碧の海

ともっぴー

文字の大きさ
19 / 38

杏奈の鬱憤

しおりを挟む
**杏奈

「ねぇ、私、何してるのかしら?」
「さぁ、何でしょうねぇ。」
「・・・ムカつく。」

双眼鏡を覗きながら下唇を噛んだ。悔しい、私だって黒耀と一緒にいたいのに。最近の黒耀は、私が食事をきちんと食べさせているから程よく肉が付き、見違える程の美男子になってきた。その横に「あの女」だ。学校で一応教師的立場にいる私は恨めしく見ることしか出来ないのだ。こんなことなら生徒になっておけばよかった・・・・。学校で与えられた個室のソファーにだらしなく寝転びながらレンズの先を見つめた。

「ねぇ、私、何故『花岡菫』を見張ってるのだっけ?」
「黒耀様を監視する為にございます。」
「・・・ムカつく。」

双眼鏡の目玉は黒耀には目立ち過ぎる。というか『花岡菫』につけているのも直ぐにバレそうなので、やむ終えず遠くからこっそり、本当にこっそり監視を続けているのだ。皮肉なことに、隙あらば「花岡菫」にべったりな黒耀は「花岡菫」さえ見張っておけば必然的に監視できる訳で・・・それはそれでムカつく。
ゴロリと寝返りを打って手を伸ばし、双眼鏡をテーブルに乗せた。ついでにビスケットを摘まむ。

「本当に黒耀は帰る気あるのかしら?」
「お約束致しましたから恐らくは。」

言いながら、ズンはそっと双眼鏡を右手で取り、左手でビスケットを1枚引き抜いた。腰は低いくせに図々しい。それにしても、

「約束、ねぇ・・・」

これだけ長い間人間界に留まっていた黒耀が、すんなりと約束したのも腑に落ちない。黒耀は、今回待ってくれと言った。今回だけ待ってくれたら大人しく帰るからと。今回のあの女はそれ程特別なのかしら?さっき双眼鏡の向こうで笑っていた顔が頭に浮かんだ。

「・・・あの女がいつまでも楽しそうなのがムカつく。」

早く不幸になればいいのに。

「むほほ、今だけですよ。」
「ん?」

ズンの言葉に引っ掛かりを覚えて目線をやると、双眼鏡を少しずらし、コテリと首を傾げた。

「はい?どう致しましたか?」
って、言ったの?」
「ええ。何かおかしいですか?」
「あの女はずっと今まで、どんなに幸せな時があっても最後は不幸なの。ズンはそれを知ってた?」
「ええ。当然でございます。魂に呪いが縫い付けてありますから。」
「前に言ってた、黒耀との?」

今後は私がコテリと首を傾げた。

「ええ、いいえ・・いや、ええと、副産物・・副作用、でしょうか。仕組みは分かりませんがそういうものです。」
「そんな呪い、普通の人間にかけてよかったの?」

魂に縫い付けてしまったら、生まれ変わっても呪いは続く。黒耀と結ばれないだけでなく、不幸もついてくる呪いなんて・・
ズンは再び双眼鏡を覗き込む。

「普通の、ですか?魔王様にしてみれば黒耀様を誑かした時点で大罪人ですが。」

誑かしたら罪なの?驚いて飛び起きた。

「わ、私はっっ!?」
「杏奈様は、生憎ですが・・誑かせておりません。それに、人間ではありませんでしょう。」
「あ、ああ、そうね。そうよね。」

誑かせていない・・確かにそうなのだけど、そうよね・・・。

「まぁ、黒耀様に出会ってしまったことを考えると、元々不幸の星かもしれませんね。それより杏奈様、1度その、『花岡菫』に会わせて頂けませんか?」
「何よ、まさかあんたまで?」

ズンは全身を使ってブルブルと否定した。あ、あ、あ・・・落とさないでよ、双眼鏡。身体と共に揺れる双眼鏡が気になって目を見開いた。

「とんでもない。私は杏奈様に忠誠を誓っております。」
「は?私に忠誠?魔王様じゃなくて?」
「おひょっ!?私、主は1人だけ、杏奈様ただ1人にございますよ。『花岡菫』は、少し気になるところがございまして。」

主?ただ1人?聞き捨てならないような気がするけれど、聞かない方がいいような気もする。一瞬迷って、なにも聞かなかったことにした。

「気になるって?」
「まだ分かりません。ただ、黒耀様の力の件も気になっておりまして。」
「いいわ、会わせる。けど、黒耀がねぇ・・・。」

朝も放課後も、休み時間もくっついている黒耀を、どう剥がしたものか。そのせいで私自信も接触しかねているのだ。悶々と考えていると、まだ双眼鏡を見ていたらしいズンが声を上げた。

「おや、杏奈様、授業中というのに『花岡菫』が出歩いておりますよ。」
「んん!?」

私は首元に落ちたビスケットのかけらをパッと払って飛び起きた。



**海(菫)

その日碧は、十夜さんの部屋の前で別れてから、姿を見せなかった。付きまとわれるのは嫌だけど、どこで何をしているのは分からないのも不安になる。まったく厄介だわ。

放課後、いつものように雫さんや瑠璃さんと勉強をしてから屋敷に戻ると、お母様が不機嫌な顔をして待っていた。

「お母様、ただいま戻りました。」

おそるおそる挨拶をすると、お母様は腕を組んで私の前に立ちはだかった。

「ええ、今日も遅かったのね。ずっと待っていたのよ。」
「え、ええと・・なにか、ありましたか?」

遅いといっても夕食には間に合うように帰って来ている。今朝までは普通だったはずなのに。

「まぁ! 菫さんたらっ。まさか分からないって言う気なの!?」
「え・・・あの、私何か、お母様の気に触る事をしたかしら?」

嘘をついたことがバレたのかしら?でも最近は本当に勉強しているし・・。まさか碧のこと?心当たりが多すぎて、冷や汗が流れた。

「もうっ! 最近ちっとも構ってくれないじゃない。だからこうして待っていたのよ!」
「え?・・・あ、・・・ご、ごめんなさい。」

半分安心したけど、お母様を蔑ろにしてしまっていたことに ひやり、とした。

「今日こそは一緒にお買い物に行ってもらいますからねっ。」
「えっ、今からですの? お母様、明日も学校ですし・・」
「じゃあ、いつだったらいいの? 菫さんはお母様より学校の方が好きになっちゃったの?」
「そんな、お母様。私はお母様の事、とっても愛しているわ。あ、では、週末ならどうかしら? お休みだから、朝からずっと一緒に過ごせるわ。」

本当は、瑠璃さん、雫さんとの約束があるけど、行けなくなったと謝ろう。今はお母様を優先しないと。

「そう?じゃあ、そうしましょ。」

良かった、大丈夫。胸をほっと撫で下ろした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...