異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

文字の大きさ
44 / 104

初めて聞くお話

しおりを挟む
 ある日、買い物帰りに広場を通りかかると、ちょっとした人だかりができていた。
 ここでは大道芸人だとかが芸を披露していたりする。その類かと思いながらも気になって近づいてみると、輪の中心にいたのは羽かざりのついたつばの広い帽子を被り、長いマントを羽織った男の人。リュートを抱えているところを見ると、吟遊詩人というやつだろうか。

 吟遊詩人なんて本物を見るのは初めてだ。一体どんな感じなんだろう。少しくらいなら見ていっても良いよね。

 人が集まったのを見計らってか、詩人の男性はリュートを爪弾く。その音色がやけに響いて、周囲はすっと静かになった。

 男性の話はこうだった。

 ある貧しい村に将来を約束した若い男女がいた。
 二人は幸せだったが、ある時村が不作に見舞われ、男は都会へと出稼ぎに行くことになる。
「春には必ず戻ってくる」という男の言葉を信じ、少女は男に手紙を送り続けるも、いつになっても男は帰ってこず、徐々に手紙の返事も滞ってゆき、ついには途絶えてしまう。
 男の身に何かあったのではと心配するあまり、少女は黄色い小鳥の姿になってしまう。
 けれど、これで彼に逢いにいけると歓喜した少女は都会へと向かい、男の姿を探す。
 ひらすら男を探す少女。自身が衰弱していることも気にせずに。

 そしてついに男を見つけた少女。歓喜とともに男の元へと近寄るが、男の隣には見知らぬ女性。肩を抱いて親しそうにしている。明らかに特別な関係だとわかった。
 都会的で綺麗に着飾った女性は、素朴な少女とは大違い。彼は土臭い私なんかより、美しい都会の女性に心を奪われてしまったのだと悟る。手紙の返信が滞っていたのも、ずっと村に戻ってこなかったのもそれが原因なのだろう。

 彼を失ったら生きていけない。絶望した少女は、自ら薔薇の棘に胸を刺し、その命を絶ったのだった。

 しかし、それを気の毒に思った神が、少女を黄色い薔薇へと生まれ変わらせ、今もその薔薇は彼を思いながら咲き続けているという――



 なんて理不尽な話なんだ。私だったらせめてもの仕返しに、くちばしで男に目潰しをかましているところだ。
 しかし、吟遊詩人の技量か、そんな理不尽な話でも胸に染み入る。少女に感情移入しすぎて、ちょっと泣きそうになってしまった。
 
 周囲の人々の拍手と共に、男性の前に置かれた入れ物にコインがどんどん投げ入れられる。
 そうか、あそこにお金を入れるのか。
 感動させてもらったお礼にと、私もコインを投げ入れた。
 
 しかし、吟遊詩人がこんなに大人気だとは。この国にも本屋はあるし、絵本や童話の類もあったはずだけれど、何がみんなをそこまで惹き付けるのかな?


 ◇◇◇◇◇


「そりゃアレだろ。あいつらは色んな国を渡り歩いてるからな。この国の奴らが知らない話を山ほど知ってる。みんなそれを楽しみにしてんだよ。ガキの頃には俺の家にもよく来てたな」
「私の元あるじも、時折吟遊詩人を屋敷に呼んでは異国の話を楽しんでいましたよ」

 お店に帰ってから尋ねてみると、レオンさんとクロードさんがそれぞれ答えてくれた。
 しかし家に吟遊詩人を呼ぶなどという、貴族的エピソードをさらっと挟み込むとは。格差を感じる。

「そういやネコ子、お前がこの間してくれた……えーと、白雪姫、だっけ? あれも結構面白かったぜ。吟遊詩人に売れば喜んで買い取ってくれるんじゃねえの?」

 話を売る!? そういうのもあるのか!
 しかもレオンさんは白雪姫の話を知らなかったようだし。
 これは……これはもしかして大チャンスなのでは?


 ◇◇◇◇◇


 お休みの日。私は花咲きさんの家に駆けこむとともに、挨拶もそこそこに声を上げる。

「花咲きさん! 絵本をつくってみませんか!?」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...