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健全黒字経営目指します!

ソイツは類友

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第28話 ソイツは類友



ーーー時は少しだけ遡る。

「…行ったな。」

 森へ向かって走り出したコウの背中が見えなくなると、レオナルドはさてと言いながら首をゴキリと鳴らした。

「まさか熊公のヤロウ、親子連れなんてなぁ。斡旋所のヤツ、聴き取りが甘えんだよ。帰ったら文句言わねえとな。」

 ひとりごちて、巣場鳥すばどり(※オレンジ鳥)が騒いでいるほうへと走り出す。
 活きがいいまま穴に落として狩るには少々あの穴は定員オーバーだ。ましてや子熊の屍をみて激昂すれば手が付けられない。
 走りながら頭の中で何パターンか親の赤足あかあしを弱らせる筋道を組み立てる。しかし、どれもいまいち決め手にかけた。

「クソったれ、得物がナイフだけじゃキツイぜ。」

  土魔法は計画的に迎え撃つには最高の魔法だが、攻めるには地の性質上瞬間的な火力不足が響きどうしても精彩を欠く。なので多くの土魔法使いは武器など他の攻撃手段を併せ持つ。
 レオナルドも例に漏れず、土魔法はあくまでも補助に構え、主力は大型の戦鎚ウォーハンマーにしていた。

「ロックスの最高硬度で脚を縫い付けるか。せめて動きを止めねえと。あんまり無駄打ちしたくねえんだよ、畜生め。」

 体に巡る魔力にまだ余裕はあるが、エクスケイブなど威力がある大規模魔法はあと二、三発が限度だった。

グオオオオンン!!!!

 そうこう思考している内、とうとう赤足あかあし熊の見える場所まで辿り着く。

「…あー、予想外にデカいな。何食ったらそんなデカくなるだ、クソが。」

 赤足あかあし熊はレオナルドの予想より大分大型だった。親子だからこの赤足あかあし熊は雌の個体の筈だが、雄並みの体格で4フィラ(※こちらでのメートル)はあった。
 その体で動き回り巣場すば鳥の巣がある木でも折ったのだろう。巣を荒らされ怒り狂った巣場すば鳥が赤足あかあし熊に群がっていた。赤足あかあし熊は振り払おうと手を振ったり、地響きを上げながら転がったりしている。

「ま、チャンスっちゃ、チャンスだな。」

 レオナルドは先程まで思案していた攻撃ありきの討伐方法から一気に方針を変えた。
 
 討伐ではなく捕獲だ。
 
 大型すぎてほぼ丸腰のレオナルドの手に余ると判断した。
 赤足あかあし熊が巣場すば鳥に集中している今、赤足あかあし熊毎エクスケイブで深く登れない深度まで沈め、あえてその後は放置する。後はそのまま弱らせればいい。
 このエクスケイブで魔力が尽きかける可能性はあるが、正面からぶつかり疲弊の末の魔力切れより遥かにいいだろう。

 レオナルドは物陰潜みタイミングを伺う。
 赤足あかあし熊が二足で立ち上がった時がベストだ。

「おら、巣場すば鳥ちゃん、いい仕事しろよ。」

 巣場すば鳥は集団と言う数の暴力を用いて、降下、上昇を繰り返し獲物を追詰める。大体の獣は上昇する時にその塊を散らそうと、何らかのアクションを起こす。熊型なら立ち上がりそれを追う。
 長年、熊狩りをたしなんでいるレオナルドはそのタイミングを狙った。

ギャー!ギャー!ギャー!
グオオオオーーーッ!!


 ーーー来た、今だ!!

「エクスケ、「爆炎ッッッ!!!!」…は?」


ズドオオオオオン!!!!


 突然の爆発が目の前の熊を襲い、レオナルドは慌てて地に伏せた。体の上をゴウッと爆風が吹き抜ける。

「うぁッアチいいぃぃッッッ!!!!」

 吹き抜けた高熱の風にたまらず服を叩く。さいわいにして服に火は着いてはいなかったが、服から露出した部分の肌はピリピリとひりついた。

「よおおし、熊焼き一丁あがりっとな!」

 呑気な声が正面から聞こえ、そちらへ顔上げると『』が居た。

「てめぇ…。なんで剣聖サマがこんなトコで熊焼いてんだよ。」

「あん?随分なご挨拶じゃねえかよ、レオナルドさんよぉ。オメエが熊狩りにピクニックしてるって言うから、このエイトール様が冷やかしに来てやったんだよ。」

 まるでその辺に呑みに来たと言った軽装で、バスターソードで自ら肩を叩く男はエイトール。しかしその体はその辺の酔っぱらいオヤジではなく、レオナルドとまではいかないが傭兵然とした厳ついものだ。
 そう彼、エイトールは強力な火魔法使いでありながら類稀たぐいまれな剣技で戦場を総舐めするマーシナリーで、巷ではその剣の強さから剣聖と言う二つ名で通っている強者つわものである。
 …だがその素性は剣『聖』なんてものではなく、限りなくゴロツキ寄りのろくでなしであり、レオナルドの既知の悪友であった。

「…はあ、お前いつから居たんだ?」

「オメエがかわい子ちゃんと涙の別れをした時。」

「くっそ、かなり前から見てたんじゃねえか。声くらいかけろよ。」

 相変わらずクズ野郎だ。

 レオナルドは膝についた土を払って立ち上がる。エイトールも肩に担いだバスターソードを腰に戻して、レオナルドに寄ってきた。

「なあ、あのかわい子ちゃんはオメエの何よ?新しい?」

 近づいてきたエイトールは手で如何わしい輪っかをつくり、いやらしい顔全開でニヤニヤする。   
 レオナルドはエイトールのまさに酒場にいる碌でもないゴロツキと言った風情に呆れ、その手をやめろと首を手で切る仕草をする。

「アホか、アイツは新しい穴じゃねえ。俺の契約主だ。」

「…へえ、オメエの雇い主かよ。あんなお坊ちゃんシーカーみたいなヤツの依頼、よく受けたなぁ。アソコの具合がそんな良かったのか?」

「お前、ほんとクズだよな。いちいちシモの話しねえと死ぬ病気なのか?」

「やれる穴があるなら死ぬ前にやらなきゃ勿体ねえだろうが。」

 本当にクズ野郎である。こんなのが剣聖呼ばわりなんて世も末だ。

「ほんとクズだ、お前は。アイツはそんなんじゃねえんだよ。…まあ、いい。俺はそろそろコウを回収しに行かなきゃならねえ。…ああ、その丸焦げの熊公の手柄はお前にやるよ。じゃあ、また酒場でな。」

 くるりと踵を返し、コウと落ち合う場所へ…、

 しかし、エイトールはレオナルドの肩をガッチリ掴み、歩を止めさせた。

「おいおい待てよ、レオナルド。オレもコウちゃんとお話ししてえから一緒に行くぜ。あと、オレの下僕も回収しなきゃなんねえんだわ。仲良くツレションしながら行こうぜ。」

 迂闊。コウの名前出しちまった。しかし、こいつ今下僕と言ったか?

「お前とツレションなんてするかよ。つーか、下僕ってなんだ?お前、誰かと組むなんて小難しい事できたか?」

 エイトールは暴慢ぼうまんたち故に誰かと組む事はまずない。むしろ、その苛烈な在り方に頼んだ側が逃げ出すのだ。
 一応レオナルドとはウマがあうようなのだが、あくまでも酒ありきの悪友の話で、戦場や何かしらの現場でかち合っても共闘する事はない。

「ああん?下僕だっつーてんだろ、げーぼーく。この前クソ皇子からかいに城に遊びに行ったら、教会のお偉方に捕まってよぉ。しこまた金積まれてな、無理矢理お荷物ヤロウを押し付けられちまった。んでな、預かったのはいいが、そいつやたらうざくてよぉ。めんどくせえから今は下僕でこき使ってる。」

 エイトールはそう言ってゲラゲラ笑う。

「あのアホ皇子だって一応皇族なんだぞ?からかいにわざわざ城に行くな、バカ。…なんだ、神官の護衛か。お前、依頼なんだからちゃんと面倒みてやれよ。」

 仕事くらいきちんとこなせ、クズ。

「いンだよ、アレは。それに護衛依頼じゃないんだぜ?なんと行儀見習いだ。」

「お前に行儀見習いって…、ねえわ。世も末だ。」

「違ぇねえ。ま、しばらく遊んでやったら教会に返品すっから、世の中平和で神サマだって問題ねえだろうよ。」

 レオナルドはやれやれと呆れながら歩きだす。エイトールも未だゲラゲラ笑いながらだが隣りを歩きだした。

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