本屋の賢者は、星の唄で眠りにつきたい

蒼乃ロゼ

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第十八話 居場所【アルバス】

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「……」
「なんですかぁ~その顔~?」
「……はぁ」

 アルバスは、普段よりも更に『知りたい』欲求が強いらしい男を煩わしく思う。

「いいんですかぁ? 大事な人間、取られてしまいますよ~?」
「……雛は巣に帰らずとも、親鳥を見間違えることはあるまい」
「へー。やっさしー」
「我に人の言う『愛』とやらは分からん。人間にはそれに多くの形があると言うが……。ともかく、人間を救うのもまた……人間なのだ」

 人間とは違い、何かに属することを必ずしも必要としないアルバスには、どちらでもよかった。
 その名が何であれ、共に在ることこそが重要だった。

(あれが、一人で震えてさえいなければ……人間として生きていると実感できるのであれば、それでよい)

「物分かりよすぎですって~。あなたって、ほーんと魔族ってより天使サマみたいですよねぇ」
「天族だろうが魔族だろうが……まして人間ですら異なる者共ばかり。お前の方がよく知っているだろう。あれだけ魔法書を記しているのだから」
「たしかに! いや~今度は創作始めちゃおうかな~♪ 前世では結ばれなかった人間と、百年後再び出会って恋に落ちる魔族の物語!! ……売れそうかも!?」
「騒がしい……」
「もーー。さっさと『他』を知り終えたら、『自分』を知りたいと思うのに……。ほーんと、見てておもしろいんですよね~!」

 ラミロは言葉とは裏腹に満足していた。
 その欲求が途切れることのないこの世界に。

「それより、用意しておけ」
「やだっ、魔族使い荒いんですから~。……まぁ、お金はたんまりあるんで大丈夫ですよっ。ちょーっと別名義でやってる副業が、最近人間の間でトレンドなんですよね~♪ あ、アルバスもオーナーに使ってあげたらどうです? 乱れたオーナーの姿っ、きっとお可愛らしい──あいだぁ!!??」

 聞き苦しい言葉を遮るように、アルバスはラミロの頭に拳を振り下ろした。

「ひっどおおい。ジョーダンなのにぃ、も~~。まぁ、一つ知れたからいっか。アルバスはむっつりさん、と。メモメモ」
「はぁ」

 アルバスはこの頼りにもなり煩わしくもある同族の男を、未だ推し量れないでいた。

「……我が名は、ルネと共に。だが、この道を生きることはあれを守らん」
「まぁねぇ」

 魔法はルネを救わなかった。
 懇願され授けたそれは、更にルネから人間としての尊厳を奪うだけだった。

 だが、大切なものが魔法のままだったら……少なくともルネは見る力を失わずに済んだ。
 アルバスは、その歩む速度の違う人間の心が分かっていなかった。

 ──その時は……命の次に、お前にとって大切なものを貰い受ける

 言葉にはできなかった真意。
 ルネに伝わることは、きっとこの先ないだろう。

「後悔しているんですか~?」
「……」

 大切なもの魔法を奪う代わりに、一人の人間と一人の魔族。
 また再び始めようと思ったのではないか?

 魔法はルネを救わない。
 だが、魔法を持ったことで出会えたものもあっただろう。
 それがシェイドという存在だった。
 人間として必要とされる存在であると、他人の中に輝かしい自分を見付けた。

 初めてルネと出会った時に見た、自分の中に魔法を求める眼差し。
 強く自分を求めるそれは、何かと思い違いを引き起こさせるほど情熱的なものだった。
 もう、見えない。
 魔法がなくとも、それが自分に与えられたのかどうか。

「永遠に変わらぬものなど、ありはしないのだ」

 それがどれだけ緩やかであるか否かだ。
 忘れる前に言葉で確かめ合い、そうして確かめたものを体現する。
 だから人間は誰かと共に生き、死の間際までそうで在りたいと願うのだ。

 自分の種族を理解しているというのに、自分はその中で思うように生きられない。
 それはアルバスにも覚えのある感覚であった。
 しかし、どこか居場所を求めて彷徨う自分とは反対に、初めて見た人間の幼子は自分の名を冠する道を歩もうと決意を秘めていた。

「同じ時は歩めずとも……。その時まで共に在れば、この名が朽ちることはない」

 少し虚しいくらいがちょうどよい。
 どうせいつかは訪れる、悲しみの時に向けて。
 大切に見守っていた存在が飛び立つのは、成長を伴うからだ。
 アルバスはそれが素直に嬉しかった。

「も~~人間も魔族も難儀な生き物~~」
「それが面白いのであろう?」
「そーなんですよねー!」
「奇特な者だ……」
「『人間は最も献身的で、最も罪深い種族』……、うーん。ちょっと時代に合わせて変えた方がいいかなぁ」

 そしてラミロもそうであった。

 我欲に従い生きる魔族の中にあって、魔族の中で生きるというのはどうにも息苦しさを感じていた。
 見たい、知りたい、聞きたい。
 他を知るために生まれたラミロは、その姿を変え、あらゆる種族の中を渡り歩く者であった。

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