異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

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執事デーとメイドデー

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 結局「執事デー」は週初め、「メイドデー」は週末に実施することが決まった。

 うう、今から気が重い。どうして私は執事デーなんて提案してしまったのか。自分にも火の粉が降りかかるだなんて思いもせずに。

 やっぱりメイドというからには「萌え萌えきゅん」とか言うのかな? 
 いやいや、まさかそんなところまで元の世界を真似なくても良いはず……!

 それにしてもクロードさんによるメイド養成講座が厳しい。おじぎひとつとっても

「頭を下げる角度はもっと深く」

 などと指導してくる。「そんなに難しくない」という言葉はなんだったのか。

 そうして指導を受けているうちに、とうとう「執事デー」の日が訪れた。
 私は開店前にお店の前に小さなイーゼルを置き、「本日執事デー」と書かれた黒板をたてかける。
 さて、クロードさんのお手並み拝見といこうか。なんて、上から目線のことを思ったりしたり。

 そしてついに本日最初のお客様が現れた。
 燕尾服を着て、手袋まで装備した、いかにも「執事!」という装いのクロードさんが

「おかえりなさいませ。お嬢様」

 などと、なんでもない事のように女性客2人を出迎える。むしろお客様のほうが顔を見合わせて困惑しているようだ。
 それはそうだろうなあ。いきなり執事的対応をされても、どうしていいかわからないだろう。
 それを感じ取ったのか、すかさずクロードさんがお客様を席まで案内する。

「本日は私が執事としてお嬢様方をおもてなしいたします。執事デーですから」

 などという説明までしながら。
 それでお客様も趣旨を理解したようだ。小声で「かっこいい」などと囁きあっている。
 それにしてもクロードさんも照れる事なく実に堂々としている。はー、私もあんな風にできるかなあ……今から不安。


 ◇◇◇◇◇


 それから3日後。
 休憩時間に、私はミーシャ君と共に近くのカフェにいた。スノーダンプの利益を受け取るため。なんだかどんどんお金の量が増えているみたいだけど、気のせいかな……?

 それにしても――
 どうしよう、ついに明日は問題のメイドデーだ。考えるだけでため息も漏れるというものだ。

「……キさん、あの、ユキさん」

 ミーシャくんの呼び声に、物思いから引き戻された。目の前には心なしか不安そうなミーシャ君。

「大丈夫? どこか具合でも悪いの? それとも、僕と話すのがつまらなかったりする?」

 おう。私がぼんやりしているせいで、あらぬ誤解を与えてしまったようだ。慌ててかぶりを振る。

「ち、違うの。実はその、明日の業務がちょっと特殊で、気が乗らないっていうか……ごめんね。そのせいで上の空だったんだ」
「特殊な業務?」
「う、うん……これ以上は秘密で」
「ええー、気になるなあ。そういえば僕、ユキさんの食堂の料理って食べた事ないなあ。せっかくだから行ってみようかな」

 まずい。ミーシャ君が興味を示している。

「いや、でも、私の業務なんてそんな大したものじゃないから。来るなら明日より明後日のほうが良いよ。断然」
「ふうん。よくわからないけど、そういうものなの?」
「そういうものなの!」

 強引にメイドデーに関する話題を打ち切って、私はお茶で喉を潤す。
 その間に時計を確認したミーシャ君は

「あ、僕もう行かないと。それじゃあユキさん、明日の業務頑張ってね」

 慌ただしくカフェを出て行った。
 いやー、危なかった。もう少しでメイドデーの事がバレるところだった。
 とりあえずは安堵したが、明日の事を思うと憂鬱な気分が蘇ってくる。
 あー、もう落ちつかない。こういう時はケーキでも食べて気を紛らわそう。
 と、メニューに手を伸ばした。
 

 ◇◇◇◇◇


 そしてついに、ついに訪れてしまった。問題のメイドデーが。
「本日メイドデー」の黒板を店頭に置いてから、お客様の来訪を待つ。
 あー、緊張する。
 
「ユキさん、そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。教えた通りにやれば十分です」

 クロードさんがそんな言葉をかけてくれる。なんという気遣い紳士。どこからかメイド服まで調達してきたし。
 はー、ここはもう覚悟を決めるしかないのか。

 その時、出入り口のドアが開いた。
 言えユキ。言うんだあのセリフを!

「おかえりなさいませにゃん、ご主人さみゃ」

 やばい。噛んだ。
 おそるおそる顔を上げると、なんとそこにはミーシャ君。他にも同じ工房で顔を見かけた先輩達。
 な、なんでミーシャ君がここに!? 昨日あれほど忠告したのに!

「ユキさん、これって一体……」

 ミーシャ君に問われても、混乱して言葉も出ない私を見てか

「本日は彼女がメイドとしてご主人様方をおもてなしいたします。メイドデーですから。さあ、ユキさん、ご主人様方をご案内して差し上げてください」

 クロードさんが素早くフォローに入ってくれた。
 私もそれでなんとか正気を取り戻す。

「こ、こ、こちらにどうぞにゃん、ご主人様」

 うわあああ! なんだこの羞恥プレイは! もう死にたい……
 赤の他人相手ならまだ我慢できる。けど、知り合いの前でこんな事、こんな事……! ああ、もう床を転げ回りたい! 無かったことにしたい! 神様、どうか時を戻してください!

 私の心の叫びも虚しく、結局は決められた通りに接客していくほかない。

「お待たせいたしましたにゃん。『妖精の森の秋の収穫祭』ですにゃん」

 もうやだ。

 しかし最初の衝撃があまりにも強かったせいか、その後訪れたお客様への対応は、割とうまくできたような気がする。
 開き直ったとも言うが。

 ミーシャ君が帰り際に

「ユキさん。その服とっても似合ってるよ。また来ても良いかな? メイドデーに」

 うん、もう見られたくないものを見られちゃったしな……これ以上恥じることもない。

「もちろんですにゃん。お待ちしてますにゃん。ご主人様」

 メイドになりきって見送ったのだった。

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