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第1章
24話、領主の帰宅
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ヴィルが来ない。昼時であるにもかかわらず。あんなに毎日来ていた彼が?
(まさか途中で事故にでもあったのかしら…。それとも怪我でもして動けない状態だとか…。)
そう思ってはじっとして居られなかった。私は身一つで屋敷を飛び出ようとした。
「お待ち下さい、お嬢様。」
「コレッタ…。」
私の正面にコレッタが立ち塞がった。
「ねぇ、コレッタ。ヴィルとロブは今日どうしたの?何か聞いてないかしら?」
そう聞くとコレッタは胸に手を当て腰を低くした。
「お嬢様には申し遅れましたが、彼らは急用との事で今日は休まれました。」
「事故とか怪我とかではなくて?」
コレッタはハイと頷いた。
(良かった…。彼等が無事ならいつでも会えるんですもの。)
その時、帰宅を告げるベルが鳴った。
「お兄様かしら?でもこんな昼時に…。」
「お嬢様、旦那様でございます。」
お父様?領地の仕事も王宮に持って行くあの父が?ひどい時は三ヶ月ほど家を開けることもあるのだ。しかも昼時とは珍しい。何事かと、父の出迎えに玄関ホールの方に赴いた。
「おかえりなさいませ、お父様。」
両手でスカートの裾をつまみ、腰を曲げ頭を深々と下げた。
いつもより丁寧な作法をとるが、父はそんな私を一瞥するとさっさと書斎に足を向けた。
「いつもながらお嬢様に不遜な態度。旦那様とて許せません。一度シバきましょうか?」
コレッタは平然とこんなことを言ってのける。冗談でも打ち首ごとだ。
「コレッタ、気にしないで。」
「しかし、」
「それにお父様に危害を加えて貴女と離れ離れになるのはとても悲しいですわ。」
「そ、そうですか…。」
軽く顔を伏せる彼女は照れているのだろうか。そうであったら嬉しい。
コレッタは基本無表情だが、ふとした時に変わる表情がとても美しい。
最初こそ彼女の淡々とした口調などには、自分は好かれて居ないのかもしれないと不安になった時もあったが、コレッタはこれが通常通りで、気にしても仕方がないのだ。そう言う面ではヴィルと少し似ているかもしれない。
でも最初よりかは打ち解けた気がする。コレッタの表情は前より豊かになった気がするのだ。
「お嬢様、いつまでそこに立っているおつもりですか?お部屋にお戻り下さい。」
「ええ、そうね。ねぇ、コレッタ。後から私の刺繍を手伝ってくれない?」
「ご命令とあれば。」
「命令じゃないわ。お願いよ。そうね、刺繍というのは建前なの。久しぶりに2人だから少し貴女の時間が欲しくて…ダメ…かしら?」
「いいえ、勿体ないお言葉です。」
コレッタがふっと微笑んだ。
やっぱり綺麗。
コレッタは後からお部屋に伺うのでと私を部屋に返した。
暫く部屋でコレッタを待っていると、また帰宅を告げるベルが鳴る。本当に今日は何事なのだろうか?
「シルフィ!!!」
玄関から聞こえる大きな声にびっくりする。兄である。
出迎えるまでもなく、足音が近づいて来たかと思えば、扉が勢いよく開かれた。
「無事か…。」
肩で息をする兄は私の顔を見ると地面に片膝をついた。
「そんなに慌ててどうかなさったのですか??」
「父が、、戻って来たのだろう??俺の友人が王宮から出る父を見かけたと言っていてな。飛び出して来た次第だ。」
「それに何か問題が?」
「大有りだ!!だってこんな時期に、昼間に戻って用があるとしたらシルにじゃないか!!大方婚約のことか、社交界のことに違いない!」
社交界、もうそんな時期…。 嫌だわ…。
「シルのエスコートをするのは俺だ!」
兄は堂々と宣言して拳を高く天井に突き上げた。
なんて兄だ…。そんなことでまた仕事を投げてくるなんて…。
いえ、私も嬉しいのだけれど。これとそれとは別のような…。
「お兄様、もしかしたら忘れ物を取りに来ただけかもしれませんよ。」
「それは無い。それならもうとっくに家を出ているだろうさ。」
「お嬢様、旦那様が書斎にお呼びです。」
気付けばコレッタが開け放たれた扉の前に立って居た。
「だから言っただろ!用があるのはお前だと!」
兄は私の肩を揺さぶる。首がもげるのでそろそろやめて欲しいのですが…。
それより、コレッタとの約束はお預けか…。
私は一つため息をついてコレッタを見つめた。
「お嬢様。私の時間はいくらでも差し上げますよ。」
その色よい返事が何より嬉しい。私は頬を緩ませる。
「ええ、ありがと。じゃあ行ってくるわね。」
「シル!お兄ちゃんもついていく!」
言っても聞かなそうな兄を後ろにつけて私は父の待つ書斎へ向かった。
(まさか途中で事故にでもあったのかしら…。それとも怪我でもして動けない状態だとか…。)
そう思ってはじっとして居られなかった。私は身一つで屋敷を飛び出ようとした。
「お待ち下さい、お嬢様。」
「コレッタ…。」
私の正面にコレッタが立ち塞がった。
「ねぇ、コレッタ。ヴィルとロブは今日どうしたの?何か聞いてないかしら?」
そう聞くとコレッタは胸に手を当て腰を低くした。
「お嬢様には申し遅れましたが、彼らは急用との事で今日は休まれました。」
「事故とか怪我とかではなくて?」
コレッタはハイと頷いた。
(良かった…。彼等が無事ならいつでも会えるんですもの。)
その時、帰宅を告げるベルが鳴った。
「お兄様かしら?でもこんな昼時に…。」
「お嬢様、旦那様でございます。」
お父様?領地の仕事も王宮に持って行くあの父が?ひどい時は三ヶ月ほど家を開けることもあるのだ。しかも昼時とは珍しい。何事かと、父の出迎えに玄関ホールの方に赴いた。
「おかえりなさいませ、お父様。」
両手でスカートの裾をつまみ、腰を曲げ頭を深々と下げた。
いつもより丁寧な作法をとるが、父はそんな私を一瞥するとさっさと書斎に足を向けた。
「いつもながらお嬢様に不遜な態度。旦那様とて許せません。一度シバきましょうか?」
コレッタは平然とこんなことを言ってのける。冗談でも打ち首ごとだ。
「コレッタ、気にしないで。」
「しかし、」
「それにお父様に危害を加えて貴女と離れ離れになるのはとても悲しいですわ。」
「そ、そうですか…。」
軽く顔を伏せる彼女は照れているのだろうか。そうであったら嬉しい。
コレッタは基本無表情だが、ふとした時に変わる表情がとても美しい。
最初こそ彼女の淡々とした口調などには、自分は好かれて居ないのかもしれないと不安になった時もあったが、コレッタはこれが通常通りで、気にしても仕方がないのだ。そう言う面ではヴィルと少し似ているかもしれない。
でも最初よりかは打ち解けた気がする。コレッタの表情は前より豊かになった気がするのだ。
「お嬢様、いつまでそこに立っているおつもりですか?お部屋にお戻り下さい。」
「ええ、そうね。ねぇ、コレッタ。後から私の刺繍を手伝ってくれない?」
「ご命令とあれば。」
「命令じゃないわ。お願いよ。そうね、刺繍というのは建前なの。久しぶりに2人だから少し貴女の時間が欲しくて…ダメ…かしら?」
「いいえ、勿体ないお言葉です。」
コレッタがふっと微笑んだ。
やっぱり綺麗。
コレッタは後からお部屋に伺うのでと私を部屋に返した。
暫く部屋でコレッタを待っていると、また帰宅を告げるベルが鳴る。本当に今日は何事なのだろうか?
「シルフィ!!!」
玄関から聞こえる大きな声にびっくりする。兄である。
出迎えるまでもなく、足音が近づいて来たかと思えば、扉が勢いよく開かれた。
「無事か…。」
肩で息をする兄は私の顔を見ると地面に片膝をついた。
「そんなに慌ててどうかなさったのですか??」
「父が、、戻って来たのだろう??俺の友人が王宮から出る父を見かけたと言っていてな。飛び出して来た次第だ。」
「それに何か問題が?」
「大有りだ!!だってこんな時期に、昼間に戻って用があるとしたらシルにじゃないか!!大方婚約のことか、社交界のことに違いない!」
社交界、もうそんな時期…。 嫌だわ…。
「シルのエスコートをするのは俺だ!」
兄は堂々と宣言して拳を高く天井に突き上げた。
なんて兄だ…。そんなことでまた仕事を投げてくるなんて…。
いえ、私も嬉しいのだけれど。これとそれとは別のような…。
「お兄様、もしかしたら忘れ物を取りに来ただけかもしれませんよ。」
「それは無い。それならもうとっくに家を出ているだろうさ。」
「お嬢様、旦那様が書斎にお呼びです。」
気付けばコレッタが開け放たれた扉の前に立って居た。
「だから言っただろ!用があるのはお前だと!」
兄は私の肩を揺さぶる。首がもげるのでそろそろやめて欲しいのですが…。
それより、コレッタとの約束はお預けか…。
私は一つため息をついてコレッタを見つめた。
「お嬢様。私の時間はいくらでも差し上げますよ。」
その色よい返事が何より嬉しい。私は頬を緩ませる。
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