40 / 64
第四十話
しおりを挟むミラダ城の一室ではロンメルさんを始めとしたアストーリ領の人々と、私達が今まで受けたドラゴンの被害を地図を広げて確認していた。
×印がつけられたの箇所は三十箇所にも上り、少しずつ移動しているのが見て取れる。
オズワルドはそれを覗き込み、困ったように言った。
「これは、ドラゴンの子供が盗まれてるね。しかもまだ生きてる。死んだら親には分かるから」
「やはりそうか」
ダフネさんが溜息を吐いた。ドラゴンは元々縄張りから外に出ない生き物である。
そんな彼らが外に出て長期間暴れまわるとしたら、理由はそれしかない。
「ドラゴンの子供に関しては、既に領内のめぼしい場所を探し終えている。闇市でも探したが、噂さえなかった」
「なら、そもそもこの領地が狙われてるんだろ。念入りに子供を隠した奴がいるな。心当たりは?」
ヴァージルが事も無げにそう言い、それを聞いたアストーリ領の人々は顔を暗くした。
「隣国フラヴェルでしょう。この領地は隣接していますから。昔から何度も小競り合いが起きています」
ロンメルさんがそう説明した。既にこの襲撃が人為的なものである事と、犯人は分かっていたようだった。
「いっそ、子供が死んでいりゃあ楽なのにな。親も諦めがつく」
ヴァージルの言葉は残酷だったが、真実だ。殺された時の親ドラゴンの怒りは確かに恐ろしいものだろうが、終わりはある。
けれど、生きている限りは諦めることなく人間を襲い続けるだろう。
「国王に援軍などはお願いしなかったんですか?」
素朴な疑問を思わず口にしてしまった。ダフネさんはやりきれないような表情で答えてくれた。
「既にしたさ。けれどそもそも飛行する大型モンスターは軍との相性が悪いのだ。
軍を動かすのには時間がかかるからな。移動されてしまえば何も出来ない。
だからS級相当の騎士を送って欲しいと書簡を送ったのだが、断られてしまった」
「どうしてでしょう?」
「ドラゴンを退けるよりも、その後攻めてくるかもしれないフラヴェルとの戦いを懸念したのだろう。
ドラゴンの縄張りになろうとも自国の領地だが、フラヴェルに奪われれば隣国の領地に変わるからな」
「それって……」
「この地に暮らす民の事など、どうでもいいという事だ」
吐き捨てるようなダフネさんの言葉に室内が静まり返ってしまう。
ロンメルさんが咳払いをして、空気を換えた。
「次に予測されている襲撃場所はこの辺りです。我々はバリスタを用意して迎撃するつもりでしたが、弱らせてその場所に誘導できる者がおりませんでした」
「僕たちにその役目をしろって事でしょ? いいよ!」
オズワルドは軽くそう請け負い、ヴァージルも特に口を挟むことなく同意した。
訓練場の立ち合いを見ていない者達から不安げな視線がロンメルさんに向けられたが、ヴァージルの実力を最も体感した人物である。頷いて皆を安心させてくれた。
「……それでは、今日は此処までにしておきましょう」
やがて会議が終わり、ロンメルさんが解散を告げる。
皆が立ち上がって部屋を出て行く中、ヴァージルに向かってロンメルさんが声をかけた。
「ヴァージル殿。ドラゴンの姿が見えるまでは我々も動く事が出来ません。
良ければ、お手隙の時にでも騎士たちに指導していただけませんか?」
ヴァージルは面倒そうに片眉を上げて断ろうとしたが、否定の言葉が彼の口から出る前に私が腕を引いて止めた。
これは、ヴァージルの社交性を上げる好機なのでは?
余りにもヴァージルは他人を見ない。少しでもそれを和らげていって欲しかった。
「ヴァージル。折角だし、やってみたら?」
「カナ?」
戸惑うような顔である。私は出来るだけ輝く笑顔を作り、強く言った。
「一緒に戦う事になるんでしょ? 仲良くなった方がいいよ」
嫌がるのは分かっている。けれどこれは、今後日向の世界を生きるヴァージルには必要な修行だ。
ヴァージルは暫く苦手な食べ物が出された子供のような表情をしていたが、最終的には溜息を吐いて苦笑した。
「……引き受けてやるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
ロンメルさんはヴァージルの事を認めてくれているらしく、きっと今の提案もヴァージルを思っての事だろうと思う。
私達も部屋を出て行こうとした所で、ふと窓の外に小さな建物が目に入った。
「あれは何の建物ですか?」
ロンメルさんに聞いたつもりだったが、答えたのは傍にいたエミリアーノさんだった。
「ああ、僕の研究室です。元々僕は研究肌の魔術師ですから。ダフネ様に無理矢理、冒険者みたいな事させられていましたけど」
初めて会ったのが冒険者姿だったからか、思わぬ一面だった。けれど言われてみれば、研究者というのは彼に良く似合っている。
「そうだったんですね」
「中は危険な実験道具が沢山ありますから、誰も入れないようにしているんです。カナさんも突然建物が爆発とかはしないと思いますが、余り近寄らないようにしてくださいね」
「分かりました」
爆発などという物騒な単語を使われ、なるべく近寄らないようにしようと決意した。
もしかして、結構な危険人物なのかしら。
そんな思いがよぎったが、ダフネさんにいつも引っ張りまわされている姿ばかり見ていたので気のせいだと直ぐにその考えを捨てたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる