碧の海

ともっぴー

文字の大きさ
10 / 38

歪む愛情

しおりを挟む
*海

お父様の言う罰は、私が恐れていたような痛くて辛いものではなかった。寧ろ逆で、穏やかで優しい・・・。だけど、これは・・こんなことは・・。
戸惑う私にお父様は、家族なのだからと繰り返し言い聞かせた。家族なのだから、何も必要はないのだと。海はもっと家族の愛を知るべきなのだと。



「海、このことは誰にも言ってはいけないよ。」

部屋を出るとき、お父様が念を押すように言った。

「分かってるわ、お父様。だって2人だけの特別な秘密ですもの。」

笑顔を顔に浮かべつつも、今日のお父様はいつもと違う感じがして心の奥底が不安で揺れていた。だけど揺れる気持ちとは裏腹に、家族だとか特別だとか、お父様が私に言ってくれる言葉が、どうしようもなく嬉しい自分もいる。
大丈夫だと、これは純粋な家族の愛情なのだと、自分に言い聞かせた。なにもおかしいことはない。

上に続く階段に足を掛けながら、ふいに碧のことが頭をよぎった。もう1人の、家族。途端に思い出したくない罪悪感を感じた。あの時・・施設を離れる時、「お嬢様になれる」と聞いて私は内心嬉しかったのだ。折檻に怯える日々より、新しい未来が輝いてみえた。
だから、私は碧を捨てた。

「それからな、海、私は約束を破られるのが大嫌いだ。」
「え・・・?」

階段の数段下から、お父様が私を見上げている。

「約束を破られたら、いくら愛しい海でも、嫌いになるぞ。」
「嫌っ、嫌です。私、約束を破ったりしません。お願いです、嫌いにならないでっっ」

慌てて駆け下りて、お父様にしがみついた。

「ああ、分かってるよ。海はいい子だもんな。海がいい子でいる限り、嫌いにならないよ。」

お父様は笑って抱き寄せてくれたけど、恐くて堪らない。くすぶっていた不安が、お父様の「嫌いになる」という言葉に反応し、じわじわと広がっていった。私はいい子じゃないと捨てられてしまう。

「ざまぁみろ」という、碧の声が聞こえた気がした。


**

お父様に会った数日後、私は学校に通えることになった。お母様を心配させたり、お父様を怒らせたりしたから不安は残っているけれど、それ以上にすごく、すごくワクワクする。あの時十夜さんが何も提案してくれなかったら、こんなワクワクは知らないままだった。早くお礼を言わなくちゃ、と思った。十夜さんとは、家庭教師を辞めてから1度も会っていない。だから、学校に着いたら1番に会いに行こうと決めた。
通うことになった学校は、十夜さんが教師をしている学校なのだった。

鼻歌を歌いながら準備を整え部屋を出ると、何故かキッチリと身支度を整えたお母様が待っていた。あら?さっき朝食の時はゆったりした服を着てらしたのに。どこかへ出掛けるのかしら?首を傾げた私に、お母様はにっこり微笑んだ。

「さ、菫さん、行きましょう。」
「ど、どこにですの?」
「嫌だ、今日から学校でしょう?忘れてしまったの?」

てっきり1人で行くのかと思い込んでいた。

「お、お母様と、一緒にですの?」
「ええ、当然でしょう。1人でなんて危険過ぎるわ。」
「でも・・・」
「遅れちゃうわよ。急ぎましょう。」

外には当たり前のように車が待機していて、私はしょんぼりとしながら乗り込んだ。

「あの、もしかして、帰り、も・・・」
「ええ。終わる頃に待っていますからね。」
「ええと、今日だけ、ですのよね?お母様もお忙しいでしょうし。」
「え?ああ、安心してちょうだい。私はいなくても送迎の車は出してもらうから。」

思わず顔が引きつってしまった。
学校は私達の住んでいる屋敷からそう遠くなく、徒歩だと15分程で着ける場所にある。途中には繁華街があって、お母様とお出掛けした際に、楽しそうな学生達を見かけたことがあった。その様子があまりにも輝いて見えたから、私は密かに憧れを抱いていたのだ。
でも、あまり我が儘を言って嫌われては困るものね・・・そう思っていた時、

「ねぇ、菫さん、お父様とお話したの?」
「え?」

突然話しかけられてビクッとした。

「そんなに驚いてどうしたの?私はお父様とお話をしたかどうか聞いてるだけよ。」

にこにこと微笑むお母様に罪悪感を持ちながら、私は首を傾げて答えた。

「いいえ、お母様。私、お父様のこと最近見ていませんもの。」
「そう、ならいいのだけど。あ、そうだわ菫さん、十夜さんのことはどう思っているの?」
「・・・っ!?」

この間からお父様といいお母様といい、なんてことを言い出すのかしら。既に真っ赤になっている頬を、必死で手の平で包み込んだ。

「あら。あらあらまぁまぁ。どう思ってるか聞いただけなのに。」

お母様は目を丸くするけれど、お父様にはハッキリと好意を持っているかと聞かれたばかりだから、当然反応してしまう訳で・・・

「違いますっっ」
「ふふ。」
「違いますっっっっ」
「ふふふ、菫さんたら。別にいいのよ、私は賛成よ。」
「お母様っ、違いますったら。」
「ええ、ええ。まだ恥ずかしいわよね。」
「・・・」

学校に着くと、お母様が十夜さんに挨拶をしに行くと言い出したので、私は焦った。このままでは十夜さんにまで迷惑を掛けてしまう。必死にお母様を止めて、急いで建物に入った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...