洗浄魔法はほどほどに。

歪有 絵緖

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洗浄魔法はほどほどに。

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竜の角とトカゲのような尻尾を持つ母、熊の耳を持つ父(尻尾は短くて服の中だ)、虎の耳と尻尾を持つ自分、狼の耳と尻尾を持つ弟。
産まれたときからこの家族なのに、どこか違和感があるのは、ヴィーラに前世と呼ばれる記憶があり、その人格を引きずっているからだ。

不思議なことに、今世でいうところの“獣人”は、その種族が混ざることはなく、両親の遺伝子を必ず引き継ぐわけでもない。これまでの獣人類研究によると、通常は4代前くらいまでの先祖が持つ特徴のうち、どれか1つを持って産まれてくるらしい。
だから、ヴィーラのように、竜人の母と熊人の父を持ちながら、本人は虎人、弟は狼人、なんていうのも至って普通である。ただ、竜は非常に珍しいため、そこは一般的ではないかもしれない。

前世の記憶を持つ者は、竜人よりもさらに珍しいが、いないわけではない。その中には、別の世界の記憶を持つ者もわりといて、この世界ではそれらの様々な知識や技術がごちゃまぜになっている。
ヴィーラの記憶はというと、すでに同じ世界の記憶を持った人が何人も過去にいたらしく、特に新しい知識をもたらすようなことはなかった。転生に際しての時系列がどうなっているのか不思議だが、世界として次元がずれているなら時間がずれてもおかしくないのかもしれない。
とにかくそのおかげで、小さいときに数年間聞き取りのため神殿に通っただけで、あとは普通の生活ができていた。

ヴィーラの前世は、地球という世界の日本国に住んでいた女性である。名前までは思い出せないが、大人になって働きだしたくらいまで、趣味趣向などもそれなりに覚えている。ヴィーラが前世を思い出したのが2歳くらいのときのことで、かなり早かったこともあって、確立する前の自我に前世の人格が混ざってしまった。
それは個人的な趣向にも反映されていて、それなりに清潔さを保てる文化の中にあって、ヴィーラはさらにきれい好きである。あまり多くない魔力を洗浄に全振りしてしまったほど、汚れを落とすことに気を使っている。
そう、この世界には、魔法も存在するのだ。
覚えたい魔法があれば教会に行って自分で選択する。覚えられる魔法は固定で、魔力容量による。また、一度覚えた魔法は通常忘れたり入れ替えたりできないが、高額のお布施を払えば教会で一時的に『忘れたこと』にでき、上書きする形で別の魔法を覚えることができると聞いた。

ある程度大きくなって、まず気になったのは匂いである。獣人だからか、他人の匂いがとてもよく分かる。というよりも分かりすぎる。だから、たまに母と父の匂いが混ざっているときには、前世の知識が仕事をして直視できなかった。仲が良くて何よりである。
夜の生活以外にも、何を食べたか、何を触ったか、風呂に入ったか、トイレに行ったか、どの店に行ったかなど、匂いを嗅げばすぐに分かってしまう。そういったプライバシーを匂いで垂れ流しているという事実に、前世の知識から耐えられず、ほかの魔法を取得することもできたのにわざわざ洗浄を選択した。

もちろん、洗浄は非常に便利な魔法である。イメージ次第で、自分の汚れを落とすのはもちろん、込める魔力の量に応じて一定の範囲内のほこりを取り去ったり、こびりついた古い汚れを落としたり、狩りで付いたしつこい血液の汚れと臭いを取ったりできる。その効力は魔力の量や熟練度によるが、ヴィーラは必死に訓練して、教会に併設された魔法学校では教授をも超える洗浄能力を手に入れた。
「ヴィーラって、狩人してるのに全然それっぽい匂いがしないわよね」
と友人に言わしめるほどである。


この世界には、前世のファンタジー小説に出てくるような魔獣はいない。ただ、前世の記憶よりも大きく力も強い野生動物が闊歩している。この世界が広いのか、獣人たちの繁殖能力がそこまで高くないのか、獣人たちが切り開いた土地よりも、手つかずの自然そのままという場所の方がはるかに広い。そして、ヴィーラの住むような田舎では、肉は取り寄せるよりも狩ってきた方が早いのである。都会なら人の生活圏に囲って畜産できるかもしれないが、田舎だと自然が近すぎて生活圏が狭く、畜産場が獣たちの餌場となってしまうのだ。そこで、肉の確保と間引きを兼ねて、狩人が活躍する。
獣人を食べるような大きな肉食獣は、そんなに多くないが存在する。ヴィーラの町の近くなら、川辺に5メートルを超えるワニが出るし、森には体長が4メートル以上もある熊がいる。体が大きい分力も強く、狩人では歯が立たない。傷をつけることくらいはできるかもしれないが、戦力差から確実に自分の命が危ういし、隙を見て逃げたとしても敵だと認識されて町まで引き連れてくることになってしまう。悪くすれば町に大きな被害を与えてしまうだろう。だから、狩人たちは基本的に大きな肉食獣を見かけても身を潜めて静かに去るのがセオリーになる。

そんな大きな肉食獣たちを狩るのは、主に狩猟者だ。
狩猟者には、一般獣人よりも力が強く、魔力容量が大きく複数の魔法を自在に扱う者がなることが多い。命の危険がある分、高給取りでもある。
とはいえ、そんなにしょっちゅう肉食獣が人里近くに現れることはないので、狩猟者たちは狩猟者ギルドに従ってある程度の範囲を巡回して仕事をしている。人によっては、国を越えて旅をしながら生活することもあるそうだ。


「とうとう、マイロもつがいを見つけたんだってよ。くっそー、羨ましい!」
そう言って、ジョッキの中身を飲み干したのは、優秀な狩猟者であるセオだ。ヴィーラよりも2つほど若い体の大きな男性で、炎と風の魔法を駆使し、長剣も使いこなす。数年前、ヴィーラが狩りをしているときに運悪く巨大な熊に出会ってしまい、たまたまそこへ助けに来てくれたのがセオだった。
セオは、獣人の中でも珍しい竜人だ。
前世のある人の方がもちろん珍しいのだが、獣耳の代わりに角があり、尻尾部分も爬虫類系とは少し違うなど、やはり見た目で分かるので周りも特別視する。
そんな中、母が竜人だから慣れているヴィーラの「普通の対応」を気に入ったらしいセオと親しくなった。たまに仕事で町に来たセオと、2人で居酒屋に飲みに行く仲である。
「セオの番もそのうち見つかるよ、多分」
ヴィーラもジョッキをあおって言った。
「他人事だなぁ。あっちこっち行って探してるけど、たまに気配を感じるだけとかマジでしんどい」
「気配だけは分かるの?」
「たまに、な」
「辛いね、候補が一人しかいないなんて」
「なんだよ、余裕だな!てか、ヴィーラはまだ出会ってないわけ?俺と違って、一人ってわけじゃないだろ?」

竜人以外の獣人は、婚姻相手を何人かの番候補の中から選ぶ。相性の良さに差はあるものの、番になり得る人は複数いるのだ。教会での儀式を経て正式に番になれば、番以外の人に見向きもしなくなるし、ほかの番候補からも候補だと感じられなくなる。一番相性のいい人を探すために、神殿できちんと婚姻するまでは番候補複数人とデートする、なんていう人も少なくない。
しかし、竜人にとっての番候補は生涯で一人しかいないのだ。候補は即、番である。
どうやって番を見つけたのか、どんな風に分かったのか、といった話を、竜人であるヴィーラの母に聞いたこともあるらしい。ヴィーラは、その場にいなかったので詳細は聞いていないが。

「私はね、候補は一応分かってるんだけど、相手には知らせてない」
「何でだ?みんな割と早く決めるだろ。それとも、相手が若すぎるとか?」
初潮や精通がくると、自他ともに番かどうかが分かるようになるのだが、成人はそれとは別に17歳と決まっていて、成人前なら結婚できない。だから、相手が若すぎる場合は知らせずに別の番候補を探すことも少なくない。
「そうじゃないんだけどさ、相手の番候補じゃないっぽいのよね」
通常、番候補だと感じるなら相手もそう感じるらしいが、例外はある。ヴィーラの場合はそれのようだ。

「あぁ、そういう…ほかのやつは?」
「それが、ほかに見当たらなくて。ちがう町とかに行ってみればいいんだろうけど、今うちの町、狩人が私しかいなくてさ。狩人ギルドにせっついてるんだけど、ほとんど村レベルの人口の町に、わざわざ来たがる人なんていないのよね」
ヴィーラは、前世のゲームの影響か、虎という種族の影響か、狩りという行為に忌避感を抱かなかった。そして、たまたま叔父が狩人として働いていたから、弟子入りしてみたら性に合っており、そのまま狩人になったのだ。師匠でもある叔父は、ヴィーラが独り立ちした頃に番を見つけて、別の町に引っ越してしまった。
「お前、優秀だからな。一人でも回ってて余計だろ」
「まぁ、多分ね」
ヴィーラは、褒められて少し照れたのを隠すようにジョッキの残りを飲み干した。


ヴィーラが感じている番候補とは、セオである。そして、ほかには誰もそう感じない。
正確には、ほかの番候補と思しき人はいるものの、セオへの思慕が強すぎるのだ。だから、ほかは考えられない。
会った瞬間、襲い来る熊から思わず目を離してセオを凝視してしまったことをよく覚えている。

けれども、セオはヴィーラのことを番だと感じてはいない。
番は、その存在だけですぐに分かる。そんなに近づく必要もない。会っただけで「番だ」と気づくものだ。
初対面だけではなく、何度も会っているのに気づかないなんてことはあり得ない。
「けど、気配だけが分かるって不思議ね。普通、分かるならはっきり分かるもんじゃない?あっちの町へ行ったとか、この店に入ったとか」
「うーん、それは俺も不思議なんだよな。いつもじゃないんだ。この町でよく感じるんだが、歩いているときとか、こういう酒場にいるときとか…近くだとは感じるけど、どうも気配が小さすぎるっていうか」
「ふぅん、この辺にはいるんだ」
「だといいんだが…もしかしたら、残り香とかかも」
「うぅーん、この町も、そこそこ人の出入りがあるもんね」
「そうなんだよなぁ」

ヴィーラの住むこのテクターレ山町(テクターレ山のふもとの町だからという、安直な名前だ)は、西の港から首都へ向かう途中にある。もっと大きな商業道路は別にあるが、テクターレ山町を通って山を越えた向こう側に鉱山の入り口があり、その関係でそこそこ通行量がある。

鼻の利く獣人は、多くの残り香をかぎ分けることができる。その関係でか、人によっては番候補の動向を感じ取ることもできるという。
人の多い場所では、匂いを感じすぎて酔う人もいるようで、酔い止めのマスクなども売られているらしい。人口の少ないテクターレ山町には、そんなマスクは存在しないが。


番のことに始まり、先に話題に上がったマイロというセオの友人の惚気に対する愚痴、首都に住むマイロの番に合わせて2人が引っ越すらしいことなどを聞きながら飲み食いしているうちに、ヴィーラの酔いもそこそこ回ってきた。
「ごめん、ちょっとトイレ」
「あぁ、大丈夫か?」
「平気。少し暑いし、酔いが回ってるけどそれだけだから」
「いつもよりペース早かったもんな」
マイロとセオは、幼馴染なんだそうだ。猫人で、手先の器用さを活かして革職人になったマイロは、たまたま仕事でやってきた鼠人の女性と出会い、割とすぐに番の儀式をしたらしい。1か月ほどあったハネムーンはそのままマイロの地元で過ごし、来月ごろには女性の本拠地である首都に引っ越す計画で、引っ越す前にお披露目パーティーをすると聞いた。
ハネムーンを終えて、番になった女性と一緒にいたマイロはとにかく舞い上がっていたらしく、セオは嬉しそうに、羨ましそうにあれこれ話してくれた。
その間ずっと、ヴィーラはセオが放つ強い番の香りに酔いそうだった。

「はぁ、なんかつられて飲みすぎてるな…」
トイレで用を済ませたヴィーラは、手を洗って鏡を見た。
日に焼けた健康そうな肌、前世よりも引き締まった良い感じの曲線、編んで一つにまとめた髪は明るいオレンジで、はっきりした二重の瞳は金色にも見える茶色。前世の記憶によるとモテそうに見えるが、この世界では番であるか否かが重要だ。
セオの番ではない、と突き付けられ続けるのは辛い。
番候補だと感じるのに、相手はそうではない、けれども離れられない。そんな片思いを続けている自分が、なんだか可笑しかった。
「私も30歳になるし、そろそろどこかに別の番候補を探しに行くかなぁ…」
虎人のヴィーラの寿命は、大体200年。草食系の獣人だと寿命が60年なんていう場合もあるから、探すなら早い方がいい。ちなみに、番の儀式を行うと、夫婦で寿命を分け合うことになるそうだ。
番が一人しかいない竜人は、寿命が800~1,000年と長いため、どうにか生きているうちに番と出会えることが多いと聞いたことがある。
ヴィーラの母は、今350歳くらい。父は48歳なので、その年の差約300歳である。母は、父を見つけられてよかったと笑っているが、200歳を過ぎたころから諦めかけていたとも聞いたから、竜人は大変だと思う。
『早くセオの番が見つかると良い』と思うが、すぐに『私が死ぬまで見つからなければいい』という考えも浮かぶ。酔っているからか、考え込んでしまったからか、いつもならトイレの後の匂いや飲酒による汗が気になって全身にかけるはずの洗浄魔法をかけ忘れたまま、自分の心の狭さに首を振り、両手でパシンと頬を叩いてからトイレを出た。


セオは、通路に背を向けて座っていた。ヴィーラはその背中を見ながら、自分の席に戻ろうと椅子と椅子の間を歩いた。

あと少し、というところで、何の予備動作もなく、ものすごい勢いでぐりんとセオが振り向いた。あまりの勢いと、その必死の形相に、思わずビクッとなったのは仕方ないだろう。
「え、ちょっと、何?どうしたの?すごい顔してるけど」
「は?うっそだろ…」
「セオ?」
「ないわ、マジないわ、なんで気づけなかったんだ俺」
そう言いながら、セオは素早く帰る支度をしだした。当然のように、ヴィーラの荷物もまとめて片手に持っている。
何が起こったのか分からず、ヴィーラが酔った頭で考えようとしている間に、セオは支払いを済ませてしまった。
「ねぇ、どうしたの?まだ残ってたし、今日も割り勘でしょ?奢られるのは嬉しいけど理由がないっていうか」
「悪いけど、ちょっと黙っててくれ」
「へ?何それ」
「……」
「……」
セオが手をぎゅっと握って引くから、何かのっぴきならない理由でもあるのだろう、とヴィーラは仕方なく引かれるままに歩いた。方向からして、セオの宿に向かっているらしい。


お互いに黙ったまま歩いて宿に着き、2階の奥にあるいつもセオが借りている部屋に入り、ぱたん、と扉が閉まった。
ヴィーラは、もうそろそろ良いだろうと口を開いた。
「それで、どうしたの?突然」
しかし、背中を見せていたセオは、振り向きざまにヴィーラの両肩を押さえつけ、そのまま扉に押し付けた。
何をするんだ、と抗議しようと見上げると、口を開く前にそこへ勢いよくセオの唇を押し付けられた。後頭部を扉に打ち付けて少し痛い。
そんな痛みよりも、ヴィーラの唇に、セオの唇が。
あまりに突然のことで驚いて、でも番から与えられる熱が心地よくて、ヴィーラはパニックになった。固まったのを了承と取ったのか、セオは角度を変えて何度も唇を押し当ててきた。

「んーっ!んんぅ、っは、っちょっ……!!!」
何度もキスをした後で了承もなくされたことに気が付き、やっと唇が離れたので、文句を言おうと口を開くと、そのまま熱い舌がねじ込まれた。
力では、まったく敵わない。
そしてその力で熱を押し付けられるのが、なんとも心地よい。
もうこのまま流されてもいい、と思ったのは数瞬で、すぐにヴィーラは理性を取り戻した。
ゆっくりと腕をあげて、セオの頬に手を添えた。抵抗しないのに気付いたのか、ヴィーラの身体を押さえつける腕の力が弱まった。そしてヴィーラは両手でセオの頬をつかみ……
「…っぃってぇぇぇええええ?!」
両手の爪をちょっと立てて、両側に思い切り引っ張った。


「だから、ヴィーラは俺の番だろ!?なんで黙ってたんだ!」
頬を赤くしながらも、セオはヴィーラを腕から逃さなかった。そこにほの暗い執念のようなものを感じ、ヴィーラは今から将来が心配になって身じろいだ。
「だって、セオは全然気づいてなかったし、私だけが候補だと感じてるのかと思って」
「今、気づいただろ」
「うん。でも、なんで……?」
「お前、洗浄魔法使いまくってるだろ。しかも、匂い消しに花の香までつけて」
「あぁ、うん。匂いを残すのが気になっちゃって」
「そのせいだ」
「え?」

セオによると、番かどうか分かるという特殊なフェロモンは、汗腺の近くから出るそうだ。そして、汗と一緒に出て匂いとして感じられる。だから、毎日どころか気になったらすぐ全身の汗や汚れを取り去って、あまつさえ香水なんぞをつけて匂いを消していたヴィーラは、そのフェロモンを常に消し去って過ごしていたわけだ。
「そんなの、初めて聞くんだけど」
「王都なんかでは知られた話なんだがな。最近公開された情報だから、まだこっちに届いてないんじゃないか?それに、ヴィーラくらいだよ、そこまで自分の匂いを消しまくってるやつなんて。どっかのスパイでもそこまでしねぇぞ」
ここまで、ずっとベッドに座ったセオの上で横抱きにされたままである。身長差から、セオの膝に座るとちょうど顔が同じ高さになっている。
「えっと、ごめんなさい?」
「……くっそ、可愛いな」
そのまま、口づけが再開された。話をしている間も、セオの手は休まずヴィーラの身体をなぞっていた。おかげで、ヴィーラは自分でも分かるくらいに秘所を濡らしてしまっていた。
「もう、いいよな?いいだろ?これ以上無理だからな」
「うんっ……」
ヴィーラの返事はほとんど聞かずに、セオはヴィーラをベッドに下ろしてのしかかってきた。

一説によると、複数の番候補を持たない竜人は、番への執着がほかの獣人の5倍から10倍はあるという。その数字はどこからきたのかと思うが、とにかく執着が強いのは確かなようだ。
ほかの獣人なら番と死別すれば再婚できるが、竜人には候補が一人しかおらず再婚もできない。そのためか、さっさと番って子をもうけようとするらしい。もっと言えば、性欲がとても強い。

「ん、はぁっ!はぁ、セオ、セオ、もう、いいからぁっ!」
裸にひん剥かれて、肌と肌が触れ合い、ヴィーラは翻弄されていた。すでに濡れていたそこに指を突き入れられながら、一番感じる蕾をこねられ、数度達した。秘所に指が3本入ってうごめいており、身体も心もセオを待ち望んでいる。
「ヴィーラ、ヴィーラ。俺のだ、ヴィーラ……」
セオは呟くように言いながら指を抜き、ヴィーラの両足を抱えて開かせた。唇に軽いキスをして、すでに透明な汁まで垂れたそれを、セオはヴィーラの入り口にあてた。
「んんぅ、セオ…」
じゅぷり、と音を立てて先端が入ると、ヴィーラはその圧迫感に眉をひそめた。指とは比べ物にならない。
「ヴィーラ、すごくいい。よすぎる、ごめん、我慢できねぇっ」
ぐぶぶぶっ、と剛直が無理やりねじ込まれた。
「ああぁぁぁっ!!いったぁい!」
「くっ、狭い、ぅぁあやっば……!!」
セオが腰をぐっと押し付けるたびに、奥をぐりぐりと刺激される。無理やり押し広げられた圧迫感と痛みもあるが、その向こうに確実に快楽もある。
「ふぅ、あぁ、あ、ぁん、セオぉ」
きゅう、とセオにしがみついて出たのは、今まで自分でも聞いたことのないような甘さを含んだ声だった。
「あ、くっそ、無理っ!!」
「あっぁ、はぁん!やぁ!ああぁぁ!!」
ずんずんと強く深く突かれて、声が止まらなかった。
そして、より奥へ入り込もうとするようにセオが身体を密着させ、剛直が熱を放ったのを感じた。

しばらく抱き合ったままじっとしていたら、息が落ち着いてきた。狩人をしているからか、そこまで体力を消耗したとは感じない。しかしやはり初めてのことで緊張していたらしく、普段使わない部分が痛い。もちろん、初めて受け入れた所も痛いが、耐えられないほどではない。
「セオ、ねぇ」
そろそろ上からどいて欲しい。ヴィーラは、そっとセオの背を撫でて声をかけた。
「うん?あぁ、うん」
でも、セオは離れない。それに、ヴィーラの中にある熱が収まっていないようにも感じて、思わず腰を揺らした。
「くぁ、ヴィ、ヴィーラ、今はまだっ……!」
「あっ?!ぁん」
少し動いただけなのに、こすれて感じてしまった。そして、少し起き上がったセオの顔を見て後悔した。なぜ、我慢してじっとしていなかったのかと。
「まだまだ、大丈夫そう、だな…?」
ギラギラと輝く緑色の瞳が、肉食系のはずのヴィーラを被食者の気分にさせている。ゆっくりとストロークが始まり、痛みは引いていないものの確実に気持ちよくなってきた。
「やっ、ぁあん、無理、むりぃ、休ませて、は、初めて、なんだからっ……!」
「当たり前、だろ!誰かが触れてたら、そいつを殺しそうだ」
「っ……!!!」
そこに見えた嫉妬の色に、思わずきゅんときた。そして、ヴィーラの中にあるオスを締め付けた。
「あっくぅ!ヴィーラ、ヴィーラ!!!」
「んああ!はぁっ、ああぁ!」

1回目よりもはるかに長い間、様々な体勢で身体をゆすられ、再度遠慮なく中に吐き出されるのを受け入れた。
そして、抱きしめられるのを心地よく感じたまま眠りに落ちた。



明るい日差しを感じて、ヴィーラは目を開けた。
「あ、ヴィーラ、起きたか?」
「ぅん……セオ?おはよお」
「おはよう」
爽やかに笑ったセオは、下着を着てシャツを羽織り、ベッドのそばにある椅子に座って書き物をしていたようだ。
それをぼんやり見上げて、ハッと自分の格好を思い出した。シーツは被っているが、全裸である。そして、昨夜の痴態も思い出し、頬が染まるのを感じて、セオから顔を背けた。
「ヴィーラ」
「……なに?」
「ヴィーラ」
「なによ」
思わず拗ねた声になり、じっとりとセオを見上げると、蕩けそうな熱を秘めた瞳と目が合った。
あ、これヤバいやつじゃないかしら、と思ったときにはもう両手を取られて仰向けに囚われていた。よく見れば、セオはシャワーを浴びたらしく、髪が湿っている。
「セオだけずるい。私もシャワー浴びたい」
「嫌だ」
「じゃあ洗浄しても」
「ダメだ」
むぅ、と口をとがらせると、ちゅ、とキスが降ってきた。
「せっかく俺の匂いが付いたのに、落とすなよ」
「っ……!!」
顔に熱が集まったのが分かる。そのままなし崩しに始まりそうだったので、ヴィーラは慌てて口を開いた。
「ね、ねぇセオ、何か書いてたの?」
「あぁ、手紙だ。マイロに、披露パーティーちょっとずらせっていうのと、俺の両親に連絡と、ヴィーラの両親に連絡」
「え?王都にいるセオの両親に連絡っていうのは分かるけど、私の両親ならすぐそこに住んでるんだし、言いに行けば――」
「無理だ。一息つけるとこまでヤったら、すぐヴィーラの家に籠るぞ」
セオは、食い気味に否定した。
「ちょ、一息つけるまでっていつまで?!何回?!!じゃなくて、ここなら母さんたちの家は私の家より近いわよ!言いに行く暇くらいあるでしょ?」
ヴィーラは、仕事に便利なので町外れの古い一軒家を借りて一人暮らしをしている。
「今から昼くらいまでは覚悟してくれ。あと、悪いが俺に余裕がない。ヴィーラが俺以外と会話すると絶対やばい」
ふわり、とセオの唇がヴィーラの耳をかすめ、思わず肩をすくめた。
「んっ、え、えぇ?そんなに?だって昨日の夜とかはそんな」
「そういうもんだ、諦めてくれ。半月くらいしたら、多分少しは収まるから。そんときに、神殿に行くぞ」
「半月?え、その間ってもしかして」
「当たり前だ、籠るぞ。本当なら丸一ヶ月は籠りたいけど、ヴィーラの仕事もあるし、一回森に出ないといけないだろ?とにかく今は、俺のものだって実感させて」
セオは、ちゅう、と首や鎖骨に口づけながらそう言った。ゾクゾクと感じながら、ヴィーラは言われたことを理解して頷いた。
「ん、それは分かった」
「あぁ、忘れるところだった」
「え?」
もう身体の準備ができそうになったヴィーラからセオがどいたので、自分でも潤んでいると分かる目をセオに向けてしまった。セオはそれに気づかず、荷物が入っているらしい大きめの鞄をがさごそと漁った。
そして、何か小さなものを持ってベッドに戻ってきた。
「ヴィーラ」
そう言って、セオがベッドのそばに跪いた。だから、ヴィーラはキシキシと鳴りそうな身体を叱咤して、ベッドの上に起き上がって座った。
すると、セオがヴィーラの獣耳に触れて、そっと告げた。
「ヴィーラ、俺の番になって」
「っ、はい」
この国では、番になるとき、お互いにピアスを贈りあう。成人すると同時に、番に渡すピアスを用意するのがしきたりだ。それを大事にしまっている者もいれば、持ち歩く者もいる。番のピアスは、獣耳があれば獣耳につけるが、竜人や鳥人など獣耳がない場合は、人型の耳の方につけることもある。
ヴィーラは、人型の右耳に、番に渡すつもりのピアスをつけていた。

「ここに、付けていいか?」
シンプルなピアスを一つ付けていたヴィーラの左側の獣耳に触れながら、セオが言った。
ヴィーラは頷いて、自分の人型の右耳に付けていた番のためのピアスを取った。
「セオは、耳につける?角につける?」
竜人のセオには、獣耳の代わりに角が2本ある。爪と同じく、傷をつけても特に痛みはないらしいが、穴を開けたくない可能性もあるので聞いてみた。
「……よく見える方がいい。そのピアスなら、角の少し先の方に穴を開ければ付けられるだろ」
「ん」
言いながら、セオが先にヴィーラの獣耳にピアスをつけた。
セオの瞳を思わせるような、奇麗な緑色の宝石がついている。
ヴィーラが用意していたピアスは、金細工のシンプルなものだ。もう少し頑張っていいものを用意すれば良かった、と思いながら、ピアスを見下ろした。
「ヴィーラ、ここに付けてくれ」
ヴィーラがぼんやりしている間に、セオはさっさと角に穴を開けていた。
「えっ?!早くない?え、角ってそんな簡単に穴開けられたっけ…」
「あぁ、炎の魔法でサクッと」
「さくっと……」
忘れそうになるが、セオは非常に優秀な狩猟者なので、魔法の威力も制御も最上級なのである。
才能の無駄遣いじゃなかろうかと思ったが、嬉しそうなセオを見ていろいろな感情を封印し、ヴィーラは穴の空いた角の先に、金の輪になったピアスをつけた。

「儀式はまだだけど、でも、これで私たち番になったね」
そっとピアスのついた角を撫でると、セオの瞳がギラリと色づいた。


結局、ヴィーラの家に駆け込めたのは、その日の夕方だった。




手紙で連絡したそれぞれの両親からはお祝いの手紙をもらい、落ち着いたら挨拶においでと言ってくれていた。
半月後に教会で慌ただしく儀式をして、必要であろう分だけヴィーラの仕事と、ついでにセオの仕事もさっさと片付けて、また籠ること1ヶ月。
通常よりも長い期間で、どうにかハネムーンが終わり、セオの拠点としていた町で、マイロたちと合同の挙式パーティーを開き、そのまま一緒に王都へ向かってセオの両親に挨拶をした。
どこへ行っても歓迎され、ヴィーラは嬉しく思っていた。

ただ、家では洗浄魔法禁止だというセオの言葉にだけは頷きたくなかったが、
「ヴィーラの気配が感じられないと不安になる」
と言われてほだされてしまったため、洗浄魔法は基本的に仕事のときだけ使うようになった。


熊人と狼人の双子を授かるのは、もう少し後のことである。
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