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9.クラスとスキル
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「そういえばさ、次のアルバ・ダスクっていつなんだ?」
青緑っぽい羽を持つ、弱い魔物代表ベリーエンテを探して数十分。
勇者とルル達が騒ぎ過ぎたからか、未だに見付けられずにいる。
「前回が大体半年くらい前だったな」
「じゃあ、次が一年半くらい後か。……なんか、結構みんな普通に過ごせるんだな」
元の世界の感覚で言えば、発生地の近くに普通に街があることが信じられない。
生まれ育った街を離れるのは、心苦しいが俺なら引っ越していると思う。
「大きな街には、それなりの結界も張ってありますし……。少なくとも直近では辛勝というよりは、大勝ですからね」
「まぁ、オレ達も戦いが日常だからな」
「ですが、今度のアルバ・ダスクは恐らくいつもと違いますわ……」
そう言いながら俺を見てくるルル。
な、なんだ。
「魔女が言うなら、そうなんだろうな。まぁ、大勝が続いてるからって、油断してるやつがいたらただの素人だが」
「そうね」
「はぁ。二人とも、さすがにカッコいいな」
「!?」
「お、分かってるじゃねぇか」
ベテランの冒険者は、きっと相手がどんなに弱くても油断しないんだろう。
力では勝てても、知恵や道具。協力者といった様々な要因で戦況が覆るのはゼロではない。
「それまでに俺もしっかり力付けないとだな」
「ハヤト様なら大丈夫ですわ! 手取り足取り、お教えいたします!」
「お、おう」
ルルはいつも俺のことになると張り切る。
ありがたいが謎だ。
「そういえばさっき、強化魔法みたいなスキル使ってただろ? 詠唱ないしスキル……だよな?」
「多分? 皆どうやって自分のスキルとか確かめてるんだ?」
「そういえばお伝え忘れておりましたわね、ギルドカードの要領で自分の魔力を映し出すのですわ、『ステータス』で自分だけが視れる魔法を展開できます。魔力があれば、誰でも使えますわ」
「へぇ、……ステータス!」
唱えると、目の前にギルドカードと同じように情報が映し出される。
これは俺にしか見えないらしい。
「名前、クラス、ユニークスキルに……あった、これか? クラススキル」
ギルドカードでも視れる情報以外に、スキルについて記載がある。
ユニークスキルは『早気』。これは感覚だが、自分の魔力の巡りを限りなく速めて即発動できるスキルで、俺のクラス魔弓師と相性がいいらしい。
そして、ルルを庇う際に発動したスキル。『足踏み・疾風』というのは……。
うん、弓道の射法八節だな。
試しにタッチしてみると、説明が視れた。
何々?
【クラススキル:足踏み・疾風】【Lv10】
【援護が得意なクラスが安全な場所より攻撃できるよう、疾風の如き素早さを得る。※早気の効果で瞬時に発動可能】
「なんか意味全然ちがうけど……」
「どうされました?」
「いや、なんでもない」
実際の弓道でいうところの、第一段階。両足を開いて正しい姿勢をとる。という所作。
むしろその場にしっかりと踏み止まれるよう、土台作りの前段階だ。
俺のスキル、完全に真逆じゃねぇか……!
しかも早気の効果で注釈ができてやがる。
もしかして、八節全部あるのか?
「スキルにレベルは書いていらっしゃいます?」
「ああ、ユニークもクラスもレベル10って書いてあるな」
「えーーっと……、それは。何といいますか……」
「普通じゃねぇな」
「え、そうなの!?」
それぞれのスキルの横には、しっかりと【Lv10】と書いてある。
「スキルのレベルは10が最大ですわ。個人の強さの指標であるクラスレベルは、ユニークとクラススキルのレベルの合計値ですの」
「え、じゃあ俺まだ戦ってないのにレベル20!?」
「そういうことになりますわねぇ」
「ちなみにS級冒険者の指標はクラスレベルが50以上だな。大体一段階ごとにレベル10飛ばしていくって感じだ」
「わーー。ってことは大体C級くらいのレベルってことか……」
「そもそもスキルレベルが10というのは、余程の熟練度ですわ。多くの者はスキルの数を増やしてクラスレベルを上げていくことを優先しますから」
「なるほど……」
「例えばオレで言えば、『見切り』という自動で発動するスキルと、『マジック・ブレイク』という武器に魔力を付与するスキルがあるが、自動で発動するスキルの方が多く習得するな」
「私で言えば『詠唱破棄』ですわね」
あ、やっぱりあれはスキルなのか。
パッシブスキルってやつかな。
「ちなみに私、クラスのレベルは150くらいですわ」
「オレもそんくらいか」
「わーー……」
化け物揃いだ。
「スキルってのは、具体的にどうやって覚えるんだ?」
「クラスに準じた武器や魔法を使いこなす、覚えているスキルの熟練度をあげる。もしくはユニークスキルに対応した修行をする。……こんな感じでしょうか?」
「戦ってたらいつの間にか覚えてるよな」
「あはは……」
常日頃戦いがあると、どうやって覚えるか考える前に戦いが起こるんだろうなぁ。
「ですので、十八歳の時点でクラスやユニークスキルを元に各々がどういう道を志すかは決まっているのですわ」
「なるほどねぇ」
その要領でいくと俺の足踏みのレベルは、弓道部だった時に基本がきちんと出来ていたということになるな。
……早気がレベルカンストなのはちょっと悲しいけど。
「ハヤトは弓を扱うクラスだろ? もし武器を魔力で具現化するっていうなら、余程魔力の操作に自信がないと難しいぞ?」
「え、そうなのか!?」
考えが甘かったか?
「オレのように武器に纏わせるくらいなら近接職でも魔力の操作は簡単だが、手元から離れる……つまり、魔力を体外に放出するっていうのは、魔法クラスの専売特許みたいなもんだからな」
「あーー、確かに。魔力で武器を創造するってなると、ずっと魔力を放出し続けてそれを維持するってことか?」
「そうですわねぇ。ハヤト様でしたら問題ないとは思いますが、普通は難しいですわ」
「試しにやってみたらどうだ?」
「お、おう」
魔力の操作、それについては心当たりがある。
俺のユニークスキル、早気だ。
具現化するだけなら恐らく上手くいくが、果たしてそれを無駄のない最小限の出力で維持できるかどうか……。
弓道部時代、相棒とも言える弓の形を思い出す。
後悔ばかりが思い起こされるが、実際弓を引くのは好きだった。
肉体と精神が一体となる感覚、とでもいうのだろうか。
一つ一つの所作を集中しながら意識的に、美しく。
この位置から引くのは正しいのか?
心気を丹田におさめているか?
色々なことを考えながら、しかし機械的ではないように。
懐かしいなぁ。
【ユニークスキル:早気】
「あら」
「さすがだな」
「え?」
気付いたら俺の手元には、良く見た形の武器が、魔力の影響でわずかに歪ながらも出来ていた。
「お、おおお」
嬉しい。実際に自分の力が形になったのをみるのは、成長できたように思う。
「ハヤト様なら出来ると信じておりましたわ。あとはそれを維持しながら、魔法を矢として撃てるかですわね」
「初めてにしては安定しすぎじゃないか? やるじゃねぇか、ハヤト」
化け物二人に褒められるのは、なんともくすぐったい。
「思ったより、小さい……か?」
実際に弓道で用いたーーいわゆる和弓は、大体二メートルを超えていて、アーチェリーで使う洋弓は百六十センチほど。
俺は身長が百七十センチ弱なので、身体よりは大きくない。
これは、どちらかというと洋弓に近い。おまけに魔力で出来ているため、ほとんど重さを感じない。
小回りが利いて、ゲームで良くやっていた相手の攻撃を避けてすぐ反撃する、というスタイルにもってこいだ。
戦闘向き、ってやつだな。
「体調に変化はありませんか?」
「いや、普通だな……」
「それだけ維持できてれば十分だろ。本当、規格外だな」
さっきまでは魔力がすごい! って言われても実感が湧かなかったが、体外に放出してそれを無理なく維持できているとなると、多少は実感する。
「あ」
その時、上空から何かが羽ばたく音がした。
上を見上げれば、俺達が探していたまさにそいつだった。
「見付けましたわね、……でも」
「近くに餌になるようなもんはねぇな、降りてはこねぇか」
「うーーん。あ、……そうだ」
ユニークスキルの説明にあった、あれを試してみようか。
「ちょっと試したいことがあるんだが、いいか?」
「ええ、どうぞ」
「ほう。楽しみだな」
見られてると若干緊張するが、その前に矢だ。
魔力の矢だから、魔矢といえばいいか?
弓と同じ要領だが、ずっと維持する弓とは違って、中った後は消えるんだから弓よりも高出力でいいよな。
かつて使っていた愛用の矢は、矢羽が白をベースに青と緑が綺麗な色をしていた。
それを、魔力で作ってつがえるイメージ……。ん? 青と緑?
【クラススキル:弓構え・魔】
「できた?」
「まぁ、素晴らしいですわ」
って、射法八節で言うと、足踏みの次は胴造り。開いた両足を元に、射の基本となる動作で、弦が切れていないかなど調べたりと重要な所作だ。
それをすっ飛ばして矢をつがえる、弓構えが発動してしまった……。まぁ、戦いにおいてそんな暇はないか。
「えーーっと、ステータス」
早速スキルの説明を見てみる。何々。
【クラススキル:弓構え・魔】【Lv10】
【魔力でできた矢を装填できる。※早気の効果で瞬時に装填可能】
「ユニークスキル大活躍だな」
「マジで魔法クラスと複合なんだな」
「よし、これを……」
確か、早気の説明には『弓職なら、物見を瞬時に定めることもできる』と書いてあった。
物見、つまり的を見定める。エイムを合わせる前段階だ。
狙いは瞬時につけれるので、後はいかに素早く矢を射ることができるか。
俺は和弓とはまた違った、俺専用の魔弓を素早く上空へ向けた。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:胴造り・自動】
「うおっ」
早気の効果で上空を羽ばたくベリーエンテに、一瞬で狙いが定まる。
ここまでは想定内だったが、聞いたこともないスキルの影響だろう。
俺の筋力のおかげとは思えないほど一瞬で弓を引き、狙いすましたベリーエンテへ魔矢が直撃した。
「射っ!」
しまった、つい競技の応援の影響で的中すると叫んでしまった。
「あらまぁ」
「おおーー」
二人もまさか当たるとは思わず、地面に落ちてきた魔物をじっと見つめる。
「やっぱりというか、胴造りもあるのか」
ステータス画面で念の為確認しておく。
【クラススキル:胴造り・自動】【Lv10】
【呼吸を整え、気を研ぎ澄ますと同時に己の肉体の強化を図る。※早気の効果で全身に気が巡っているため、自動で発動】
自動で……? ああ、本来早気のスキルを覚えていない弓クラスだと、一呼吸おいて気を練るところからスタートって訳か。気って魔力ってことだよな? パッシブではないと。レベルは安定の10。
やっぱりこの世界での早気、やばいな。
「まさか、動き回ってるやつにあてるとはな。おまけに威力も申し分ない」
「さすがはハヤト様」
「褒めても何もでないって……」
改めてベリーエンテを見てみると、鴨に近いだろうか?
青と緑がきれいな羽根をしている。
「素材って、羽根をギルドに納品だっけか?」
「ええ。ですがお肉は美味ですので、個人的には馴染みの店に持ち込んで調理してもらいたいですわ」
「お、いいなそれ。オレも食べてぇな」
「お肉かーー」
鮮度が落ちないようにするには、とりあえず羽根を綺麗に回収して、ルルに氷の魔法を使ってもらうか?
うーーん。
【クラススキル:会・洞天】
「え”」
何やらまた新しいクラススキルを覚えたようだ。……というか、覚える速度異常じゃね?
しかも『会』って俺のトラウマじゃん。
もう一度ステータスを確認してみる。
【クラススキル:会・洞天】【Lv10】
【己の気を元に、疑似的な空間を創る。いわゆる収納魔法】
いや、弓道関係あるか!?
というか射法でいう六番目の会が先に出て来たよ、おい。
「まぁ、闇魔法も使えますの?」
「なんか、出来た……」
「やっぱハヤトは別格なんだな、一度にクラススキルをここまで覚えるとは」
「ちなみに今、クラスレベルはおいくつでしょう?」
「えーーっと」
まず早気で10だろ?
足踏み、弓構え、胴造りを覚えて、最後に会。
あれ?
「……50?」
「「……」」
冒険者初日にしてS級基準値。まずいです。
青緑っぽい羽を持つ、弱い魔物代表ベリーエンテを探して数十分。
勇者とルル達が騒ぎ過ぎたからか、未だに見付けられずにいる。
「前回が大体半年くらい前だったな」
「じゃあ、次が一年半くらい後か。……なんか、結構みんな普通に過ごせるんだな」
元の世界の感覚で言えば、発生地の近くに普通に街があることが信じられない。
生まれ育った街を離れるのは、心苦しいが俺なら引っ越していると思う。
「大きな街には、それなりの結界も張ってありますし……。少なくとも直近では辛勝というよりは、大勝ですからね」
「まぁ、オレ達も戦いが日常だからな」
「ですが、今度のアルバ・ダスクは恐らくいつもと違いますわ……」
そう言いながら俺を見てくるルル。
な、なんだ。
「魔女が言うなら、そうなんだろうな。まぁ、大勝が続いてるからって、油断してるやつがいたらただの素人だが」
「そうね」
「はぁ。二人とも、さすがにカッコいいな」
「!?」
「お、分かってるじゃねぇか」
ベテランの冒険者は、きっと相手がどんなに弱くても油断しないんだろう。
力では勝てても、知恵や道具。協力者といった様々な要因で戦況が覆るのはゼロではない。
「それまでに俺もしっかり力付けないとだな」
「ハヤト様なら大丈夫ですわ! 手取り足取り、お教えいたします!」
「お、おう」
ルルはいつも俺のことになると張り切る。
ありがたいが謎だ。
「そういえばさっき、強化魔法みたいなスキル使ってただろ? 詠唱ないしスキル……だよな?」
「多分? 皆どうやって自分のスキルとか確かめてるんだ?」
「そういえばお伝え忘れておりましたわね、ギルドカードの要領で自分の魔力を映し出すのですわ、『ステータス』で自分だけが視れる魔法を展開できます。魔力があれば、誰でも使えますわ」
「へぇ、……ステータス!」
唱えると、目の前にギルドカードと同じように情報が映し出される。
これは俺にしか見えないらしい。
「名前、クラス、ユニークスキルに……あった、これか? クラススキル」
ギルドカードでも視れる情報以外に、スキルについて記載がある。
ユニークスキルは『早気』。これは感覚だが、自分の魔力の巡りを限りなく速めて即発動できるスキルで、俺のクラス魔弓師と相性がいいらしい。
そして、ルルを庇う際に発動したスキル。『足踏み・疾風』というのは……。
うん、弓道の射法八節だな。
試しにタッチしてみると、説明が視れた。
何々?
【クラススキル:足踏み・疾風】【Lv10】
【援護が得意なクラスが安全な場所より攻撃できるよう、疾風の如き素早さを得る。※早気の効果で瞬時に発動可能】
「なんか意味全然ちがうけど……」
「どうされました?」
「いや、なんでもない」
実際の弓道でいうところの、第一段階。両足を開いて正しい姿勢をとる。という所作。
むしろその場にしっかりと踏み止まれるよう、土台作りの前段階だ。
俺のスキル、完全に真逆じゃねぇか……!
しかも早気の効果で注釈ができてやがる。
もしかして、八節全部あるのか?
「スキルにレベルは書いていらっしゃいます?」
「ああ、ユニークもクラスもレベル10って書いてあるな」
「えーーっと……、それは。何といいますか……」
「普通じゃねぇな」
「え、そうなの!?」
それぞれのスキルの横には、しっかりと【Lv10】と書いてある。
「スキルのレベルは10が最大ですわ。個人の強さの指標であるクラスレベルは、ユニークとクラススキルのレベルの合計値ですの」
「え、じゃあ俺まだ戦ってないのにレベル20!?」
「そういうことになりますわねぇ」
「ちなみにS級冒険者の指標はクラスレベルが50以上だな。大体一段階ごとにレベル10飛ばしていくって感じだ」
「わーー。ってことは大体C級くらいのレベルってことか……」
「そもそもスキルレベルが10というのは、余程の熟練度ですわ。多くの者はスキルの数を増やしてクラスレベルを上げていくことを優先しますから」
「なるほど……」
「例えばオレで言えば、『見切り』という自動で発動するスキルと、『マジック・ブレイク』という武器に魔力を付与するスキルがあるが、自動で発動するスキルの方が多く習得するな」
「私で言えば『詠唱破棄』ですわね」
あ、やっぱりあれはスキルなのか。
パッシブスキルってやつかな。
「ちなみに私、クラスのレベルは150くらいですわ」
「オレもそんくらいか」
「わーー……」
化け物揃いだ。
「スキルってのは、具体的にどうやって覚えるんだ?」
「クラスに準じた武器や魔法を使いこなす、覚えているスキルの熟練度をあげる。もしくはユニークスキルに対応した修行をする。……こんな感じでしょうか?」
「戦ってたらいつの間にか覚えてるよな」
「あはは……」
常日頃戦いがあると、どうやって覚えるか考える前に戦いが起こるんだろうなぁ。
「ですので、十八歳の時点でクラスやユニークスキルを元に各々がどういう道を志すかは決まっているのですわ」
「なるほどねぇ」
その要領でいくと俺の足踏みのレベルは、弓道部だった時に基本がきちんと出来ていたということになるな。
……早気がレベルカンストなのはちょっと悲しいけど。
「ハヤトは弓を扱うクラスだろ? もし武器を魔力で具現化するっていうなら、余程魔力の操作に自信がないと難しいぞ?」
「え、そうなのか!?」
考えが甘かったか?
「オレのように武器に纏わせるくらいなら近接職でも魔力の操作は簡単だが、手元から離れる……つまり、魔力を体外に放出するっていうのは、魔法クラスの専売特許みたいなもんだからな」
「あーー、確かに。魔力で武器を創造するってなると、ずっと魔力を放出し続けてそれを維持するってことか?」
「そうですわねぇ。ハヤト様でしたら問題ないとは思いますが、普通は難しいですわ」
「試しにやってみたらどうだ?」
「お、おう」
魔力の操作、それについては心当たりがある。
俺のユニークスキル、早気だ。
具現化するだけなら恐らく上手くいくが、果たしてそれを無駄のない最小限の出力で維持できるかどうか……。
弓道部時代、相棒とも言える弓の形を思い出す。
後悔ばかりが思い起こされるが、実際弓を引くのは好きだった。
肉体と精神が一体となる感覚、とでもいうのだろうか。
一つ一つの所作を集中しながら意識的に、美しく。
この位置から引くのは正しいのか?
心気を丹田におさめているか?
色々なことを考えながら、しかし機械的ではないように。
懐かしいなぁ。
【ユニークスキル:早気】
「あら」
「さすがだな」
「え?」
気付いたら俺の手元には、良く見た形の武器が、魔力の影響でわずかに歪ながらも出来ていた。
「お、おおお」
嬉しい。実際に自分の力が形になったのをみるのは、成長できたように思う。
「ハヤト様なら出来ると信じておりましたわ。あとはそれを維持しながら、魔法を矢として撃てるかですわね」
「初めてにしては安定しすぎじゃないか? やるじゃねぇか、ハヤト」
化け物二人に褒められるのは、なんともくすぐったい。
「思ったより、小さい……か?」
実際に弓道で用いたーーいわゆる和弓は、大体二メートルを超えていて、アーチェリーで使う洋弓は百六十センチほど。
俺は身長が百七十センチ弱なので、身体よりは大きくない。
これは、どちらかというと洋弓に近い。おまけに魔力で出来ているため、ほとんど重さを感じない。
小回りが利いて、ゲームで良くやっていた相手の攻撃を避けてすぐ反撃する、というスタイルにもってこいだ。
戦闘向き、ってやつだな。
「体調に変化はありませんか?」
「いや、普通だな……」
「それだけ維持できてれば十分だろ。本当、規格外だな」
さっきまでは魔力がすごい! って言われても実感が湧かなかったが、体外に放出してそれを無理なく維持できているとなると、多少は実感する。
「あ」
その時、上空から何かが羽ばたく音がした。
上を見上げれば、俺達が探していたまさにそいつだった。
「見付けましたわね、……でも」
「近くに餌になるようなもんはねぇな、降りてはこねぇか」
「うーーん。あ、……そうだ」
ユニークスキルの説明にあった、あれを試してみようか。
「ちょっと試したいことがあるんだが、いいか?」
「ええ、どうぞ」
「ほう。楽しみだな」
見られてると若干緊張するが、その前に矢だ。
魔力の矢だから、魔矢といえばいいか?
弓と同じ要領だが、ずっと維持する弓とは違って、中った後は消えるんだから弓よりも高出力でいいよな。
かつて使っていた愛用の矢は、矢羽が白をベースに青と緑が綺麗な色をしていた。
それを、魔力で作ってつがえるイメージ……。ん? 青と緑?
【クラススキル:弓構え・魔】
「できた?」
「まぁ、素晴らしいですわ」
って、射法八節で言うと、足踏みの次は胴造り。開いた両足を元に、射の基本となる動作で、弦が切れていないかなど調べたりと重要な所作だ。
それをすっ飛ばして矢をつがえる、弓構えが発動してしまった……。まぁ、戦いにおいてそんな暇はないか。
「えーーっと、ステータス」
早速スキルの説明を見てみる。何々。
【クラススキル:弓構え・魔】【Lv10】
【魔力でできた矢を装填できる。※早気の効果で瞬時に装填可能】
「ユニークスキル大活躍だな」
「マジで魔法クラスと複合なんだな」
「よし、これを……」
確か、早気の説明には『弓職なら、物見を瞬時に定めることもできる』と書いてあった。
物見、つまり的を見定める。エイムを合わせる前段階だ。
狙いは瞬時につけれるので、後はいかに素早く矢を射ることができるか。
俺は和弓とはまた違った、俺専用の魔弓を素早く上空へ向けた。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:胴造り・自動】
「うおっ」
早気の効果で上空を羽ばたくベリーエンテに、一瞬で狙いが定まる。
ここまでは想定内だったが、聞いたこともないスキルの影響だろう。
俺の筋力のおかげとは思えないほど一瞬で弓を引き、狙いすましたベリーエンテへ魔矢が直撃した。
「射っ!」
しまった、つい競技の応援の影響で的中すると叫んでしまった。
「あらまぁ」
「おおーー」
二人もまさか当たるとは思わず、地面に落ちてきた魔物をじっと見つめる。
「やっぱりというか、胴造りもあるのか」
ステータス画面で念の為確認しておく。
【クラススキル:胴造り・自動】【Lv10】
【呼吸を整え、気を研ぎ澄ますと同時に己の肉体の強化を図る。※早気の効果で全身に気が巡っているため、自動で発動】
自動で……? ああ、本来早気のスキルを覚えていない弓クラスだと、一呼吸おいて気を練るところからスタートって訳か。気って魔力ってことだよな? パッシブではないと。レベルは安定の10。
やっぱりこの世界での早気、やばいな。
「まさか、動き回ってるやつにあてるとはな。おまけに威力も申し分ない」
「さすがはハヤト様」
「褒めても何もでないって……」
改めてベリーエンテを見てみると、鴨に近いだろうか?
青と緑がきれいな羽根をしている。
「素材って、羽根をギルドに納品だっけか?」
「ええ。ですがお肉は美味ですので、個人的には馴染みの店に持ち込んで調理してもらいたいですわ」
「お、いいなそれ。オレも食べてぇな」
「お肉かーー」
鮮度が落ちないようにするには、とりあえず羽根を綺麗に回収して、ルルに氷の魔法を使ってもらうか?
うーーん。
【クラススキル:会・洞天】
「え”」
何やらまた新しいクラススキルを覚えたようだ。……というか、覚える速度異常じゃね?
しかも『会』って俺のトラウマじゃん。
もう一度ステータスを確認してみる。
【クラススキル:会・洞天】【Lv10】
【己の気を元に、疑似的な空間を創る。いわゆる収納魔法】
いや、弓道関係あるか!?
というか射法でいう六番目の会が先に出て来たよ、おい。
「まぁ、闇魔法も使えますの?」
「なんか、出来た……」
「やっぱハヤトは別格なんだな、一度にクラススキルをここまで覚えるとは」
「ちなみに今、クラスレベルはおいくつでしょう?」
「えーーっと」
まず早気で10だろ?
足踏み、弓構え、胴造りを覚えて、最後に会。
あれ?
「……50?」
「「……」」
冒険者初日にしてS級基準値。まずいです。
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