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11.美食の街・ジュガリエン(中編)
しおりを挟む夜。
メリィたちはロップと会う約束をしていた。
だが、一緒に宿を出る直前まで、ひと悶着あったのだ。
「なんで僕も行っちゃダメなんだよ! 面白そうなのに!」
暴れるフィズを、メリィが何とか抱きとめてなだめる。
「駄目だよ、フィズ。これは大人の仕事だから。ちゃんと言うこと聞けたら、明日は一緒に市場に行こう? 好きな果物も買ってあげるから」
「えぇ~~~……」
不満たっぷりの顔で渋々布団に入ったフィズが眠るのを見届け、ようやく安心して宿を出た。
彼が騒げば、夜の街では目立つ。何より危険だった。
そんなやりとりを思い出しながら、メリィたちはロップに案内され、厨房の奥へと足を踏み入れる。
食材庫の奥から漂ってくるのは、ひどく甘ったるく、それでいて腐ったような生臭い匂い。
「……この匂い、やっぱり夢が混じってるな」
ネロが眉をひそめた。
「悪夢になりかけのやつもあるみたい……」
メリィの表情は険しい。
「やっぱり……! 料理長のやつ、最近“研究”だとか言って夜中に一人で厨房に籠もってたんだ。誰にも中を見せなかったのは、そういう理由だったのか……!」
ドォォンッ!!
突如、黒い霧と轟音。
食糧庫から厨房へと続く扉が爆発するように吹き飛び、現れたのは血のような赤いソースを浴びたコック姿の——料理長だった。
顔には不気味な笑み。目が爛々と輝いている。
「ヨうこそ、夢の饗宴へ。あァ、香ルだろウ? 唆るだロウ? 最高ノスパイスは……絶望ダ」
「怪物化してる……!! ロップ、危ないから外に逃げて!」
メリィが叫ぶ。
「でも、あたし——!」
「お願い!」
メリィの真剣な声に、ロップは唇を噛みしめて頷いた。悔しげなその背中が食材庫の出口へと駆けていく。
その間にも、料理長の身体が変異していく。
両腕が巨大な包丁へと変形し、さらに肩や背からはフライ返しや火バサミ、ミキサーの刃のような器具の腕が何本も生え、蠢き始めた。
ドォオオン!!
振り下ろされた包丁の腕が積んであった食材ごと床を深々と切り裂く。
「うわっ……!」
「メリィ、下がってろ!!」
「オマエェ、変ワった香りがすルなア。少し味見さセておくレェェ!!」
舌舐めずりをし、執拗にメリィを狙う料理長。
攻撃をかわし、大鉈を手に応戦する。だが一撃一撃が重い。狭い食糧庫、身を捌くのもぎりぎりだ。
「ーーーッ!!」
——ガンッ!!
料理長の腕を大鉈で受け止めたメリィの身体が宙を舞い、勢いよく壁に叩きつけられた。
「メリィィィ!!」
ずるりと壁を背に床に崩れ落ちる彼女に、料理長がズルズルと近づく。
「やっとツカまえタ」
顔が裂けるように笑う。
「……メリィに、手を出したな……」
ネロの唸るような低い声。黒曜石のような瞳が、鈍く赤い柘榴石の光を灯している。
静かな怒気。だがそれは、刃よりも鋭かった。
「おまえの料理なんか、クソ……ゴミ以下だ!!!!」
その挑発に料理長が咆哮し、目標をネロへと変え襲いかかってくる。
「ワノツキ、援護!」
「おう! 気張れよ!」
ネロは一瞬で間合いを詰め、腕を斬り裂こうとする包丁の刃を斜めにすり抜けた。頬を浅く裂かれ血がにじむが、気にも留めない。
続け様に襲い来る腕。だがその刃は、ワノツキの大槌によって弾かれた。
「こんなもん、料理道具じゃねえ……悪意の塊だろうが!」
「料理ハゲイジュツダヨオォォォォ!!」
咆哮と共に襲い掛かる刃の腕。
ネロが腕を蹴り上げ、そこにワノツキの渾身の一撃が重なる。
——ゴギッ!!
一本の腕が砕け飛び、料理長が悲鳴を上げた。
「……もう、終わりだ」
ネロのナイフが一閃。
料理長の胸の結晶を突き刺す。
パキン!!!!!
赤く濁った結晶が音を立て、砕け散る。背から生えていた腕も炭のように崩れ落ち、身体がぼろぼろと瓦解していく。
「はあっ……はあっ……!」
ネロは膝をつきながらも、すぐメリィのもとに駆け寄った。
「メリィ、大丈夫か!? しっかりしろ!」
抱き起こされたメリィの目が、ゆっくりと開く。
「んぅ……ネロ? ごめん……油断、しちゃった……」
「……おまえが無事なら、いいんだ……」
そっと額を合わせ、安堵の息をつくネロ。ようやく怒りが静まる。
———
壊れた厨房の中、ロップが立ち尽くしていた。
その頬には、涙の跡が光る。
「夢を……料理に……? そんなの最低だ……。あたし、あいつの下で働いてたのに……何もできなかった……気づけなかった……!」
「ロップ……」
ワノツキがそっと肩に手を置く。
「あんたが俺たちに幼馴染の話をしてくれたから、止めることができたんだ。……だからさ。何もできなかった訳じゃねぇよ」
ロップは小さく、震える肩で頷いた。
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