31 / 40
三十一羽 美しき刃①
しおりを挟む「──!」
「はあ? いきなり何よ、うるさいわねぇ」
マトバが刃を振りかざした先には、自身をも映し出す氷の剣があった。
「わたくし、ちょっと機嫌がわるいの。冗談なら受け付けないわよ」
氷晶を凝縮した刃。
再びそれを欠片へと戻すと、手元にはまるで元々何もなかったかのように消えた。
「もちろん冗談ではない。某は、凍晶妃──貴殿へと勝負を申し込みたいのだ!」
「いやよ。服が汚れるじゃない」
即答するミララクラ。
始まってもない恋路を邪魔され気が立っているものの、その心は一刻も早くカルナシオンの元へ向かいたいのであった。
「だいたい、いきなり押し掛けてなんなわけ? 相手の迷惑を考えたらどう?」
自らの行いを省みることができないのが、彼女とカルナシオンを別つ原因なのかもしれない。
「……竜王の一角、『創炎』の名を冠する炎竜に挑んだとか」
「ああ、あいつ? まあね」
「ふむ、やはり。……生還しているのは、さすがと言うべきか」
「生還っていうか……」
ミララクラは、二人してカルナシオンにボコされた時のことを思い出す。
「人間との大戦もない今、高みに挑むとは竜王のような存在に挑むことに他ならない。某は一介の武人として、貴殿の挑戦に深く感銘を受けた」
「あらそう。勝手に感銘とやらを受ければいいじゃない」
「その魔族たる姿、近年はなかなか見られぬものとなった。……某は、誠に残念に思う」
「……ふぅん?」
ミララクラは、確かについ最近まで同様のことを思っていた。
マトバの言い分も分からないでもないと感じる。
「……でも、わたくしと刃を交えたからといって、現状がどうなるわけでもないわ」
「そのとおりではある。だが、──分かるだろう?」
きん、と一度刀を鞘に納めるマトバ。
しかしその眼に滾る闘志は、いぜん熱く燃やしたままだ。
「高みを目指すことこそ、我らの……武人の性なり!」
「……はあ」
仕方ない、と言いたげにため息をつくと、ミララクラは自分の背後に氷塊を作り出した。
「……美しさって、いろいろあると思わない?」
「?」
「あなたにとって美しさとは──強さなのね」
「左様。そして、それは貴殿も同じこと」
「……仕方ないわねぇ、……新たな一面──見せてあげる!」
ミララクラは人間であるカルナシオンと出会って、初めて知った。
圧倒的な力量差を前にした時の絶望。それを映し出す自分の顔。
かつて、強さこそ美しさであると信じていたミララクラは、今の姿からは想像もできないほど感情を表さない者だった。
喜怒哀楽。それすらも手元を狂わせ、自らが思い描く剣閃の邪魔になると。
氷のように澄んだ無我の境地へと至り、『自分』という存在を決して折れることのない刃に例えていた。
「はあ、これって結構疲れるのよね」
ミララクラは、くるりと回り氷塊に自分を映し出す。
そこにはいつもの自分の姿。
喜び、悲しみ、怒り、悲しむこともある、武を極めた魔族とは思えない自分の姿。
「氷はたしかに砕け散る……けれど、また何度だって集えるの」
言うと、ミララクラの全身が目の前の氷塊と同じものに包まれた。
「!」
「──よって、我が氷剣は誰にも折られぬ刃となる」
ミララクラはカルナシオンに敗れたあと、一つ気付いたことがあった。
それは、絶対に折れない刃を目指していた頃とは違う柔の気質を持つ。
『折られても、また研ぎ澄ませばいい』。
それは、自分が負けることなど考えない魔族らしからぬ考え方だった。
カルナシオンは自分や炎竜を生かした。
そして炎竜との再戦を、条件付きではあるが許している。
絶対の力を持つ者は、敗者に再戦の機会をも与えるらしいのだ。
「さあ、はじめましょう?」
氷塊は砕け、彼女に集う。
柔らかな青色の髪は氷のかんざしに結い上げられ。
晒していた肩や足には氷の装具。
右手には、まるで水晶で出来たかのように透き通る氷剣。
そして何より、頭部には前へと伸びる黒い両角が現れた。
「──絶冰鬼ミララクラ、参る」
かつてのその姿。
階名を『凍晶妃』、通り名を『絶冰鬼』。
一切の感情を排していたはずのその姿は、今や戦いを前にしても笑むほどの余裕を湛える。
氷のように閉ざしていた心は、炎竜よりもさらに猛き炎により溶かされていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる