愛したい、愛されたい。

ミヒロ

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帰宅すると、体調が悪いから、と家で休んでいたリクにUFOキャッチャーで取った、小さなぬいぐるみを渡した。

布団をかけて横たわっているリクに

「熱は?」

と聞くと、

「わからない」

と言うので、リョウが体温計を持ってきて、計らせた。

37.4度。微熱だった。

「風邪引いたっぽいな」

と、カズヤが風邪薬と水を渡した。

お粥は朝、カズヤが作っていた。

今日の料理当番はカズヤだったから。

僕達も必然と、朝はお粥と玉子焼き、昨夜のリョウが作り置きしていた、鶏肉と根野菜の煮付けだった。

「移したらいけないけど、どうしよう」

と心配しているので、

「心配しなくていいからゆっくり休んで」

と俺は声をかけた。

リクが風邪で体調不良なのもあり、カズヤもリョウもしばらくはスカウトには出ず、交代で受付することになった。

それから数日後のこと。

「いらっしゃいませー」

リョウの声に振り向くと、セイヤさんが店に来ていた。

またたくさんのビニール袋や紙袋を持って。


互いに目が合うとにっこり微笑んだ。

セイヤさんが歩みより、みんなに持っている袋を渡し、

「みんなで食べて。カイの分は取っておいてね」

と言い、僕の手を引いた。

温かい手のひらを握り返す。

そして、2人で部屋に入った。

「この間はなかなか屈辱だったよ」 

とセイヤさん。

「年下に、なんて」

と続き、ヒヤヒヤして、セイヤさんの横顔を見た。

怒ってるっぽい表情。

なんて言おうか迷っていると、

「なーんてね、驚いた?」

とセイヤさんが俺を見ておどけるように笑った。

「ひどい!騙した!?」

「少しだけ、複雑な気分だったけど、怒ってはないよ」

あ...と俺はまた言葉を探した。

「な、なんなら、今日は俺が受けで」

と言うと

「別にいいよ、どっちでも」

と何処か遠い眼差し。

「セイヤさん...」

まだ亡くなった彼氏のことを忘れられていない気がした。

「ここって10代しか勤務できないんだよね」

と突然、セイヤさんが切り出した。

「ですね...若い子が売りだから...父さんが考えたみたいですけど」

「だよね...」

「どうしてですか」

聞いてすぐに

「いや、なんでもない笑」

「...無茶なことしても、彼氏さんは喜びませんよ」

「...」

「セイヤさんの幸せを願ってると思います」 

「...なんでわかる?」 

「なんとなく...」

「俺ですら、もうあいつの気持ちがわからないのに、会ったこともないカイがなぜわかる...?」

真剣な表情にしまった、と思った。

「ごめん。つい、大人気ないな...」

セイヤさんが瞼を擦った。

泣いてたのか、と、ようやく気がついた。

俺はちょっと待ってて、と、リビングに出た。

ガサガサとこの間、ラーメン食べに行った際、2つ取れた、小さなぬいぐるみを探し出し、部屋に戻った。

「これ...」

象の小さなぬいぐるみを手渡した。

「...また縁起がいいものを...」

と、泣きそうな顔でエイジさんが微笑んだ。

「タイではね、象は神様のように崇められてるんだよ、象は神の使いだとか」

「これ、こないだ、ラーメン食べ行った後にゲーセン、てので取れたんです、1つは風邪引いてた仲間に渡したんです」

「ラーメンかあ、仲間に同じぬいぐるみを?優しいね、カイは」

「いえ、偶然、取れたから、でも生まれて初めて、ラーメン食べたんですが、病みつきになりそうでヤバいです」

「生まれて初めて...?」

「はい、物心ついた時からこの部屋、というかこのマンションしか知りませんでした、だから、色んな物が新鮮で...あ!空も笑」

「空?」

「空が青くて、太陽は眩しくて」

俺はそこから機関銃のようにあの日のことを喋りまくってた。

セイヤさんは自分のことのように嬉しそうに微笑み、頷く。

「で、ですね、買った漫画が...!」

と、この時、ドアがノック...。

頭が真っ白になった。

セイヤさんには関係ない話を延々と...。

「す、すみません、こんなんじゃ...父さんに話してお金払い戻してもらいます!」

立ち上がると、手首を掴まれた。

「大丈夫、心配しないで、充分、楽しかったから。また今度、続き聞かせてくれる?」

真っ直ぐに見上げるセイヤさんの瞳。

しばらくそのままだった。

「はい...!」
 
僕も笑顔になった。

部屋を出ると入れ替わりで、ヨウタがお客さんに肩を抱かれて入っていった。



































😭
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