18 / 25
17
しおりを挟む帰宅すると、体調が悪いから、と家で休んでいたリクにUFOキャッチャーで取った、小さなぬいぐるみを渡した。
布団をかけて横たわっているリクに
「熱は?」
と聞くと、
「わからない」
と言うので、リョウが体温計を持ってきて、計らせた。
37.4度。微熱だった。
「風邪引いたっぽいな」
と、カズヤが風邪薬と水を渡した。
お粥は朝、カズヤが作っていた。
今日の料理当番はカズヤだったから。
僕達も必然と、朝はお粥と玉子焼き、昨夜のリョウが作り置きしていた、鶏肉と根野菜の煮付けだった。
「移したらいけないけど、どうしよう」
と心配しているので、
「心配しなくていいからゆっくり休んで」
と俺は声をかけた。
リクが風邪で体調不良なのもあり、カズヤもリョウもしばらくはスカウトには出ず、交代で受付することになった。
それから数日後のこと。
「いらっしゃいませー」
リョウの声に振り向くと、セイヤさんが店に来ていた。
またたくさんのビニール袋や紙袋を持って。
互いに目が合うとにっこり微笑んだ。
セイヤさんが歩みより、みんなに持っている袋を渡し、
「みんなで食べて。カイの分は取っておいてね」
と言い、僕の手を引いた。
温かい手のひらを握り返す。
そして、2人で部屋に入った。
「この間はなかなか屈辱だったよ」
とセイヤさん。
「年下に、なんて」
と続き、ヒヤヒヤして、セイヤさんの横顔を見た。
怒ってるっぽい表情。
なんて言おうか迷っていると、
「なーんてね、驚いた?」
とセイヤさんが俺を見ておどけるように笑った。
「ひどい!騙した!?」
「少しだけ、複雑な気分だったけど、怒ってはないよ」
あ...と俺はまた言葉を探した。
「な、なんなら、今日は俺が受けで」
と言うと
「別にいいよ、どっちでも」
と何処か遠い眼差し。
「セイヤさん...」
まだ亡くなった彼氏のことを忘れられていない気がした。
「ここって10代しか勤務できないんだよね」
と突然、セイヤさんが切り出した。
「ですね...若い子が売りだから...父さんが考えたみたいですけど」
「だよね...」
「どうしてですか」
聞いてすぐに
「いや、なんでもない笑」
「...無茶なことしても、彼氏さんは喜びませんよ」
「...」
「セイヤさんの幸せを願ってると思います」
「...なんでわかる?」
「なんとなく...」
「俺ですら、もうあいつの気持ちがわからないのに、会ったこともないカイがなぜわかる...?」
真剣な表情にしまった、と思った。
「ごめん。つい、大人気ないな...」
セイヤさんが瞼を擦った。
泣いてたのか、と、ようやく気がついた。
俺はちょっと待ってて、と、リビングに出た。
ガサガサとこの間、ラーメン食べに行った際、2つ取れた、小さなぬいぐるみを探し出し、部屋に戻った。
「これ...」
象の小さなぬいぐるみを手渡した。
「...また縁起がいいものを...」
と、泣きそうな顔でエイジさんが微笑んだ。
「タイではね、象は神様のように崇められてるんだよ、象は神の使いだとか」
「これ、こないだ、ラーメン食べ行った後にゲーセン、てので取れたんです、1つは風邪引いてた仲間に渡したんです」
「ラーメンかあ、仲間に同じぬいぐるみを?優しいね、カイは」
「いえ、偶然、取れたから、でも生まれて初めて、ラーメン食べたんですが、病みつきになりそうでヤバいです」
「生まれて初めて...?」
「はい、物心ついた時からこの部屋、というかこのマンションしか知りませんでした、だから、色んな物が新鮮で...あ!空も笑」
「空?」
「空が青くて、太陽は眩しくて」
俺はそこから機関銃のようにあの日のことを喋りまくってた。
セイヤさんは自分のことのように嬉しそうに微笑み、頷く。
「で、ですね、買った漫画が...!」
と、この時、ドアがノック...。
頭が真っ白になった。
セイヤさんには関係ない話を延々と...。
「す、すみません、こんなんじゃ...父さんに話してお金払い戻してもらいます!」
立ち上がると、手首を掴まれた。
「大丈夫、心配しないで、充分、楽しかったから。また今度、続き聞かせてくれる?」
真っ直ぐに見上げるセイヤさんの瞳。
しばらくそのままだった。
「はい...!」
僕も笑顔になった。
部屋を出ると入れ替わりで、ヨウタがお客さんに肩を抱かれて入っていった。
😭
10
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる