うさぎガチ勢の引きこもり魔導師は、今日もうさぎさんのために伝説を残す~なに?寝床が寒い?ならばコカトリスの羽毛で巣作りだ!~

蒼乃ロゼ

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三十二羽 美しき刃②

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「──っ!」

 ミララクラの臨戦態勢を受け、マトバは即座に行動する。

「ハッ!」
「ふん」

 両手で握りしめた刀剣を振り下ろす。
 それをミララクラは、いとも容易く片手で受けた。

 はじき返すとマトバは切っ先を地面へと向ける。
 下からの斬り上げ────を狙うと見せかけ、素早く左手のみに握り直すと、水平へと横薙ぎにした。

「甘い」
「っ」

 キン、と冷たい音は氷剣で受けるまでもない。
 彼女のその腕に巻かれた、氷の籠手こてで阻んだ音だ。

「ふんっ」
「くっ……!」

 ミララクラが振り払えば、マトバの眼前に氷刃が迫る。
 突き出されたそれは恐ろしい速さで繰り出され、マトバは受け止める間もなく体ごと避けた。

 空気を斬る音と刃がせめぎ合うが、しばし空間を支配する。
 時折魔法を交えつつも、互いが最も得意とする剣技にて勝敗を決しようとした。

 剣技に優れる魔族として名高い二人。
 その縦横無尽に振るわれた剣筋は、人間の眼には中々捉えられないものだろう。

「……ちょっと、これじゃあ前とちっとも変わらないじゃない」
「……」

 ミララクラとマトバは、かつて剣を交えた時のことを思い出した。

「なら、趣向を変えましょう」
「? なにを──」

 ミララクラは、かつて同族に見せたことのない戦法をとる。
 手元の氷剣が結晶に戻ると、それらは三体のミララクラを造り出した。

「!?」
「どれが本物か、当ててみて?」

 いたずらに微笑むミララクラ。

「馬鹿な、そんなもの……」

 答えは一つ。ずっと初めから佇む彼女だけ。
 そう言いかけた時、周囲の景色が一変した。

「! こ、これは」
「わたくしの氷晶は、望むものを映し出す」

 氷のドーム。
 大きな氷晶が、まるでガラス板のように張り巡らされ二人を覆いつくし、表面にはカルナシオンや炎竜ら下僕たちと過ごす彼女の姿が映し出された。

「だったら、自分の心がこの想い出たちのどこにあっても……おかしくはないんじゃない?」

 マトバが気付いた時には遅かった。
 周りに映し出された、想い出の中のミララクラ。
 それらが四体のミララクラと反響し合い、異なる時期の彼女の姿となった。
 ある者は氷装を解いた姿。
 ある者は髪を二つに結った姿。
 またある者は、なぜか薄着だ。

「……!」
「さ、当ててみて」

 挑発するミララクラ。

「ならば──」

 マトバは、自分が近寄る隙に彼女が仕掛けてくると思った。
 ならばと集中し、一度さやへ刀剣を納める。

「──!」

 刀身が姿を現すと同時。
 刃にまとわせた風の魔法は、その抜刀の勢いに任せ二体のミララクラを切り裂いた。

「……」

 風の刃が触れた瞬間、元の氷塊と化したそれらはガラガラと音を立て崩れ去る。

「あーら、残念」

 残った二体のミララクラはせせら笑う。

「……」

 マトバは理解していた。
 ミララクラは、刃が届くと同時に周りの氷板に己の望む姿とやらを映し出し、残った二体に再び自我を戻したのだと。
 つまり、反響し合う氷があるのがいけない。
 そう理解していた。

「……なれば」

 自分の取るべき行動は、一つだけ。
 マトバは再び刀身を納める。

「もうおわり?」

 つまんなーい、と言うミララクラに構うこともなく、マトバは再び抜いた。

「──すべてを、斬る!!」
「!」

 それは魔力をも鞘に納める、彼らしい戦法だった。
 抜き出た刀身は暴風を呼び、辺りを逆巻くと周囲を覆う氷板もろともにミララクラを飲む。

「これで──」

 ──決す

 そう信じかけたマトバ。
 だが彼は一つ見落としていた。
 この暴風吹き荒れる一帯において、最も安全な場所を。

「──やあねぇ、お馬鹿さんだこと。正解は──どれを攻撃しても、は・ず・れ」
「!?」
「だって、自分のことは攻撃できないもの……ねぇ?」

 真後ろから聞こえたそれ。
 そんなバカなと振り返る間もなく氷の装具も相まって鋭い蹴りを横から浴びた。

「ぐぁっ──」
「もぉ、油断しちゃダメじゃない。あんた、わたくしの痕跡どこで見付けたと思ってるの?」

 地面に仰向けになったマトバを、ヒールで踏みつけるミララクラ。
 足に込めた力は、容赦のないものだ。

「っ! まさか」

 ミララクラはドームを出現させた一瞬の隙を見計らい、気の逸れたマトバの肩に小さな氷晶を忍ばせたのだった。

「あなたの剣閃、たしかに美しいわね……懐かしい。わたくしにも、美しさとは強さのみがもたらすと考えていた時期があったわ」

 ぐっと更に足へと力を込める。

「でも……ざぁんねん。今も昔もわたくしの方が──遥かに美しくてよ」

 言うと、マトバによって砕かれたすべての氷。
 それらが地面より浮き上がり一定の大きさへとまとまると、マトバへと狙いを定めるツララのようになる。それは例えるなら、無数の剣だ。

「なっ!?」
「一つ一つは小さくとも、集えば大事を成す……それが、氷晶の力よ。……ああ、最近は人間にもそんなところがあると思うようになったわね。わたくしからすれば、些細なことだけれど。そして集うってのは、何も凝固するって意味だけじゃないのよ? 我が氷剣は、折れてなお千剣に値す…………ね? わたくしの方が、美しいでしょう」

 勝ち誇った顔でマトバを見下ろすミララクラ。

「今度は……左目ね」

 かつて自分が斬った方とは反対の眼。
 そこに狙いを定める。

「…………、見事なり」

 マトバは最期に、超えるべき者であったはずの彼女が、更なる高みに達したことを見届けた。


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