夢守りのメリィ

どら。

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111.子竜の成長

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澄んだ空気に冷たい風が混じる、山間の道を一行は進んでいた。

昨日の湖畔での出来事は、まるで夢のようだった。けれど確かに、あの湖で黒の魔王――カーラと名乗った男は、メリィに「夢」を託し、土へと還っていった。その余韻が未だ胸の奥に残るまま、一行は次なる街へと向けて、静かな道を踏みしめている。

時折吹き抜ける風に、冬枯れた枝々がざわりと揺れた。

「ねえ、タカチホ」

前を歩くタカチホへ、メリィがそっと声をかけた。

「白の魔王と……本当に会ったことがあるの?」

「ええ、もちろんですヨ。小生がまだ若い頃の話ですが……あれは忘れられませんネ」

そう言って、タカチホはどこか懐かしむような表情を浮かべた。

「その、白の魔王って……今も、メルルとマヌルがいた街の近くにあった、あの森で眠ってるの?」

「体は……ある筈です」

タカチホの言葉は、少しだけ慎重だった。

「ただ、魂までは……どうでしょうネ」

メリィは小さく「……そう」と呟き、前を見つめたまま言葉を続けた。

「じゃあ、行かなきゃだね。ちゃんと……会いに」

それは独り言のようだった。けれどその声音には、確かな決意があった。

「使徒ってやつは……もう、タカチホしか残ってないのか?」

ネロがぽつりと問う。

「……皆、短命種でしたからネェ」

タカチホは一瞬、ほんの僅かに目を伏せた。

「白の魔王の力を得た代償とでも言うのでしょうカ。寿命が延びても、二百……せいぜい三百年が限界だったと思いまス」

その言葉に、メルルが眉を下げて心配そうに言った。

「じゃあ……その、使徒さんたちが持ってた“白の魔王の力”や“悪夢”って、どうなったんですか?」

「うーん、継がれる場合と……継がれない場合がありましタ」

タカチホの声音は少しだけ重くなる。

「力が継がれた場合は、眷属や血族へ受け継がれ、少しずつ拡散していきます。けれど……継げなかった場合」

一度言葉を切り、周囲の木々を見やる。

「その者の亡骸が残った地には……“厄災”が起こるとされています。緑は消え、土地は腐り、やがて焦土となる……」

「……難儀だな」

と、ズメウが低く呟いた。

「根本である夢や悪夢の在り方を変えないと……だめなのかもしれません」

そう言ったのはマヌルだった。珍しく静かな声だった。

「夢や悪夢の在り方……」

メリィは再び考え込む。

(確かによく考えたらおかしい…夢や悪夢って、どうして体から取り出せるの?心や魂は、出すことなんてできないのに……)

そのときだった。

「――メリィ!!後ろだ!!」

ネロの鋭い声に、メリィは反射的にしゃがみ込む。
その直後、風を切る音が彼女の頭上を掠めていった。

空を仰ぐと、いくつもの黒い影が、鋭い声を上げて宙を舞っている。
翼を持つ、鳥型の魔物たちだ。

「三体います!来ますヨ!!」

「行くぞ!」

ネロ、ズメウ、タカチホ、それぞれが即座に構える。

「……ボクが、守る!」

小さな声が、魔物の咆哮に紛れず響いた。

前に出たのはシーダだった。
その幼き竜の口が、紫に染まる。
――次の瞬間、吐き出された紫炎が弧を描き、魔物たちを包んだ。

「シーダ!凄いです!」
「紫の炎、綺麗です!」

双子が嬉しそうに駆け寄り、シーダを撫でる。
シーダは誇らしげに尾を左右に振った。

けれど――

そのうちの一体は、まだ生きていた。
煤けた羽を振るわせ、怒り狂った様にシーダへと真っ直ぐ飛来する。

「――まだ、爪が甘いな」

ズメウの声と同時に、鋭い金属音が走った。
彼のハルバードが魔物を一閃する。
焼け焦げた羽が舞い、魔物は力尽きて地に堕ちた。

「……守ると言うなら、守り通せ」

凛としたその言葉に、シーダは真っ直ぐ頷いた。

山間の風が吹き抜けていく。
それでも、一行の足は止まらない。
雪混じりの空の下、旅はなお続いていく。
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