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レオンさんの悩み
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「なあお前ら、俺の料理ってその……まずいと思うか?」
閉店後の店内で、レオンさんが突然そんなことを言い出した。
見ればちょっと落ち込んでるようにも感じる。
一体どうしたというんだろう。少々不審に思いながらも
「そんな事ないですよ。賄いだってとっても美味しいし」
流石にマスターにはまだ少し敵わないけど……などと思いながら普通に答えると
「私もユキさんに同意します。今日のリゾットも大変美味でしたよ」
クロードさんも追随する。
「それならなんで……」
レオンさんは俯く。
「なんで料理を残す客がいるんだ?」
「……言われてみれば」
思い返せば、時々だが、料理を残すお客様がいる。
半分くらいだったり、それより少なかったりと、量はバラバラだが。
レオンさんはそれを気にしているみたいだ。
なんでだろう。レオンさんの料理だって美味しいのに。
「今度知り合いが来たら、それとなく尋ねてみましょうか?」
「! 頼まれてくれるか!?」
勢いよく顔を上げるレオンさんに、私は頷いてみせる。
「ていうかネコ子、お前、知り合いとかいたんだな」
失礼だな。私にだって知り合いの一人や二人……ミーシャ君とか、あと、花咲きさんとか……それから、ええと、それから……………
やめよう。悲しくなってきた……
◇◇◇◇◇
その機会は意外と早く訪れた。
ミーシャ君がランチタイムに来てくれたのだ。
しかもよりによって執事&メイドデーの日に。
ミーシャ君は食事を終えると
「ユキさん、お金ここに置いておくね」
「はい、ありがとうございますにゃん、ご主人様。いってらっしゃいませ」
見送った後に、食器を片付けようとした時、ミーシャ君の食器に半分ほどの食事が残っているのに気づいた。
ミーシャ君、ごはん残してる。
はっと出入り口に目を向けるも、既にミーシャ君の姿は無かった。
◇◇◇◇◇
休憩時間。
私はミーシャ君の働く工房を訪れる。
彼がご飯を残した理由を知るために。
「あ、ユキさん、いらっしゃい」
屈託のない笑顔を浮かべるミーシャ君は、いつもと変わらないように見える。
「今日はなんのご用ですか?」
「あ、ええと、別にお仕事の話じゃないんだけど……」
とは言いながらも、お店の隅のテーブルでお茶を出してもらう。
その間にもミーシャ君の先輩達から
「ようメイドさん。今日もにゃんにゃん言ってたのか?」
などとからかわれる。ぐぬぬ、屈辱だ……。
「それでユキさん、用事って?」
私は出されたお茶を一口飲むと、思い切って口を開く。
「ミーシャ君、今日のランチ残してたけど、うちのお店のお料理、どこか気に入らなかったりした……?」
ミーシャ君はきょとんとしていたが、しばらくして気まずそうに目を逸らした。
「あー……ごめんね、せっかくの料理を残しちゃったりして。でも、まずいなんて事はないよ。これは本当。ただちょっと、昼休みが終わりそうだったから仕方なく……」
「え」
そんな理由で?
いや、でも私も元の世界にいた頃は一応お昼休みを守っていたし。こういう職場だとそういう事にも厳しいのかも。
「でも、それだったら無理して来てくれなくても良かったのに」
「それは、ユキさんのメイド姿が……いや、あのお店の料理がどうしても食べたくて……でも、入店するまでに結構並ぶだろ? だから食べる時間がなくなっちゃって……まさかそれを聞きに来たの?」
私は苦笑いしながら頷く。
「ごめんね。うちの料理人がね、お客様が料理を残してる事を気にしちゃって……原因を知りたかったんだ」
「そこまで? 悪いことしちゃったなあ。お店も結構並ばないと入れないから、余計食べる時間がなくなっちゃうんだよね」
なるほど。そういうわけか。
「ありがとうミーシャ君。そういう事だったんだね。お店のみんなと話してなんとか対策立てるよ。だから、できれば残さないでもらえると嬉しいな。うちの料理人が落ち込んじゃうから。それじゃあもう行くね。お仕事中邪魔してごめん」
「うん。またお店に行くからね」
「その時は、残しちゃだめだよ?」
「う、うん……がんばる」
◇◇◇◇◇
お店に帰った私は、さっそくレオンさん達に説明する。
「……というわけだったらしいですよ。時間が無くて食べきれなかったって」
私の話を聞いて、レオンさんは顎に手をやる。
「確かに、あの時間帯は一番混むからな。並んでやっと入店した客が食いきれねえってのも納得できる。なんかいい方法はねえもんかな……」
それを聞いて私は手を挙げる。
「はいっ! はいっ!」
「なんだネコ子」
「はい。ここはお弁当を販売するというのはどうでしょう? このお店のお料理を食べたいというお客様の要望を満たせると思うんですけど」
「弁当か……それもありか?」
レオンさんが思案顔で首をひねっていると、クロードさんが手を挙げた。
「恐縮ですが申し上げます。私はそれでは解決しないと考えております」
「え? どういう事ですか?」
思わぬ意見に瞬きを返す私に、クロードさんは続ける。
「私が見た限り、食事を残しているお客様は、大抵『執事&メイドデー』にいらっしゃる方々のように思われます。つまり、料理を残す事が予想できても、並んでまで執事やメイドに接客されたいという方々。そのような方が弁当で満足できるでしょうか? いや、できるはずがありません!」
クロードさんの力説に、私とレオンさんは取り残されたように黙り込む。
でも、確かにそうだ。ミーシャ君がごはんを残した時も「執事&メイドデー」だった。ていうか、ミーシャ君て執事とメイドが好きなのかな……?
「なら、どうしろってんだ?」
レオンさんがクロードさんに問う。
「そうですね。執事とメイド目当てのお客様がゆっくり食事できる環境を整える。例えば開店時間を1時間早めるだとか。そうすれば行列も早い時間に解消されて、お昼休みという限られた食事時間しかないお客様もゆったり食事できるのではないでしょうか?」
なるほど。クロードさんの言う事も納得できる。
でも、そうするとレオンさんの睡眠時間が減ってしまう。いつも朝まで仕込みをして、それから開店時間まで休んでいるというのに。
でも、それを決めるのはレオンさんだ。私達は黙って俯くレオンさんを見つめる。
やがて顔を上げたレオンさんの瞳には、覚悟の色がうかんでいた。
「わかった。『執事&メイドデー』の日は開店時間を1時間早める」
閉店後の店内で、レオンさんが突然そんなことを言い出した。
見ればちょっと落ち込んでるようにも感じる。
一体どうしたというんだろう。少々不審に思いながらも
「そんな事ないですよ。賄いだってとっても美味しいし」
流石にマスターにはまだ少し敵わないけど……などと思いながら普通に答えると
「私もユキさんに同意します。今日のリゾットも大変美味でしたよ」
クロードさんも追随する。
「それならなんで……」
レオンさんは俯く。
「なんで料理を残す客がいるんだ?」
「……言われてみれば」
思い返せば、時々だが、料理を残すお客様がいる。
半分くらいだったり、それより少なかったりと、量はバラバラだが。
レオンさんはそれを気にしているみたいだ。
なんでだろう。レオンさんの料理だって美味しいのに。
「今度知り合いが来たら、それとなく尋ねてみましょうか?」
「! 頼まれてくれるか!?」
勢いよく顔を上げるレオンさんに、私は頷いてみせる。
「ていうかネコ子、お前、知り合いとかいたんだな」
失礼だな。私にだって知り合いの一人や二人……ミーシャ君とか、あと、花咲きさんとか……それから、ええと、それから……………
やめよう。悲しくなってきた……
◇◇◇◇◇
その機会は意外と早く訪れた。
ミーシャ君がランチタイムに来てくれたのだ。
しかもよりによって執事&メイドデーの日に。
ミーシャ君は食事を終えると
「ユキさん、お金ここに置いておくね」
「はい、ありがとうございますにゃん、ご主人様。いってらっしゃいませ」
見送った後に、食器を片付けようとした時、ミーシャ君の食器に半分ほどの食事が残っているのに気づいた。
ミーシャ君、ごはん残してる。
はっと出入り口に目を向けるも、既にミーシャ君の姿は無かった。
◇◇◇◇◇
休憩時間。
私はミーシャ君の働く工房を訪れる。
彼がご飯を残した理由を知るために。
「あ、ユキさん、いらっしゃい」
屈託のない笑顔を浮かべるミーシャ君は、いつもと変わらないように見える。
「今日はなんのご用ですか?」
「あ、ええと、別にお仕事の話じゃないんだけど……」
とは言いながらも、お店の隅のテーブルでお茶を出してもらう。
その間にもミーシャ君の先輩達から
「ようメイドさん。今日もにゃんにゃん言ってたのか?」
などとからかわれる。ぐぬぬ、屈辱だ……。
「それでユキさん、用事って?」
私は出されたお茶を一口飲むと、思い切って口を開く。
「ミーシャ君、今日のランチ残してたけど、うちのお店のお料理、どこか気に入らなかったりした……?」
ミーシャ君はきょとんとしていたが、しばらくして気まずそうに目を逸らした。
「あー……ごめんね、せっかくの料理を残しちゃったりして。でも、まずいなんて事はないよ。これは本当。ただちょっと、昼休みが終わりそうだったから仕方なく……」
「え」
そんな理由で?
いや、でも私も元の世界にいた頃は一応お昼休みを守っていたし。こういう職場だとそういう事にも厳しいのかも。
「でも、それだったら無理して来てくれなくても良かったのに」
「それは、ユキさんのメイド姿が……いや、あのお店の料理がどうしても食べたくて……でも、入店するまでに結構並ぶだろ? だから食べる時間がなくなっちゃって……まさかそれを聞きに来たの?」
私は苦笑いしながら頷く。
「ごめんね。うちの料理人がね、お客様が料理を残してる事を気にしちゃって……原因を知りたかったんだ」
「そこまで? 悪いことしちゃったなあ。お店も結構並ばないと入れないから、余計食べる時間がなくなっちゃうんだよね」
なるほど。そういうわけか。
「ありがとうミーシャ君。そういう事だったんだね。お店のみんなと話してなんとか対策立てるよ。だから、できれば残さないでもらえると嬉しいな。うちの料理人が落ち込んじゃうから。それじゃあもう行くね。お仕事中邪魔してごめん」
「うん。またお店に行くからね」
「その時は、残しちゃだめだよ?」
「う、うん……がんばる」
◇◇◇◇◇
お店に帰った私は、さっそくレオンさん達に説明する。
「……というわけだったらしいですよ。時間が無くて食べきれなかったって」
私の話を聞いて、レオンさんは顎に手をやる。
「確かに、あの時間帯は一番混むからな。並んでやっと入店した客が食いきれねえってのも納得できる。なんかいい方法はねえもんかな……」
それを聞いて私は手を挙げる。
「はいっ! はいっ!」
「なんだネコ子」
「はい。ここはお弁当を販売するというのはどうでしょう? このお店のお料理を食べたいというお客様の要望を満たせると思うんですけど」
「弁当か……それもありか?」
レオンさんが思案顔で首をひねっていると、クロードさんが手を挙げた。
「恐縮ですが申し上げます。私はそれでは解決しないと考えております」
「え? どういう事ですか?」
思わぬ意見に瞬きを返す私に、クロードさんは続ける。
「私が見た限り、食事を残しているお客様は、大抵『執事&メイドデー』にいらっしゃる方々のように思われます。つまり、料理を残す事が予想できても、並んでまで執事やメイドに接客されたいという方々。そのような方が弁当で満足できるでしょうか? いや、できるはずがありません!」
クロードさんの力説に、私とレオンさんは取り残されたように黙り込む。
でも、確かにそうだ。ミーシャ君がごはんを残した時も「執事&メイドデー」だった。ていうか、ミーシャ君て執事とメイドが好きなのかな……?
「なら、どうしろってんだ?」
レオンさんがクロードさんに問う。
「そうですね。執事とメイド目当てのお客様がゆっくり食事できる環境を整える。例えば開店時間を1時間早めるだとか。そうすれば行列も早い時間に解消されて、お昼休みという限られた食事時間しかないお客様もゆったり食事できるのではないでしょうか?」
なるほど。クロードさんの言う事も納得できる。
でも、そうするとレオンさんの睡眠時間が減ってしまう。いつも朝まで仕込みをして、それから開店時間まで休んでいるというのに。
でも、それを決めるのはレオンさんだ。私達は黙って俯くレオンさんを見つめる。
やがて顔を上げたレオンさんの瞳には、覚悟の色がうかんでいた。
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