41 / 104
トランプのゆくえ
しおりを挟む
銀のうさぎ亭2号店へ戻って裁判の結果を報告すると
「よくやった」
レオンさんがわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
クロードさんに至っては
「ささやかですが勝利を記念して」
と、自らの休憩時間に、わざわざケーキを買ってきてくれた。
各々でケーキをつつきながら、私は裁判の詳しい様子を説明する。
「ふーん、それじゃお前と組んでトランプを作ったっていうその画家が、見事真実を証明してみせたと。て事はネコ子、お前はほとんど何もしてねえじゃねえか」
「……そういう事になるんですかね。えへへえへへ」
フォークをくるくると回すレオンさんの追求を、笑ってごまかす。
「まあ、良いじゃありませんか。勝訴した事は事実なんですから」
クロードさんがやんわりと割って入ってくれた。さすが気遣い紳士。
ともあれ、二人の心遣いに感謝しつつ、フォークに刺したフルーツを口に含んだ。
◇◇◇◇◇
さて、業界第2位の玩具会社にトランプを売り込むなどと宣言したものの、私達がトランプを独占して販売できるという権利はない。
スノーダンプや「乙女の秘めたる想い」のように、他者が作りたいと思えば、それを止めさせるなどという強制力は無いのだ。
ただベルーネル商会は、花咲きさんが考案した図案までもそのまま無断で使用したために、悪質だと判断され、ペナルティの意味も込めてあのような判決が下ったらしい。
だから、もしかすると既にオリジナルのトランプ製作に着手している玩具会社があるかもしれない。
私達の作ったトランプは、もう日の目を見る事はないかもしれない。
なんて思っていたのだが……
「黒猫娘、いいところに来たな。お前もこちらに来い」
お休みの日に花咲きさんのお宅を訪れると、見知らぬ男性が二人。
お客さんかな?
戸惑う私に、花咲きさんは男性たちを手で示す。
「こちらは玩具を扱う店『ヒヨコとアヒル』の方々だ。我々の作ったあのトランプに興味があるそうだ」
な、なんだってー! ほ、ほんとに? ほんとに?
私の疑問に答えるように、2人のうち年かさの方の男性が口を開く。
「あの裁判を傍聴させて頂きました。いやあ、実に胸がすく思いでしたよ。ベルーネル商会のやり方には我々も苦慮していましたからね。あの裁判をきっかけに、過去にもあなた方のような被害に合った者も多かった事が判明して、ベルーネル商会は色々と大変な事になってるそうですよ」
そんな悪徳企業だったとは。花咲きさんの機転が無ければどうなっていたことやら……。
「それで、もしお二人がよろしければ、あのトランプをそのまま我が社で製造、販売させて頂きたいのです。勿論発案料はお支払いしますよ」
男性の話を聞き終えた花咲きさんは、私を見る。
「悪くない話だと思うが、どうする? お前の好きにしろ」
もちろん悪くない。悪くないどころか望むところだ。
でも――
「ほんとに私の好きにしちゃっていいんですか?」
私の確認に、花咲きさんは頷く。
それじゃあ……
「トランプの売り上げの四分を私達が頂くというのはどうでしょう」
それを聞いた2人の男性は、こちらに背を向けて少しの間何事か話し合っていたが、やがてこちらを向くと口を開く。
「わかりました。その条件で契約しましょう」
今度はちゃんと契約内容を書面に記し、サインしたのち、「ヒヨコとアヒル」の男性たちは帰っていった。
「やりましたね花咲きさん! 今度こそ私達のトランプが正当な条件で世に出るんですよ!」
興奮する私とは裏腹に、花咲きさんは何故か浮かない顔だ。
「しかし、自分の名前が入った図案のカードが世に出回るというのも……なんというか、気まずいな。あの裁判さえ無ければ、誰にも気づかれなかったであろうものを」
そういえばそうだった。あのトランプのスペードとハートのエースには、私達の名前がさりげなく入っていたんだった。
「先ほどの二人がな、あの名前入りの図案はベルーネル商会という巨悪を打ち倒した証であるから、そのままが良いと言うのだ」
なるほど。
「先方がそう言ってくださるならいいじゃないですか。花咲きさんの良い宣伝にもなるかもしれないし。それを介してお仕事増えると良いですね」
「そんな事がありえるだろうか……」
なんだか自信なさげな花咲きさんに、私は持ってきた箱を差し出す。
「勝利のお祝いにと思って、ケーキを買ってきたんですよ。新しいトランプ製造元も決まった事だし、一緒に食べましょう」
花咲きさんは暫く箱を見つめていたが、
「その前に……」
と口を開く。
あ、まさかこれは……
「カツサンド……」
やっぱり。ケーキは少しの間お預けだ。
それを想定して買ってきた豚肉とパンと共に、私はお台所へ向かうのだった
「よくやった」
レオンさんがわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
クロードさんに至っては
「ささやかですが勝利を記念して」
と、自らの休憩時間に、わざわざケーキを買ってきてくれた。
各々でケーキをつつきながら、私は裁判の詳しい様子を説明する。
「ふーん、それじゃお前と組んでトランプを作ったっていうその画家が、見事真実を証明してみせたと。て事はネコ子、お前はほとんど何もしてねえじゃねえか」
「……そういう事になるんですかね。えへへえへへ」
フォークをくるくると回すレオンさんの追求を、笑ってごまかす。
「まあ、良いじゃありませんか。勝訴した事は事実なんですから」
クロードさんがやんわりと割って入ってくれた。さすが気遣い紳士。
ともあれ、二人の心遣いに感謝しつつ、フォークに刺したフルーツを口に含んだ。
◇◇◇◇◇
さて、業界第2位の玩具会社にトランプを売り込むなどと宣言したものの、私達がトランプを独占して販売できるという権利はない。
スノーダンプや「乙女の秘めたる想い」のように、他者が作りたいと思えば、それを止めさせるなどという強制力は無いのだ。
ただベルーネル商会は、花咲きさんが考案した図案までもそのまま無断で使用したために、悪質だと判断され、ペナルティの意味も込めてあのような判決が下ったらしい。
だから、もしかすると既にオリジナルのトランプ製作に着手している玩具会社があるかもしれない。
私達の作ったトランプは、もう日の目を見る事はないかもしれない。
なんて思っていたのだが……
「黒猫娘、いいところに来たな。お前もこちらに来い」
お休みの日に花咲きさんのお宅を訪れると、見知らぬ男性が二人。
お客さんかな?
戸惑う私に、花咲きさんは男性たちを手で示す。
「こちらは玩具を扱う店『ヒヨコとアヒル』の方々だ。我々の作ったあのトランプに興味があるそうだ」
な、なんだってー! ほ、ほんとに? ほんとに?
私の疑問に答えるように、2人のうち年かさの方の男性が口を開く。
「あの裁判を傍聴させて頂きました。いやあ、実に胸がすく思いでしたよ。ベルーネル商会のやり方には我々も苦慮していましたからね。あの裁判をきっかけに、過去にもあなた方のような被害に合った者も多かった事が判明して、ベルーネル商会は色々と大変な事になってるそうですよ」
そんな悪徳企業だったとは。花咲きさんの機転が無ければどうなっていたことやら……。
「それで、もしお二人がよろしければ、あのトランプをそのまま我が社で製造、販売させて頂きたいのです。勿論発案料はお支払いしますよ」
男性の話を聞き終えた花咲きさんは、私を見る。
「悪くない話だと思うが、どうする? お前の好きにしろ」
もちろん悪くない。悪くないどころか望むところだ。
でも――
「ほんとに私の好きにしちゃっていいんですか?」
私の確認に、花咲きさんは頷く。
それじゃあ……
「トランプの売り上げの四分を私達が頂くというのはどうでしょう」
それを聞いた2人の男性は、こちらに背を向けて少しの間何事か話し合っていたが、やがてこちらを向くと口を開く。
「わかりました。その条件で契約しましょう」
今度はちゃんと契約内容を書面に記し、サインしたのち、「ヒヨコとアヒル」の男性たちは帰っていった。
「やりましたね花咲きさん! 今度こそ私達のトランプが正当な条件で世に出るんですよ!」
興奮する私とは裏腹に、花咲きさんは何故か浮かない顔だ。
「しかし、自分の名前が入った図案のカードが世に出回るというのも……なんというか、気まずいな。あの裁判さえ無ければ、誰にも気づかれなかったであろうものを」
そういえばそうだった。あのトランプのスペードとハートのエースには、私達の名前がさりげなく入っていたんだった。
「先ほどの二人がな、あの名前入りの図案はベルーネル商会という巨悪を打ち倒した証であるから、そのままが良いと言うのだ」
なるほど。
「先方がそう言ってくださるならいいじゃないですか。花咲きさんの良い宣伝にもなるかもしれないし。それを介してお仕事増えると良いですね」
「そんな事がありえるだろうか……」
なんだか自信なさげな花咲きさんに、私は持ってきた箱を差し出す。
「勝利のお祝いにと思って、ケーキを買ってきたんですよ。新しいトランプ製造元も決まった事だし、一緒に食べましょう」
花咲きさんは暫く箱を見つめていたが、
「その前に……」
と口を開く。
あ、まさかこれは……
「カツサンド……」
やっぱり。ケーキは少しの間お預けだ。
それを想定して買ってきた豚肉とパンと共に、私はお台所へ向かうのだった
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる