夢守りのメリィ

どら。

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34.マリオドールの悪夢(前編)

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——朝焼けの中、旅人たちは新たな目的地へと向かっていた。
次に訪れたのは、「人形の街 マリオドール」。

町の入り口に立つ大きなアーチはカラフルなリボンが飾られ、金色の文字で「ようこそマリオドールへ」と書かれている。
街全体が遊園地のように飾り立てられ、道端にはぬいぐるみや木製人形が飾られ、屋台からは甘い菓子や香ばしい食べ物の匂いが漂っていた。

「わぁ、楽しそうな街ですね!」
「調査も大事かもしれませんが、こういう所、デートにはもってこいだと思いません?ネロさま、メリィ姉さま!」

マヌルとメルルがいつものように冷やかしてくる。

「うーん、そう、そうだねぇ、ネロ…」
メリィが頬を染める横で、ネロも無言でそっぽを向いた。

「あんまり茶化すなよ。とりあえず……宿探すか」
ワノツキが呆れたように言い、皆は街中の宿屋へ向かった。

街を歩くうちに、ふと奇妙なことに気付く。
行き交う人々——誰もが人形だったのだ。歩く人形、喋る人形、踊る人形。けれど、そこに“人”の気配はない。

「……この街、住人も全部人形なのか?」
「面白い所だね……」
メリィがきょろきょろと辺りを見回す。

その時——ズメウが足を止め、重い声で呟いた。

「……我は街の外で待つ」
「えっ、ズメウさま?」
「魂のない“物”ばかりの街……我は好かぬ」

そう言ってズメウはゆっくりと踵を返し、街の入り口へ戻って行った。

「……珍しいな。ズメウが外に残るなんて」
ワノツキが小さく呟く。

「仕方ないね。じゃあ、早めに調査を終わらせよう」
メリィが皆を振り返り、笑顔で言った。

夜の街には花火が上がり、カラフルな光が空を彩っていた。
表向きは、賑やかで楽しい夢の国——。

しかし、その奥に潜む気配に、彼らはまだ気付いていなかった。



——翌朝。

「わあぁ~~~!いい匂いがしますよ!!」
「ポップコーン!チュロス!ホットドッグ!全部食べたいです!!」

マヌルとメルルが尻尾を振りながら屋台を物色している。

「おいおい……朝飯食ったばっかだろ」
ワノツキが呆れる。

「こういうのは」「別腹なんですよ!」
双子は元気いっぱいだ。

ふと、わたあめの屋台に目を留めるメリィ。
その様子に気づいたネロがそっと声を掛ける。

「……食べたいのか?」
「えっ……あ、うん、ちょっとだけ……」

「小生、あぶれてませんか?」
タカチホが首を傾げるが、誰にも気づかれず流されていく。

街を歩くうちに、お化け屋敷、メリーゴーランド、ジェットコースターと、さまざまな施設を回る一行。
メリーゴーランドでは双子が「我に続けー!!」と勇者ごっこ。
ジェットコースターではタカチホがネロを煽り、結局全員で乗る羽目になり、降りた後タカチホだけがグロッキーになっていた。
「調査っつーかもう観光だな、コレ」と笑うワノツキ。

日も暮れ、観覧車の頂上でメリィとネロが静かに街を眺めている。
「……綺麗だね」「ああ」
穏やかな時間が流れていく。

その頃——

「……ワノツキさま!メリィ姉さまたちが見えません!!」
「もっと頭を下げてください~!!!」
「あっ!あそこ見てください!街の入り口に……ズメウさまが!!」

竜の姿のまま、街の入り口でじっと動かず佇むズメウを見つけ、一行はざわついた。
「……あれじゃ他の旅人が寄り付かねぇな……」

夜も更け、最後の目的地——城のような建物へ。

「こちらは調整中のため、現在入れません」と人形の案内人に断られる。
残念がる一行だったが、そこへぬいぐるみのようなフワフワの人形が現れた。

「わぁ!!かわいい!!」
「ふわふわです!!」
双子が駆け寄り、抱きつく。

するとぬいぐるみ人形は包み込むように双子を抱き——そのまま、ぐにゃりと飲み込んでいく。

「マヌル!!メルル!!」
「姉さまぁ!!」「やー!!!」
声を上げる間もなく、二人は完全に取り込まれてしまった。人形は足早に城の中へと入って行く。

「追うぞ!」
ネロの号令で、人形の制止を振り切り、城の中へ駆け込む一行。

城の中はまるでハリボテ。
外観と違い、中はゴミ処理場のようだった。
一行が中に入るとすぐに鼻をつく腐臭が鼻につく。

「うっ……」
「酷い臭いですねェ……」

袖で口元を押さえるタカチホ。

中央には歪んだ人形と、双子を飲み込んだぬいぐるみ型の人形が立っていた。

ぬいぐるみからは、気絶した双子が吐き出される。

「……アリガトウ。コレデ……父様ガ……キット……デキル……」

ギギギと音を立てる一本の腕。
奥から運ばれてくるツギハギの“人だったもの”——。

歪んだ人形のその周囲には、元は人間だったと分かる残骸が散らばっている。


「早く……マヌルとメルルを助けなきゃ!」
メリィが駆け寄る。一行は警戒しつつ双子を抱え上げるが——何故か人形は動かない。

「……何か変だ」
メリィが違和感を覚えたその時。
周囲のスクリーンや、廃棄されたテレビがザザザッと音を立て光り始めると、映像が流れ出した——。

それは、かつての人形師と娘、人形の思い出だった——。
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