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健全黒字経営目指します!
そんなフラグが立つとは
しおりを挟む第27話 そんなフラグが立つとは
「ま、待て、無理をするな。私はお前の敵じゃない。」
俺は首だけを捻り声の主の方へ振り返った。
「………。」
「………。」
「ーーーんぎゃあああああ!!」
それはあまりに衝撃的すぎて、動かなかった筈の体が飛び跳ねる。それは、
「ふ、覆面んんんん、覆面強盗おおおおお!!!!!!」
「な、何?!強盗?!野盗に追われてるのか?!」
声の主がズサッと腰から剣を抜き、俺が叫びながら指刺した方を振り返った。
「出てこいっ!!隠れても無駄だっ!!神の目が悪き魂を暴くぞ!!!!」
敵を威圧する声がビリビリと森に響く!
響く!
響いた。
響いてました…。
シーン。
「………。」
「………?」
シーン。
「………。」
「………狼藉者よ、いないのか?」
シーン。
バサバサ。ピョロロー。
静かな森で可愛い小鳥さんがお空を飛んでいきました。ふふっ、あれは焼いたら美味しいでしょうかね…。などと、脳内で現実逃避した俺が供述しており…、
声の主がゆっくりとこちらを振り返る。
「…覆面の野盗は、一体どこにいるんだろうか?」
「いや!アンタだよ!!どーみても覆面はアンタだろうが!!!!」
うっかりツッコんでしまったが、声の主は俗に言う目出し帽、よく強盗なんかが被ってる目と口に穴があいた黒の覆面を被ったヤツだった。お前だよ!覆面は!
「わ、私が野盗だと?!どう見ても神官兵だが?!…ほら、この胸当てに神殿の刻印があるだろう?ここだ、ここ。さあ、よく見るんだ。」
ツッコミが納得出来なかったらしい覆面が手に剣をしたまま、こちらにズンズン近寄ってくる。
ちょ!覆面怖い!剣持って近寄んな!!いや、ちょ、マジ怖いから!!ちょっとこの覆面、なんか別の意味で怖い!!!!
「ヒィィィ!!」
逃げるにも足腰が立たなくズサササっとケツで必死に後退るが、すぐ足を掴まれ捕まってしまう。
覆面がズンと足の横、その距離僅か10センチに剣を突き刺す。
「~~~ッ!!」
タマヒュン的な恐怖もここまでくるともう声にならない。
ヤバい、さっきまでの生き死にの方のヤバいじゃない。アレも勿論ガチのヤバいだが、こっちは心的ガチヤバい。
訳の分からない恐怖に真っ白になった俺は、抵抗も何もできないまま覆面の腿を背当てに股の間に座らされた。よく怪我人が助け起こされるシチュエーションで見るあのスタイルである。
「落ち着いてよく見なさい。私は由緒正しき神官兵だ。野盗ではない。」
見上げた先にあるのは、覆面から覗く弧を描いた口元。つまり、いま覆面は笑顔。
「~~~?!」
イヤああああ!!わかったあああ!!
これホラー映画の『ヤバい』だよぉぉぉ!!!!
ストーカー殺人鬼なパニックホラーの方ぅぅぅ!!!!
何、俺、いつの間にホラー映画に異世界転生してたのーーー?!?!
「ほら、胸にシンの刻印があるだろう。」
至近距離で胸当ての刻印が見えるようにと、肩をむんずと掴んでコレでもかって言うくらい覆面の胸元へ引き寄せられる。
「ハイ、アリマス…。」
涙目になりながら首を必死に縦に振る。
下手に抵抗するモブは瞬殺だ。
覆面は肩を掴んだ手を緩めてポンポンと叩く。口元には笑みが浮かんでいる。どうやら回答に満足したようだ。
肯定の回答は瞬殺回避の正答だった。ホラーフラグ、マジやめて。俺の心臓、ホラーには耐えられないから!!
「わかったようで良かった。大丈夫だ、神殿は弱き者に手を差し伸べる。君は私が守ろう。決してひとりにしないと誓おう。」
ガチでストーカー殺人鬼みたいな事を言い始めた。今、覆面が語るのは身を守る誓いの筈なのに、何故か身の危険の恐怖しかわかない…。
「…アリガトウゴザイマス…。」
「ところで、何故君は森の中を逃げていたのか?先程懸命に走る姿を見かけてからしばらく後を追わせてもらったのだが、何かに追われているのか?その背嚢からしてシーカーのようだが…。」
後を追わせて…、えっ、この覆面いつから後ろにいたの?!マジもんのストーカー殺人鬼なの?!
ーーーじゃなくて!!これは助けを求める時だ!!
「すいません!いま、緊急事態なんです!!俺の護衛してる人が赤足熊と戦ってるんです!!俺、その人に逃げろって言われて、何かあったら落ち合う場所に向かってたんです!!でも、途中で道を間違えて!!俺、どうしたら?!レオさんが熊にやられたら?!」
「落ち着いて、大丈夫だ。ほら、ゆっくり息を。」
覆面がゆっくり肩を撫ぜる。
「君は森で魔獣に遭遇し、護衛が魔獣と戦う為に君を逃した。君は集合場所を目指したが迷ってしまった。」
覆面が自ら呼吸をゆっくりするよう語りかけ確認する。
俺は頷く。
「では、君が私に望む行動はどちらだ?」
ひと呼吸おき、覆面から出された選択肢。
「ひとつはその集合場所を探す事。もうひとつは私が護衛の助太刀をする事。ちなみに私は上級神官兵だから腕に覚えがあるし、神の目(※神殿独自の感知スキル)で目印の魔力残滓があれば場所もその護衛も探せる。どちらを選んでも私には問題はない。」
…悩まない!一択だ!
「レオさんを助けてください!!あの人、さっき別の魔獣を倒したばかりで、多分魔力が少なくなってるんです!!お願いします!!」
「その望み、承った。」
覆面は十字をきるように人差し指と中指を俺の額から胸に、そして自分の額と胸にトントンとふれた。
こっちのアーメン的なものなのかな?
なんだか神父さんみたいだ。完全に怪しい覆面だけどな。
覆面に(必要ないのに)支えられて立ち上がる。
さっき転んでついた土もささっと払われた。
なんだろうなコレ。気遣いと言うか…介護されてる気分…。やはりまだホラーフラグは立ちっぱなしなんだろうか…。どうしよう…。
「では行こうか。君、護衛の魔力がわかる物は持っているか?そうだな…、ああ、護衛契約の命環でもいい。あれは魔力は使わないが、魔力の型を記憶する性質があるから手っ取り早い。」
魔力は使わないが、魔力の型は記憶…??
全然意味わからんな…。でも、命環が役に立つんなら出し惜しみせず出す!
「…あります。この2つとも、同じ人との契約の命環です。」
チャリっと服からネックレスを引き出す。命環をネックレスから外そうと留金に手を伸ばしたが、覆面は大丈夫だと言うふうに外そうとした手を押さえる。
「このままで。一度、"復唱"を発動してくれ。」
「復唱…。ええと、復唱ね…。」
復唱を発動…って、なんだ…????もしかして魔法か????
「"契"の"復唱"に何か罰則でもあるのか?あまり聞かない取り決めだが、難しいなら"復唱"はしなくてもいい。」
あ、あれかー!あのリング持って契って言うヤツか!オーケーオーケー、大丈夫、いける!
「いえ、ちょっと考え事してしまって…、すいません。いますぐ"復唱"しますね。…契。」
頭の中にレオさんの契の文言が流れてくる。ん、これは最初のだ。10万トニーの罰金のヤツ。
覆面は目を見開いて俺(の持ってるリング)を凝視する。正直、覆面の人が凝視ってヤバい。ちょう怖い。
俺はそっと覆面から目を逸らした…。
「…よし、見えた。」
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