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学園入学編
魔法の授業
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よーし、今日からジェイド君に魔法を教えて貰うぞー。
と、張り切って目覚めた朝、
なんと外には雪が積もっていた。初雪だ。積雪は2~3センチくらい。
「ヴィンセントさん、寒いよう。ベッドから出たくないよう」
「我慢するのだ。カツサンドを作っている間に、温かいスープを買ってきてやるから」
言いながら「着られる毛布」を私の肩にかけると、近くの屋台でスープを買ってきてくれた。
一口飲むと身体の奥に温かさが染み入る。
はー生き返る。
それにしても、着られる毛布はもう一着あったほうが良いかな……。
そうして食事を済ませ、出かける準備をすると、今日もヴィンセントさんと手を繋ぎながら、雪で少し景色の違う学校への道を行くのだった。
しかし、これじゃあジェイド君にお昼に魔法を教えて貰えないじゃないか。雪の上に直に座るわけにもいかないし、何より寒いし。
そういえばジェイド君て何組なんだろう。二年生ということはわかったけど、それ以外の詳しい事は何も知らない。
ミリアンちゃんに聞いてみようかな。
◇◇◇◇◇
「ジェイド・グランデール? もちろん知っていますわよ。二年生の学年トップの子でしょう?」
ミリアンちゃんにジェイド君のことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。
が、学年トップ? そんなすごい子だったのか。
ミリアンちゃんの情報(正確にいうとミリアンちゃんの「妹ちゃん」情報)によると、ほとんど他人と関わらない変わり者で通っているらしい。そういえば、読書を邪魔した時も嫌味を言われたしな。私の歌声を雑音とか。
しかしそんな子に魔法を教えてもらえれば、私もすぐにマジカルプリンセスになれるかも!
でも、こんな雪の日にあの場所にいるかな? いたとしても寒くて勉強どころじゃない。
悶々としながらもとりあえず昨日の場所へ行くと、見覚えのある黒髪が目に入った。
木陰に立ちながら、それでも読書をしているジェイド君。むむむ。さすが学年トップ。こんな時でも勉強にいそしむとは。
「こんにちはジェイド君。約束通り来てくれたんだね。ありがとう」
ジェイド君は顔を上げると
「言ったでしょう? 僕はこれでも義理堅い男だって」
人との関わりを避ける変わり者って聞いたけど、ちゃんと約束を守ってくれる律儀男子ではないか。
「しかし、さすがにここでは何もできませんね。とりあえず室内に移動しましょう」
そうして連れてこられた先は「第三図書準備室」とのプレートが掲げられた部屋。
中に入ってみると、人の気配はおろか、本もない。空っぽの本棚が並んでいるだけ。仮にも「図書準備室」という名にもかかわらず。
「ここは主に廃棄される予定の本が集められる部屋なんです。この様子だと、処分されたばかりのようですね」
室内をぐるっと見回すジェイド君。
たしかにここなら、食事と勉強にちょうどいいかも。早速隣り合って腰掛けるとお弁当を広げる。
「それで、どんな魔法を使いたいんですか?」
サンドイッチを食べながら、ジェイド君に問われる。
「ええとね、ええとね。火のでる魔法。あ、でも攻撃できるような強力なやつじゃなくて、暖炉やかまどにすぐ火をつけられるくらいのやつ。と、あとね、あとね――」
夢が広がりまくりの私は、かねてからあったら便利だなと思っていた魔法を口にする。
「随分スケールが小さいですね」
「な……それじゃあジェイド君はどんな魔法を使うの?」
ジェイドくんが眼鏡を押し上げる。
「それは攻撃に適した威力のある魔法ですよ。いつ他国や魔物が攻めてくるかわかりませんからね。そのための魔法学院です。暖炉に火をつけて喜んでいるようじゃ子供のお遊びも同然ですね」
うーむ、辛辣だ。
「でも、まあ、炎の勢いを調整することも、魔法使いとしては大切ですからね。まずはロウソクの火程度を目指して頑張りましょうか」
あ、ちょっと優しい。フォローしてくれたのかな。
◇◇◇◇◇
「まずは出したい炎の大きさをイメージします」
「うんうん」
食事を終えて落ち着いた後で、早速ジェイド君の個人授業が始まる。
「僕の後に続いて唱えてください『炎の精霊よ。我が呼び声に応えたまえ……炎』
すると、ジェイド君の指先に、ぽっとロウソクのような炎が灯った。
「わあ、すごい!」
「感心してる場合じゃありませんよ。はい、呪文を唱えて」
「あ、は、はい。ええと……『炎の精霊よ。我が呼び声に応えたまえ……炎」
その瞬間、私の手のひらの上に拳大の炎が出現した。ロウソクの炎どころじゃない。
「うわっ、ど、どうしよう。ジェイド君、これ、どうしたらいいの!?」
「落ち着いて! 心の中で『消えろ』と念じれば消えますから!」
き、消えろ消えろ消えろ消えろー!
すると炎はすっと消えた。手を見るも火傷もしていない。ふしぎ。これが魔法なのか。
ともあれ魔法は成功したのだ。
「やった! できたよ! 炎の魔法!」
ちょっと想定とは違って燃えすぎたけど。
ジェイド君を振り返ると、彼は何故か呆気にとられたような顔をしていた。
「どうしたの? ジェイド君」
「……ユキさん、本当に魔法を使うのは初めてなんですか?」
「え? う、うん、そうだけど……」
その答えに、何か考える様子のジェイド君。やがて眼鏡をくいっと上げると
「初めてで簡単にあの大きさの炎を出せるとは……もしかするとユキさんには魔法の素質があるのかもしれませんね」
「あ、それ言われた事あるよ。鍛冶屋のドワーフの親方さんに。だからこの学校に入学を決めたんだもん」
「なるほど。そういうわけですか」
「でも、今の教科書だとレベルが高すぎるのか全然わからなくて……だからジェイド君が教えてくれてすごく助かったよ。これからもお願いして良いかな?」
「構いませんよ。ただし……サンドイッチと引き換えで」
ここでもカツサンドは強いなあ。
◇◇◇◇◇
その日の夜、ヴィンセントさんは仕事の締め切りが近づいているという事で、私は先に一人で寝る事になった。
寝る準備を整えた後で、机に向かうヴィンセントさんに呼びかける。
「ヴィンセントさん。わたし今日、便利な魔法を覚えたんですよ」
手を頭上に掲げると
「光」
と唱えると、バレーボールくらいの大きさの光球が現れた。
呪文を唱えなくてもちゃんと魔法が発動するのは「詠唱キャンセル」とかいうものらしく、上級者が可能なテクニックらしい。私は魔法の素質があるからできるのだとか。炎の魔法も、あの呪文を唱えなくても良いらしい。
「ランプの明かりだけじゃ心もとない時もあるでしょ? これならお仕事もスムーズにできるんじゃないかと思って」
「おお。素晴らしい魔法だな。これなら暗部までよく見える」
「2~3時間で消えるそうなので気を付けてくださいね」
「ああ、感謝するぞ」
ヴィンセントさんは目を細めながら私の頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
今日は収穫の多い日だったなあ。あの炎の魔法があれば、すぐにストーブに火をつけられるし、かまどにの火を入れられる。光球の魔法も役に立ちそうだし。次は何の魔法を習おうかなあ。
ベッドに横になりながら、眠りに落ちるまで考えていたのだった。
と、張り切って目覚めた朝、
なんと外には雪が積もっていた。初雪だ。積雪は2~3センチくらい。
「ヴィンセントさん、寒いよう。ベッドから出たくないよう」
「我慢するのだ。カツサンドを作っている間に、温かいスープを買ってきてやるから」
言いながら「着られる毛布」を私の肩にかけると、近くの屋台でスープを買ってきてくれた。
一口飲むと身体の奥に温かさが染み入る。
はー生き返る。
それにしても、着られる毛布はもう一着あったほうが良いかな……。
そうして食事を済ませ、出かける準備をすると、今日もヴィンセントさんと手を繋ぎながら、雪で少し景色の違う学校への道を行くのだった。
しかし、これじゃあジェイド君にお昼に魔法を教えて貰えないじゃないか。雪の上に直に座るわけにもいかないし、何より寒いし。
そういえばジェイド君て何組なんだろう。二年生ということはわかったけど、それ以外の詳しい事は何も知らない。
ミリアンちゃんに聞いてみようかな。
◇◇◇◇◇
「ジェイド・グランデール? もちろん知っていますわよ。二年生の学年トップの子でしょう?」
ミリアンちゃんにジェイド君のことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。
が、学年トップ? そんなすごい子だったのか。
ミリアンちゃんの情報(正確にいうとミリアンちゃんの「妹ちゃん」情報)によると、ほとんど他人と関わらない変わり者で通っているらしい。そういえば、読書を邪魔した時も嫌味を言われたしな。私の歌声を雑音とか。
しかしそんな子に魔法を教えてもらえれば、私もすぐにマジカルプリンセスになれるかも!
でも、こんな雪の日にあの場所にいるかな? いたとしても寒くて勉強どころじゃない。
悶々としながらもとりあえず昨日の場所へ行くと、見覚えのある黒髪が目に入った。
木陰に立ちながら、それでも読書をしているジェイド君。むむむ。さすが学年トップ。こんな時でも勉強にいそしむとは。
「こんにちはジェイド君。約束通り来てくれたんだね。ありがとう」
ジェイド君は顔を上げると
「言ったでしょう? 僕はこれでも義理堅い男だって」
人との関わりを避ける変わり者って聞いたけど、ちゃんと約束を守ってくれる律儀男子ではないか。
「しかし、さすがにここでは何もできませんね。とりあえず室内に移動しましょう」
そうして連れてこられた先は「第三図書準備室」とのプレートが掲げられた部屋。
中に入ってみると、人の気配はおろか、本もない。空っぽの本棚が並んでいるだけ。仮にも「図書準備室」という名にもかかわらず。
「ここは主に廃棄される予定の本が集められる部屋なんです。この様子だと、処分されたばかりのようですね」
室内をぐるっと見回すジェイド君。
たしかにここなら、食事と勉強にちょうどいいかも。早速隣り合って腰掛けるとお弁当を広げる。
「それで、どんな魔法を使いたいんですか?」
サンドイッチを食べながら、ジェイド君に問われる。
「ええとね、ええとね。火のでる魔法。あ、でも攻撃できるような強力なやつじゃなくて、暖炉やかまどにすぐ火をつけられるくらいのやつ。と、あとね、あとね――」
夢が広がりまくりの私は、かねてからあったら便利だなと思っていた魔法を口にする。
「随分スケールが小さいですね」
「な……それじゃあジェイド君はどんな魔法を使うの?」
ジェイドくんが眼鏡を押し上げる。
「それは攻撃に適した威力のある魔法ですよ。いつ他国や魔物が攻めてくるかわかりませんからね。そのための魔法学院です。暖炉に火をつけて喜んでいるようじゃ子供のお遊びも同然ですね」
うーむ、辛辣だ。
「でも、まあ、炎の勢いを調整することも、魔法使いとしては大切ですからね。まずはロウソクの火程度を目指して頑張りましょうか」
あ、ちょっと優しい。フォローしてくれたのかな。
◇◇◇◇◇
「まずは出したい炎の大きさをイメージします」
「うんうん」
食事を終えて落ち着いた後で、早速ジェイド君の個人授業が始まる。
「僕の後に続いて唱えてください『炎の精霊よ。我が呼び声に応えたまえ……炎』
すると、ジェイド君の指先に、ぽっとロウソクのような炎が灯った。
「わあ、すごい!」
「感心してる場合じゃありませんよ。はい、呪文を唱えて」
「あ、は、はい。ええと……『炎の精霊よ。我が呼び声に応えたまえ……炎」
その瞬間、私の手のひらの上に拳大の炎が出現した。ロウソクの炎どころじゃない。
「うわっ、ど、どうしよう。ジェイド君、これ、どうしたらいいの!?」
「落ち着いて! 心の中で『消えろ』と念じれば消えますから!」
き、消えろ消えろ消えろ消えろー!
すると炎はすっと消えた。手を見るも火傷もしていない。ふしぎ。これが魔法なのか。
ともあれ魔法は成功したのだ。
「やった! できたよ! 炎の魔法!」
ちょっと想定とは違って燃えすぎたけど。
ジェイド君を振り返ると、彼は何故か呆気にとられたような顔をしていた。
「どうしたの? ジェイド君」
「……ユキさん、本当に魔法を使うのは初めてなんですか?」
「え? う、うん、そうだけど……」
その答えに、何か考える様子のジェイド君。やがて眼鏡をくいっと上げると
「初めてで簡単にあの大きさの炎を出せるとは……もしかするとユキさんには魔法の素質があるのかもしれませんね」
「あ、それ言われた事あるよ。鍛冶屋のドワーフの親方さんに。だからこの学校に入学を決めたんだもん」
「なるほど。そういうわけですか」
「でも、今の教科書だとレベルが高すぎるのか全然わからなくて……だからジェイド君が教えてくれてすごく助かったよ。これからもお願いして良いかな?」
「構いませんよ。ただし……サンドイッチと引き換えで」
ここでもカツサンドは強いなあ。
◇◇◇◇◇
その日の夜、ヴィンセントさんは仕事の締め切りが近づいているという事で、私は先に一人で寝る事になった。
寝る準備を整えた後で、机に向かうヴィンセントさんに呼びかける。
「ヴィンセントさん。わたし今日、便利な魔法を覚えたんですよ」
手を頭上に掲げると
「光」
と唱えると、バレーボールくらいの大きさの光球が現れた。
呪文を唱えなくてもちゃんと魔法が発動するのは「詠唱キャンセル」とかいうものらしく、上級者が可能なテクニックらしい。私は魔法の素質があるからできるのだとか。炎の魔法も、あの呪文を唱えなくても良いらしい。
「ランプの明かりだけじゃ心もとない時もあるでしょ? これならお仕事もスムーズにできるんじゃないかと思って」
「おお。素晴らしい魔法だな。これなら暗部までよく見える」
「2~3時間で消えるそうなので気を付けてくださいね」
「ああ、感謝するぞ」
ヴィンセントさんは目を細めながら私の頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
今日は収穫の多い日だったなあ。あの炎の魔法があれば、すぐにストーブに火をつけられるし、かまどにの火を入れられる。光球の魔法も役に立ちそうだし。次は何の魔法を習おうかなあ。
ベッドに横になりながら、眠りに落ちるまで考えていたのだった。
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