刺代わりだよホント……。

 こうして、残りは全てエザーネスダークサーモンだけになったので、お店の皆さんは各自魚を荷台や馬車などに積んで帰って行く。

 残っているのは俺達とトイズドデリッシュのオヤジさんとその従業員数人だ。

「……じゃ、エザーネスダークサーモンの毒抜き始めましょっか!」
「おう!」

 俺達は親父さんが持ってきてくれた巨大な木桶の中にエザーネスダークサーモンを入るだけぶち込んでいく!

 その後、レノアは素早く呪文を唱え、光の精霊を召喚し、ぼんやりと光を放つ光の精霊が巨大桶の真上に姿を表す。

「光の精霊よ! 浄化の光を!」

 ふよふよと浮かぶ精霊はレノアの声に応え、不思議な光を放っていく!

「なるほど、精霊魔法で解毒するわけか」
「そ! という事で終ったやつからら運んでいってね!」

「了解っ!」
「ウォン!」

 こうして俺達は解毒されたエザーネスダークサーモンを次々とお店に運んでいく。

 あと、ふと思ったのが俺のこのチャラ男スキル、5以上になると上がりにくくなるものがあるっぽいなと……。
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