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8.剣聖
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「あ」
白銀の長い髪が印象的な、良い奴代表。
「ーーっグレイヴァーン! 遅いぞ!」
「あぁ? お前が森へ行けって言うからそっちに回ってただけだろうが」
そして始まる、……仲間割れ?
「ギルドで魔女のやつを追っていったと聞いて来てみれば」
やれやれといった様子でグレイヴァーンがウェイダーに鋭い視線を向ける。
「だ、黙れ!」
「良く私がハヤト様と一緒に居ると分かったわね?」
「とぼけんなよ、お前わざとだろ」
「さあ? どうかしら」
やはり知り合いなんだろう。
気さくなやり取りが出来る間柄のように見える。
「んで? 何で魔女と戦う必要があるんだ? ハヤトに城へ一緒に来るよう言えばいいだけだろ?」
「え、俺城に行くの?」
てっきり見世物小屋に連行されるのかと。
「ハヤト様を利用して何をするのかしらねぇ」
「知らねぇ。でも、まぁ。一応オレも、今回まではパーティーメンバーだからなぁ」
ものすごく不本意そうな顔をするグレイヴァーン。
エルフのイメージからは想像できないくらい、表情豊かだ。
「ふーーーーん。貴方の事情なんて知らないけど」
「ここで反故にすると家に迷惑かけるからな。……ってことで、魔女。今回は見逃せ?」
「お断りですわ」
「グレイヴァーン! 分かってるだろうがーー」
「分かってるさ。オレ達が用があるのは、ハヤトだけだ」
「一体俺なにされるんだ……」
「何を企んでるのかは知らないけれど、やましい事が無いのなら私も一緒に招待してみなさいな?」
「正直オレも知らんから、それで良いんだがな」
「ダメだ! そこの男だけ連れて行かねば意味がない!」
「誰が画策してるかは知らないけど、大方……ハヤト様を魔族に仕立てあげ、襲われたように見せ掛けて倒すことで大義名分を得ようとしているんでしょう? ……魔族領への侵攻を」
「はぁ!? ……本当なのか、ウェイダー?」
「……っ、俺は知らん!」
何だそれ!?
俺は魔族ではないって、カイナって人に確認済みだろ?
てかやっぱり最初から殺すつもりなんじゃないか! 本当に勇者なのか!?
「お、俺は! ただ……魔力が異常に優れている者を見付けたら、連れて来いと言われただけだ!」
元々そう言ってきた奴が居て、たまたま俺がタイミングよく転生してきたってことか?
「はぁ……、庇いきれねぇ」
「だったら、引きなさいよ」
「あーー、それとこれとは話がちげぇ。俺がハヤトを殺させないから、とりあえず今回は引け? な?」
「いやよ、あんたが実家から怒られれば済む話でしょ」
「いや、まぁ。それはそうだが……、まだあっちに帰りたくねぇんだ」
「もう! めんどうな男ね」
何だか複雑そうなグレイヴァーン。同情はするが、俺だってまだ死にたくない!
理由もなく殺されてたまるか。
「とにかく、ハヤトを連れて行けばこのパーティーの任務は完了。オレも晴れて気ままなソロに戻れる。城のやつがオレに手出ししてくると思うか?」
「あんたも信用ならないってのよ、この戦闘狂」
俺の知らないところでどんどん話が……。
というかエルフで戦闘狂なのか?
本当、イメージ覆してくるなぁ。
「どうしても引かねぇなら……、やるか?」
「あら、やれるもんなら」
「はっ。大した自信だ。おい、お前ら、手出すなよ!」
特級クラスの闘いに手を出す者などおらず、異議のある者は居ないようだ。
「いくぜ?」
「後悔させてあげるわ」
五人に見守られながら、特級クラスの闘いが始まったーー。
◆
「互角……!」
ルルは先程の要領で、間合いを詰められたら一瞬で土の壁を隆起させ、また相手に距離をとらせる。
その隙に氷、火、風。はたまた水の魔法を駆使して、反撃した。
一方グレイヴァーンは普段腰に提げている割と大きめの剣を、重さを感じさせないくらいに易々と操ってみせた。
ルルが攻撃の手を緩める一瞬をついて間合いを詰め、攻撃の魔法が飛んでくる前に本体を叩こうとする。
俺たち見守り隊はといえば、手を出すどころかその速さにすら目がついていけるかも怪しい。
じっとその行方を追うことに専念していた。
「そろそろアレ、使えば?」
「お前の天敵だろ? --どうなっても知らねぇぞ」
中々決着のつかない闘いは、ルルの一言で転機を迎えようとした。
「アレ……?」
全く想像もつかないが、何かのスキルか?
さっきの対四人に対してはそもそもの実力が違いすぎて、スキルの一端もみれなかったが……。
「後悔すんなよな!」
グレイヴァーンが叫ぶと同時に、また謎の弾かれた音が聞こえた。
さっきから何なんだ!?
「魔を断つ者、ねぇ。良く表してるわ」
「終わりだぜ? 魔女」
何となくだが、剣先に魔力が集中しているのかそこにエネルギーが集まっているのが分かる。
自分の魔力を認識したことで、他人の魔力にも感じやすくなったのか……?
「ちっ」
一瞬思考に沈んだ隙に、ルルが押されている。
壁を展開したはずが、グレイヴァーンがそれをも斬ってみせた。
剣の達人、だけで済ますにはそれはもうスムーズに斬れた。
まるで、豆腐に包丁を通すくらい。
体勢を立て直すため、一旦大きく跳躍する。
仕切り直しだ。
「……を、……ろ」
ん?
何やら話し合う声が聞こえる。
「そ……、……!」
「……しか、……だ」
「…………よ」
闘いに集中している二人には、聞こえていない。
なんだか、不穏だ。
「お前、腕落ちたかぁ? もっと楽しませろ!」
「あーーら、どの口が言うのかしら? そっくりそのまま、お返しするわ!」
闘いはヒートアップしている。というか、素人目線だと決着がつく気配がない。
多分、グレイヴァーンは闘い自体を楽しんでいる。
だが、どことなく胸騒ぎがする。
最近の俺の勘は当たりすぎるので、気のせいであって欲しいが。
その願いも虚しく、俺はあることに気付く。
「----!? ルル!!」
「……!」
叫ばずにはいられない。
二人の周辺には、先程よりも広範囲で更に多くの土の塊が浮遊していた。
だけならいいが、すでに岩は発射され、グレイヴァーンにあたらない様ルルが回避した場所には勇者が剣を振りかざして待っていた。
「死ね! グリモワ!」
「魔女!」
勇者の存在を確認した瞬間、俺はすでに駆けだしていた。
だが、どう考えてもその距離まで間に合わない。
庇うことすら、許されない。
俺は、また後悔するのか?
世話になった者に守らせ、その上見殺しにするのか?
体は勝手に動いてはくれたが、今度は間に合わない。
その時。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
何かが俺を、そのまま行けと突き動かした。
「何だ!?」
ルルを突き飛ばす形で庇う。
と同時に振り下ろされた剣を、ーーグレイヴァーンが頭に到達する前に自身の剣をぶん投げ軌道を変えてくれた。
迫りくる衝撃に目をぎゅっと瞑っていたが、それは阻止される。
「間に、合った……? てか、助かった?」
「お、お前! あの距離をどうやって……!」
「自分に強化魔法を掛けたのか……? いや、それにしても速いが」
グレイヴァーンが近づきながら、不思議そうに俺を凝視する。
「ハヤト様、さすがですわ!」
そしてルルはなんだか嬉しそうだ。何で?
「くそ! お前、なんなんだ!? 本当に魔族じゃないのか!?」
「え? そちらのお仲間さんがヒトだって言っただろ? 仲間も信じれないのかあんた?」
「ーー! く、くく。……ちげぇねぇ!」
堪え切れないと言わんばかりに、グレイヴァーンが笑っている。
もう俺には何がなんだか……。
「もういい、止めだ止め! オレは抜けるぜ? 親父の書簡ももう届いてる頃だろうし、お前のS級なんざオレは知らねぇ!」
「う、裏切るのか!?」
「お前の勝手な理想に付き合ってられるか。周りを巻き込むのもいい加減にしろよ」
笑ったかと思えば、ドスの効いた声でウェイダーを退ける。
美形でイケボだなんて、完璧だな。
「それに、手出すなって言ったの聞こえなかったか? オレは、仲間を信じないような奴に付き合う義理はねぇよ」
「! くそっ、ーーもういい! 行くぞ!」
グレイヴァーンに見事に論破されたウェイダーは、逃げていく。それを追う仲間の皆さん。
あぁ、勇者とは。
「ハヤト様、実戦でいきなりスキルを使えるなんて素晴らしいですわ!」
「あ、やっぱりスキルかな。さっきは必死であんまり分かってないんだけど」
「ーーお前さ」
「ん?」
いつになく真剣にグレイヴァーンが見てくる。
そんなにスキルが不思議なのか?
「何でさっき、体が動いたんだ?」
「え? 普通だろ」
「普通か? 仮に全然庇える距離でも、お前まだ戦えないんだろ? ……死が怖くないのか?」
ああ、そういう事か。
「いや怖いよ? ……怖いけどさ。目の前で自分のために闘ってくれた人が、傷付くのを黙ってみてられないよ」
「そうか」
な、なんだ。
常に戦いに身を置いている人だと、考えが違うのか?
急に考え込んだグレイヴァーン。
「ハヤト様、私、感動いたしましたわ! 魔力だけでなく、お心まで素晴らしいのですね」
「そ、そうかな。俺は……、後悔したくないだけだよ」
「後悔……か」
俺が言葉を紡ぐ度、黙って考え込む。
何か、気に障ることでも言ったんだろうか。
「……決めた」
「なにを?」
「あんた、まさか」
「ーーお前こそ、真の剣だ」
「え、弓ですけど……」
「いや、こっちの話だ」
「はあああぁ!? ふざけんじゃないわよ、あんたとだけは組むの絶対いや!」
「ん? どういうこと?」
「オレが、お前に着いて行く、ってことだ」
ドウイウコト?
「オレは魔を断つ者、グレイヴァーン・エル・ドゥ・エクセリオン。クラスは剣聖。グレイでいいぜ」
「はぁ~~? あんたがエクセリオン、ですって? エルフも人材不足で大変ねぇ」
「その口、二度と開かねぇようにしてやろうか?」
「ちょっ、二人とも落ち着けって! 俺だけ話についていけてない!」
何で急に俺なんかに着いてくるって言いだしたんだ?
「あーー、あれだ。オレは強いやつが好きなんだ。気にしないでくれ」
「はい?」
「もーーさいあくですわ」
「ちなみに俺のクラススキル、『マジック・ブレイク』は武器に込めた魔力をもって魔法を断つスキル。そこの魔女には特に効くから、煩わしくなったらオレに言ってくれ」
「なんですってーー!?」
「はぁ」
何か、一気に賑やかになったな。
「あんた、ソロ専門でしょ? 割り込まないでくれる?」
「そういうお前もだろ」
「あーーあーー! えっと、グレイ? 種族はエルフでおっけー?」
一応確認だけしておかないと。
「ああ、出身はエルダスクなんだ。あっちはグランアルバより多くの種族が暮らしてるからな」
「へぇ、いつか行ってみたいな」
「そん時は案内するぜ?」
「わ、私だって行った事ありますわ!」
「張り合わなくていいから……」
何を言っても着いてきそうだし、こうなれば腹を括るか。
「えっと、グレイヴァ……グレイは、何を見て俺が強いって言うのか分からないけど。まぁ、とにかく一緒に来てくれるなら心強いよ。よろしくな」
「ああ、クラスの力も楽しみだ」
「ちょっと、ハヤト様を戦闘狂に巻き込まないでよね」
あぁ、もしかしてさっきのクラススキルに興味が湧いたとかか?
複合クラスなんて滅多に居ないらしいし、そりゃ戦いが好きなら見てみたいよな。
まぁ、今のところ超速く移動できるだけなんだけど。
「それより色々、悪かったな。オレはオレの事情であいつらに付き合ってたんだが、ここまで馬鹿だとは思ってなかった」
「本当、あんたの教育が足りないんじゃなくって?」
「元々四人で上手くやってたみたいだが……な。権力ってものが絡みだすと、ヒトは良く分からんな」
「何か俺を魔族に仕立て上げて、みたいなこと言ってたけど、あれはどういうこと?」
「ああ。……この国には、四つの大貴族が後ろ盾をする騎士団がそれぞれあってな。もちろんアルバ・ダスクには参加するんだが、その時に自分の騎士団から称号持ちが現れると王の覚えもめでたい。おまけに民からの評判も上がる。他の貴族を出し抜けるんだろうが、最近の戦はほとんど冒険者の功績により勝利しているんだ」
「つまり、騎士団から功労者を出せないと考えた貴族が、今度は冒険者を子飼いにしだしたと?」
「さすがですわ、その通りです」
「そういうしがらみがイヤで、騎士団よりも冒険者を選んだ奴も多いだろうに。金か他の報酬に目がくらんでってのが良くあるパターンだな。んで、勇者であるウェイダーを引き込もうとしたが、特級クラスにしては実力が足りない。元々貴族には魔族を毛嫌いしてるやつも居るから、手っ取り早くウェイダーにヒトを襲った魔族を討ったと偽の功績を作って、祭り上げたかったんだろ。自分の陣営にさえ居れば何とでもなるからな」
じゃぁ、あの勇者は依頼が達成できなくてお金に困っていたのか……?
それはちょっと同情するな。
「まぁ、結果的に適性ランクに戻れるからあいつらも良かっただろ」
「バカは放っておきましょ。さ、ハヤト様の初依頼、遅くなりましたけど再開いたしましょうか」
「あ、そういえばそうだったな。すっかり忘れてたよ」
衝撃が大きすぎて、今回の目的を忘れてしまうところだった。
「なにやってたんだ?」
「ベリーエンテの素材を納品だったな。羽根が綺麗なんだろ?」
「ええ、食べた実の種類によって個体で色が違いますの」
あれかな、ブルーベリー的なのだと青とか黒で、イチゴ的なやつだと赤いのかな。
「サワベリーは青や緑に近い色ですので、そういう羽根が落ちていれば近くに居るはずですけれど……。騒ぎ過ぎたかしら?」
ベリーっぽくない色だな。
というか、さっきから一羽も鳥らしきものは飛んでない。
「もう少し別の場所を探してみましょうか」
「それもそうだな、グレイはどうする? 冒険者デビューの任務だから、手は出せないと思うけど」
「いいぜ、付き合う。他の魔物がいたらオレがやるよ」
「おお、それは心強いな」
「わ、私だって……!」
だから張り合わなくて良いってば。
白銀の長い髪が印象的な、良い奴代表。
「ーーっグレイヴァーン! 遅いぞ!」
「あぁ? お前が森へ行けって言うからそっちに回ってただけだろうが」
そして始まる、……仲間割れ?
「ギルドで魔女のやつを追っていったと聞いて来てみれば」
やれやれといった様子でグレイヴァーンがウェイダーに鋭い視線を向ける。
「だ、黙れ!」
「良く私がハヤト様と一緒に居ると分かったわね?」
「とぼけんなよ、お前わざとだろ」
「さあ? どうかしら」
やはり知り合いなんだろう。
気さくなやり取りが出来る間柄のように見える。
「んで? 何で魔女と戦う必要があるんだ? ハヤトに城へ一緒に来るよう言えばいいだけだろ?」
「え、俺城に行くの?」
てっきり見世物小屋に連行されるのかと。
「ハヤト様を利用して何をするのかしらねぇ」
「知らねぇ。でも、まぁ。一応オレも、今回まではパーティーメンバーだからなぁ」
ものすごく不本意そうな顔をするグレイヴァーン。
エルフのイメージからは想像できないくらい、表情豊かだ。
「ふーーーーん。貴方の事情なんて知らないけど」
「ここで反故にすると家に迷惑かけるからな。……ってことで、魔女。今回は見逃せ?」
「お断りですわ」
「グレイヴァーン! 分かってるだろうがーー」
「分かってるさ。オレ達が用があるのは、ハヤトだけだ」
「一体俺なにされるんだ……」
「何を企んでるのかは知らないけれど、やましい事が無いのなら私も一緒に招待してみなさいな?」
「正直オレも知らんから、それで良いんだがな」
「ダメだ! そこの男だけ連れて行かねば意味がない!」
「誰が画策してるかは知らないけど、大方……ハヤト様を魔族に仕立てあげ、襲われたように見せ掛けて倒すことで大義名分を得ようとしているんでしょう? ……魔族領への侵攻を」
「はぁ!? ……本当なのか、ウェイダー?」
「……っ、俺は知らん!」
何だそれ!?
俺は魔族ではないって、カイナって人に確認済みだろ?
てかやっぱり最初から殺すつもりなんじゃないか! 本当に勇者なのか!?
「お、俺は! ただ……魔力が異常に優れている者を見付けたら、連れて来いと言われただけだ!」
元々そう言ってきた奴が居て、たまたま俺がタイミングよく転生してきたってことか?
「はぁ……、庇いきれねぇ」
「だったら、引きなさいよ」
「あーー、それとこれとは話がちげぇ。俺がハヤトを殺させないから、とりあえず今回は引け? な?」
「いやよ、あんたが実家から怒られれば済む話でしょ」
「いや、まぁ。それはそうだが……、まだあっちに帰りたくねぇんだ」
「もう! めんどうな男ね」
何だか複雑そうなグレイヴァーン。同情はするが、俺だってまだ死にたくない!
理由もなく殺されてたまるか。
「とにかく、ハヤトを連れて行けばこのパーティーの任務は完了。オレも晴れて気ままなソロに戻れる。城のやつがオレに手出ししてくると思うか?」
「あんたも信用ならないってのよ、この戦闘狂」
俺の知らないところでどんどん話が……。
というかエルフで戦闘狂なのか?
本当、イメージ覆してくるなぁ。
「どうしても引かねぇなら……、やるか?」
「あら、やれるもんなら」
「はっ。大した自信だ。おい、お前ら、手出すなよ!」
特級クラスの闘いに手を出す者などおらず、異議のある者は居ないようだ。
「いくぜ?」
「後悔させてあげるわ」
五人に見守られながら、特級クラスの闘いが始まったーー。
◆
「互角……!」
ルルは先程の要領で、間合いを詰められたら一瞬で土の壁を隆起させ、また相手に距離をとらせる。
その隙に氷、火、風。はたまた水の魔法を駆使して、反撃した。
一方グレイヴァーンは普段腰に提げている割と大きめの剣を、重さを感じさせないくらいに易々と操ってみせた。
ルルが攻撃の手を緩める一瞬をついて間合いを詰め、攻撃の魔法が飛んでくる前に本体を叩こうとする。
俺たち見守り隊はといえば、手を出すどころかその速さにすら目がついていけるかも怪しい。
じっとその行方を追うことに専念していた。
「そろそろアレ、使えば?」
「お前の天敵だろ? --どうなっても知らねぇぞ」
中々決着のつかない闘いは、ルルの一言で転機を迎えようとした。
「アレ……?」
全く想像もつかないが、何かのスキルか?
さっきの対四人に対してはそもそもの実力が違いすぎて、スキルの一端もみれなかったが……。
「後悔すんなよな!」
グレイヴァーンが叫ぶと同時に、また謎の弾かれた音が聞こえた。
さっきから何なんだ!?
「魔を断つ者、ねぇ。良く表してるわ」
「終わりだぜ? 魔女」
何となくだが、剣先に魔力が集中しているのかそこにエネルギーが集まっているのが分かる。
自分の魔力を認識したことで、他人の魔力にも感じやすくなったのか……?
「ちっ」
一瞬思考に沈んだ隙に、ルルが押されている。
壁を展開したはずが、グレイヴァーンがそれをも斬ってみせた。
剣の達人、だけで済ますにはそれはもうスムーズに斬れた。
まるで、豆腐に包丁を通すくらい。
体勢を立て直すため、一旦大きく跳躍する。
仕切り直しだ。
「……を、……ろ」
ん?
何やら話し合う声が聞こえる。
「そ……、……!」
「……しか、……だ」
「…………よ」
闘いに集中している二人には、聞こえていない。
なんだか、不穏だ。
「お前、腕落ちたかぁ? もっと楽しませろ!」
「あーーら、どの口が言うのかしら? そっくりそのまま、お返しするわ!」
闘いはヒートアップしている。というか、素人目線だと決着がつく気配がない。
多分、グレイヴァーンは闘い自体を楽しんでいる。
だが、どことなく胸騒ぎがする。
最近の俺の勘は当たりすぎるので、気のせいであって欲しいが。
その願いも虚しく、俺はあることに気付く。
「----!? ルル!!」
「……!」
叫ばずにはいられない。
二人の周辺には、先程よりも広範囲で更に多くの土の塊が浮遊していた。
だけならいいが、すでに岩は発射され、グレイヴァーンにあたらない様ルルが回避した場所には勇者が剣を振りかざして待っていた。
「死ね! グリモワ!」
「魔女!」
勇者の存在を確認した瞬間、俺はすでに駆けだしていた。
だが、どう考えてもその距離まで間に合わない。
庇うことすら、許されない。
俺は、また後悔するのか?
世話になった者に守らせ、その上見殺しにするのか?
体は勝手に動いてはくれたが、今度は間に合わない。
その時。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
何かが俺を、そのまま行けと突き動かした。
「何だ!?」
ルルを突き飛ばす形で庇う。
と同時に振り下ろされた剣を、ーーグレイヴァーンが頭に到達する前に自身の剣をぶん投げ軌道を変えてくれた。
迫りくる衝撃に目をぎゅっと瞑っていたが、それは阻止される。
「間に、合った……? てか、助かった?」
「お、お前! あの距離をどうやって……!」
「自分に強化魔法を掛けたのか……? いや、それにしても速いが」
グレイヴァーンが近づきながら、不思議そうに俺を凝視する。
「ハヤト様、さすがですわ!」
そしてルルはなんだか嬉しそうだ。何で?
「くそ! お前、なんなんだ!? 本当に魔族じゃないのか!?」
「え? そちらのお仲間さんがヒトだって言っただろ? 仲間も信じれないのかあんた?」
「ーー! く、くく。……ちげぇねぇ!」
堪え切れないと言わんばかりに、グレイヴァーンが笑っている。
もう俺には何がなんだか……。
「もういい、止めだ止め! オレは抜けるぜ? 親父の書簡ももう届いてる頃だろうし、お前のS級なんざオレは知らねぇ!」
「う、裏切るのか!?」
「お前の勝手な理想に付き合ってられるか。周りを巻き込むのもいい加減にしろよ」
笑ったかと思えば、ドスの効いた声でウェイダーを退ける。
美形でイケボだなんて、完璧だな。
「それに、手出すなって言ったの聞こえなかったか? オレは、仲間を信じないような奴に付き合う義理はねぇよ」
「! くそっ、ーーもういい! 行くぞ!」
グレイヴァーンに見事に論破されたウェイダーは、逃げていく。それを追う仲間の皆さん。
あぁ、勇者とは。
「ハヤト様、実戦でいきなりスキルを使えるなんて素晴らしいですわ!」
「あ、やっぱりスキルかな。さっきは必死であんまり分かってないんだけど」
「ーーお前さ」
「ん?」
いつになく真剣にグレイヴァーンが見てくる。
そんなにスキルが不思議なのか?
「何でさっき、体が動いたんだ?」
「え? 普通だろ」
「普通か? 仮に全然庇える距離でも、お前まだ戦えないんだろ? ……死が怖くないのか?」
ああ、そういう事か。
「いや怖いよ? ……怖いけどさ。目の前で自分のために闘ってくれた人が、傷付くのを黙ってみてられないよ」
「そうか」
な、なんだ。
常に戦いに身を置いている人だと、考えが違うのか?
急に考え込んだグレイヴァーン。
「ハヤト様、私、感動いたしましたわ! 魔力だけでなく、お心まで素晴らしいのですね」
「そ、そうかな。俺は……、後悔したくないだけだよ」
「後悔……か」
俺が言葉を紡ぐ度、黙って考え込む。
何か、気に障ることでも言ったんだろうか。
「……決めた」
「なにを?」
「あんた、まさか」
「ーーお前こそ、真の剣だ」
「え、弓ですけど……」
「いや、こっちの話だ」
「はあああぁ!? ふざけんじゃないわよ、あんたとだけは組むの絶対いや!」
「ん? どういうこと?」
「オレが、お前に着いて行く、ってことだ」
ドウイウコト?
「オレは魔を断つ者、グレイヴァーン・エル・ドゥ・エクセリオン。クラスは剣聖。グレイでいいぜ」
「はぁ~~? あんたがエクセリオン、ですって? エルフも人材不足で大変ねぇ」
「その口、二度と開かねぇようにしてやろうか?」
「ちょっ、二人とも落ち着けって! 俺だけ話についていけてない!」
何で急に俺なんかに着いてくるって言いだしたんだ?
「あーー、あれだ。オレは強いやつが好きなんだ。気にしないでくれ」
「はい?」
「もーーさいあくですわ」
「ちなみに俺のクラススキル、『マジック・ブレイク』は武器に込めた魔力をもって魔法を断つスキル。そこの魔女には特に効くから、煩わしくなったらオレに言ってくれ」
「なんですってーー!?」
「はぁ」
何か、一気に賑やかになったな。
「あんた、ソロ専門でしょ? 割り込まないでくれる?」
「そういうお前もだろ」
「あーーあーー! えっと、グレイ? 種族はエルフでおっけー?」
一応確認だけしておかないと。
「ああ、出身はエルダスクなんだ。あっちはグランアルバより多くの種族が暮らしてるからな」
「へぇ、いつか行ってみたいな」
「そん時は案内するぜ?」
「わ、私だって行った事ありますわ!」
「張り合わなくていいから……」
何を言っても着いてきそうだし、こうなれば腹を括るか。
「えっと、グレイヴァ……グレイは、何を見て俺が強いって言うのか分からないけど。まぁ、とにかく一緒に来てくれるなら心強いよ。よろしくな」
「ああ、クラスの力も楽しみだ」
「ちょっと、ハヤト様を戦闘狂に巻き込まないでよね」
あぁ、もしかしてさっきのクラススキルに興味が湧いたとかか?
複合クラスなんて滅多に居ないらしいし、そりゃ戦いが好きなら見てみたいよな。
まぁ、今のところ超速く移動できるだけなんだけど。
「それより色々、悪かったな。オレはオレの事情であいつらに付き合ってたんだが、ここまで馬鹿だとは思ってなかった」
「本当、あんたの教育が足りないんじゃなくって?」
「元々四人で上手くやってたみたいだが……な。権力ってものが絡みだすと、ヒトは良く分からんな」
「何か俺を魔族に仕立て上げて、みたいなこと言ってたけど、あれはどういうこと?」
「ああ。……この国には、四つの大貴族が後ろ盾をする騎士団がそれぞれあってな。もちろんアルバ・ダスクには参加するんだが、その時に自分の騎士団から称号持ちが現れると王の覚えもめでたい。おまけに民からの評判も上がる。他の貴族を出し抜けるんだろうが、最近の戦はほとんど冒険者の功績により勝利しているんだ」
「つまり、騎士団から功労者を出せないと考えた貴族が、今度は冒険者を子飼いにしだしたと?」
「さすがですわ、その通りです」
「そういうしがらみがイヤで、騎士団よりも冒険者を選んだ奴も多いだろうに。金か他の報酬に目がくらんでってのが良くあるパターンだな。んで、勇者であるウェイダーを引き込もうとしたが、特級クラスにしては実力が足りない。元々貴族には魔族を毛嫌いしてるやつも居るから、手っ取り早くウェイダーにヒトを襲った魔族を討ったと偽の功績を作って、祭り上げたかったんだろ。自分の陣営にさえ居れば何とでもなるからな」
じゃぁ、あの勇者は依頼が達成できなくてお金に困っていたのか……?
それはちょっと同情するな。
「まぁ、結果的に適性ランクに戻れるからあいつらも良かっただろ」
「バカは放っておきましょ。さ、ハヤト様の初依頼、遅くなりましたけど再開いたしましょうか」
「あ、そういえばそうだったな。すっかり忘れてたよ」
衝撃が大きすぎて、今回の目的を忘れてしまうところだった。
「なにやってたんだ?」
「ベリーエンテの素材を納品だったな。羽根が綺麗なんだろ?」
「ええ、食べた実の種類によって個体で色が違いますの」
あれかな、ブルーベリー的なのだと青とか黒で、イチゴ的なやつだと赤いのかな。
「サワベリーは青や緑に近い色ですので、そういう羽根が落ちていれば近くに居るはずですけれど……。騒ぎ過ぎたかしら?」
ベリーっぽくない色だな。
というか、さっきから一羽も鳥らしきものは飛んでない。
「もう少し別の場所を探してみましょうか」
「それもそうだな、グレイはどうする? 冒険者デビューの任務だから、手は出せないと思うけど」
「いいぜ、付き合う。他の魔物がいたらオレがやるよ」
「おお、それは心強いな」
「わ、私だって……!」
だから張り合わなくて良いってば。
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