逃げ出した王妃アリアのその後

ともっぴー

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クレアの事情

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***クレア

「ただいま。」

家に帰るとお母さんが昼食の準備をしていた。手伝おうと思って近付いだけなのに、パッと顔を上げて私を睨んだ。

「ちょっとクレア、仕事もせずにどこへ行っていたの?」

なにそれ。途端にかっとなった。

「仕事って?草むしりのこと?してもしなくても同じでしょ。」

まるで私みたい。いてもいなくてもいい存在。

「またそんなこと言って。草むしりだって大事でしょ。小さいうちに抜いておかないと大変なことになるんだから。」

お母さんが言うことは、全てが当て付けのように聞こえる。まるで私が雑草で、このままここにいたらいけない、みたいな言い方・・・

「・・・ねぇそれ、私に言ってるの?早く出て行ていけってこと?」

「えっ?っそんなこと、思ってもいないわよっ、・・・もういいわ。しなくてもいいから、休んでて。」

直接的に聞くと、すぐこうなる。こういう反応も、私を苛立たせた。

**

私には、生まれつき身体の弱い妹がいる。そしてこの家は、その妹が継ぐと決まっていた。
正確には妹の旦那さんになる相手が。
妹には随分と前から決められた相手がいて、それは遠い親戚にあたる人なのだけど、歳もかなり離れているのに、そういうふうに決まっていたのだ。そして身体の弱い妹と結婚する代わりに、家を継ぐのだと。
幼い頃には話だけを聞いていて、正直あまりいい印象を持てずに妹を憐れだと思っていた。だけど、その人と初めて会った時に考えが変わった。相手の人はとても穏やかで優しい人だったのだ。
そしてその時、私は妹を見る目が変わった。妹はただ病気だというだけで、本人は努力もしていないのに、全てが上手くいくのだ。結婚相手も、将来の暮らしも、全てが保証されている妹が憎いと思った・・今も、思っている。
だって、それに比べて私は。
自分の家なのに、いつも肩身が狭く、戻ってきたノアは知らない人を連れていて、家の仕事以外に働くあてもない。
もうすぐ妹の婚約者がこの家に来てしまうのに・・・。

「ノア・・、お願い、助けてよ。」

この先の私に、どんな希望があるのだろう。
ぽろりとこぼれ落ちた言葉に、涙がにじんだ。

昔みたいに、遊びの騎士ごっこで私を救ってくれたみたいに、助けてよ。


***ジョン

あれ?クレアがいる。
畑の作業を終えて夕食を食べようと戻ってくると、母さんとクレアが笑いながら準備をしていた。

兄さんがいなくなってからは家にも寄り付かなくなっていたクレアが、最近顔を見せてくれるのは嬉しい、思わず話し掛けた。

「クレア、今日はどうしたの?」

「え、・・・あ、ジョン。お帰りなさい。今日からしばらく夕食を一緒にって、おばさんに誘われたの。」

一瞬輝いた表情が一気に曇るのを見て、嫌でも他の誰かを期待したのだと分かる。

「何かあったの?」

クレアに聞いたつもりが、母さんが答えた。

「いやね、ほら、急に人数が増えたでしょ?ミラは手伝ってくれないし、だからクレアに声を掛けたんだよ。あ、クレア、これを持っていっておくれ。」

何かあったとしても、俺には教えてもらえないか。昔はあんなに仲が良かったのに。
・・いや、違う。クレアにとっては、仲がいいふりだった。クレアはいつも俺と遊ぶふりをしながら、兄さんばかりを目で追っていた。
知ってるんだ、俺も、クレアを見てたから。

避けられてるとは知りながら、クレアの後を付いて行った。

「手伝うよ。」

「あ・・ええと、運ぶものが、まだ向こうにあるわ。」

「ああ、そっか。」

向こうに行けという意味だ。まぁ、分かっているさ。

しばらくすると、父さんと、父さんの手伝いをしていたチビ達が戻ってきた。向こうの畑は収穫が終わり、今日は掘り起こし作業だと言っていた。それにしても、どうしてそこまで汚れるのかと疑問に思う程、チビ達は泥まみれになっている。

「まぁまぁまぁっ!土は外で落としてきてちょうだい。あっ、ミラ、ちょうど良かった。この子達をお願いね。」

気付いた母さんが、急き立ててドアの外に追い出した時、ミラも戻って来て、運悪く一緒に追い出された。

「ぇえ~っ。」

・・・ふはっ。妹の情けない声に失笑し、ふと、日常がここまでだったらいいのに、と思った。クレアがいて、家族がいて、そんな風景だ。

ところがそんな思いも虚しく、すぐにクレアがそれを壊した。

「おじさん、ノアはまだですか?」

これが現実だ。クレアは兄さんしか見ていない。

「ん?そういえばどこに行ったかな。片付けの時まではいたんだがなぁ。」

「私、見てきますっ。」

「あ、クレア、待ちなさい。」

今にも飛び出しそうになったのを、母さんが止めた。

「でも・・・」

「どうせ一緒に戻ってくるんだろうよ。それより、もう先に席についていなさい。クレアの席はあそこだよ。ね。」

指し示された席を見て、クレアは「あっ」と声をあげた。・・・俺は、そのクレアを見て、がっかりした。中立だと思っていた母さんは、違ったのだ。

**

ミラの横に座ったアリーさんは、向かいの席に横並びで座っているクレアと兄さんを見て、ふっ、と鼻で笑ったように見えた。
余裕の笑いなのか、呆れて身を引くつもりなのか、そもそも2人はそういう仲じゃなかったのか、俺には分からない。アリーさんがいるから大丈夫だと思っていたのに。
不安と焦りで、食事が喉を通らなかった。
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