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連載
今こそ、今だからこそ6
しおりを挟む「まったく……酷い目にあったわ」
呟きながら黒薔薇の剣を拾い鞘におさめるイクスラースに、サンクリードはふうと溜息をつく。
「不用意にこの城に近づくな。おかげで大分面倒な事になったぞ」
「……悪かったわよ。どうにかコレ動かせないかなと思って来たのは事実だけど、まさかこうなるとは思わないじゃない」
「まあな」
サンクリードはそう言うと、気絶したエドを見下ろす。
「……こいつはどうしたものか。アルヴァ融合体は俺のステータス確認では分からんからな」
この場で都合よくエドを縛るロープが落ちているはずも無く、気絶したまま転がしているエドはハークが見張っているか殺すくらいしか対処法が無い。
だが、イクスラースはエドを一瞥してからサンクリードへと視線を向ける。
「たぶんだけど。アルヴァ融合体じゃないわよ、彼」
「根拠があるのか?」
言われて、イクスラースは少し考える。
根拠というよりも、状況証拠というべきだろう。
たとえば、エドの行動。
アルヴァ融合体であるならば隙をみてハークに斬りかかりそうなものだが、それはなかった。
イクスラースの黒薔薇の剣を拾っていたのもそうだ。
黒薔薇の剣自体は良い剣ではあるが、何か特別な価値のある剣というわけではない。
アルヴァにしてみれば、それは尚更だろう。
それをわざわざ拾うということはイクスラースに対する「配慮」であり、つまりエドはイクスラースを言葉だけではなく本気で守ろうとしていたと考えられる。
このあたりが「アルヴァ融合体ではない理由」だが……ならばエドの行動はナンなのかという話になる。
しかし、これもまたイクスラースは心当たりがあった。
それを判定するには、エドの行動が参考になる。
まず、エドの立ち位置は基本的に「イクスラースの味方」であった。
それをする上での言動に支離滅裂さが見受けられ、明らかに「嘘をついた」と思われる場面もある。
たとえば、「報告をした」と言った部分がそうだ。
エドは明らかに報告をしておらず、サンクリードが来たのは「別ルートの報告」が原因だ。
この部分からしてみてもエドに「悪意」を判定する事も可能だ。
……だが、そうするとエドの行動と言動に説明が付かない。
エドは気絶する瞬間まで確かに「イクスラースを安全な場所に運ぶ」ことを優先させようとしていた。
もっとも、このすぐ先にある玉座の間が安全な場所であるとは微塵も思えないが……少なくとも、エド自身はそう信じていたようにも思える。
アルヴァとの融合が上手くいかず「狂った」にしても、行動自体に一貫性が見られ一応会話も正常に成立する状況ではそうとも判別しがたい。
つまり、アルヴァでは説明がつかず……しかし、イクスラースの知る方法では説明が付く。
「……洗脳魔法。それでなら、エドの行動に説明がつくわ」
洗脳魔法。
それは魔王シュクロウスが得意としていたオリジナル魔法だ。
ヴェルムドールが命の種を弄るような本格的なものではないが故に他人が解く事も出来るが、誰かに何かをやらせるには最適な魔法だ。
そして……エドの場合は、恐らく一つの目的を刷り込まれていた。
「……私を連れて来いとでも言われてたのかしらね。それが手段なのか目的なのかは知らないけど」
たとえば、イクスラースをエサにヴェルムドールを誘き寄せようとしていた可能性もある。
ザダーク王国の呼びかけで世界を動かそうとしている現在、その手段はひょっとすると有効かもしれないが……だがそれには、イクスラースを次元城に誘き寄せるという前提が必要になる。
自慢ではないがイクスラースが此処に来たのが偶然である以上、それは少しばかり確率の低い話だろう。
誘き寄せというのは、運に頼らず可能とする策があって初めて成立する。
故に、今回のコレは……恐らく、突発的なものだ。
そしてその目的はイクスラース自身であったと考えて問題ないだろう。
「洗脳魔法……か。俺は見た事が無いが」
「あってたまるものですか。あれは廃れて正解の魔法よ。アレで出来るのは狂人だけだもの」
エドを見ていれば、それは理解できるはずだとイクスラースは言う。
洗脳魔法は結局、本人に「何か」を植え込んでいるに過ぎない。
それによって出来る一貫した支離滅裂さは、破滅しか呼び込まないのだ。
「……それを、この先にいる奴がやったわけか」
「そうよ。この期に及んで出てこないんだから、相当図太いわね」
シュクロウスの滅びと共に消え去ったはずの洗脳魔法の復活。
普通に考えれば、そんなものを復活させるのは杖魔だろう。
ならば、この先にいるのもまた杖魔の可能性が高い。
「どうするの、サンクリード」
「決まっている」
サンクリードはそう言うと、最後の部屋へと続く扉の前に立つ。
「折角次元城を動かしてくれたんだ……このまま貰って行こうじゃないか」
そうして、サンクリードは扉を思い切り蹴り飛ばす。
鍵がかかっているかも……などという心配は無い。
恐らく、向こうもこちらを待っているだろうという確信があったからだ。
そして、その予想通り……扉は激しい音を立てて開き、その内部が露になる。
その先に広がるのは、広く……そして、荘厳な部屋。
そう、ここは玉座の間。
次元城の最上階にして、最後の部屋。
そのイクスラースには少し大きすぎる玉座に……何者かが、座っている。
「……貴方は」
それは、一人の老人。
豪奢なローブを身に纏い、大きな宝石をじゃらりと飾り付けた首飾りや指輪でその身を飾った姿。
かつては相当な美形だったであろう……と万人に言わしめるような顔は涼しげで、絹糸か何かのように美しく艶のある白髪は長く……きっちりと真ん中で分けられている。
その頭に載った王冠は、彼の権威の証。
そう、知っている。
イクスラースは彼のことを、誰よりもよく知っている。
この世界で過去現在未来においても、イクスラースよりも彼のことを知っている者などいるはずもない。
何故なら、何故ならば。
「……よく来た。待っていたぞ」
その老人の名前は。
「……シュクロウス……」
魔王シュクロウス。
かつて勇者リューヤに滅ぼされた魔王の……魔人形態としての姿が、そこにあった。
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