夢守りのメリィ

どら。

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107.星に願いを

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夜空の街へと続く山道は、白く、静かだった。

ひと月ほど前に降った雪は、昼間の陽にわずかに溶けて、夜にはまた凍る。
その繰り返しのせいか、足もとを踏みしめるたび、ざく、ざく、と乾いた音が鳴った。

その先にある夜空の街は、星を見るための街だった。
高地にあるその場所では、雲が生まれるよりも高く、灯りの数も少ない。
冬の今、空気は澄み渡り、空は黒というより、限りなく深い青。

「わあ……」

街の高台、岩が連なる見晴らしの丘に立ったメルルが、思わず声を漏らした。

「すごい星の数です……!」

「さすが、星の街って呼ばれてるだけありますね! 見渡すかぎり、キラキラですよ~!」

マヌルも楽しげに跳ねている。

その上空では、静かに尾を引く光がいくつも走っていた。
――流星群。
まるで夜空そのものがひととき、命を宿していたかのようだった。

「こんなにたくさん、流れ星を見たのは初めてかも」

メリィが小さく呟き、被っていたフードを取る。

「里では……」と、マヌルがぽつりと言った。

「流れ星は……良くないものって、教えられていました。空を流れる何かは、災いを運ぶかもしれないからって」

「メルルも……そう、聞いてました。だから、怖くて……ずっと見ないようにしてたのです」

「……そっか。そういう考え方も、あるんだね」

メリィはふたりの隣にしゃがみ、ふわふわの帽子をそっと撫でるように触った。

「でもね、ウールネストでは、流れ星を見たらお願いをすると叶うって言われてたんだよ」

「……願い、ですか?」

「うん。役目を終えた星々が、最後の輝きで地上の願いを叶える――そんなお話があったの」

一瞬、双子はきょとんとしたが、次第に小さな笑みを浮かべた。

「それなら、こっちの方が……ステキですね!」

「メルル、お願いしたいです……!」

「マヌルも、です!」

雪の斜面に腰を下ろしたふたりは、手を合わせて目をつぶる。
すぐ隣で、ズメウが腕を組んだまま、天を仰いでいた。

「……役目を終えた星々が、最後の輝きで夢を叶える……か」

金の瞳に夜空が反射する。
その視線の先で、またひとつ流星が走っていく。

「パパ」

シーダがズメウの服の裾に手をかけた。

「いや、父さまは……お願いを、しましたか?」

振り仰いで見上げるその瞳は、紫水晶のように澄んでいた。

ズメウはひとつ、短く息をついた後、ぽつりと呟く。

「……願うなら、ここにいる者たちの、平穏と安全。――それだけだ」

「……そっか」

満足げに笑ったシーダは、今度は自分も星に向かって願いごとをする。

その背を、タカチホが雪に沈まないように抱えてやりながら、ふふ、と笑った。

「お願いの中身が、皆それぞれで……良いですネェ」

「……ネロは?何かお願いした?」

メリィがそっと問いかける。

ネロは手をポケットに突っ込んだまま、照れくさそうに鼻をこすった。

「オレか?そりゃあもう決まってんだろ」

「え?」

「……これからも、おまえとずっといっしょにいられますように、って」

「……」

メリィの目が一瞬大きくなって、頬がほんのり染まった。

その後は誰も、無理に話そうとはしなかった。

夜空に向けて、それぞれの想いが流れるように、
白い吐息と星の光が、交互にゆっくり溶けていった。

雪が、また一片、空から舞い降りる。

冬の静寂の中――
誰かが願ったその夢が、そっと叶いますようにと、夜は静かに流れていった。
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