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いつか夢見た光6
しおりを挟む「……しかしまあ、この先を通るとなるとコレを壊さなきゃいかんわけだ」
「そうですね……」
はあと溜息をつくカインを余所に、ヴェルムドールは腰のベイルブレイドにちらりと視線を向ける。
結論から言うのであれば、これは簡単に壊せるだろう。
一定以上の実力を持つ者であれば、こんなものはただの嫌がらせレベルに過ぎない。
ヴェルムドールがちょっと魔力を込めてベイルブレイドを一振りするだけで、アッサリ壊せるだろう。
だが……おそらく、それは正解ではない。
ヴェルムドールの頭に浮かぶのは、風の神ウィルムの言葉だ。
あの時ウィルムは、試練を「受けさせても無駄」だと言ったのだ。
そして、それが風の神の試練限定の事象であると考えるほどヴェルムドールは楽観的ではない。
つまり……この光の神の試練においても、ヴェルムドールは「対象外」である可能性が高い。
となると、ヴェルムドールとカインが二人で同じ場所に飛ばされた意味も見えてくる。
恐らくではあるが……カインになら、過剰な手助けをするような事はしないと思われたのだ。
それは実際に事実であるし、サンクリードやイクスラース相手ならば手助けが必要かどうかという点をさておけばかなりのレベルまで手助けするかもしれない。
セリスについても今後を考えて色々と手を出すかもしれないし、大事なザダーク王国民であるアインについても同様だ。
そして逆の立場から考えた場合でも、サンクリードはともかくイクスラースはヴェルムドールが手助けすると知れば完全に任せきりになるだろうし、セリスに関してはどう変化するか分からないところがある。
そして当然だが、一人の場合は何も遠慮せずに進む予定でもあった。
「……カイン、お前がやってみろ」
「え? は、はい」
ライドルグがそこまで考えていたかは不明だが……少なくとも、一番仲の良く無さそうな組み合わせという点では正解だろう。
ヴェルムドールが小さく溜息をついて一歩下がると、カインは剣を引き抜いて構える。
「たぶん、これで正解のはず……」
呟くと、カインはすうっと息を吸い込んで気合を入れる。
「……光よっ!」
叫ぶと同時にカインの剣の刀身を光の魔力が包み込む。
裂帛の気合と共にカインは剣を振り下ろし……それと同時に、透明な壁が光に包まれ甲高い音と共に光の奔流となって通路を流れていく。
通路を眩く染めていくそれを見て、カインはほっとしたように息を吐く。
「足元の隙は確かに目的を妨げる壁にしかならないかもしれませんが、使い方によっては目的の助けにもなります。たぶんそういう意味も隠してるんじゃないかと思ったんですが……正解だったみたいですね」
「ほう。魔法剣を使ったのは何故だ? その理由であれば、光撃でも目的は達せたと思うが」
ヴェルムドールの興味本位の質問にカインは剣を鞘へと収めながら答える。
「確実にそうだと思ったわけじゃありませんから。間違ってても、魔法剣で無理矢理斬って押し通れるかなー……と思いまして」
「まあ、判断としては正しいだろうな」
照れ笑いをするカインに、ヴェルムドールは肯定してみせる。
たとえば、その可能性が無い事は看破していたので、あくまで「たとえば」であるのだが……たとえば先程の障壁が「魔法に反応して何かの反撃を加える」ものであった場合は非常に面倒なことになっていただろう。
この辺りは、こんな面倒な魔法の罠を仕込んでいる神が相手であれば疑ってかかるべき可能性でもある。
そうした場合、「余計な効果が発動する前に確実に破壊しておく」ことが重要になる。
そうした場合、魔法剣というものは非常に便利である。
何しろ、魔法攻撃としての性質と物理攻撃としての性質を併せ持っているのだ。
選択肢としては上等のものであったと言える。
「まあ……明るくもなったようだ。行くとするか」
「はい!」
カインは答えて、再び先頭を歩き始める。
「……ヴェルムドール様」
「なんだ?」
振り向かないまま、カインはヴェルムドールに問いかける。
「貴方の目指すものって……なんですか?」
「俺の、か」
「はい」
その質問に対する答えは、決まっている。
「平和だ。俺の国だけ平和で「めでたし」ならそれで構わんのだが、そうもいかんようだからな。仕方ないので世界平和とやらを目指している」
「それは……」
「なんだ。何か不満か?」
立ち止まって振り返るカインに、ヴェルムドールは聞き返す。
「いえ。でも、それって……ヴェルムドール様っていうか、ザダーク王国の目指すものですよね」
「そうだな。だが、まずはそこから始めなければならん」
そう口にして、ヴェルムドールはイチカの事を笑えないな……と自嘲する。
「それを成さねば、俺はその先を夢見る事すら許されん。だからカイン、俺の敵に回るなよ。多少の縁とはいえ、知己を殺すのは……少々、夢見が悪い」
カインは何事かを言おうとして……口を閉じ、再び前を向く。
歩き出したカインの後を、ヴェルムドールは歩く。
「ヴェルムドール様。勇者を、どう思います?」
「勇者リューヤのことならば、特に思うことは無い。俺のいない時代の話だ」
ヴェルムドールの返答に、カインは答えない。
ただ、新たな質問のみを重ねてくる。
「……もし、僕が」
歩き続ける二人の前に現れたのは、扉。
「もし、僕が勇者だったら……どうしますか?」
やがて辿りついた重厚な扉の前で、カインは振り返る。
真剣なその表情に、ヴェルムドールは再びの違和感を覚える。
目に魔力を集中し、ステータス確認の魔法を発動する。
名前:カイン・スタジアス
種族:人間
ランク:S
職業:エディウス冒険者学校生
装備:
硬剣ティルノーク
聖銀の鎧
技能:
命の神の加護S
それは、以前冒険者カードで見たものとほとんど変わらない。
ならば、それはただの質問なのだろうか。
「そうだな……お前は勇者だとして、俺を殺したいと思うか?」
「……いえ。今は、それが正しいとは思えません」
その返答に、ヴェルムドールは頷いて返す。
「そうか。なら、今のお前は敵じゃない。それより、その扉。さっさと開けろ」
「……はい」
カインは、静かに扉を開ける。
鈍い音と共に開いていく扉の向こう側から流れ込んできたのは……大量の、光であった。
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