上 下
13 / 17

風邪

しおりを挟む

日曜日の約束の前日の土曜日の夕方。
陽平くんから一通のメッセージがあった。

『すみません、理一が熱を出してしまい、明日は難しいかと思います』

との事。

土日、祝日と休みな俺は、メッセージに気づくなり、すぐ、

『今、電話、大丈夫ですか?』

とメッセージを送っていた。

10分は経たないくらいか、陽平くんが、

『大丈夫です』

との事で、慌てて電話。

「あ、もしもし、陽平くん。理一が熱?大丈夫?」

「はい。さっき病院から帰宅しました。風邪らしいです。いつもの事ですし...」

「いつも...」

「子供は免疫力が弱いからか、風邪を引きやすいらしいんです。今、ようやく寝かしつけて...」

「あの」

「はい」

「...良かったら位置情報、送って頂けないですか?俺ももう、他人事と思えないというか...何か必要な物はありませんか?」

陽平くんが電話越しからも、たじろいだのが伝わった。

「で、でも...申し訳ないですし...」

「今更ですよ、頼ってください、いつでも」

しん、と静まった後の電話の向こうの陽平くんの声は若干、涙声だった。

「あ、ありがとうございます...」

そうして、陽平くんの送ってくれた位置情報を元に、車を走らせた。

「ここ、か...?」

見上げたアパートのあまりの古さに瞬きすら忘れた。

カン、と音を立て、二階建ての今にも崩れ落ちそうなメッキの階段を上がる。

そして、どうやら、インターフォンは壊れているらしく、三回、ノックをし、ドアが開いた。

「誠さん...」

「理一はどうですか?」

「まだ熱が...汚いし狭いんで恥ずかしいのですが...どうぞ」

陽平くんに促され、玄関に。

狭い空間で靴を脱ぎ、部屋へと上がり、また愕然とする。

俺の部屋は1DKのフローリングだが、陽平くんの部屋は本当に狭く、畳の和室で、1kと思しき、本当に狭い部屋だった。

真っ先に理一が眠る布団に向かう。

いつも笑顔を浮かべるその顔は熱のせいか、真っ赤だ。

胸が苦しくなった。

「必要そうな物は一応、買ってきたのですが...」

途中コンビニで買ってきた、額に貼るシートやプリンやヨーグルトの入った袋を陽平くんに手渡した。

「本当にすみません...ありがとうございます...」

ふと、とある思案が浮かんだ。

「あ、あの、陽平くん」

「はい」

「良かったら、なんだけど...俺の母に理一を預かって貰う、てのは...」 

三人の子供を育て上げた母だ。
きっと陽平くんより色々慣れ、捌けているんじゃないだろうか。

「え?で、でも...申し訳ないです、そんな...」

陽平くんの返事を待つ前に、俺は熱にうなされる理一を見つめたまま、スマホを取り出し、実家に掛けていた。

「母さん?こないだ話した、知り合いの息子さんがさ、熱出したんだ」

「あらあら、熱?大丈夫なの?」

「良かったら母さん、今はずっと家だろ?」

「ええ、そうね。私で良かったら預かってもいいけれど...お幾つ?」

「二歳」

「風邪を引きやすい年頃ね、いつでも連れてらっしゃい」

母とのやり取りを見ていた陽平くんに、

「さ、行きましょう」

と声を掛けた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ばぶアルファバース

BL / 完結 24h.ポイント:1,285pt お気に入り:7

もう一度、誰かを愛せたら

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:632

男となんて...?

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:9

騎士は愛を束ね、運命のオメガへと跪く

BL / 連載中 24h.ポイント:2,550pt お気に入り:441

Black Angel ~SECOND~

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

言いたいことは、それだけかしら?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:60,790pt お気に入り:1,398

俺達は夫婦を認めないっ!

BL / 連載中 24h.ポイント:2,848pt お気に入り:24

浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

BL / 連載中 24h.ポイント:26,143pt お気に入り:1,001

処理中です...