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杏奈の鬱憤
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**杏奈
「ねぇ、私、何してるのかしら?」
「さぁ、何でしょうねぇ。」
「・・・ムカつく。」
双眼鏡を覗きながら下唇を噛んだ。悔しい、私だって黒耀と一緒にいたいのに。最近の黒耀は、私が食事をきちんと食べさせているから程よく肉が付き、見違える程の美男子になってきた。その横に「あの女」だ。学校で一応教師的立場にいる私は恨めしく見ることしか出来ないのだ。こんなことなら生徒になっておけばよかった・・・・。学校で与えられた個室のソファーにだらしなく寝転びながらレンズの先を見つめた。
「ねぇ、私、何故『花岡菫』を見張ってるのだっけ?」
「黒耀様を監視する為にございます。」
「・・・ムカつく。」
双眼鏡の目玉は黒耀には目立ち過ぎる。というか『花岡菫』につけているのも直ぐにバレそうなので、やむ終えず遠くからこっそり、本当にこっそり監視を続けているのだ。皮肉なことに、隙あらば「花岡菫」にべったりな黒耀は「花岡菫」さえ見張っておけば必然的に監視できる訳で・・・それはそれでムカつく。
ゴロリと寝返りを打って手を伸ばし、双眼鏡をテーブルに乗せた。ついでにビスケットを摘まむ。
「本当に黒耀は帰る気あるのかしら?」
「お約束致しましたから恐らくは。」
言いながら、ズンはそっと双眼鏡を右手で取り、左手でビスケットを1枚引き抜いた。腰は低いくせに図々しい。それにしても、
「約束、ねぇ・・・」
これだけ長い間人間界に留まっていた黒耀が、すんなりと約束したのも腑に落ちない。黒耀は、今回まで待ってくれと言った。今回だけ待ってくれたら大人しく帰るからと。今回のあの女はそれ程特別なのかしら?さっき双眼鏡の向こうで笑っていた顔が頭に浮かんだ。
「・・・あの女がいつまでも楽しそうなのがムカつく。」
早く不幸になればいいのに。
「むほほ、今だけですよ。」
「ん?」
ズンの言葉に引っ掛かりを覚えて目線をやると、双眼鏡を少しずらし、コテリと首を傾げた。
「はい?どう致しましたか?」
「今だけって、言ったの?」
「ええ。何かおかしいですか?」
「あの女はずっと今まで、どんなに幸せな時があっても最後は不幸なの。ズンはそれを知ってた?」
「ええ。当然でございます。魂に呪いが縫い付けてありますから。」
「前に言ってた、黒耀との?」
今後は私がコテリと首を傾げた。
「ええ、いいえ・・いや、ええと、副産物・・副作用、でしょうか。仕組みは分かりませんがそういうものです。」
「そんな呪い、普通の人間にかけてよかったの?」
魂に縫い付けてしまったら、生まれ変わっても呪いは続く。黒耀と結ばれないだけでなく、不幸もついてくる呪いなんて・・
ズンは再び双眼鏡を覗き込む。
「普通の、ですか?魔王様にしてみれば黒耀様を誑かした時点で大罪人ですが。」
誑かしたら罪なの?驚いて飛び起きた。
「わ、私はっっ!?」
「杏奈様は、生憎ですが・・誑かせておりません。それに、人間ではありませんでしょう。」
「あ、ああ、そうね。そうよね。」
誑かせていない・・確かにそうなのだけど、そうよね・・・。
「まぁ、黒耀様に出会ってしまったことを考えると、元々不幸の星かもしれませんね。それより杏奈様、1度その、『花岡菫』に会わせて頂けませんか?」
「何よ、まさかあんたまで?」
ズンは全身を使ってブルブルと否定した。あ、あ、あ・・・落とさないでよ、双眼鏡。身体と共に揺れる双眼鏡が気になって目を見開いた。
「とんでもない。私は杏奈様に忠誠を誓っております。」
「は?私に忠誠?魔王様じゃなくて?」
「おひょっ!?私、主は1人だけ、杏奈様ただ1人にございますよ。『花岡菫』は、少し気になるところがございまして。」
主?ただ1人?聞き捨てならないような気がするけれど、聞かない方がいいような気もする。一瞬迷って、なにも聞かなかったことにした。
「気になるって?」
「まだ分かりません。ただ、黒耀様の力の件も気になっておりまして。」
「いいわ、会わせる。けど、黒耀がねぇ・・・。」
朝も放課後も、休み時間もくっついている黒耀を、どう剥がしたものか。そのせいで私自信も接触しかねているのだ。悶々と考えていると、まだ双眼鏡を見ていたらしいズンが声を上げた。
「おや、杏奈様、授業中というのに『花岡菫』が出歩いておりますよ。」
「んん!?」
私は首元に落ちたビスケットのかけらをパッと払って飛び起きた。
**海(菫)
その日碧は、十夜さんの部屋の前で別れてから、姿を見せなかった。付きまとわれるのは嫌だけど、どこで何をしているのは分からないのも不安になる。まったく厄介だわ。
放課後、いつものように雫さんや瑠璃さんと勉強をしてから屋敷に戻ると、お母様が不機嫌な顔をして待っていた。
「お母様、ただいま戻りました。」
おそるおそる挨拶をすると、お母様は腕を組んで私の前に立ちはだかった。
「ええ、今日も遅かったのね。ずっと待っていたのよ。」
「え、ええと・・なにか、ありましたか?」
遅いといっても夕食には間に合うように帰って来ている。今朝までは普通だったはずなのに。
「まぁ! 菫さんたらっ。まさか分からないって言う気なの!?」
「え・・・あの、私何か、お母様の気に触る事をしたかしら?」
嘘をついたことがバレたのかしら?でも最近は本当に勉強しているし・・。まさか碧のこと?心当たりが多すぎて、冷や汗が流れた。
「もうっ! 最近ちっとも構ってくれないじゃない。だからこうして待っていたのよ!」
「え?・・・あ、・・・ご、ごめんなさい。」
半分安心したけど、お母様を蔑ろにしてしまっていたことに ひやり、とした。
「今日こそは一緒にお買い物に行ってもらいますからねっ。」
「えっ、今からですの? お母様、明日も学校ですし・・」
「じゃあ、いつだったらいいの? 菫さんはお母様より学校の方が好きになっちゃったの?」
「そんな、お母様。私はお母様の事、とっても愛しているわ。あ、では、週末ならどうかしら? お休みだから、朝からずっと一緒に過ごせるわ。」
本当は、瑠璃さん、雫さんとの約束があるけど、行けなくなったと謝ろう。今はお母様を優先しないと。
「そう?じゃあ、そうしましょ。」
良かった、大丈夫。胸をほっと撫で下ろした。
「ねぇ、私、何してるのかしら?」
「さぁ、何でしょうねぇ。」
「・・・ムカつく。」
双眼鏡を覗きながら下唇を噛んだ。悔しい、私だって黒耀と一緒にいたいのに。最近の黒耀は、私が食事をきちんと食べさせているから程よく肉が付き、見違える程の美男子になってきた。その横に「あの女」だ。学校で一応教師的立場にいる私は恨めしく見ることしか出来ないのだ。こんなことなら生徒になっておけばよかった・・・・。学校で与えられた個室のソファーにだらしなく寝転びながらレンズの先を見つめた。
「ねぇ、私、何故『花岡菫』を見張ってるのだっけ?」
「黒耀様を監視する為にございます。」
「・・・ムカつく。」
双眼鏡の目玉は黒耀には目立ち過ぎる。というか『花岡菫』につけているのも直ぐにバレそうなので、やむ終えず遠くからこっそり、本当にこっそり監視を続けているのだ。皮肉なことに、隙あらば「花岡菫」にべったりな黒耀は「花岡菫」さえ見張っておけば必然的に監視できる訳で・・・それはそれでムカつく。
ゴロリと寝返りを打って手を伸ばし、双眼鏡をテーブルに乗せた。ついでにビスケットを摘まむ。
「本当に黒耀は帰る気あるのかしら?」
「お約束致しましたから恐らくは。」
言いながら、ズンはそっと双眼鏡を右手で取り、左手でビスケットを1枚引き抜いた。腰は低いくせに図々しい。それにしても、
「約束、ねぇ・・・」
これだけ長い間人間界に留まっていた黒耀が、すんなりと約束したのも腑に落ちない。黒耀は、今回まで待ってくれと言った。今回だけ待ってくれたら大人しく帰るからと。今回のあの女はそれ程特別なのかしら?さっき双眼鏡の向こうで笑っていた顔が頭に浮かんだ。
「・・・あの女がいつまでも楽しそうなのがムカつく。」
早く不幸になればいいのに。
「むほほ、今だけですよ。」
「ん?」
ズンの言葉に引っ掛かりを覚えて目線をやると、双眼鏡を少しずらし、コテリと首を傾げた。
「はい?どう致しましたか?」
「今だけって、言ったの?」
「ええ。何かおかしいですか?」
「あの女はずっと今まで、どんなに幸せな時があっても最後は不幸なの。ズンはそれを知ってた?」
「ええ。当然でございます。魂に呪いが縫い付けてありますから。」
「前に言ってた、黒耀との?」
今後は私がコテリと首を傾げた。
「ええ、いいえ・・いや、ええと、副産物・・副作用、でしょうか。仕組みは分かりませんがそういうものです。」
「そんな呪い、普通の人間にかけてよかったの?」
魂に縫い付けてしまったら、生まれ変わっても呪いは続く。黒耀と結ばれないだけでなく、不幸もついてくる呪いなんて・・
ズンは再び双眼鏡を覗き込む。
「普通の、ですか?魔王様にしてみれば黒耀様を誑かした時点で大罪人ですが。」
誑かしたら罪なの?驚いて飛び起きた。
「わ、私はっっ!?」
「杏奈様は、生憎ですが・・誑かせておりません。それに、人間ではありませんでしょう。」
「あ、ああ、そうね。そうよね。」
誑かせていない・・確かにそうなのだけど、そうよね・・・。
「まぁ、黒耀様に出会ってしまったことを考えると、元々不幸の星かもしれませんね。それより杏奈様、1度その、『花岡菫』に会わせて頂けませんか?」
「何よ、まさかあんたまで?」
ズンは全身を使ってブルブルと否定した。あ、あ、あ・・・落とさないでよ、双眼鏡。身体と共に揺れる双眼鏡が気になって目を見開いた。
「とんでもない。私は杏奈様に忠誠を誓っております。」
「は?私に忠誠?魔王様じゃなくて?」
「おひょっ!?私、主は1人だけ、杏奈様ただ1人にございますよ。『花岡菫』は、少し気になるところがございまして。」
主?ただ1人?聞き捨てならないような気がするけれど、聞かない方がいいような気もする。一瞬迷って、なにも聞かなかったことにした。
「気になるって?」
「まだ分かりません。ただ、黒耀様の力の件も気になっておりまして。」
「いいわ、会わせる。けど、黒耀がねぇ・・・。」
朝も放課後も、休み時間もくっついている黒耀を、どう剥がしたものか。そのせいで私自信も接触しかねているのだ。悶々と考えていると、まだ双眼鏡を見ていたらしいズンが声を上げた。
「おや、杏奈様、授業中というのに『花岡菫』が出歩いておりますよ。」
「んん!?」
私は首元に落ちたビスケットのかけらをパッと払って飛び起きた。
**海(菫)
その日碧は、十夜さんの部屋の前で別れてから、姿を見せなかった。付きまとわれるのは嫌だけど、どこで何をしているのは分からないのも不安になる。まったく厄介だわ。
放課後、いつものように雫さんや瑠璃さんと勉強をしてから屋敷に戻ると、お母様が不機嫌な顔をして待っていた。
「お母様、ただいま戻りました。」
おそるおそる挨拶をすると、お母様は腕を組んで私の前に立ちはだかった。
「ええ、今日も遅かったのね。ずっと待っていたのよ。」
「え、ええと・・なにか、ありましたか?」
遅いといっても夕食には間に合うように帰って来ている。今朝までは普通だったはずなのに。
「まぁ! 菫さんたらっ。まさか分からないって言う気なの!?」
「え・・・あの、私何か、お母様の気に触る事をしたかしら?」
嘘をついたことがバレたのかしら?でも最近は本当に勉強しているし・・。まさか碧のこと?心当たりが多すぎて、冷や汗が流れた。
「もうっ! 最近ちっとも構ってくれないじゃない。だからこうして待っていたのよ!」
「え?・・・あ、・・・ご、ごめんなさい。」
半分安心したけど、お母様を蔑ろにしてしまっていたことに ひやり、とした。
「今日こそは一緒にお買い物に行ってもらいますからねっ。」
「えっ、今からですの? お母様、明日も学校ですし・・」
「じゃあ、いつだったらいいの? 菫さんはお母様より学校の方が好きになっちゃったの?」
「そんな、お母様。私はお母様の事、とっても愛しているわ。あ、では、週末ならどうかしら? お休みだから、朝からずっと一緒に過ごせるわ。」
本当は、瑠璃さん、雫さんとの約束があるけど、行けなくなったと謝ろう。今はお母様を優先しないと。
「そう?じゃあ、そうしましょ。」
良かった、大丈夫。胸をほっと撫で下ろした。
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