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メーレンスの旅 王都周辺
第六十二話 消失
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「……ふむ」
早めに起床し、身支度をしながら今日の予定を考える。
一つの街に、おおよそ三日の滞在。
必要に応じて延泊する、というのがいつもの流れだった。
しかし、ヴァルハイトのランクアップのためにギルドは今頃センの森を調査しているだろうし。
僕は僕で、あいつに王都を見せてやりたいという思いもある。
(まぁ、……なるようになる、か)
近頃の僕は、以前より……なんというのだろう。
臨機応変というのか、肩の力が抜けたとでもいうのか。
……悪くはない方に、物事を考えるようになったと思う。
「それにしても……」
女神の教会ではなにも収穫はなく。
ギルドに公爵家からの言付けもないということは、リューゲンは何も話していないとみられ。
……やはり、自分の知りたいことの多くは魔術の痕跡を辿るほかないのだろうか。
「ナハト・レイ……か」
聞き馴染みのないそれは、恐らく魔族に関連するもの。
調べた限りは、書物にも記載はなかった。
母についても、冒険者だということ以外情報はない。
「そして、……マジック・ドレイン」
唯一、この手の中にあるもの。
僕の、闇の魔法だ。
リューゲンはこれを、そう呼んだ。
本来『吸収』という作用は、光の魔法に見られる現象。
だが、あれは吸収し、無効化とする。
僕はあの時、リューゲンの魔法を吸収し、そして排出した。
収納魔法に限りなく近い方法で。
……もし。
もし、これを。
魔法を魔力と捉えて、己の魔力の糧とするという意味で、リューゲンが恐れたのなら──
(魔族を恐れる理由も分かる、か)
それは最強の種族と言えるだろう。
つまるところ、魔力量が無限になるという意味ではないか?
「…………よそう」
仮にそうだったとして。
僕がその力を使うべきは、きっと今ではない。
女神聖教では異端とされる力であるなら、必要に迫られた時以外、使うべきものではない。
「しかし、空間の把握か」
翼の会が行っていた召喚魔術。
あれは、魔導門と呼ばれる大掛かりな魔術を元にしたものだろう。
陣や魔道具で魔力の座標を指定できる魔術とは違い、己の魔力のみで行う転移魔法という方法は確立されていない。
一般的に魔術師の間で交わされる理論は、こうだ。
空間を掌握する闇の魔法で座標を指定し、反射の作用を持つ光の魔法で自身の魔力をその場に転写。
疑似的に出口を造り、排出の作用である闇の魔法をもってその場に出現する。
つまり、超高等魔法。
そんなことが可能なのは、闇と光。
両方の先天属性を持つ者くらいだろう。
そして、そんな人物は歴史上いない。
だから、彼らは魔術に傾倒するのか……?
何のために。
(ん……?)
一つ、仮説を立ててみる。
自分の魔力を奪い、自身が把握した空間内で排出したら、……どうなる?
まるで、闇に溶け込むが如く。
「試してみるか……?」
最悪、上手くいかなかったとして出口となる場所に一つ当てがある。
死にはしないだろう。
「……ふぅ」
瞼を閉じて、集中する。
自身の魔力を確かめる。
そしてこの部屋。
自身のいる場所から、……そうだな。
ベッドの上。
そこまで闇を広げることを想定する。
(あとは)
自分の魔力を自身で奪い、闇と化すだけ──
「ルッカちゃーん! おは──!?」
「ん?」
「ちょっ、──ルカ!!!!」
「!?」
いきなりノックもなしに部屋に入ってきたヴァルハイト。
そしてなぜか大きく目を見開き、──そのまま僕の腕を引っ張った。
勢いよく引かれた腕と共に、僕の体は自然とヴァルハイトに預ける形となる。
剣士なだけあって、その体は容易に僕を受け止めた。
「……???」
いったい……。これは……。
どういう状況なんだ?
腕の中に納まった僕は、体格差もありヴァルハイトを見上げることとなる。
その表情はとても冗談でやったとは思えない気迫で、……僕を本当に心配していることが分かる。
(な、なんだというんだ……?)
「あ…………」
「あ……?」
「──せったぁ! マジで焦った」
「な、何をそんなに」
「いや、こっちが聞きたいんだけど!? 消えたかと思って。部屋に入った瞬間、ルカちゃんの魔力が消えてったんだけど!」
「! そうか、成功……したのか?」
「ナニしてんの!?」
一応、展開させた闇によって自分の魔力を自身で奪う。
それは、成功したようだ。
あとは、把握した空間の中でそれを再構築できるのか、という話だと思う。
……だが。
(こんなに心配されるとは……、思っていなかったな)
やめよう。
僕は求道者である以前に……。
こいつと、旅をする者だ。
「いや、……その……。闇の魔法でだな、転移が出来ないものかと……」
いつもはふざけたこいつから、真剣な顔で心配されるとどうも居心地がわるいというか。
気恥ずかしいというか。
自分が、とんでもないことをしてしまったように思える。
「はーーーーーー、びっくりしたよ~もー」
「す、すまない……」
「やるなら一言いってよね~」
「あぁ、……そう、する」
なるほど。
誰かと共に過ごすというのは……。
そういう配慮も必要、なのか。
「ルカちゃんはさー、なんでそんなに魔法の研究? 好きなの?」
「……悪いか?」
「いや、ワルくはないんだけどさー。ほら、薬草学とか。公爵家だし、勉学とか? 他にもっとのめり込むモノもあったと思うからさ」
「そうだな……。恐らくだが。僕が、自分の価値をそこに見出していたのだろう。
黒持ちであるがゆえに、親元から離れたと思っていたから……。どこか、それに縋っていた部分もあるかもしれないな」
「ルカちゃん……」
「そうこうしている内に、自然と好きになったのだろうな。僕にも……よく分からない」
自分が自分であると実感するもの。
黒持ちで、魔力量も多く。
それで、生計を立てていくものだと自然とそう思っていた。
僕にとって、魔法とは。
自分が自分であると実感するものであり、自分が価値ある人間だと思わせてくれるものだ。
……でも。
(その研究を置いてまで、他人へと配慮したいという気持ち……)
まるで、こいつにとって、自分が価値ある人間であるかのようだ。
勝手に消えては困る存在。
仲間、というのはこうも──
「……そもそも、お前がノックしないのが悪いんじゃないか?」
「え!? オレのせい!?」
分からない。
けれど、それが自分にとって悪いことではないのは確かだ。
早めに起床し、身支度をしながら今日の予定を考える。
一つの街に、おおよそ三日の滞在。
必要に応じて延泊する、というのがいつもの流れだった。
しかし、ヴァルハイトのランクアップのためにギルドは今頃センの森を調査しているだろうし。
僕は僕で、あいつに王都を見せてやりたいという思いもある。
(まぁ、……なるようになる、か)
近頃の僕は、以前より……なんというのだろう。
臨機応変というのか、肩の力が抜けたとでもいうのか。
……悪くはない方に、物事を考えるようになったと思う。
「それにしても……」
女神の教会ではなにも収穫はなく。
ギルドに公爵家からの言付けもないということは、リューゲンは何も話していないとみられ。
……やはり、自分の知りたいことの多くは魔術の痕跡を辿るほかないのだろうか。
「ナハト・レイ……か」
聞き馴染みのないそれは、恐らく魔族に関連するもの。
調べた限りは、書物にも記載はなかった。
母についても、冒険者だということ以外情報はない。
「そして、……マジック・ドレイン」
唯一、この手の中にあるもの。
僕の、闇の魔法だ。
リューゲンはこれを、そう呼んだ。
本来『吸収』という作用は、光の魔法に見られる現象。
だが、あれは吸収し、無効化とする。
僕はあの時、リューゲンの魔法を吸収し、そして排出した。
収納魔法に限りなく近い方法で。
……もし。
もし、これを。
魔法を魔力と捉えて、己の魔力の糧とするという意味で、リューゲンが恐れたのなら──
(魔族を恐れる理由も分かる、か)
それは最強の種族と言えるだろう。
つまるところ、魔力量が無限になるという意味ではないか?
「…………よそう」
仮にそうだったとして。
僕がその力を使うべきは、きっと今ではない。
女神聖教では異端とされる力であるなら、必要に迫られた時以外、使うべきものではない。
「しかし、空間の把握か」
翼の会が行っていた召喚魔術。
あれは、魔導門と呼ばれる大掛かりな魔術を元にしたものだろう。
陣や魔道具で魔力の座標を指定できる魔術とは違い、己の魔力のみで行う転移魔法という方法は確立されていない。
一般的に魔術師の間で交わされる理論は、こうだ。
空間を掌握する闇の魔法で座標を指定し、反射の作用を持つ光の魔法で自身の魔力をその場に転写。
疑似的に出口を造り、排出の作用である闇の魔法をもってその場に出現する。
つまり、超高等魔法。
そんなことが可能なのは、闇と光。
両方の先天属性を持つ者くらいだろう。
そして、そんな人物は歴史上いない。
だから、彼らは魔術に傾倒するのか……?
何のために。
(ん……?)
一つ、仮説を立ててみる。
自分の魔力を奪い、自身が把握した空間内で排出したら、……どうなる?
まるで、闇に溶け込むが如く。
「試してみるか……?」
最悪、上手くいかなかったとして出口となる場所に一つ当てがある。
死にはしないだろう。
「……ふぅ」
瞼を閉じて、集中する。
自身の魔力を確かめる。
そしてこの部屋。
自身のいる場所から、……そうだな。
ベッドの上。
そこまで闇を広げることを想定する。
(あとは)
自分の魔力を自身で奪い、闇と化すだけ──
「ルッカちゃーん! おは──!?」
「ん?」
「ちょっ、──ルカ!!!!」
「!?」
いきなりノックもなしに部屋に入ってきたヴァルハイト。
そしてなぜか大きく目を見開き、──そのまま僕の腕を引っ張った。
勢いよく引かれた腕と共に、僕の体は自然とヴァルハイトに預ける形となる。
剣士なだけあって、その体は容易に僕を受け止めた。
「……???」
いったい……。これは……。
どういう状況なんだ?
腕の中に納まった僕は、体格差もありヴァルハイトを見上げることとなる。
その表情はとても冗談でやったとは思えない気迫で、……僕を本当に心配していることが分かる。
(な、なんだというんだ……?)
「あ…………」
「あ……?」
「──せったぁ! マジで焦った」
「な、何をそんなに」
「いや、こっちが聞きたいんだけど!? 消えたかと思って。部屋に入った瞬間、ルカちゃんの魔力が消えてったんだけど!」
「! そうか、成功……したのか?」
「ナニしてんの!?」
一応、展開させた闇によって自分の魔力を自身で奪う。
それは、成功したようだ。
あとは、把握した空間の中でそれを再構築できるのか、という話だと思う。
……だが。
(こんなに心配されるとは……、思っていなかったな)
やめよう。
僕は求道者である以前に……。
こいつと、旅をする者だ。
「いや、……その……。闇の魔法でだな、転移が出来ないものかと……」
いつもはふざけたこいつから、真剣な顔で心配されるとどうも居心地がわるいというか。
気恥ずかしいというか。
自分が、とんでもないことをしてしまったように思える。
「はーーーーーー、びっくりしたよ~もー」
「す、すまない……」
「やるなら一言いってよね~」
「あぁ、……そう、する」
なるほど。
誰かと共に過ごすというのは……。
そういう配慮も必要、なのか。
「ルカちゃんはさー、なんでそんなに魔法の研究? 好きなの?」
「……悪いか?」
「いや、ワルくはないんだけどさー。ほら、薬草学とか。公爵家だし、勉学とか? 他にもっとのめり込むモノもあったと思うからさ」
「そうだな……。恐らくだが。僕が、自分の価値をそこに見出していたのだろう。
黒持ちであるがゆえに、親元から離れたと思っていたから……。どこか、それに縋っていた部分もあるかもしれないな」
「ルカちゃん……」
「そうこうしている内に、自然と好きになったのだろうな。僕にも……よく分からない」
自分が自分であると実感するもの。
黒持ちで、魔力量も多く。
それで、生計を立てていくものだと自然とそう思っていた。
僕にとって、魔法とは。
自分が自分であると実感するものであり、自分が価値ある人間だと思わせてくれるものだ。
……でも。
(その研究を置いてまで、他人へと配慮したいという気持ち……)
まるで、こいつにとって、自分が価値ある人間であるかのようだ。
勝手に消えては困る存在。
仲間、というのはこうも──
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