最強魔術師、ルカの誤算~追放された元パーティーで全く合わなかった剣士職、別人と組んだら最強コンビな件~

蒼乃ロゼ

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メーレンスの旅 王都周辺

第七十五話 彼を知る

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「一応、パンのような軽めの食糧は収納魔法マジック・バッグに入れてきたが」
「えー!? やっぱさ、現地調達、これぞサバイバル! でしょ!」
「はぁ?」

 いつから目的が変わったんだ。僕たちは涙草とエドの素材を確保しに来たんだが。

「ほー、感心じゃわい。ヴァルっ子、良いところの坊ちゃんにも見えるがの」
「坊ちゃんはルカちゃんだよ~」
「~っ、誰が坊ちゃんだ!」

 エドも中々に鋭いものだ。
 しばし話し込んでいた僕たちは、野営の出来そうな場所を探した。
 
「……ところでエドの旅程は、それほど急ぎでもないのか?」

 ギルドで今後を話し合う際、流れで泊りがけの探索を提案したものの。
 快諾してくれたエドは、予定に狂いはないのだろうか。

「水神祭まで少し日はあるし、別にワシも依頼されて来とるワケじゃないからの」
「そうなのか?」
「へー。ボランティア?」
「ちゅーか、水瓶は昔グノのエクセリオンが贈ったもんじゃからな。
 後継のワシたちが気にかけるのも不思議じゃあるまいに」
「……? 昔から、交流があったのか?」

 現代に生きる僕らの認識は、この二十年。
 ゾゾ共和国との交流というのは、王の世代交代で実現したものと思っていたが……。
 その、土のエクセリオンとやらの単独行動だったのだろうか。

「んー、ワシも生まれとらん時代じゃからの。経緯は知らんが」
「これまでも、事前に見に来てくれていたのか?」
「グノのやつがな」
「ふむ」

 人知れず訪れていたという訳か。
 何分、師匠をはじめ僕や義兄上も王都が主な居住地だ。
 グランツ領のことは、そのほとんどを義父上にお任せしているからな……。

「──あ、あそこ良さげ!」
「ん?」

 先を行くヴァルハイトが、とある方向を指差しながらこちらを振り返る。

「良さそうじゃの」
「あぁ」

 木々がまるで見守るかのように一定の空間をあけて周囲に並んでいる。
 真っ暗になる前に拠点が見付かって一安心だ。

「川もあるー! おっさかなぁ!」
「うるさいぞ」

 木々を分け入ると、どうやら奥に小川だろうか。水場があるらしい。
 しかし、魔物をおびき出すことも目的とは言え、ヴァルハイトは相変わらずうるさい。

 高位ランクの冒険者は、こういった所で野営をする際。光の魔道具で結界を張るのだろうが。
 資金のない冒険者たちは、やはり交代で番をするのが一般的だろう。
 火や食料の香り、人の気配や声に誘われる魔物も少なくないはずだ。

 エドは拠点を見付けるとすぐに薪を集め始めた。どこか手慣れている。

「ねぇねぇ、ルカちゃん」
「? なんだ」

 木々の合間から顔を覗かせ、どこか楽しそうに言う。

「グリュンバードの串焼きとか、シェーン・メレで食べたような……香草? お魚焼く時に合いそうなヤツって、持ってる?」
「まぁ、ハーブの類いは多少持っているな」
「じゃぁ、ルカちゃんの調合の出番だね!」
「料理に使う目的で持ってきたのではないが……」

 しかし、マジック・ポーションにしろ、ハーブティーにしろ。
 魔力や疲労を回復することが目的とはいえ、まぁ、……口にするものではあるな。

「はぁ」
「イイじゃーん、また一つ特技が増えるね~♪」

(本当にこいつは前向きだな……)

 魔力を伴わないハーブに関しての知識は、師匠の足元にも及ばない。
 が、全くないとも言えない。多少役には立てるだろう。
 料理、……か。

「臭みを消す、清涼なものが良いのだろうか」
「ルカちゃんのセンスに任せた!」

 ふむ。街で食べた時は、どのような香りだったか。
 魚といえばディルが定番だが、しかし塩で味付けをするならば……。
 多少甘みのある香りも足した方が良いだろうか?
 むしろ、甘みのあるものか?

(魔法とは違うが……。これはこれで、面白いものだな)

 知見を得たことを、組み合わせ試す。その結果をもとに改良する。
 僕は、魔法は元より、研究や実験そのものが好きなのかもしれないな。
 まぁ、料理とはもっと大らかな気持ちで臨んでいいとは思うが。

「魚はどうやって獲る気なんだ?」

 森の中というのは、街中以上に暗闇が深い。
 時刻の割に、予想以上に互いに顔が見えづらくなってきた。
 僕もヴァルハイトも、掌に少量の炎を宿して会話する。

「オレ、手づかみって初めてなんだよねー。イけるかな?」
「手掴み? 何を言う、魔法を──」

(……いや、待てよ?)

 そこで、はたと気が付いた。

 僕であれば、生態系を壊さない程度に土で水を塞き止め魚をおびき出したり。
 水そのものを凍らせて、流れ自体を地面の上に向けるよう細工したり。
 全属性マスターであるがゆえに、何かをする上で『魔法を使う』という選択肢は幅広くある。

 しかし、ヴァルハイトはどうだ。戦闘において、今のところ彼に危ういところはない。
 忘れがちだが僕のサポート用である風の魔道具。それだけが唯一補った属性だ。
 エドの手前、光の属性は使えないだろうし。炎を川に使ったところで……何も起きないだろう。
 つまり、手掴みという方法は、この上なく正しい。

 他人に興味がないということは、相手の立場になって物事を考えられないということ。
 ──もし水魔法がなかったら。
 ──もし土魔法がなかったら。
 自分の置かれた状況とは違う時に、他人ならどうするのか。

(少し、自分本位過ぎたか)

 時間を共にする相手であれば、そういうところも考えねばならない……か。
 
「ふむ」

 命に関わる、戦闘に関することであれば属性についてすぐ様思い浮かぶが……。
 こう、日常の生活というのか。常日頃から、自分とは違うということを意識して、考えねばなるまい。

「? やっぱ手づかみ、ムズかしいかなー?」
「っ! あ、あぁ、そうだな。捕まえるのは、僕がやろう。お前は、炎で照らしてくれ」
「おー! やっぱ頼りになるなぁ♪」
「はぁ。魔法とは、もっと、こう……」

 しかし、相手の状況を理解するというのは、戦闘でも役立つことだろう。
 普段から心掛けておくのは、悪くないはずだ。


 ◇


「おいしー!」
「よかったのぉ」
「涙草を付け合せたのが良かったか」

 爽やかな芳香のディルと共に、納品依頼分より多めに摘んでいた涙草を少量すり潰して試みた。
 本来は乾燥させて行うものだろうが……、まぁこれも経験だ。
 水属性と相性の良い涙草は、文字通り水分が豊富なのだろう。
 すり潰せば、よりみずみずしく、粘り気も出てきた。しかし、香りはそこまで強くない。
 魚全体にはディルをまぶして焼き、アクセントとして頭部すぐ横。背中の一部分にだけ、食べる直前に涙草をつけてみた。

 水を蓄える性質だからだろうか。香りは強くないものの、味にほんのり甘みがありそれが塩気とちょうど良く合った。思っていたハーブの使い方とは違うが、まぁいいだろう。現地調達と言っていたし。

「やっぱエドの炎ってキレイだな~」
「そうかの?」
「……僕には、正直。違いが分からないが」

 エドが薪を集め火を点け、その周りを僕の土魔法で延焼を防ぐよう低い壁を作った焚火。囲う様に三人で地面に座る。
 魚を木の棒に刺して焼いた炎を、感心したようにヴァルハイトは見ている。

「ふつうはそうじゃろぉて! そこはほれ、ヴァルっ子が──」
「ぁ、あー! やっぱ、同じ火属性を持ってるとねー!」
「?」

(僕も一応、火属性は持っているが……)

 やはりというか、以前も考えた単属性シングルの方が一つの属性に対する精度は高いということだろうか。それとも、光の先天属性というのは魔眼に近い感知能力があるのだろうか?

「ほーーん?」
「アハハー」
「ふむ。僕もたまには火属性を使わないとだな。腕が鈍る」

 ヴァルハイトがいると楽が出来るものの、やはり僕のライフワークは魔法の研究。
 自分でも火属性は使わねばなるまい。
 相変わらず、光の魔法だけは閃かないが……。

「イーイ炎を見るとさ、体が疼くんだよね~」
「はぁ?」
「ワッハッハ! ワシにゃ分かるぞ」
「うーん……、ノってきた!」
「「?」」

 座っていたヴァルハイトは、おもむろに立ち上がる。
 かと思えばその長い、真っ赤な髪を高い位置で紐で結わえ。……剣を取り出した。

「な、何を──」
剣舞けんぶ、じゃな」
「?」
「ワシらのように、多種族で生活する国もあれば、同じ種族ながら住む地域で異なる民として、独自の文化を持つ者たちもおる。そういった者たちが祭礼や儀式において、各々披露する舞。その中でも、力を表す剣を用いる舞が、剣舞じゃ」
「ほう……」

 舞、か。
 メーレンスでいうところの、ダンス。舞踏。それにあたるのだろうが。
 それらの主な目的は交流だろう。力、まして、剣を用いた舞は初めて見受ける。
 祭礼や儀式という点では、魔法や魔道具を用いるのが一般的だ。

「本来は、対の剣で舞われる演目じゃな」
「……詳しいのだな」
「まぁ、お前さんよりは長く生きとるからのぉ」
「それも、そうか」

 ルーシェントの舞、なのだろうか?

 先ほどまでいつもの調子だったヴァルハイトは、どこか真剣な眼差しで剣を見る。
 そして目の前に掲げた後、機敏で、大胆に舞った。

「剣の舞には、武術の姿勢、型も盛り込まれておる。まるで戦うように舞うそれは、柔軟で、かつ俊敏。
 最近のもんは、芸術というのか……。雅さを重視して徐々に変化しとるが。あれは、伝統的な宮廷舞踊じゃな」
「なるほど」

 ルーシェント王家の彼ならば、そういった側面もあるだろうな。

 剣を目の前に勢いよく突き出した。かと思えば、それをゆったり、弧を描くように真後ろに反転させる。
 目の前で手を交差し、今度はそれを大きく広げ、力強い何かを象徴しているかのようだ。

 舞、というだけある。

 普段の騎士のような手さばきだけでなく、脚を大胆に身に寄せたり、大きくステップを踏んだり。
 中々見れないそれは、確かに戦いの中にある舞と言えるだろう。

 炎を見ると気分が高揚する、というのは彼や鍛冶で火に親しむドワーフにしかない感覚だろうが。
 ヴァルハイトの、まだ知らない何かの一端を見れたような気がした。 

(その舞は、何に。……誰に、捧げているのだろうか)

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