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たとえ、この身は滅ぶとも14

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 元より、祈国セレスファの在り方は歪であった。
 エレメントに対する祈り。
 それを建国目的としているというのは、確かに耳障りがいい。
 他国も攻撃するのに躊躇う、立派なお題目だ。
 実際にエレメントがレプシドラから出てこないというのを考えても、そうとは分からない時期に「国」という形に纏めるのは難しい。
 何故ならば、国を興すのは人も金も必要だ。
 そして国を興すために金を使うのも人が集まるのも、そこに何らかの現実的な利益があるからだ。
 そうでなければ「愚か者」の烙印と共に消えるか、何らかの収益を見込めるものを近隣国から奪うしかない。
 では、祈国セレスファにおける「利益」とはなんだったのか。
 農業、産業、芸術……どれもそれなりに成熟してはいるが、それは時間をかけて育てたものであるし、特に優れているというわけでもない。
 ならば、国の目的自体は利益を見込めるものだろうか?
 レプシドラの監視と祈り。
 レプシドラの現状を「エレメント達の怒り」として、それがやがて収まるように祈る事と、それが成るまで周辺へ被害が拡散しないようにする。
 実に立派なお題目だが、それは決して金を生みはしない。
 一攫千金狙いの連中は金をケチりはしても使いはしないだろうし、わざわざ恐ろしい場所を観光しようという者を見込めるはずも無かっただろう。
 つまり、金が減りはしても増えるはずのない構造を持っているのが祈国セレスファであったのだ。
 それが成立した理由が「レプシドラから利益を得られるかも」という計算が当時の建国に関わった者達の中にあったというのならば、それは納得である。
 何しろ、少し損をすれば大きなリターンになるかもしれないのだ。
 それを投資に値すると判断する者も、当然居るだろう。
 対外的には立派なお題目を掲げ、聖人ぶっておけば「国民」も集まる。
 そうやって、祈国セレスファは出来上がったのだ。
 上手く誘導され、時間の流れの中で立派なお題目だけが国の中枢にも残った。
 レルスアレナの行動も「祈国の利益」ではなく「エレメント達の怒りを鎮める為」のものだと認識が変わった。
 祈国セレスファは、その立派なお題目を大真面目に掲げる国として完成したのだ。
 その始まりが、レルスアレナという少女による「レプシドラを墓荒らし共から守る為」の策略であることにも気付かないままに。

「……ふん、なるほどな。ここはお前が築き上げた城というわけだ」
「まあ、そういうことです。それで、姉さんを引き渡していただけますか?」
「断る」

 無表情のまま問うレルスアレナに、ヴェルムドールは不敵な笑みを浮かべたまま魔剣ベイルブレイドを抜き放つ。

「そうですか、残念です」

 その言葉と同時に、マスターゴーレムが巨大な剣を地面へと突き刺す。
 それが地面へと到達する寸前にヴェルムドールとイクスラースは跳んで回避し……そのまま、イクスラースは短杖を握り締めて前方へと走る。

「ヴェルムドール……あの子は私がどうにかするわ、マスターゴーレムをお願い!」
「なっ……おい、奴の狙いは……!」
「分かってる……だからこそ、これは私がやらなきゃいけないことだわ!」

 前方へと走っていくイクスラースに対し道をつくるかのように、エレメント達が離れていき……イクスラースが通り抜けると同時に、再び壁を作りはじめる。

「……イチカ、ロクナ! 有象無象共の相手は任せる!」
「仰せのままに」
「いいの? あれがゴーディと同じもんだってんなら面倒よ、ヴェルっち」
「問題ない!」

 断言するヴェルムドールに頷くと、ロクナは杖を構えて集中を始め……それを脅威と判断したエレメント達が殺到し始める。

「イチカ。アンタ頼りなのはシャクだけど、任せたわよ」
「言われるまでもありません……光よ!」

 イチカの剣に光の魔力が集い、最接近していたウインドエレメントを両断する。
 
「汝が立ち入りたるは、凍える水晶宮。抗う事なかれ。すでにもう、逃れる術はなし……氷結宮殿シヴェラート!」

 ロクナとイチカを中心とした魔法陣の周辺から四方の地面へと水の魔力が流れ
、地面を凍結させていく。
 それと同時にその場にいたエレメント達が凍りつき……そのまま、消滅するかのように消えていく。
 凍らせるだけの魔法であるが故に、体力自慢の者には内側から力尽くで破られたこともあるという逸話も持つ魔法だが……魔力体であるエレメントには効果は抜群だ。
 通常であれば相手を凍らせた氷像がそこに残るのだが、魔力体であるエレメント達の死体は残らない。
 唯一残るのはアースエレメントくらいだが、それとて実体部分である土や岩が残るのみだ。
 ……いや、他にも例外は居る。元より地面に足をつけていないウインドエレメント達はそのまま残っている。
 
「任せろと言っておいてコレですか」
「文句言うんじゃねーわよ。この辺焦土にしてよけりゃ、いくらでも手はあんのよ!」

 言い合う二人がそれでも常に気にしているのは、少し離れた場所。
 建物を砕きながら猛攻をかけるマスターゴーレムと……それを回避する、ヴェルムドールの姿であった。
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