勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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歪み3

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 ルビアの言葉の意味を、ラクターは考える。
 極光殲陣ラティル・レイル
 その魔法をラクターが直接見たわけではないが、「相当に強力な光の魔法」であると聞いている。
 エルアークという人類領域における最大都市の一つを全域包み込む効果範囲の広さと、その中における必殺とも呼ぶべき威力の一定時間の維持。
 そうした「威力」の面だけに視点を絞ってみても、「極致」と呼ぶに相応しい魔法であろうと思う。
 たとえば魔族の中でも魔法を得意とするロクナや、あるいはアルムといった魔族であってもこれ程の規模の魔法を発動するには魔力の問題が付きまとってくるだろう。
 しかし、逆に言えばそれだけだ。
 極光殲陣ラティル・レイルは「威力が高くて色々特殊効果のついた物凄い魔法」ではあるが、それだけなのだ。
 それによる影響といわれたところで、全く意味不明でしかない。

「……ワケがわからねえな。所詮魔法だろう。少しばかり発動するにゃ敷居が高いのかもしれねえが、それだけでしかねえ。そんなもんの一つや二つで世界がどうにかなるなら、とっくになってるはずだろう」
「ええ、普通はそうです。いかに極光殲陣ラティル・レイルが常識を逸脱した魔法だとしても、それでどうにかなるほど世界は脆弱ではありません」
「なら」
「しかし、今この時。この世界……レムフィリアはかつてない程にバランスを崩しています」

 ラクターの台詞を遮って、ルビアは再び手を叩く。
 すると、今度は床から黒い塊のようなものが現れる。
 赤い二つの目のようなものがあるところを見ると、ダークエレメントの模型のようにも思えるが……今そんなものを出す理由がない。
 訝しげな目で模型を見るラクターに、ルビアは模型の横に回ってそれをコツンと叩きながら口を開く。

「コレは、魔神と呼ばれる神の想像図です」
「魔神だあ……? そんなもん聞いたこともねえぞ」
「……」

 ルビアはそれを聞いて意外そうな顔をした後、コホンと咳払いをする。
 
「知らないのも当然です。創世神話にすら語られない存在です」
「で、そのマイナーな神とやらは何を担当してんだ。魔ってことは魔族か?」
「知りません」
「あ?」

 ルビアは真面目な表情でラクターを正面から見つめ、本当に知らないんです……と呟く。

「あるいはライドルグ様はご存知なのかもしれませんが、教えていただけたことはありません。ですが、それでも教えて頂けたことがあります」

 ルビアはそう言って、魔神の模型を見つめる。

「今レムフィリアのバランスが崩れているのは、魔神が降臨しかけた影響によるものだということです」

 レムフィリアは、神々が「流れ」を管理している。
 たとえばライドルグならば光。
 ダグラスならば闇。
 この流れが全て正常かつ均等であることで、世界は常に理想的な姿を保ち続けている。
 しかし、「神」とはいわば属性の頂点たる存在でもある。
 それが降臨するということは、一時的にその「その属性」の方向へ世界が大幅に傾くことをも示している。
 その世界のバランスの崩れは必ずしも天変地異を引き起こすものではないが、時として歪んだ「流れ」を世界に生み出すことがある。

「……遥かな昔。命の神フィリアが人類の争いを止めんとするが為降臨したことがありました」

 それは、まだ人類が「国」という形にすら纏まらず争い続ける、遥か創世の昔。
 あるべき姿を示し導かんが為に命の神フィリアは降臨し、その授けられた知恵により人類は「正しい生き方」を得た。
 まだ神々すらも世界の導き方に試行錯誤していた時代の話だ。

「争うことをやめた人類は、自らを見守ってくださる神々に恥じぬ生き方を……と考えるようになりました」
「おう、そうかい。それで?」
「興味なさそうですね」
「ねえよ。さっさと結論言えやと思わねえこともねえがよ。一応聞いてるから続き言えや」

 ラクターが耳をほじり始めたのを見ながら、ルビアは小さく溜息をつく。

「この降臨の影響で出現したのが、モンスターと呼ばれる存在です」

 モンスター。
 既存の動植物と同じような特徴を持ちながら、異なる存在。
 その区分は人類の間でも未だ決定的なものはなく、「人類におおよそ敵対的」なものがそうであるという区分がされているのみだ。
 勇者リューヤによりある程度完全にそうだと判定されたものもあるが……それとて、全てというわけではない。
 たとえばの話、単なる鳥類の「大ガラス」とモンスター、あるいは魔獣の「ブラックバード」の区別が完全につく者などそうはいない。
 何しろ魔族ですらも「石を投げて当たるか避ければ大ガラス、襲い掛かってきたらブラックバード」などという大雑把な分類をする者がいるくらいである。
 人類の学者と呼ばれる者の中には「動植物が魔力異常により変異を起こすとモンスターになる」と主張する者もいる。
 あるいは、「命の種に不具合が起きた時にモンスターになる」と主張する者もいる。

「それからも、モンスターの出現が止まることはありませんでした。すでにそれを基準に「正常化」した者が居たからです」
「それが魔神とかいうやつか」
「その通りです。それが魔神の存在……その可能性をライドルグ様達が認識した最初であったと聞いています」
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