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再会
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**海(菫)
学校って楽しい。友人って嬉しい。すっかりこの生活にも慣れてきて、私は充実した毎日を過ごしていた。特に楽しみなのはたまに許してもらえる友人との下校で、今日も雫さんと瑠璃さんと一緒に歩いていた。一昨日にカフェでお茶をしたばかりだから今日の寄り道はないのだけど、おしゃべりしながら歩くのって本当に楽しい。雫さんのお話の内容がおかしくって、つい声を上げて笑った時、ふと視界に入るものがあった。
え・・・?
それは信じられない人で・・・ 背中が一気に凍りついた。目を疑うけれど、紛れもなく碧。ゾッとする程の汚い格好で、地べたに座り込んでいる。どうして気付いてしまったのだろう。ドクドクと心臓が激しく音を鳴らした。ここは人通りが多いし、碧がいるのは何もない、普段は見向きもしないような小さな空地だ。碧は、気付いている?いない?まだ距離は離れている。おそるおそる覗き見ると、碧はじっと、通りすがる人が時々小銭を投げるのを待っているようだった。・・貧しいのかしら?施設は・・・?
「菫さん、どうしたの?」
はっとすると、一緒に歩いていた雫さんと瑠璃さんが覗き込んでいた。
「あっ、えっ、ええと、あのっ、ごめんなさい、学校での用事を思い出してしまって。私、戻るわね。」
「ええ?今から?」
「ええ、先生に頼まれていたのを忘れていたの。」
「もしかして十夜先生!?それなら私もついていきましょうか?」
雫さんの目が、心なしか輝いたように見えたけれどそれどころじゃない。
「いいえっ、いいえっ。大丈夫よ、ありがとう。先に帰ってちょうだい。」
「そんな、でも私だって・・」
「雫さん、菫さんが困っているわ。だから、
ね。」
「・・・分かったわ。それではまた明日。」
瑠璃さんが雫さんの袖をつつくとシュン、と肩を落とした。なんだか嫌な予感・・・だけど今は。
「ええ、また明日。」
クルリと背を向けて学校に歩き始める。どうしよう、どうして碧がここに? ・・・2人はもう行ったかしら?しばらく歩いてチラリと後ろを振り向くと、驚いたことに通りに出てきていた碧と目が合ってしまった。
ひっ、と声が漏れる。碧は、最初から私に気付いていたのだ。碧は、振り向いたまま動けなくなった私を真っ直ぐに見つめながら、一歩、一歩、とゆっくり近付いてくる。
冷たい汗が全身を伝うのを感じながら私は、無意識にぎこちない笑顔を顔に張り付けていた。
「綺麗になったな、海。」
碧が目の前にいる。
「へ? え、ええ。あ、碧も格好良くなったわね。」
着ている服がぶかぶかに見えるくらいに痩せて目が不気味に光って見える碧に「格好いい」とは明らかなお世辞なのだけど、碧は本気に捉えたようだった。
「そうか? お前に言われるとくすぐったいな。」
「そ、そう? 」
「お前は?」
「えっ?」
「なんかないのか?」
「あ、え、ええと、う、嬉しいわ。ありがとう。」
なんだろうこの会話。何か目的があるのかしら?緊張で手足の感覚がなくなってきていた。早くこの場を離れたくて堪らない。
「あの、碧、あの、私、今忙しくって。だから、あの、ごめんなさい。行かないといけないの。」
「何処にだよ?」
「が、学校よ。」
「ふぅん、お前、学校とか行ってんだ。」
「え、ええ、そうよ。本当にもう行かなきゃだからっ。」
急いで立ち去ろうと地面に張り付いた足を無理やり引っ張った。ところがすぐに、碧の指が、腕に食い込んだ。
「ひっ!はっ、離してよ。」
「いつだ?」
「え?」
「いつだったら時間がある?ゆっくり話がしたい。」
「いつって、毎日学校だから時間なんてないわよ。そ、そうだ、そんなに話がしたいなら碧も学校に通えばいいのだわ。」
「学校に行けば話が出来るのか?」
「え、ええ。勿論よ。」
碧の格好があまりに汚く、みすぼらしかったから、そう言えば諦めてくれると思っていた。私は掴まれた腕を振り払い、振り返らずに学校まで走った。
「あれ、菫君?」
やっと正門までたどり着き、乱れた息を整えていると聞き慣れた声が降ってきた。はっと顔をあげ辺りを見回すと、ちょうど真後ろに十夜さんが立っていた。
「十夜さん・・・」
「ちょうど良かった。少し話がしたかったんだ・・・ わっ、ちょ、ちょっと待って。ここ学校だから。」
「うぅ・・」
涙き出した私に慌てた十夜さんは、周りに誰もいないことを確認すると素早く自分の車に乗せてくれた。
「頭を下げてて。一旦荷物を取りに行ってからまた戻って来るから」
「・・はい、すみません。」
すぐに戻ってきた十夜さんは、そのまま私を家まで送ってくれた。途中、何度も訳を聞かれたけれど、私は首を横に振るしか出来なかった。
碧の事は誰にも言えない。碧は私のたった1人の家族。双子の、弟で、私の汚い、消したい過去だから・・・。
さっき碧がいた場所には、もう誰もいなくなっていた。良かった・・、もう2度と会いませんように、と心の中で何度も祈った。
**杏奈
「ふんふ~ん、ふんふふ~ん」
学校での用事を済ませ、ご機嫌に鼻歌を歌いながら門を出た。どうやって「花岡菫」に近付こうかと、いろいろ考えていたのだけど、思った以上にすんなりと話が進んでいったのだ。力を使う手間もほぼなく、というか使ったのは1度だけ、私が研究の為にしばらくこの学校に籍を置く、という記憶操作のみだった。それもほんの数人に使えばよかったのだ。それというのも・・
「杏奈様、」
「ぎゃっ!」
前触れもなく耳元で気持ちの悪い声。本当、勘弁してほしい。不快感を消そうと耳を擦りながら睨み付けた。
「むほほ、杏奈様、只今戻りましてございます。それにしても、ご機嫌ですね。」
「さっきまではね。で、何か用なの?」
相変わらずずんぐりむっくりしている。だけど、あれ?なんだかボロボロになってない?来ているスーツはあちこちしわくちゃで泥が付いているし、メガネなんて・・・曲がってる?
「むむ?杏奈様、私は用がなくともきちんと杏奈様のところへ戻ってきますですよ。」
「何故?」
「むほほ。なんとお冷たい、私と杏奈様の仲ではありませんか。それよりご機嫌の理由をお聞きしても?」
「・・・」
私のズンの仲?そんな大層なもの、あったかしら?
「ささ、お聞かせ下さい。黒耀様の手掛かりが掴めましたか?」
「いいえ、ズンが黒耀の気配がするって言ったから、『花岡菫』をもっと近くで見張ろうと思って準備してきたところよ。」
「ほぅほぅ、そうでございますか。で、どのように近付くので?」
「・・・ただ、学校での私の研究を『花岡菫』に協力してもらうことにしたのよ。」
「ほほほぅ、杏奈様はいったい何の研究を?『花岡菫』の名前はどうやって出したので?やはりお力お使いになられたのですか?」
「・・・研究に中身なんてないわよ。それっぽく振る舞うだけ。それに、たまたま『花岡菫』が優秀な生徒で、たまたまこの学校の教師が個人的な知り合いだったから大して力は発揮していないわ。というかズン、さっきから何なの?あなた、私の保護者か何かなの?」
根掘り葉掘り聞いてくるのがうざったい。
「むほっ、滅相もございません。ただ今後のお役に立てるように情報を共有したいと思いまして。」
ズンはピョンと跳び跳ねて着地した。両腕を身体の橫にぴったりくっ付けた姿は、太っちょな棒みたい。指の先だけ外にはねているのは癖だろうか。
「だいたいねぇ、そのお役に立てるようにってのもおかしいのよ。この前まで私の為だから協力しろって脅してなかった?」
「むほっ?脅すなど恐れ多いですっ。私はただ、私の目的と杏奈様の目的が一致してですねっっ、だからつまり、杏奈様が黒耀様とご婚約なさることは私にとっても喜びでありまして・・」
「何故それがズン喜びになるのよ?」
「てて手柄でございます。私の手柄になりますから、そりゃもう。」
ズンは最初の時に、黒耀を見つけて魔界に連れ戻せれば正式に婚約が出来るといった。でもそれって、私が連れ戻したら、じゃないのかしら?そうするとズンの手柄というより私の手柄になってしまわないかしら?
「ねぇ、まだ私に言っていないこととか、ないの?」
「まさか!私は正直者でございますから。」
ズンは胡散臭い笑みを浮かべた。
学校って楽しい。友人って嬉しい。すっかりこの生活にも慣れてきて、私は充実した毎日を過ごしていた。特に楽しみなのはたまに許してもらえる友人との下校で、今日も雫さんと瑠璃さんと一緒に歩いていた。一昨日にカフェでお茶をしたばかりだから今日の寄り道はないのだけど、おしゃべりしながら歩くのって本当に楽しい。雫さんのお話の内容がおかしくって、つい声を上げて笑った時、ふと視界に入るものがあった。
え・・・?
それは信じられない人で・・・ 背中が一気に凍りついた。目を疑うけれど、紛れもなく碧。ゾッとする程の汚い格好で、地べたに座り込んでいる。どうして気付いてしまったのだろう。ドクドクと心臓が激しく音を鳴らした。ここは人通りが多いし、碧がいるのは何もない、普段は見向きもしないような小さな空地だ。碧は、気付いている?いない?まだ距離は離れている。おそるおそる覗き見ると、碧はじっと、通りすがる人が時々小銭を投げるのを待っているようだった。・・貧しいのかしら?施設は・・・?
「菫さん、どうしたの?」
はっとすると、一緒に歩いていた雫さんと瑠璃さんが覗き込んでいた。
「あっ、えっ、ええと、あのっ、ごめんなさい、学校での用事を思い出してしまって。私、戻るわね。」
「ええ?今から?」
「ええ、先生に頼まれていたのを忘れていたの。」
「もしかして十夜先生!?それなら私もついていきましょうか?」
雫さんの目が、心なしか輝いたように見えたけれどそれどころじゃない。
「いいえっ、いいえっ。大丈夫よ、ありがとう。先に帰ってちょうだい。」
「そんな、でも私だって・・」
「雫さん、菫さんが困っているわ。だから、
ね。」
「・・・分かったわ。それではまた明日。」
瑠璃さんが雫さんの袖をつつくとシュン、と肩を落とした。なんだか嫌な予感・・・だけど今は。
「ええ、また明日。」
クルリと背を向けて学校に歩き始める。どうしよう、どうして碧がここに? ・・・2人はもう行ったかしら?しばらく歩いてチラリと後ろを振り向くと、驚いたことに通りに出てきていた碧と目が合ってしまった。
ひっ、と声が漏れる。碧は、最初から私に気付いていたのだ。碧は、振り向いたまま動けなくなった私を真っ直ぐに見つめながら、一歩、一歩、とゆっくり近付いてくる。
冷たい汗が全身を伝うのを感じながら私は、無意識にぎこちない笑顔を顔に張り付けていた。
「綺麗になったな、海。」
碧が目の前にいる。
「へ? え、ええ。あ、碧も格好良くなったわね。」
着ている服がぶかぶかに見えるくらいに痩せて目が不気味に光って見える碧に「格好いい」とは明らかなお世辞なのだけど、碧は本気に捉えたようだった。
「そうか? お前に言われるとくすぐったいな。」
「そ、そう? 」
「お前は?」
「えっ?」
「なんかないのか?」
「あ、え、ええと、う、嬉しいわ。ありがとう。」
なんだろうこの会話。何か目的があるのかしら?緊張で手足の感覚がなくなってきていた。早くこの場を離れたくて堪らない。
「あの、碧、あの、私、今忙しくって。だから、あの、ごめんなさい。行かないといけないの。」
「何処にだよ?」
「が、学校よ。」
「ふぅん、お前、学校とか行ってんだ。」
「え、ええ、そうよ。本当にもう行かなきゃだからっ。」
急いで立ち去ろうと地面に張り付いた足を無理やり引っ張った。ところがすぐに、碧の指が、腕に食い込んだ。
「ひっ!はっ、離してよ。」
「いつだ?」
「え?」
「いつだったら時間がある?ゆっくり話がしたい。」
「いつって、毎日学校だから時間なんてないわよ。そ、そうだ、そんなに話がしたいなら碧も学校に通えばいいのだわ。」
「学校に行けば話が出来るのか?」
「え、ええ。勿論よ。」
碧の格好があまりに汚く、みすぼらしかったから、そう言えば諦めてくれると思っていた。私は掴まれた腕を振り払い、振り返らずに学校まで走った。
「あれ、菫君?」
やっと正門までたどり着き、乱れた息を整えていると聞き慣れた声が降ってきた。はっと顔をあげ辺りを見回すと、ちょうど真後ろに十夜さんが立っていた。
「十夜さん・・・」
「ちょうど良かった。少し話がしたかったんだ・・・ わっ、ちょ、ちょっと待って。ここ学校だから。」
「うぅ・・」
涙き出した私に慌てた十夜さんは、周りに誰もいないことを確認すると素早く自分の車に乗せてくれた。
「頭を下げてて。一旦荷物を取りに行ってからまた戻って来るから」
「・・はい、すみません。」
すぐに戻ってきた十夜さんは、そのまま私を家まで送ってくれた。途中、何度も訳を聞かれたけれど、私は首を横に振るしか出来なかった。
碧の事は誰にも言えない。碧は私のたった1人の家族。双子の、弟で、私の汚い、消したい過去だから・・・。
さっき碧がいた場所には、もう誰もいなくなっていた。良かった・・、もう2度と会いませんように、と心の中で何度も祈った。
**杏奈
「ふんふ~ん、ふんふふ~ん」
学校での用事を済ませ、ご機嫌に鼻歌を歌いながら門を出た。どうやって「花岡菫」に近付こうかと、いろいろ考えていたのだけど、思った以上にすんなりと話が進んでいったのだ。力を使う手間もほぼなく、というか使ったのは1度だけ、私が研究の為にしばらくこの学校に籍を置く、という記憶操作のみだった。それもほんの数人に使えばよかったのだ。それというのも・・
「杏奈様、」
「ぎゃっ!」
前触れもなく耳元で気持ちの悪い声。本当、勘弁してほしい。不快感を消そうと耳を擦りながら睨み付けた。
「むほほ、杏奈様、只今戻りましてございます。それにしても、ご機嫌ですね。」
「さっきまではね。で、何か用なの?」
相変わらずずんぐりむっくりしている。だけど、あれ?なんだかボロボロになってない?来ているスーツはあちこちしわくちゃで泥が付いているし、メガネなんて・・・曲がってる?
「むむ?杏奈様、私は用がなくともきちんと杏奈様のところへ戻ってきますですよ。」
「何故?」
「むほほ。なんとお冷たい、私と杏奈様の仲ではありませんか。それよりご機嫌の理由をお聞きしても?」
「・・・」
私のズンの仲?そんな大層なもの、あったかしら?
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「いいえ、ズンが黒耀の気配がするって言ったから、『花岡菫』をもっと近くで見張ろうと思って準備してきたところよ。」
「ほぅほぅ、そうでございますか。で、どのように近付くので?」
「・・・ただ、学校での私の研究を『花岡菫』に協力してもらうことにしたのよ。」
「ほほほぅ、杏奈様はいったい何の研究を?『花岡菫』の名前はどうやって出したので?やはりお力お使いになられたのですか?」
「・・・研究に中身なんてないわよ。それっぽく振る舞うだけ。それに、たまたま『花岡菫』が優秀な生徒で、たまたまこの学校の教師が個人的な知り合いだったから大して力は発揮していないわ。というかズン、さっきから何なの?あなた、私の保護者か何かなの?」
根掘り葉掘り聞いてくるのがうざったい。
「むほっ、滅相もございません。ただ今後のお役に立てるように情報を共有したいと思いまして。」
ズンはピョンと跳び跳ねて着地した。両腕を身体の橫にぴったりくっ付けた姿は、太っちょな棒みたい。指の先だけ外にはねているのは癖だろうか。
「だいたいねぇ、そのお役に立てるようにってのもおかしいのよ。この前まで私の為だから協力しろって脅してなかった?」
「むほっ?脅すなど恐れ多いですっ。私はただ、私の目的と杏奈様の目的が一致してですねっっ、だからつまり、杏奈様が黒耀様とご婚約なさることは私にとっても喜びでありまして・・」
「何故それがズン喜びになるのよ?」
「てて手柄でございます。私の手柄になりますから、そりゃもう。」
ズンは最初の時に、黒耀を見つけて魔界に連れ戻せれば正式に婚約が出来るといった。でもそれって、私が連れ戻したら、じゃないのかしら?そうするとズンの手柄というより私の手柄になってしまわないかしら?
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※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
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